インタビュー
「鬼武者Soul」1周年記念インタビュー。企画当初のコンセプトがもたらしたもの,そして大型アップデート「本能寺の変」についてキーパーソンに聞いた
今回4Gamerでは,「鬼武者Soul」のエグゼクティブプロデューサー杉浦一徳氏と,プロデューサー津川宏史氏に,この1年を振り返っての所感や今後の展望,そして10月24日に実施される大型アップデート「本能寺の変」の概要などを聞いた。
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「鬼武者Soul」エグゼクティブプロデューサー 杉浦一徳氏(右)とプロデューサー 津川宏史氏(左) |
プレイヤー層は30代後半が中心
安定稼動期に入った「鬼武者Soul」
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
「鬼武者Soul」はサービスインから1周年を迎えますが,この1年を振り返っていただけますか。
杉浦一徳氏(以下,杉浦氏):
カプコンがハンドリングするブラウザゲームとしては初のタイトルでしたから,分からないこと,やってみて初めて分かることが多かったですね。まさに勉強に次ぐ勉強の日々でした。また,アップデートを頻繁にかけていたため,常に忙しく慌しい状況で,あっという間に過ぎた1年でしたね。
あとは,ゲームエンジンのUnityについて,いろいろあったのですごく詳しくなりました(苦笑)。
津川宏史氏(以下,津川氏):
本当にUnityには詳しくなりましたね。
杉浦氏:
それはともかく,海外展開(※2013年5月,台湾でサービス開始)もうまくいきましたし,全体としては苦しい思いをしたというよりも,楽しい1年間でした。呪いとかもなく……。
4Gamer:
呪い……ですか?
杉浦氏:
ええ。開発前に,とある神社からお祓いに来ていただきました。実は「新 鬼武者 DAWN OF DREAMS」のときもそうだったんです。おかげさまで,こうして何事もなく1年を過ごせました。
4Gamer:
この1年間のプレイヤー数の推移は,どのように分析していますか。
通常,オンラインゲームと言うと,オープンβテストからサービスイン直後が最もプレイヤー数が多く,あとは右肩下がりという感じになります。しかし「鬼武者Soul」では,チャネリングが多かったこともあり,ずっとお客様の数を維持できていました。
また,2013年7月に始めたスマートフォン向けのサービスでの新規会員登録数がすごいです。9月上旬の時点で,PCの約5倍になっています。しかも,広告展開は一切やっていない状態ですから。
ただ,さすがに最近はログインしているユーザー数は維持できていますが,プレイ時間は少し減っています。つまりはお客様の熱量が少し落ち着いてしまっているかなと。アクティブプレイヤー数から見ると,安定稼動期に入ったところですね。
4Gamer:
なるほど。プレイヤー数の動向に関して,とくに面白い傾向はありましたか。
杉浦氏:
2012年10月のサービスインから2013年2月頃まで,ジワジワとアクティブプレイヤー数が増え続けたことでしょうか。バナー広告などにはあまり力を入れていなかったのですが,プレイしてくださったお客様の評価が口コミで広がり,いい方向に向かったんじゃないかと分析しています。
4Gamer:
プレイヤー層やプレイ時間などはどのようになっていますか。
杉浦氏:
基本的には,30代のお客様が中心です。年齢が高めのためか,お客様の課金率や一人当たりの課金額が非常に高めです。これはカプコンのオンラインゲームやソーシャルゲームの中では,おそらく一番だと思います。
プレイ時間に関しては,スマートフォンのサービスが始まったことで,一概には言えなくなっています。ただ,チャネリング先の他社様から聞いた話では,ほかのブラウザゲームタイトルよりも長いということでした。
これはもう,極めてお客様からの評価が高いという何よりの証拠ですから,私達としても安易なことはできないと考えています。
津川氏:
回復薬などの価格は,むしろ低めに設定しているんですよ。
杉浦氏:
他社様のブラウザゲームやソーシャルゲームがだいたい100円前後のところ,「鬼武者Soul」は40円に設定しました。ですから,あまり売上は上がらないと予想していたのですが,むしろ今は売上の大きな割合を回復薬が占めています。
4Gamer:
ブラウザゲームやソーシャルゲームの売上はガチャが中心で,回復薬はあまりビジネスにならないと聞いたことがあります。
杉浦氏:
「鬼武者Soul」は,もともと“脱ガチャ”を目指していて,ブースターパック(BP)はあくまで,じっくりゲームをプレイすることができないお客様に“時間を買っていただく”というスタンスで用意したものです。基本的には,「鬼物語」や「イベントクエスト」などの各コンテンツを回復薬を使ってプレイしていただくようにしています。数字を見ると当初の目標はかなり達成できているんじゃないでしょうか。
4Gamer:
ちなみにプレイヤーの男女比はどうなっていますか。前回のインタビューでは,女性が全体の3〜4割というお話でしたが。
杉浦氏:
そこは変わっていません。「神楽奉納編」でもミヤジマハルさんが描いてくださった山中鹿之助などは,女性のお客様からの反響が非常に高いです。「九州降魔編」では,士基軽太さんに描いていただいた島津四兄弟も大人気でした。
島津義久 |
山中鹿之助 |
津川氏:
声優さんの演じる武将のボイスも,女性に評判がいいですよね。
杉浦氏:
なかでも,神谷浩史さんの反響は大きかったですね。
「鬼武者Soul」は対戦で勝たないと先に進めない作りではなく,お客様が気に入ったイラストの武将を集めるという楽しみ方や城下町の育成も大きなウリですから,女性にも受け入れられやすいと思います。
最初に掲げた“脱ガチャ”が
ゲーム作りそのものにも影響を与えた
4Gamer:
お話を聞いていると,「鬼武者Soul」の“他人との競争だけでなく,一人でジックリ遊ぶこともできる”というコンセプトが,きちんとプレイヤーに受け入れられたとも言えそうです。
そういった部分も含めて,これまでの手応えを教えてください。
2012年の東京ゲームショウで「ゲームの進化は止まらない」と題したパネルディスカッションが行われ,パネリストの杉浦氏はソーシャルゲームについて忌憚のない意見を展開した(関連記事) |
現在,私はオンラインゲーム,ブラウザゲーム,ソーシャルゲーム,スマホアプリと4つの分野に携わっているのですが,その中で「鬼武者Soul」は2年前から手がけていました。当時はソーシャルゲームの全盛期で,“ソーシャルは儲かる!”という世論でしたが,私自身はへそ曲がりなので長期的な面では懐疑的だったんです。2012年の東京ゲームショウでも,結構シビアな見解を述べさせていただきました。
ついでにビジネス的な話で恐縮ですが,パソコンかつ独自プラットフォームで展開すれば,売上の大部分は自社のものになります。たとえ,お客様の数が2分の1になろうと,利益としては高くなるだろうと。その段階でのソーシャルゲームのゲーム性と収益性から判断したときに,“まだまだパソコンはいける!”というビジネス面の読みもありました。
4Gamer:
そういった読みが,当たった形になったわけですね。
杉浦氏:
開発面でも,当時主流のシンプルなソーシャルゲームをそのまま作れと言っても,スタッフのモチベーションが上がらないだろうと考え,もう少し凝ったものを企画しました。
また,先ほど脱ガチャという話をしましたが,ガチャがあるとどうしてもそれを売るためのコンテンツ作りに陥ってしまいます。これを回復薬中心にするため,「お客様に回復薬を消費していただくには,“もっとプレイしよう!”と思える面白いゲームにしなければならない」ということを強くスタッフに訴えかけていました。
4Gamer:
うまくクリエイターのモチベーションを刺激したということですか。
ええ。「鬼武者」というカプコン有数のIPを使うということもあって,最初からイラストだけでも億単位の予算を注ぎ込んだり,Unityを使ったリッチな演出を盛り込んだりと,クオリティには妥協しませんでした。
また,これは当初からお話ししているとおり,ブラウザゲームやソーシャルゲームが,シンプルなものから凝ったものになるだろうと,予測していたからでもあります。もっとも,Unityの採用は将来的なマルチプラットフォーム展開を見据えて,という部分も大きかったのですが。
4Gamer:
ともあれ,そういった試みが結果に結びついたと。
杉浦氏:
台湾のメディアなどからも,「これだけのクオリティを誇るタイトルは,自国にはない」と評価していただきました。いざ評価していただけると,やってよかったと思います。
4Gamer:
そうした結果は,「鬼武者Soul」の開発チームにはどんな影響があったのでしょう?
ちゃんと結果を出せたことは,チームにとって大きな資産になったと言えます。今では「ガチャのことしか考えていないゲームは,売上もそれなりにしかならない。しかし,面白いゲームを考えれば,きちんとその分が返ってくる」と,スタッフにはしっかり伝わっています。まあ,私はよく酒の席で冗談交じりに「あの頃は“ガチャに力を入れないなんて,杉浦はおかしくなったのか”と陰口を叩かれたものだ」と言ってます(笑)。でもガチャの売上を減らしたいのは,プロデューサーとして本気で考えています。
4Gamer:
ちなみに,現在の開発チームは何人体制なのでしょうか。
杉浦氏:
時期によって変動しますけど,基本20人規模で繁忙期はもう少し増えます。しかし,βテスト前は5人以下だったんですよねえ……。
4Gamer:
なるほど。それでは,杉浦さんは今後,ブラウザゲームやソーシャルゲームがどうなっていくとお考えですか。
杉浦氏:
お話ししたとおり,私は今もカプコンのソーシャルゲーム事業に携わっていますし,まだまだ私もスタッフもソーシャルゲーム業界から学ぶことは多いです。しかし将来的には,オンラインゲームやソーシャルゲームといった線引きはどんどん薄れていくでしょう。そうなったときに残っていくのは,ゲームコンテンツの開発力の強さです。したがって,「ゲームコンテンツを作る」というカプコンのDNAは,何としても残していかなければならないですね。
新たな育成要素「装備」が登場
武将と組み合わせて戦略/戦術の幅を楽しめる
「本能寺の変」特設サイトが公開中 |
ここからは,10月24日に実施される大型アップデート「本能寺の変」についてお聞きします。
杉浦氏:
冒頭でも話しましたが,最近,お客様の動向が少し落ち着いてきた感がありますので,1周年を迎えたことを機に,プレイのモチベーションとなる刺激を提供しようという内容となっています。
津川氏:
大きな目玉となるのは,「装備」の追加です。装備はゲームに新たな育成要素を追加するもので,サービスインから1年,もう武将を育てきってしまったというお客様からのリクエストもあっての実装となります。
4Gamer:
具体的な内容を教えてください。
津川氏:
武将に装備できる武器,防具,装飾品が登場します。これらの装備は,攻撃/防御/知略のいずれかを上昇させる,あるいは特殊能力を発動させるアイテムで,武将一人につき,いずれか一つを装着できます。このシステムにより,同じ武将でも能力に差が出ますから,より奥深い戦闘を楽しめるようになります。
4Gamer:
パラメータが上昇するだけでなく,特殊能力が発動するとなると,ゲームバランスの調整が難しそうですね。
津川氏:
装備の特殊能力は,従来の技とは近いもので,相乗効果を生むような形で調整中です。そういった特殊能力や技の発動が加算されて全体的な攻撃力が上がったり,あるいは効果が入れ替わったりと,コンボのようになっているんです。戦略/戦術を練ることが楽しくなるように,それでいて複雑になりすぎないように配慮を重ねました。
4Gamer:
装備はどうやって入手するのでしょうか。
津川氏:
イベントクエストなど,ゲーム内のさまざまな部分で比較的簡単に入手できます。
4Gamer:
手に入る装備は,イベントクエストを受託する前に分かるのでしょうか。
津川氏:
そういうケースもありますし,そうでないこともあります。
杉浦氏:
念のために言っておくと,“課金ガチャ”ではありません(笑)。
4Gamer:
そうは言っても,レアなものや効果の高いものは,それなりに入手条件が厳しいんですよね。
津川氏:
もちろん,より良い装備を入手するには,それなりに苦労していただく必要があります。そこはバランスだと考えています。
杉浦氏:
あとはゲーム内で引ける「鬼くじ」の景品にも,装備が入っています。
4Gamer:
ちなみに,装備は兵法書のように一度使うとなくなってしまう消費タイプでしょうか。
いえ,装備は育成して,進化/グレードアップさせることができます。たとえば入手時点では何の特殊効果もない装備であっても,グレードを上げていくと,さまざまな能力が開花するようなシステムになっています。武将の育成と同様だとお考えください。
4Gamer:
非常にやり込みがいのありそうなコンテンツですね。
杉浦氏:
「鬼武者Soul」のお客様は熱量が高いと言うか,本当に熱心ですから,あっという間にグレードを上げ切ってしまいそうですけども(苦笑)。
4Gamer:
プレイヤーの陣営によって,装備できる/できないということはあるのでしょうか?
津川氏:
陣営による制限は考えていません。ただ,同じ装備でも陣営によって効果の出方が違う,あるいは男性/女性専用という縛りは今後出てくるかもしれません。
杉浦氏:
たとえば,十二単を男性が着用できるとなると,ちょっとおかしなことになりますからね。そこはさすがに制限を入れるかなと。
4Gamer:
グレードの低い武将に,効果の高い装備を付けることはできるのですか?
津川氏:
グレードによる制限はあります。たとえばグレード6まで育成した装備は,グレード6以上の武将にしか付けられません。武将と装備と,双方を育成してください。
4Gamer:
なるほど。つまり,装備と武将とを並行して育成し,それらを組み合わせることで,プレイヤーの取り得る戦略/戦術の幅が広がる。ひいては戦闘に奥行きが出るという感じでしょうか。
津川氏:
そういうことです。戦闘そのものはこれまでと基本変わりませんが,お客様にさらなる戦略/戦術を考えていただく余地を広げようというわけです。
杉浦氏:
武器のグレードを上げると特殊能力が解放されますから,それを生かすコンボを考えてくださいという我々からの提案です。
4Gamer:
あとは,いよいよ武将の「グレード8」が解放されます。
津川氏:
今回はイラストが変わったり,新たな技が開眼したりということはないですが,これまでのようにパラメータが上がります。また,グレード8以上でセットできる装備には,強力なものを用意していますので,ぜひ武将をグレード8に上げて試してみてください。
1周年を機に鬼物語は「本能寺の変」へ
あの有名コミックとのまさかのコラボも!?
「鬼物語」は,ついに「本能寺の変」が実装されますが,もちろん最終局面ということですよね。
杉浦氏:
はい。サービスイン前から,1周年には「本能寺の変」を持ってくると決めていました。
オリジナルの鬼武者シリーズでは,このあと「新 鬼武者」に続き,豊臣秀吉の世の中になります。しかし「鬼武者Soul」では,その間のエピソードをしばらく追いかける予定です。
4Gamer:
なるほど。「本能寺の変」では,どのような武将が新たに登場しますか。
杉浦氏:
一番の目玉は,やはり織田信長ですね。イラストではいろいろな信長が見られると思いますよ。寺田克也さんにもお願いしました。
津川氏:
まだ鬼物語をそこまで進めていないというお客様でも,「悪鬼羅刹」やイベントクエストで新規要素を楽しんでいただけるよう,いろいろと考えています。
4Gamer:
武将はすでに1000名を超えていますが,今回は何人くらい追加されるのでしょうか。
津川氏:
全部合わせると40〜50名になりますね。
杉浦氏:
「鬼武者Soul」では,ソーシャルゲームによくある“一番レアなカードを集める”という部分を排除し,“気に入った武将を限界まで育てたり,強いスキルを継承したりして最強にする”という方針を打ち出していますから,今後も武将の数はどんどん追加していきます。たとえマイナーな武将であっても,人気のイラストレーターさんに依頼しているのも同じ理由からです。
4Gamer:
マイナー武将であっても,時間と愛情をかけて育成すれば強くなれると。
杉浦氏:
ええ。そうしないとお客様全員が,最終的に同じ武将デッキを揃えるということになってしまいますからね。
お客様によっては,同じイラストの汎用武将を集めたデッキを作っている方もおられます。たまに対戦で出会うと,同じ武将に見えるのに,実際はそれぞれ違うので不思議な気持ちになりますよ(笑)。そういった個性的なデッキ構成を楽しんでいただきたいです。
4Gamer:
ほかにも今回のアップデートで追加される要素があれば教えてください。
津川氏:
お客様からリクエストの多かった,武将を進化させるアイテム「万能進化生贄」の上位版を追加することを考えています。
4Gamer:
それは嬉しい要素ですね。アップデートに合わせたキャンペーン展開はいかがですか。
「1周年感謝祭」特設サイトでは,コラボのキャラクターと思われるシルエットが確認できる |
1周年記念の企画で,あの有名コミックとのコラボレーションを予定しています。
杉浦氏:
これはすごいですよ!
津川氏:
イラストはカプコンの社内で描いたのですが,かなり完成度が高く,原作者の先生も一発OKだったんですよ。イベントクエストの内容も面白く仕上がっていますから,お客様には喜んでいただけるんじゃないでしょうか。
杉浦氏:
以前,「ファイナルファイト」とのコラボでも,イベントクエストが発生する理由が分かるように作りました。今回も,ただイラストだけを用意するのではなく,きちんと中身を作り込んでいます。そうすると,お客様もブログやTwitterに感想を書いてくださるんですよね。それが口コミとなって,新規のお客様に来てもらえる。だから広告宣伝チームには,「広告を掲載するより,面白いコラボを企画しろ」と言っています。
津川氏:
まだお話はできないのですが,今回のコラボ以外にも,年内にいくつかコラボを予定していますので,ぜひ今後の発表に期待してください。
タブレット版やコンシューマ版,
新たなチャネリングで続々と新規獲得へ
4Gamer:
それでは今後の展開について教えてください。これまでのお話では,非常に順調ということですが,それでも継続的な新規プレイヤーの獲得は必要になりますよね。
実はPC版では,新たなチャネリング展開を予定しています。またスマートフォン版も,iPadなどのタブレット向けにユーザーインタフェースを最適化したバージョンを準備しているところです。また,コンシューマ版のリリースもありますので,2か月に1回のペースで新しい入り口を用意しますから,しばらくは新規のお客様が途絶えることはないと予測しています。
4Gamer:
それでは,新規プレイヤーの定着を促すための施策はどうでしょうか。
杉浦氏:
正直なところ,チュートリアルやゲームの導入部はサービスイン以降,ほとんどいじっていないんですよ。序盤の報酬を多少良くしたり,“今,始めるとリソースが多めにもらえる”といったキャンペーンを打ったりはしていますが,もともとの継続率が非常に高いので,現時点では開発優先度を長くプレイしていただいているプレイヤー向けに絞っています。
津川氏:
武将のグレードが制限された戦場を用意して,初心者がベテランにボコボコにされ続けることがないようにしています。
杉浦氏:
「鬼武者Soul」は,お客様の年齢層が比較的高いので,ゲーム内で何か起きても冷静に受け止めてくださるケースが多いというのも強みですね。これは私達が大いに助けられている部分です。
しかし,これは繰り返しになりますが,お客様が落ち着いてきているのは確かで,合戦数などのデータからも読み取れます。適度に落ち着くのは悪くないのですが,それが行き過ぎると離脱の原因となりますから,刺激となるような先の展開を作っていかなければならない。その一つが,現チームが主導して作った「装備」システムということです。
4Gamer:
スマートフォン版がサービスインしたことで,プレイヤーの傾向に変化はありませんでしたか。
杉浦氏:
スマートフォン版のほうが,人の入りが多いですが離脱率も高いです。それでも継続率でいうなら,カプコンのほかのタイトルよりも高いんですよ。やっぱり遊んでくださるお客様が多いんだなと,嬉しく思っています。
ただ,スマートフォン版に関しては,もう少しチューニングを重ねてから大々的にプロモーションをかけていく予定ですので,今後の展開をお待ちください。
4Gamer:
分かりました。それでは,先ほどの話に出たタブレット版について教えてください。基本的にはUIの変更のみですか。
津川氏:
はい。iPadのRetinaディスプレイのような高解像度環境に,UIを合わせたという形です。逆に言うと,ゲーム自体には変更を加えません。
PC版と比較すると,タブレット版は城下町の背景部分などで若干見劣りがするかもしれませんが,それ以外の,たとえば武将などはPC版と同じく綺麗な状態になっています。
杉浦氏:
城下町のマップは結構大きいので,スマートフォンの画面サイズだと表示と操作が厳しいんです。その点,高解像度のタブレットならPC版と遜色ない形で楽しんでいただけます。
アカウントを連携させれば,これまでスマートフォンで遊んでいたお客様もタブレットでデータを引き継ぐことができます。
4Gamer:
ちなみにタブレット版のリリースはいつ頃になりますか。
津川氏:
1周年のアップデートと同じタイミングを予定しています。
4Gamer:
先ほど,台湾でのサービスは好調とお聞きしましたが,日本の都道府県をベースにしている部分は,どのように受け止められているのでしょうか。
杉浦氏:
そもそもの話をすると,「鬼武者」のIPを使うということで,最初から台湾を筆頭に海外展開を考慮していました。おっしゃるように,海外だと都道府県は理解できないんじゃないかという議論もあったのですが,私は海外展開の前に,まず日本でベストパフォーマンスを出せるようにしないとダメだろうと判断したんです。そこには,私をはじめスタッフの誰も台湾に住んだことがないという理由もあり,自分達が海外を意識しても通用するか疑問でした。だから,日本のコンセプトのままでやってみようと。
……そうやって作った後で,「さて,海外どうしよう?」とは思いましたけどね(笑)。
(一同笑)
杉浦氏:
それでも,いざ台湾でサービスインしてみたら,最初にもらえる武将のイラストで都道府県を選ぶというお客様が多く,ほとんど問題になりませんでした。ゲームも好評で,売上もへたすると日本を上回る月がありますから,妥協せず初志貫徹してよかったと思います。
4Gamer:
台湾以外への海外展開はいかがですか。
杉浦氏:
現在,準備を進めているところです。こちらはいずれ発表できると思います。
4Gamer:
それでは,PCやスマートフォンに続いて,さらにコンシューマ版に手を広げる理由を教えてください。
杉浦氏:
一つには,この手のゲームがコンシューマ版でリリースしたときに需要があるのかを,見極めたかったという理由があります。また,せっかくUnityを使っているのですから,どこまでやれるのか確認しておきたいという気持ちもありました。
コンシューマ版はメモリの問題で開発が難航していたのですが,プログラマーの言葉では表せないような壮絶な努力があり,ようやく解決の目処が立ったので“2013年冬”という時期を発表できるまでになりました。
4Gamer:
対応機種はまだ発表されていませんね。
杉浦氏:
それはもう少し待ってください。まずは1機種で出します。その後,Unity対応機種を順次検証していくこととなります。
4Gamer:
PC版との違いはありますか?
杉浦氏:
大きな変更はありません。ただ,PC版やスマートフォン版とのアカウント連携は,大人の事情でできなくなっています。これに関しては,申し訳ないと思っています。
対戦を通じたコミュニティの形成は
当初からの狙いどおり
4Gamer:
前回のインタビューでは,ゲームプレイ上のクリック数の減少や,プレイヤー同士のコミュニケーション機能についてが,今後の課題として挙げられていました。
クリック数に関しては,正直なところ,そこまで手が回らなかったというのが事実です。「鬼武者Soul」はコンテンツのボリュームがありますので,新規のお客様がゲームを始めると,情報が多すぎて流れてしまうという懸念があります。今後はクリック数も含めて,より初心者に分かりやすい形にしようと考えています。
またコミュニケーション機能に関しては,「大合戦」に参加すると自動でチャットウインドウが開く仕様を採用しました。そのためイベントでは,軍師役のお客様が采配を振るうなど,非常にコミュニケーションが活性化しています。今後もチャットがあったほうがいいと判断した部分には,同じような仕組みを採用する予定です。
杉浦氏:
もともと「鬼武者Soul」は,そこまで緊密なコミュニケーションを取らなくてもいい作りにしているんですよ。日頃はオフラインゲームの感覚でプレイして,大合戦のように連携したほうが有利になる局面ではコミュニケーションを取る,というくらいでちょうどいいんじゃないでしょうか。
4Gamer:
なるほど。
杉浦氏:
また私自身がそうなのですが,やり込んで合戦の上位に名を連ねると,常連の対戦相手とは顔見知りのようになるんですよね。そうなると,相手の戦略/戦術や,自分との相性などを自然に覚えていきます。こうしたトレーディングカードゲーム(TCG)の大会でよく用いられるスイスドロー方式に近いシステムを実現できたことは満足しています。
このシステムでは,獲得ポイントの近いプレイヤー同士が戦いますから,初戦で実力の高い人と初心者が戦う可能性がありますが,それはそれで初心者には貴重な機会だと思います。と言うのも,たとえば将棋の世界では,私達にはまず名人と戦う機会は与えられません。しかし,「鬼武者Soul」では,実力者のデッキや戦略/戦術,テクニックを目の当たりにし,それを学ぶことができるわけです。
4Gamer:
TCGの良いところを取り入れているわけですね。
杉浦氏:
ええ。トップランカー同士のやり取り,あるいは実力者と初心者の対戦こそがこのゲームのコミュニティだと捉えているので,MMORPGのようなギルドシステムを採用するのはちょっと違うのかなと。もちろん,日々やり取りされるメールやチャットの総数はデータとしてチェックしていますので,そういったリクエストが寄せられること自体の意味は理解しています。
4Gamer:
いよいよ2年目に突入するというタイミングで,新たに津川さんがプロデューサーに就任されましたが,その理由を教えてください。
杉浦氏:
単純に私が忙しくて,「鬼武者Soul」だけに割ける時間が少なくなってしまったからです。
津川は,2年前から私と一緒に「鬼武者Soul」を立ち上げた唯一のスタッフなので,運営開発を任せるには最適だと判断しました。ですから,津川体制になって急にゲームが変わるということはなく,いいところは伸ばし,悪いところは改善しながらサービスを続けていくこととなります。実はこれまでも徐々に津川に引継ぎをしてきているので,昨日今日で急に交代したというわけじゃないんです。
また私も今後の運営開発にまったくノータッチではありませんし,一人のプレイヤーとして遊んでいますから,何かあれば津川に即意見しますよ。
4Gamer:
それでは新プロデューサーの津川さんから,今後の抱負をお聞かせください。
津川氏:
今までどおり,お客様から評価されている部分は大事に,不満の多い部分は見直すという形で進めていきます。もっとも,いい意味で変えるべき部分は変えていきたいと思っていますが。
これまでの1年は,毎週アップデートがあり,一気に駆け抜けてきたと思っていますが,2年目は装備のような新しい試みにも積極的に取り組んでいきます。新しいチャネリング,キャンペーン,コラボ,コンシューマ版と展開していきますので,ますます期待してください。
4Gamer:
ありがとうございました。
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