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[GDC 2012]ゲームで世界を変える! イギリス政府が認めるゲーム業界の最重要人物,イアン・リビングストーン卿による講演をレポート
そんなリビングストーン氏が,今年からGDCの専用サミットとして加わった「Games for Change」のスピーカーとして壇上に立ち,「From Dungeons to Downing Street? How Games are Changing for Good」(ダンジョンから官庁街へ? いかにゲームが良い方向へと変化しているのか)という講演を行った。
さて,そんなGames for Changeサミットにおいて壇上に立ったリビングストーン氏が,まず話題にしたのは「ゲーム産業は依然としてメインストリームに毛嫌いされている」ということだ。映画より綿密なレーティングシステムが整っているにも関わらず,暴力事件が起きるたびにゲームが名指しで批判されることも少なくない風潮に,リビングストーン氏は首を傾げる。「ゲームに対する偏見」が,ゲームのポテンシャルを否定してしまっているというわけだ。
リビングストーン氏は今回のセッションで,社会を変化させるためのいくつかの動きを紹介したが,その中で彼が実際に関わっているのが「GamesAid」という組織だ。このGamesAidは,イギリスのゲーム産業とチャリティ団体の橋渡しを担っており,チャリティ団体の要請を受けて,身体に障害を持つ人や恵まれない子供達に,ゲームを利用した「生活の質の向上」を提供しようとしている。
主な活動は「Special Effect」と名付けられたもので,片手しか使えない障害者のためにゲーム機のコントローラを改造したり,知的障害を持つ子供のためにゲームの難度をぐっと低くしたり,寝たきりの人に見やすいようなモニタを設置したりというようなことを,必要な人のために個人レベルでサポートしている。
Next Gen.の掲げる目標は,公立学校の生徒が12歳までに「Scratch」というプログラムを使って2Dアニメーションを作成できるようにし,さらに16歳でアプリを自主制作,そして18歳で簡単なプログラミング言語を作れるように指導していくというもの。現在のイギリスゲーム産業の雇用者数は,アメリカとカナダに次いで3位の地位に甘んじていると言われるが,こうした活動を続けることで,ビデオゲームや特殊撮影といった分野にとっての,人材のハブが誕生するような環境を作り出そうという試みになっている。
このコンピュータサイエンス教育の足掛かりとなるのが,イギリスで開発されたばかりの「Raspberry Pi」という小型コンピューターだ。これは,リビングストーン氏がスポンサーになって2008年から開発が続けられていたもので,大学研究者や元ゲーム開発者からなるグループ「Raspberry Pi Foundation」によって作られた。ちなみに価格は30ドル程度。
Raspberry Piは,ARM系Linuxを搭載しHDMI,USB,Audioなどの端子が付けられた簡素な基板を,ラズベリーのマークがあしらわれた四角いケースに収めている。これを,Next Gen.の実現に向けて学生一人一人に提供し,コンピュータリテラシーを向上するための教材として利用しようというわけである。
リビングストーン氏らの音頭により,イギリスの教育現場にゲーム開発という新たな学問が持ち込まれ,雇用状況の悪化に悩まされてきたイギリスが変わろうとしている。イギリスの青少年すべてがコンピュータサイエンスのスペシャリストになるわけではないが,大きな人材プールの中には,英ゲーム業界の未来を担ったり,社会に役立つようなアイディアを生み出したりする才能が育まれるはずである。こういった活動が確かな成果として結実していくことで,現代社会に蔓延するゲームへの偏見が,少しずつ消えていくことに期待したい。
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