インタビュー
ナインストーリーズ 森橋ビンゴ氏へのインタビューを掲載。「鬼武者Soul」のシナリオ執筆の裏話や,カプコン在籍時のエピソードを聞いてきた
本作では,大型アップデートごとに,ストーリークエスト「鬼物語」の新章が追加されており,これまで,「領内巡検編」「京都美妃編」「近畿神剣編」「竜虎激突編」「奥羽大乱編」「四国鎮魂編」「九州降魔編」の計7編が実装済み。6月27日には,最新の「関東風雲編」が追加されている。
今回4Gamerでは,本作でメインシナリオの「鬼物語」,および各種イベントクエストのシナリオ執筆を手がけている,ナインストーリーズの森橋ビンゴ氏にインタビューを実施した。氏が「鬼武者Soul」のシナリオを手がけることになった経緯をはじめ,どのような思いをシナリオに込めているのか,いろいろな話を聞いてきたので,プレイヤーはぜひ目を通してほしい。
なお,かつてカプコンに在籍していた森橋氏は,「Devil May Cry 3」「Devil May Cry 4」のシナリオを担当した人物。現在は,シナリオライターだけでなく,小説家や漫画原作者としても活動している。最近では,月刊ヒーローズの「海傑エルマロ」や近代麻雀の「花鳥風月」の原作を手がけている。
「鬼武者Soul」公式サイト
「鬼武者Soul」大型アップデート「関東風雲編」特設サイト
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
まず,森橋さんが「鬼武者Soul」のシナリオを手がけることになった経緯を教えてください。
森橋氏:
僕は,もともとカプコンの社員だったのですが,2007年に退職したあとも,フリーランスのシナリオライターとして,カプコンさんとお付き合いさせていただいていました。その縁で,「鬼武者Soul」のシナリオを書いてみないか,という話をいただいたんです。
最初は「鬼物語」を書く予定ではなかったので,今みたいなボリュームになるとは想像もしていなかったんですけど(笑)。
4Gamer:
そうだったんですか。でも,今「鬼物語」のシナリオを書いているのは森橋さんなんですよね?
順を追って説明しますと,最初にお話をいただいたのは,「鬼武者Soul」の開発中のときでした。そのときは,カプコンの人気シリーズ作品とのコラボを予定しているので,イベントクエストのシナリオを書いてほしいという話だったんです。
元カプコン社員だから,ほかのライターさんよりタイトルの知識もあるし,勝手も知っていてやりやすいだろうと(笑)。なので,もともとは「Devil May Cry」や「大神伝〜小さき太陽〜」のコラボクエストだけをやる予定だったんですね。
4Gamer:
それがなぜ,メインシナリオも担当することになったのでしょうか。
確か,「戦国体験」※の初陣か第弐陣の頃だったと思うのですが,当時,ほかのライターさんが書いた「鬼物語」の「領内巡検編」シナリオを見せてもらったときに,“地の文”が多いなという印象を持ったんです。
なので,「殿に同行するお供みたいな存在を付けませんか」という話をして,みの吉を出すことになったんですけど,そのタイミングでカプコンさんに「領内巡検編」の加筆修正を依頼されたんですよ。そこから,流れで以後の「鬼物語」も僕が担当することになった,という感じですね。
「鬼物語」の「近畿神剣編」以降とイベントクエストは,「鬼武者」クエストとご当地クエスト以外,ほぼ僕が書いています。
※正式サービス前に,全5回で実施されたクローズドβテストのこと。初陣は2012年4月,第弐陣は2012年6月に実施。
4Gamer:
シナリオを執筆する際,原作の「鬼武者」をどのくらい意識しているのでしょうか。
森橋氏:
オリジナルでは,時代がかった堅い言い回しが多かったのですが,それを文章ベースの「鬼武者Soul」でやると少し厳しい部分があります。プレイする方が飽きずに読めるよう,登場人物のセリフを今どきの若者風にするというように,スタイルはけっこう崩していますね。
4Gamer:
「鬼武者Soul」がシミュレーションRPGになると最初に聞いたときはどのような印象を持ちましたか?
他社さんでも,往年の人気タイトルをさまざまな形で展開していますから不思議ではないですし,否定的な意味もないんですけど,「そういう時代か」と(笑)。
オリジナルの「鬼武者」は,しっかりとしたキャラクター設定のある登場人物は10人程度しかいないので,最初は「どうするんだろう?」と思いましたね。話を聞いたら,「鬼武者」の設定を絡めた戦国モノとして展開するということだったので,うまいアイデアだなと感心しました。
4Gamer:
「鬼武者Soul」はオンラインゲームということもあり,オリジナルの「鬼武者」のような主人公を中心に話が進むタイトルとは違い,明確な主人公像がありませんよね。シナリオを執筆するうえでは,どのような違いがありますか?
森橋氏:
たとえば,みの吉と弾兵衛のかけ合いの中で殿様を盛り上げるというように,主人公を周囲から盛り上げるよう,意識しています。それから,「鬼武者Soul」の場合は,47都道府県すべてが舞台になる可能性があるので,そこはある程度,割り切って書くようにしています。
4Gamer:
どのように割り切っているのか,もう少し具体的に教えてもらえますか?
森橋氏:
たとえば「領内巡検編」では,漁村が出てくるシーンがあります。でも,拠点にできる47の都道府県の中には,海がないところもありますよね。なので,殿様が住んでいるのは“夢の国”なんだと割り切らないと,気になる部分がどんどん出てきて,当たり障りのないことしか書けなくなってしまうんですよ。
ただ,「鬼物語」の部隊で大将に設定した武将の所属陣営や性別によって,どうしても文章に違和感を感じてしまう部分は,システムで対応してもらっています。自動的に文章が変換されますので,気になる方はチェックしてみてください。
4Gamer:
そのほか,シナリオを書くうえでの苦労には,どのようなものがありますか?
森橋氏:
「鬼物語」では話ごとの悪役が出てくるのですが,有名な武将は悪役に起用しづらいことですね。
「鬼武者Soul」ではゲームの特性上,ほぼすべての武将を自分の分身にできますから,プレイヤーが選んで育成する武将と,それに対峙する悪役が同じというのは,極力避けたいところなんです。織田家の場合は,オリジナルでも悪役なので仕方がないのですが。
また,地域ごとの特徴的な方言をできるだけ盛り込むようにしているのですが,僕が分かるのは広島弁と大阪弁くらいなので,地元の方が見るとおかしい部分があるかもしれません。そこは“夢の国”だと割りきって,大目に見てもらえると嬉しいです(笑)。
4Gamer:
「鬼武者Soul」のシナリオは,相当ボリュームがありますよね。森橋さんが書いた文章量は,全部でどのくらいあるのでしょうか。
森橋氏:
原稿はExcelシートに直接書き込んでいるので,正確な文章量はもう分からないですね(笑)。それでも,小説の単行本でいえば2〜3冊,テレビドラマだと1シーズン分くらいにはなっているんじゃないでしょうか。
最初の頃は,背景の指定や登場人物の出入りまで僕が指定していたのですが,さすがに間に合わないので,今はざっくりとした指定だけで,細かい部分はスタッフの方にお任せしています。
4Gamer:
執筆には,1話あたりどのくらい時間がかかるものなのでしょう。
戦国モノは調べ事も多いですし,1章あたり7〜8時間ぐらいですね。「鬼武者Soul」の場合だと1話が10章構成なので,1話につき70〜80時間という感じです。
人物の相関図などはあらかじめいただいていますし,極力,下調べをしてから書くようにしています。それでも,登場人物が話の展開上もう一人必要になったりというように,書いている途中で確認しなければならないケースもありますから,どうしても時間がかかってしまいます。
4Gamer:
このところ「鬼物語」は,1編が全5話の2〜3部構成になっていて,2〜3か月に一度は新編が実装されていますよね。
森橋氏:
ほかの仕事もあるのでまったく書かない日もありますが,僕が書くのは毎月10話から12話くらいのペースですね。イベントクエストのシナリオもありますし,1日あたり10時間くらいは「鬼武者Soul」の原稿を書いています。1話分の原稿を書き終えたら,次の1話分の締切がすぐそこまで来ているという状態の連続ですね(笑)。
イベントクエストは,季節ネタが入ることを考えたら前倒しで提出しないといけませんし,僕のせいで更新が滞っては申し訳ないですから,全力を尽くしています。
4Gamer:
「関東風雲編」ではどのような物語が展開されるのか,可能な範囲で教えてもらえますか。
実は,戦国時代初期に北条家が台頭して以降,関東地方では小競り合いのような戦しか起こらなかったので,何度も大きな戦があった九州地方や東北地方に比べると,比較的こじんまりとしているんですよね。
いろいろと悩んだのですが,関東地方は剣豪を多数輩出しているので,それを推していくことにしました。プレイヤーが塚原卜伝(つかはら ぼくでん)や上泉信綱(かみいずみ のぶつな)と知り合っていく中で,さまざまな事件が起きるというストーリーになります。
また,「関東風雲編」では可愛い女性剣士が2人登場します。彼女達を中心に話が進んでいくことになるので,気に入ってもらえると嬉しいですね。
4Gamer:
「鬼物語」のストーリーは地方ごとに構成されていますが,そのアイデアは森橋さんがシナリオを書く段階から決まっていたことなのでしょうか。
森橋氏:
各地方で回収するアイテムのアイデアなどは僕も出していますが,「鬼物語」を地方ごとに盛り上げるシナリオにするというのは,僕が携わる以前から企画されていたことです。
プレイヤーが各地を転々と旅して,その地方の大名と知り合う過程でさまざまな事件に巻き込まれていくという,水戸黄門のようなストーリーというコンセプトは,最初から変わっていません。
4Gamer:
「鬼物語」では,すでに近畿地方,甲信越地方,東北地方,四国地方,九州地方が取り上げられていますよね。今回,関東地方のストーリーが実装されるということで,大詰めも近いと考えていいのでしょうか。
森橋氏:
中国地方が舞台になる次の「神楽奉納編」が,地方編ではそれが最後になりますね。以降は新しい展開になります。まだお話しできる段階までストーリーが固まっていないので,そろそろ本腰を入れないとマズいんですけど(笑)。
4Gamer:
各編に登場する武将は,シナリオを書く前からあらかじめ決まっているのでしょうか?
そういうケースもありますが,シナリオに合わせて調整することもあります。たとえば,「竜虎激突編」から登場する烏丸資任(からすま すけとう)は,もともと「地方編」のラスボスという設定だったんですが,もっとメジャーな武将がいいのではという理由もあって,中ボス的な立ち位置に変更となりました。
どのチャプターで使うか決まっていない自由枠のような武将については,僕のほうで出番を決めさせてもらうことが多いですね。宣教師などは「九州降魔編」で使わないと,その先で出番を作るのは難しくなりますからね(笑)。
また,各地方のシナリオを書くときは,まずガイドキャラを誰にするかを決めるのですが,僕からアイデアを出すこともあります。「竜虎激突編」の安倍晴明などは,僕の案が通ったケースですね。
4Gamer:
シナリオを執筆する際,武将のイラストからストーリーを思いつくことはありますか?
森橋氏:
もちろんあります。一般的には無名な武将ではあっても,物語性を感じさせるイラストだと「何か足してあげたいな」と思います。無名な武将は「イメージと違う」と言われることがほぼないので,いじりやすいというのもありますけど(笑)。
4Gamer:
その中で,とくに印象深い武将がいれば,教えてください。
森橋氏:
いろいろいますが,あえて一人挙げるなら,勘解由小路在昌(かでのこうじ ありまさ)ですね。
史実だと,勘解由小路在昌は賀茂在昌(かもの ありまさ)と同一人物とされているのですが,陰陽師には史実に名を残した人物が少ないという事情もあって,「鬼武者Soul」では別人物で兄弟という設定でいくと,カプコンさんに言われまして。
最初はどこで使おうか迷ったんですが,「京都美妃編」などに出しているうちに,だんだん楽しくなっていきました。賀茂在昌が史実の縛りで崩せない分,勘解由小路在昌のほうはロボットに乗せたりと,かなり好き勝手にやらせてもらいました。コミカルなやり取りもできますし,悪役を書くのは楽しいですね。
4Gamer:
「自動進行」ボタンに象徴されるように,「鬼物語」をプレイはしても,ストーリーをあまり読まないプレイヤーも,少なからずいると思います。森橋さんは,シナリオを読ませるために,どのような配慮をしているのでしょうか。
森橋氏:
まず,読んでくださる方が面白いと思える内容にすることですね。
また,武将にハマってほしいという思いから,「鬼物語」で同じキャラを何度も出して,プレイする方がイメージを補完できるような試みも行っています。おかげさまで,「鬼物語」で武将を好きになったという感想もいただいています。
4Gamer:
なるほど。「鬼武者Soul」では,武将のパーソナリティを表すものはイラストと紹介文くらいしかありませんからね。
そのほかにも,「ちょっとやってみよう」と思っていただけるような仕掛けも入れるように心がけていますね。
たとえば,バレンタインイベントでは,大将に設定した武将の性別で,イベントの内容が少し変わるようにしました。プレイヤー同士のコミュニティで,「自分がやったときはそんな展開じゃなかった」というコメントが呼び水になって,イベントをプレイしてくださる方もいたので,やってよかったなと思いました。
4Gamer:
少し話題は変わるのですが,せっかくの機会なので,森橋さんの来歴についても教えてください。
森橋さんは,「小池一夫のキャラクターマン講座」の実績紹介で「弟子」の一人として紹介されていますが,いつ頃小池一夫さんに師事していたのでしょうか。
小池先生が,僕の通っていた大学に講師として招かれていたんですが,授業とは別に,やる気があって見込みのある学生を集めてゼミを開設したんです。そこで僕も作品を提出してみたら,通ってしまったんですね。
4Gamer:
当時,ゼミに応募しようと思った理由は何だったのでしょう。やはり,当時からクリエイター志望だったんですか?
森橋氏:
文章を書きたいとは思っていたんですけど,当時は,具体的に何かを目指していたわけじゃなかったんです。
「クライング フリーマン」「盗撮影手パパラッチ」「子連れ狼」「実験人形ダミー・オスカー」など,自分が衝撃を受けた作品は小池先生の原作が多い,ということを大学に入った頃に意識するようになったんです。ちょうどその頃,大学に小池先生がいらっしゃったので,これも何かの縁だろうと思い,応募したんです。
今は,書籍やインターネット配信など,小池先生のキャラクター論に触れる機会も増えたので,世間に浸透している感がありますが,当時はそういったものはありませんでしたから。
4Gamer:
小池一夫さんのゼミは,どのような内容だったのでしょうか。
森橋氏:
今と同じく,「キャラ立て」を中心にしたキャラクター論です。物語はキャラ立てがすべてで,キャラが立ってない作品は基本的にうまくいかないというような内容です。
4Gamer:
当時,小池さんのゼミで学んだことが今の自分に影響を与えていると,どのようなときに感じますか?
森橋氏:
習ったからどうこうというよりも,キャラの立て方や話の盛り上げ方が,昔好きだった小池先生の作品に毒されている,と感じる瞬間はありますね。
4Gamer:
物書きになりたいと思っていた森橋さんが,大学卒業後,カプコンに入社したのはどういった経緯だったのでしょうか。
森橋氏:
通っていたのが芸術系の大学ということもあって,実は大学を出て就職しようとはあまり思っていなかったんです。ただ,僕は生来のあまのじゃくなので,周囲の人間が就職活動をまったくしていなかったので,それなら経験としてやっておこうと思い立って,就職活動を始めたんです。
4Gamer:
なるほど(笑)。
でも,始めた時期が遅かったので,ほとんどの企業でエントリー期間が終わっていたんですよ。
カプコンは,ほかの企業よりエントリー期間が長かったので間に合ったんです。僕自身がカプコンタイトルのファンだったので受けてみたら,たまたま通っちゃったという。
4Gamer:
というと,ゲーム自体はもともと好きだったんですか。
森橋氏:
ええ。カプコンのイメージは強烈に頭にありましたね。中高生の頃は,「ファイナルファイト」と「マッスルボマー」があれば新作はいらない,というくらいずっと遊んでいましたし,「ストリートファイターII」にも当然ハマって,新作が出たと聞くとゲームセンターに行って,ずっと観戦していました(笑)。
4Gamer:
カプコンに入社して,初めて開発に携わったのは,「Devil May Cry 2」(以下「DMC 2」)だとお聞きしていますが。
森橋氏:
そうですね。ただ,入社当時「DMC 2」はすでに開発の佳境でしたし,企画マンの新人研修のような形だったので,とくに何かがアイデアが採用されたというようなことはありませんでした。
本格的に開発に関わったのは「Devil May Cry 3」(以下「DMC 3」)からで,「DMC 3」では,メインシナリオライターをやらせてもらいました。
4Gamer:
それはいきなりの抜擢ですね。
森橋氏:
「DMC 2」のときは,外部のライターさんがシナリオを執筆していたのですが,ゲームの場合,開発中の仕様変更は当たり前のようにありますし,それに伴ってシナリオに修正が入ることもよくあります。
修正のたびにライターさんと相談していると,手間も時間もかかるじゃないですか。内部でシナリオを書ける人間がいれば,手っ取り早いし楽なんですよね。
僕は,入社前に小説作品を出していたこともあって,ディレクターの伊津野英昭さんに「やってみるか?」って言ってもらって,メインライターをやらせてもらうことになったんです。
4Gamer:
実際,メインシナリオライターをやってみてどうでしたか?
森橋氏:
自分の意見を主張するための説得の重要性や,多くの人に受け入れてもらうためにはマニアックにしすぎてはいけないことなど,いろいろなことを学びました。最初から最後までがっつりと関わらせてもらえて,本当にいい経験になりましたね。
4Gamer:
「DMC3」の次は,「Devil May Cry 4」(以下「DMC 4」)のシナリオを手がけたんですよね。ハードがPlayStation 3に変わることで,シナリオライティングでの違いはありましたか?
森橋氏:
シナリオを書いた時期はスペックがまだ分からないところがあって,PlayStation 3ではすごいことができるだろうと思いながら,巨大な神様や,ものすごい数の悪魔が出てくるシーンなどをがんがん書いたんです。
でも実際は,グラフィックスが高精細になる分,キャラ1体あたりのデータが重くなるので,一度に出せるキャラ数はPlayStation 2とそれほど変わらなかったんです。まあ今振り返ると,スペックが判明していなくとも,よく考えれば分かることなんですけど(笑)。
でも,PS3ではここまで表現できるということをアピールしないといけないのもありましたから,妥協するわけにはいかないと,チームが一丸となって取り組んでいました。今思うと,よく実現できたなと思いますね。
ちなみに,2013年1月に発売された最新作の「DmC Devil May Cry」(以下「DmC」)は,森橋さんの目からみてどのように映りましたか?
森橋氏:
実は,話をする機会がなかったので誰にも言っていなかったのですが,「DmC」の日本語字幕は,僕が書いているんですよ。
僕は英語がほとんど分からないので,開発チームが翻訳したテキストをベースに字幕を付けていったんです。シーンごとのニュアンスをつかむのが大変でしたが,今までのダンテでは言わないような言い回しをたくさん使えたので楽しかったですね。
カプコンを退職したのは「DMC 4」のシナリオが上がったタイミングだったんですが,そのあと,内容のチェックやら何やらで,カプコンにはリリースまで出入りしていました。
4Gamer:
そのあと,フリーランスとしてゲームのシナリオや小説,コミックの原作などを手がけられるようになるんですよね。
ゲームのシナリオと小説とで,執筆時に何か意識している違いはありますか?
そうですね。ゲームのシナリオでは対話調のやり取りで話を進めていく事が多いんです。小説でもそういう手法を使っている方もいますが,僕は,小説でゲームのシナリオと同じことをやっても自分自身が面白くないので,地の文を多めにする,といった差を作っています。
僕の小説は売れないので,お金にならないんです。出版社さんにはずっと不良債権みたいな存在で,最近ようやくちょっとだけ売れて,少し借金を返せたかなと。なので僕にとって小説は,いわば趣味なんですよ(笑)。
4Gamer:
趣味の麻雀つながりで,麻雀漫画「花鳥風月」の原作も手がけていますよね。
森橋氏:
好きだったゲームや漫画が仕事になり,趣味の麻雀も仕事になりと,全部仕事につながってしまい,心を休める場所がなくなりつつあります(笑)。
ただ,そのおかげで,単純な批判をしなくなりましたね。たとえばゲームなら,以前だったら出来が悪かったら「何だ,このクソゲーは」と怒っていましたが,開発現場を経験した今では「きっとバグを取りきれなかったんだろうなあ」とか,優しい目で見られるようになりました(笑)。
4Gamer:
最近では,ゲームのシナリオライターを志望する学生も多いと思うのですが,先輩として何かアドバイスはありますか?
森橋氏:
正直,シナリオを書くだけの社員を募集するケースはほとんどないんですよ。ですから,社員になりたいのであればまずはプランナーを目指して,実はシナリオも書けますというアピールをしたほうがいいと思います。
ただ,シナリオが書けることを証明するのって,実は難しいんですよね。たとえば,就職活動時にポートフォリオとして小説を提出されても,それが実際に読まれるケースは,まずないと思います。面接する側は,応募者一人一人のポートフォリオを見るのに,一つに何時間もかけられないわけですから。
僕の場合は,学生時代に作品が出版済みで,賞をもらえそうだというアピールをしましたが,そういった具体的な成果がない限りは,シナリオをやりたいと前面に出すのは,あまり得策ではないかもしれません。
4Gamer:
森橋さん個人のお話をお聞きしてしまい,話がかなり逸れてしまいましたが,あらためて,「鬼武者Soul」で6月27日に実装される「関東風雲編」のシナリオについて,読者に向けてメッセージをお願いします。
森橋氏:
「鬼物語」のシナリオは,まだプレイされていないという方も安心して読める内容になっています。肩肘張った歴史物ではなくライトに入れる内容ですから,一字一句逃さず読んでほしいとまでは言いませんので,ぜひ一度遊んでみてください。
また,シミュレーションゲームと割り切って,テキストを読まずにゲームを進めている方でも楽しめるよう,キャラクターに個性を持たせています。ご自身が好きなキャラが出ているときにでも,チラリとシナリオを読んでいただけると嬉しいです。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
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(C)CAPCOM CO., LTD. 2012,2013 ALL RIGHTS RESERVED.
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