インタビュー
人気BEMANIコンポーザー・あさき氏インタビュー。7年半ぶりの2ndアルバム「天庭」に込めた想い,そして音楽のルーツについて聞いてみた
同作は,2005年に発売された1stアルバム「神曲」に続く,あさき氏個人としては2枚目のアルバムだ。およそ7年半ぶりの新アルバムということで,発売を心待ちにしていたあさきファン,またBEMANIプレイヤーも少なくないだろう。
そこで4Gamerでは,アルバムの発売を目前に控えたあさき氏に,作品のコンセプトや制作秘話をうかがうべく,インタビューを行った。表題曲「天庭」にまつわる話を始め,あさき氏の音楽への取り組みやそのルーツ,またプライベートな一面についても話を聞いている。あさき氏のファンは,発売されたばかりのアルバムを聞きながら,ぜひご一読いただきたい。
あさきセカンドアルバム「天庭」公式サイト
あさき公式サイト
「天庭」は“愛とひと”がテーマなんです
4Gamer:
前作「神曲」からおよそ7年半ぶり,ファン待望の2ndアルバム「天庭」が1月30日に発売となります。さっそくですが「天庭」のコンセプトについてお聞かせください。
「天庭」は“愛とひと”がテーマなんです。“人そのもの”というか……“ひと=愛”というか。そのテーマで,色んな視点から見て描いた物語を,「天庭」に詰め込んだつもりです。
4Gamer:
物語……ですか。アルバム全体が一つの物語になっていて,収録曲がそれぞれ章仕立てになっているような感じなんですか?
あさき氏:
章というか,概念みたいなものなんですよね。ちょっと説明しづらいんですが,聴いてくれた人には,きっと伝わるんじゃないかと。
4Gamer:
収録曲には,今まで発表されている楽曲も含まれていますよね。
あさき氏:
そうですね。書き下ろしもあるんですが,今までの楽曲に関しては,ちょっと見せ方を変えてる曲があります。
4Gamer:
その理由は?
あさき氏:
とくにないです。構築してる世界が微妙に違うんで,曲も変えただけで。「つばめ」とか,一部のモチーフだけ残してガラっと変えてます。「つばめ」だけど「つばめ」じゃない,「極東史記」だけど「極東史記」じゃない。収録曲は,どれも「天庭」という一つの曲の中でのお話なんですよ。だから今回のアルバムは,自分の中ではアルバムではなくてシングル扱いです。
4Gamer:
もう少し詳しく聞かせてください。例えば,収録曲の一つである「まほろば教」は,BEMANIシリーズの楽曲「鬼言集」がベースになった楽曲ですよね。
あさき氏:
そうですね。そもそも「鬼言集」というのは,“ひとが理想とする,ものとか場所”という別のテーマを描いた物語だったんです。だから「鬼言集」のままでは,「天庭」の中で扱うには,テーマが大きすぎて。
4Gamer:
それでタイトルを変えた?
あさき氏:
ええ。「鬼言集」の要素を丸くまとめ,「天庭」のイントロダクションとして収まるように作りかえたのが「まほろば教」です。「天庭」と「鬼言集」は別の物語ですが,共通する部分もあって,そこを抽出した形です。
4Gamer:
ああ,なるほど。
あさき氏:
概念としては,「天庭」の中に「鬼言集」があって,「鬼言集」の中に「まほろば教」があるんです。人が持つ理想の中でも,とくに愛を信じる人のお話が「まほろば教」になっている。すべてを描こうとすると,どうしても1枚のCDに収まりきらないので,もし「鬼言集」をそのまま発表するなら,「鬼言集」という作品で出したいですね。
4Gamer:
「天庭」のことが,少し分かってきた気がします。では「天庭」の制作は,いつ頃からスタートされたんですか。
あさき氏:
制作に関しては紆余曲折ありまして。制作自体は2〜3年前から公言していたんですが,そのときはオムニバス的なアルバムを考えていました。で,それがスタートしてしばらくしてから,僕が体を壊してしまって。
4Gamer:
なんと。
あさき氏:
結局半年くらい療養することになってしまいました。その時点で表題曲「天庭」の楽曲はできていたんですが,ほかの楽曲はそこで一旦すべて白紙に戻しました。だから総制作期間で言えば,結構長いかもしれません。
4Gamer:
療養期間中に,コンセプトが変わってきた?
あさき氏:
そうですね。長い期間休んでいたこともあって,自分の中で作品として出したいものが変わってきたというか。自分の中で,ホンマに思ったこと,経験したことを出したくなった。
4Gamer:
では,先ほどの“愛とひと”というテーマは,身体を壊された後に出てきたテーマということですか。
あさき氏:
いや,それは療養の前からあったテーマです。でも,その時点ではもっと商業作品的なテーマでした。療養の後になって,もっともっと生々しくやろうと考えて……結果,歌詞も全部書き変えて,魅せ方から全部変更することにしました。
4Gamer:
世界が変わるくらい,大きな出来事だったんですね。
あさき氏:
制作終盤にも,また体調を崩したんですけど,病院に行ったら,今度は余命幾ばくというか,そういう状態でした(笑)。そのとき,心の底から本気で,色々悟ったような気がします。あ,今は元気ですよ。
4Gamer:
それは……なんというか,壮絶ですね。
あさき氏:
だから,逆に復帰してからの制作ではほとんど苦労しなかったです。せいぜい現実的なしがらみくらいで。まあそれ大きかったんですけど。
4Gamer:
なるほど。では完成したアルバム「天庭」には,その経験が反映されていると。そういえば,初回限定盤には特典としてミュージックビデオが付属しますよね。これはどんな内容なんですか?
あさき氏:
ミュージックビデオに関しては,僕はあまり干渉していないんですよ。概念は細かく伝えて,あとは監督がどう表現してくれるのかを楽しみにしていました。結果凄いクオリティのものになったと思います。最後のオチのところは,僕がちょっと口を挟みましたけど,それも強烈なことになっているので,楽しみにしていてください。
アンプを買うお金が欲しかったので,就職しようと思った
4Gamer:
では,ここから「天庭」からは少し離れて,あさきさんご自身について聞かせてください。今ではKONAMIの人気コンポーザーとして知られるあさきさんですが,そもそもどうしてゲームコンポーザーという道を選ばれたんですか。
あさき氏:
ゲームコンポーザーを選んだ理由は,とくにないんですよね。大学の頃にやっていたバンドが解散して,その時がちょうど就職活動の時期だったんです。で,ちょうどアンプを買うお金が欲しかったんですよ(笑)。だからとりあえず就職しようかと思って,たまたまデモテープを送った会社が,KONAMIだったという。
4Gamer:
ということは,BEMANIシリーズなどの存在を,就職前は知らなかった?
あさき氏:
そうですね。
4Gamer:
なぜKONAMIを選ばれたんです? こういってはなんですが,ゲーム業界の中にもメーカーはたくさんありますし,音楽を続けるということで言えば,いろいろな業界がありますよね。
あさき氏:
……実は,就職しようとしたときに,たまたま某RPGをプレイしてて,それがすごく面白くて。
4Gamer:
ああ,それがKONAMIのタイトルだったと。
あさき氏:
いや,それが違うんです。ただ刹那的に「そうだゲーム音楽を作ろう!」って思い立って,その時たまたまKONAMIがサウンド募集してたので,デモを送ってみたという(笑)。
4Gamer:
あ,あれ?
あさき氏:
そしたらギタドラやってくださいって言われて……そんな感じで,ものすごくふわっと入社しました。
4Gamer:
そうだったんですね。結局,アンプは買えました?
あさき氏:
買いましたよ。今でも使ってます。
4Gamer:
なるほど。ということは,学生時代から,ゲームは結構遊んでらしたんですね。
あさき氏:
RPGが好きだったので,学生時代は結構遊んでましたね。
4Gamer:
今も何かプレイされていますか?
あさき氏:
最近やっと落ち着いてきたので,面白そうなゲームを探してます。ニンテンドー3DSでも買おうかな,とか思っているところです。
一般販売店 |
文教堂 |
コナミスタイル |
タワーレコード |
アンプにマイクを立ててるときが,一番好きですね(笑)。
4Gamer:
話は変わるのですが,あさきさんは,あさき名義の曲では,作詞から作曲,編曲などまですべてをご自身でこなされるとお聞きしています。それはやはり,何かこだわりがあるのでしょうか。
あさき氏:
元々は,そういうつもりではなかったんですけど。自分のビジョンが,なかなか人に伝わらないんですよね。
4Gamer:
自分の理想を完璧に伝えるのって,確かに難しそうです。
あさき氏:
「天庭」のトラックダウンも,凄く信頼の置けるエンジニアさんにやってもらったんですが,カッコイイんだけど,やっぱり伝えきれない部分があって。その方にも「あさきくんがやったほうが絶対にイイ曲がある」って言われたので,今後はまあ,その辺は臨機応変にやってこうかなと。
4Gamer:
あさきさんご自身としては,作詞や作曲,編曲といった行程のなかで,どれが一番お好きなんですか。
あさき氏:
アンプにマイクを立ててるときが,一番好きですね(笑)。
4Gamer:
「マイクを立てる」とは?
あさき氏:
作曲の時,プリプロでアンプシミュレーターを使ってギターを録るんですが,本番ではスピーカーにマイクを立てて録り直すんですよ。その時がたまらなく好きです。「さあ命いれっぞ!」みたいな。
4Gamer:
一度アナログを通すことで魂が宿る,みたいな?
あさき氏:
そうですね。あと,2MIXや核になってるようなトラックは,必ずアナログ機材を通します。それで逆に音が悪くなるときもあるんですけど,自分の中での儀式として,必ずやってます。
4Gamer:
作詞や作曲は,どういう風に行われるんですか。やっぱり,曲のテーマから考えるような?
あさき氏:
いや,テーマは考えないです。漠然と“ひと”とか“幸せの在り方”とかくらいですね。
4Gamer:
作詞と作曲は,どちらを先に作るんでしょう。
あさき氏:
作詞からですね。詞というか……ざっくりとしたお話を考えます。そこから曲を作りだすまでが長いんです。一度音が出はじめたら,あとはもう全部見えるので,早いんですけど。
4Gamer:
ストーリーラインとか,ストーリボードみたいなものが先にあるんですね。そういう曲の作り方って,わりと普通なんですか?
あさき氏:
いや,詞から始める人は,少ないと思います。ストーリーといっても,殴り書きに近いものなので,結局は曲に合わせて,作り直すんですよね。一曲につき2回作詞するみたいな感じなので,すごく面倒ですよ。今回の「天庭」の歌詞は,ほぼ殴り書きのままですけど。
4Gamer:
ゲーム用の曲を書くときも同じですか。
あさき氏:
変わらないですね。僕の曲は,アルバムでもBEMANIシリーズの曲だなって思います。いわゆる一般的なロックとは,アレンジの方法が違うというか。
4Gamer:
BEMANI用の曲って,普通の曲とは作り方が違うというのは,ほかのコンポーザーさんもよくおっしゃっていますね(関連記事)。
あさき氏:
ゲームとして遊んで楽しい曲でなければならないので,アレンジが普通よりも複雑で,ハデ目なんですよね。ただ,僕はそういうのを作り続けているので,意識せずともそういう曲になるんですよ。
最初にひらめいたものが,一番イイものなんだ
4Gamer:
かなり個性的な曲の作り方とのことですが,その制作スタイルって,いつ頃から始められたんですか。
あさき氏:
これは昔からですね。……中学生のときにやってたバンドで,初めてオリジナルを作ったんですけど,その時からこうでした。最初は女の子にモテたいだけで始めた,ただのコピーバンドだったんです。でも,すぐにオリジナルがやりたくなって。
4Gamer:
中学生から!
あさき氏:
近所にわりと名門のライブハウスがあったんですけど,そこに立つためには,オリジナルでオーディションに通る必要があったんですよ。そのためのオリジナルですね。
4Gamer:
その時から,今と変わらないスタイルだった?
あさき氏:
ああ,なんかいろいろ思い出してきました。なかなか良いところを突きますね(笑)。
確か,さぁ曲を作ろうって思ったときに,曲の作り方が分からなかったんです。だから,こんな曲にしたいって思いながら,とにかく歌詞を書いてみた。それから,その世界観にあう曲を,既存の楽曲から探してきて。
4Gamer:
この世界観に合う音楽って,どういうものなんだって。
あさき氏:
そうそう。それを見つけたら,その曲を参考にしながら作ってました。まあ,その当時のは子供のポエムなんで,すごく拙いものでしたけど(笑)。そこからスタートして,理論書とか読みながら音楽の作り方を勉強した感じです。
4Gamer:
そこが原点なんですね。
あさき氏:
最初に詩を書くというスタイルから始めたので,それが自分の中で定着しちゃってるんですね。自分で自分に間違った躾をしちゃたみたいで。
4Gamer:
では楽曲制作に行き詰まったときなどは,どうされるんですか。
あさき氏:
昔は出るまでもがいてましたが,最近はもがかないですね。打開しないです。メロディに詰まったら,その時点でその曲は捨てて,最初から作り直す。結局,一番最初にひらめいたものが,一番イイものなんだって,最近心の底から悟ったので。アレンジとかも今回はほとんどこねくり回してないです。振り返らない(笑)。
最近と言うことは,前作のときは,そうでもなかった?
あさき氏:
「神曲」の時とは,かなり作り方が変わっていますね。ファーストインプレッションを大事にするというか。作り込むと,かっこばっかりで薄っぺらいものになりがちなんで。今回のテーマの根っこが,そもそも“ひとの魂”だったので,最初から完成された聴きやすいものを作ろうとは思ってなかったということもあります。
4Gamer:
ということは,ボツになった楽曲も相当ありそうですね。
あさき氏:
そうですね。数十曲は作ったんで。ただそれは「天庭」に合わなかったというだけなので,今後別の形で出そうとはおもってます。
聴いてもらうのは,表題曲「天庭」だけでいい
4Gamer:
ではそんな「天庭」について。あえて聴きどころを挙げるとしたら,どこになりますか。
あさき氏:
2トラック目の「天庭」です。このアルバムは,「天庭」がすべてです。
4Gamer:
そ,そうなんですか?
あさき氏:
はい。それと歌詞を読んで,どうかネガティブな気持ちにならないでほしいです。僕はネガティブなことが凄く嫌いなので。ただ僕が思う“ひと”を語ったお話というだけで,“そうあるべき”だとか,そういうメッセージは一切込めていないつもりです。
4Gamer:
あるがままを受け入れる,みたいな?
あさき氏:
伝えたいことがあるなら,どんな状況であったとしても,すべてに等しく安らかに。魂を大切にって,そんな感じかな。
4Gamer:
なるほど。そういえば,あさきさんは趣味で水彩で風景画とかもお描きになるとお聞きしています。そういうのって,やっぱり楽曲とも関係があったりするんでしょうか。
あさき氏:
通じるものがあるかもしれませんね。僕田舎者なんで,動物とか植物が凄く好きなんですよ。都会に引っ越してきてしまったので,風景画を描く機会は減ってしまったんですが,最近はガーデニングつーか,植木とか。あと釣りとかですね。最近は盆栽もいいなあ,とか思ってて(笑)。
4Gamer:
盆栽とは,また渋いですね。
あさき氏:
モダン盆栽とか,すごく面白いですよ。あの限られた空間の中で,宇宙を表現するみたいな。動物や植物も,心から愛を注ぐと,本当に凄く豊かに,優しく成長するんですよね。だから好きです。言葉がいらないというか,お互いの心のやり取りのみで完結できるから。
4Gamer:
ああ,なるほど。
あさき氏:
そういうとこは結構曲に出てるかもしれませんし,出てないかもしれません(笑)。ああ,それともう一つ。長い楽曲もあるけど,飛ばさずに通して聴いてほしいです。一連の物語なので。
4Gamer:
確かに,「天庭」は10分を越える楽曲になっていますね。
あさき氏:
魂のデトックスだと思って聴いてください(笑)。
4Gamer:
分かりました(笑)。ではアルバム以外も含め,今後の活動について,話せる範囲でお聞かせいただけますか。
あさき氏:
今後はショートタームで,サクサクと楽曲を出していけるよう頑張ります。現在は音楽もデジタル配信が主流ですが,アルバムみたいな媒体では,デジタルでできないことをやりたい。その方が面白いと思うので,買った人が,買ってよかったなと思えるような試みを,今後もやっていきたいと思っています。
4Gamer:
もちろんゲームでも,引き続きあさきさんの新曲が遊べますよね?
あさき氏:
はい。そちらも楽しみにしていただければと。あと自分自身の挑戦としては,健康のために禁煙を頑張ります(笑)。
4Gamer:
では,インタビューの締めとして,4Gamer読者,あるいはファンに向けてのメッセージをお願いします。
あさき氏:
今後もいい意味で期待を裏切ったものを作っていきたいので,よろしくお願いします!
4Gamer:
今後の活躍にも期待しています。あとファンのためにも,体調の管理にはぜひ気をつけてください。本日はありがとうございました。
なお,アルバムに収録されている楽曲のうち幾つかは,「天庭」の公式サイトにて,試聴が可能だ。あさき氏オススメの表題曲「天庭」も試聴できるので,本インタビューで興味を持ったという人も,ぜひ以下のリンクから公式サイトを訪れてみてほしい。きっと氏の語る世界観の一部を体験できるはずだ。
なお,2月9日から3月3日までの間,「天庭」の発売を記念したイベントツアーが,全国各地で予定されている。2月9日の東京会場については,すでに整理券の配布が終了しているが,アルバム制作秘話などが語られるトークショウなどもあるそうなので,興味のある人は,ぜひ足を運んでみてるといいだろう。
――2013年1月25日収録
あさきセカンドアルバム「天庭」公式サイト
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- 関連タイトル:
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