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[TGS 2012]PS4はクラウド対応? コンシューマゲームはなくなる? 多彩な話題が飛び出した「TGSフォーラム2012クラウドゲームセッション」レポート
セッションは,クラウドゲームについて3人が講演を行い,その後にパネルディスカッションを行うという形式で進行した。
「データホテル」という社名を見ても,いったいなにをする会社か分からない人も多いと思うので軽く紹介しておこう。簡単にいうと,データホテルは,かつてライブドアのデータセンター部門だったところだ(現在はNHN Japanの子会社)。最近では,Ubitusの技術によるクラウドゲームサービスも展開している。
「Ubitus」という名前はどこかで聞いた覚えのある人もいるかもしれない。「ドラゴンネスト」のクラウド化で話題を呼んだ「ジークラウド」に技術提供しているところだ(関連記事)。UbitusではNVIDIAのGeForce GRIDなども取り入れた展開を行っているのだが,完全なGPUの仮想化ではなく「マイクロ仮想化技術」を活用しているという。
以前は1台のサーバーで1クライアントの処理を担当していたとのことで,性能はともかく,かなりコストのかかる方式を使っていたのだが,マイクロ仮想化技術により,1GPUで15〜50個のゲームを同時に実行できるようになったという。
マイクロ仮想化というのがなにかというと,要するに「たくさん窓を開いて」ゲームを動かしている状態のことらしい。OSごと仮想化を行うよりも無駄が少なく,リソースの利用効率が良くなるとのこと。
また,他社が同じGeForce GRIDでもNVFBC(Full Frame Buffer Capture)を使っているのに対し,UbitusではNVIFR(Ultra-Fast Frame Read Back)を使っているから速い……ということらしいのだが,正確な動作の違いはよく分からなかった。どうもNVFBCはフレームバッファを高速に転送してエンコードする機能で,NVIFRはレンダーターゲットから複数のバッファの内容を並列で転送してエンコードする機能のように思われる。
なにはともあれ,1画面の送出に要する時間は約30msで,日本のインターネット回線の場合,ネットワーク遅延は5msから15msになるという。多めに見ても50msくらいの遅延で送信が行われるようだ。ただ,表示されるまでの遅延については言及がなく,セッション後に聞いてみたところ,ディスプレイでの遅延(バッファリングやフィルタリングによるもの)の存在は認めていた。ただそれでも,G-clusterでの200ms(こちらは表示までの遅延)よりは速そうだ。データホテルにはアーケードゲームメーカーからも多く問い合わせがあり,「アーケードゲームメーカーの人が納得するくらいの遅延には収まっている」とのこと。
コスト要因は大きく二つ |
ハイエンドグラフィックスカードだと,デスクトップケースでも入らないこともあるくらいだから,ラックマウントサーバーでは当然こんなこともある |
なお,GPUを動かす関係でサーバー側のOSにはWindows 7系のものが利用されており,PC用のゲームであれば,ほとんどそのままでクラウド配信させることができるという。ただ,多くの窓を開く形で並列処理する関係上,多重起動禁止処理が施されているゲームでは,それを解除してもらう必要があるとのこと。逆に言えば,その程度の変更で済むわけだ。
Ubitusの技術は世界中で使われているのだが,各国で使われ方はかなり異なるようだ。
アメリカでは,主に時間制のチケットを使った「レンタル」の形態でサービス展開が行われているという。1日券から1か月券まで種類はいろいろあるようだが,1日券で数十円から100円と,かなり利用しやすい料金になっており,初回の利用障壁は下げられている。ちょっと試してみたいといった要求に応えるサービスが展開されているということだ。また,時間帯を制限した割安なチケットも発売されており,非混雑時間帯でのサーバーの利用効率を上げる方策も採りやすいのが特徴だと春日氏は語っていた。
韓国では,PC以外にスマートフォンやタブレット,セットトップボックスなどといった多くの機器でゲームが利用できるマルチデバイス配信が行われている。1ソースでマルチデバイスに展開できることで,移植にかかるコストがなくなり,対応できる機器が増えることで市場を拡大しているという。
アーケードゲームというと,入力のシビアさを要求されそうでクラウドには向かないのではないかという気もするのだが,前述の三輪氏の講演でもあったように,アーケードゲーム業界の人が見ても使えると判断するくらいのところには収まっているとのこと(ただし,格闘ゲームと音ゲーを除く)。
アーケードゲームでは新作の導入コストが高くなりがちなのだが,それがクラウド化によって解決されることもあり,かなり前向きに取り組まれているようだ。アーケードゲームをそのままPCなどに配信したり,ネットカフェをゲームセンター化するといった展開が検討されているという。
このように,クラウドゲームが今後どんどん進出してくることは間違いなさそうなのだが,「じゃあコンシューマゲーム機はなくなるの?」といった疑問に対して,春日氏は明確に「なくなりません」と断言していた。これは映画や音楽などの歴史を見ても明らかなことだと氏は続け,配信形態として「パッケージ」「ダウンロード」「ストリーミング」は共存していくという考えを示した。比率は変わってくるにしても,なくなるわけではなく,クラウドに向かないゲームは今後もコンシューマゲーム機で楽しまれるだろうとのこと。
クラウドに向かないゲームもあれば,クラウドに向いたゲームまたはクラウドを生かしたゲーム作りというものもありうる。クラウドが出てくると,ゲーム業界でなにが変わるのかについて,春日氏は,
- 入力デバイス
- 画面共有
- リアルとの融合
の3点を挙げていた。
また,G-clusterの記事でも紹介したような,スマートフォンをゲームコントローラにする構想も紹介された。昔はゲームごとに専用コントローラを提供して,よりプレイしやすくするといったことも結構行われていたのだが,最近ではほとんど見なくなったような気がする(バーチャロン フォースのツインスティックくらいだろうか)。しかし,スマートフォンを使えば,ゲームごとに専用コントローラを用意するようなことが簡単にできるようになるわけだ。
クラウドゲームの仕組み上,プレイ画面の共有が非常に簡単にできることも新たな可能性を生み出すと春日氏は語っている。
これについては,かつてドワンゴではPS Vitaで実行中のゲームをそのままニコニコ生放送に配信できるようにしないかとゲーム開発者に呼びかけていたという記事を掲載したことを覚えている人もいるかもしれない。実況プレイをしながらコメントを受け付けたり,ゲーム体験を共有していくというのは,今後のゲームが目指す方向の一つには違いないのだが,ゲーム機側のリソースを使ってゲームと同時にエンコードを行うのはなかなか難しいところもある。とくに携帯ゲーム機ではメモリ容量,CPU/GPU性能,回線などの制限が厳しい。それが,クラウドなら,いとも簡単にできてしまうのだ。
そのほか,春日氏は単なる映像ではなく,360度のパノラマ映像を使ったAR的なコンテンツをクラウドで提供することで,まったく新しいエンターテイメントが創出される可能性があると夢を語っていた。
クラウドゲームの動向を追ってきた小野氏は,クラウドゲームが注目されるようになった背景として,半導体,回線,開発者数の伸びが止まらないことを挙げる。
CPUもGPUも留まることなく高速になり,スマートフォンなど高性能機器は多種多様なものが生まれてきてデバイスも多様化していく。また,インターネット回線は有線・無線を問わずどんどん高速になっていく。最後の開発者の増加については実感のない人もいると思うが,世界的に見ると発展途上国などでもゲーム開発者はどんどん増加しているという。
こういった傾向がクラウドゲームにとって追い風となっており,現在は全世界で80億円程度の規模のクラウドゲーム市場も,2016年には7000億円規模になることが予想されている。
インフラの充実とクラウドへのニーズという両面の流れは,パッケージ中心であったコンシューマゲーム業界のビジネスモデルを変えていくという。ただ,パッケージがなくなってクラウドに変わるといった単純な話ではなく,あくまで「配信手段の多様化の一つ」であると理解するべきだと小野氏は注意を促していた。
一つは,データログの活用によってもたらされる。ソーシャルゲームなどではさまざまなデータをもとにKPIツールを使った,ユーザーの動向を捉えてのゲーム調整ができることが話題になっていたのだが,それと同じ,もしくはそれ以上のことができるようになるというのだ。なにせ,プレイヤーの操作データはすべてサーバーに送られて処理されるので,入力系の情報はすべて取得できる。もちろん,ステージ1でやめた人がどれくらいいるか,どこで詰まった人が多いかなどもリアルタイムで分析できる。それらの情報を活用してのゲームの更新も簡単だ。こういったものをちゃんと活用すれば,売り切りのゲームでは考えられなかったような展開が可能になると小野氏は語る。
また,マーケティング手法も変わってくるという。すでにWebサイトからのリンクで直接クラウドゲームが起動できるようなものが海外のニュースサイトやFacebookで実現されており,メディアやコミュニティを絡めた展開が有効になっているとのこと。
さらに春日氏が挙げていたような,ニコニコ生放送でのゲーム実況のようなことが簡単にできることも大きな可能性を秘めているという。
さらに,クラウドゲームはゲームの配信形態を変えるため,パッケージ販売について回っていた違法コピーや中古問題を解決するほか,ゲームメーカーにはタイトル制作のコスト回収機会を増やすとも語っていた。AAAタイトルの制作コストはどんどん上がってきており,パッケージだけでは回収が難しくなっているのだが,クラウド配信であれば,中間コストが安いことに加え,価格設定の自由度が高いのでキャンペーン価格設定なども頻繁にできるからだ。
かつてスマートフォンが出てきたときに,コンシューマゲームをそのまま移植して「あまり売れませんでした」と言っているところがあった一方で,スマートフォンに適したゲームを作ろうとするところも出てきて,結果として「Angry Birds」に根こそぎ持っていかれた経緯があると小野氏は語る。クラウドゲームでも,単にPCなどのゲームがそのまま動くというだけではなく,クラウドゲームならではのコンテンツを提供することが重要だとしていた。
どういった種類のゲームデザインがクラウド配信に適しているのかというと,まずコミュニティをベースをしたものであるという。現状のクラウドゲームで人気なのはFPSなのだが,これはプレイで戦闘経験を共有できるのみでなく,プレイ動画を見てさらに盛り上がれることが大きいのだという。
一方で,目押しが重要なゲームなどはクラウドに向かないので,最後までコンシューマゲーム機などに残り,コアゲーマー向けに分化していくだろうと氏は語る。コンシューマゲーム機はなくなることはないが,現在のままの市場でもいられない。クラウドゲームという選択肢ができることは,多くのゲームメーカーにとって大きなチャンスになりうると小野氏は見ているようだ。
まず,クラウドゲーム市場は「いつ来るのか?」という議案だ。ブレイクスルーが起きる条件はなんだろうか。
それについて三輪氏は,ハードウェアなどのインフラがキーになると語る。GeForce GRIDはその一例で,これにより1接続1台のサーバーでやっていたものが,1台で15〜50接続と飛躍的に効率化できるようになっており,ようやく本格的な展開が行える段階になったとのこと。クラウドゲームで先行していたOnLiveの破綻は,クラウドゲームに関心がある人なら気になっているニュースだと思うが,OnLiveでは8000台のサーバーを用意してサービスを行っており,コスト的に無理があったのだろうという。そういった状況も劇的に改善されていくわけだ。
ただ,そういったビジネスについては,コンシューマゲームが強いことが仇となり,世界中で“日本だけ”立ち遅れているのが現状だというのだ。驚いたことに,日本のゲームプレイヤーの目が厳しすぎるので「日本以外の世界中で配信Ok」といった条件のタイトルが多いのだそうだ。ただ,クラウドゲームの品質が悪かったのも次第に過去の話となってきており,1年ほど前から劇的に状況は変わってきていると春日氏は説明していた。そういった,海外メーカーから過剰に恐れられているような状況が改善されれば,市場も好転していくだろうと氏は語っていた。
小野氏は,クラウドゲームが立ち上がるかどうかは,次期PlayStation次第だと端的に述べていた。
春日氏は,売りやすさから定額制でやりたがるサービス業者が多いのだが,定額で遊び放題のモデルは,次期尚早ではないかと疑問を呈していた。現状は,客単価を上げてしっかりと収益を上げるモデルを確立することが最優先であり,ビジネス基板の確立を優先すべきだという考えを示していた。
三輪氏は,配信先によってスタイルは変わってくるとした。ネットカフェでは利用者が直接料金を払うわけではないので(滞在時間を長くするツールの一つという位置付け),こちらの業者との間では定額の契約が多く,CATV業者だと料金プランに即した定額プランが課金しやすいとのこと。アーケード系では,1ゲーム100円のモデルは適用しにくいと考えているところが多いようで,アイテム課金などを検討しているところもあるという。
クラウドゲームが台頭するとコンシューマゲーム業界はどうなるのかという設問が行われたのだが,すでに「コンシューマゲームはなくならない」としていた春日氏は,クラウドゲーム以前の問題として,もとからコンシューマゲームが売れなくなっている状況があることを説明していた。こうったものはCDなどでも同じ道を歩んでおり,ダウンロード配信やストリーミングが出てきたから売り上げが落ちていくのではなく,元からだんだん売れなくなっていくものだという認識を示していた。クラウドゲームが登場することで,パッケージの売り上げ比率に影響が出るのは避けられないにしても,パッケージの価値はなくならないので,むしろ市場を広げる方向で活用してほしいと語っていた。
さて,最近,NTTでは1ペタbpsの光回線の開発成功を発表した。これがどれくらいの速度かというと,ちょっと前の一般的なLAN回線規格であった100base-T(100Mbps)の1000万倍だ。2020年の実用化を目指すということで,10年後には通信基盤も桁違いに速くなることが期待される。
携帯電話でも,現在はLTEすなわち3.9G世代の回線網が整備されつつあり,数十Mbpsでの通信が可能になってきている。次世代の(ちゃんとした)4G回線は1Gbpsクラスの速度を実現し,2016年くらいに登場することが見えている。また,世代が新しくなるにしたがって,遅延も減っていることも見逃せない。
ゲーム映像の送受信で要する帯域は多くても5Mbps程度であり,ちょっと前の常識では難しかったことが楽々実現できる環境は着々と整いつつある。一方で,スマートフォンの先駆けとなる最初のiPhoneが発表されてからまだ5年。Android機が出回るようになって,ほんの2,3年と,IT業界の進化は非常に速い。。5年後10年後の世界を見据えると,クラウドゲームの現実味とその破壊力にはゲーム業界の誰もが注目せざるをえないところだろう。
- 関連タイトル:
GameNow(旧称:ジークラウド)
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