インタビュー
「電波人間のRPG」という作品は,どのようにして生まれたのか。そしてサウンドをベイシスケイプが担当した理由とは? プロデューサーの山名 学氏と,サウンドディレクターの崎元 仁氏に聞く
本作は,オーソドックスなRPGとしての側面を持ちつつも,プレイヤーの付近を飛び回る電波から生成したキャラクターを,3DS本体のAR機能やジャイロセンサーを組み合わせてキャッチし,それを従えて遊ぶという,これまでにない仕組みが採用されている。こうした新しい試みや,RPGとしての遊びやすさ,そしてコストパフォーマンスの高さを評価するプレイヤーは多い。
ちなみに本作で音楽を手がけているのは,「伝説のオウガバトル」や「ファイナルファンタジーXII」,近年では「戦場のヴァルキュリア」シリーズなどを手掛けたサウンドクリエイターの崎元 仁氏が率いる,ベイシスケイプである。
今回は,本作のディレクター兼プロデューサーを務めたジニアス・ソノリティの山名 学氏と,サウンドディレクターとして楽曲を手掛けた崎元氏に,この作品が生まれたいきさつや,崎元氏が楽曲を手掛けることになった理由などを聞いた。
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電波の固有情報を使ったキャラ生成
そのアイデアが,ゲームへと発展
4Gamer:
本日はよろしくお願いいたします。
まずは,「電波人間のRPG」という作品がどのように生まれたのかを教えてください。
昔から,“固有の情報を使ってキャラクターを生成する”という企画を考えていたんです。固有の情報といっても,例えばFeliCaのIDや,誕生日とメールアドレスの組み合わせ,あるいはGPSの位置情報など世の中にはいろいろありますが,考えていた最中に携帯電話ゲームの「コロプラ」がリリースされて,これはすごいのが出てきたと驚かされたんですね。
その後,アメリカのSkyhook Wirelessなどが開発した,Wi-Fiを使って位置情報を測定する技術を見て,ビーコン(Beacon:無線標識)の中にある固有情報を使ってキャラクターを生成できないかということを社員に話してみたんです。それがどうやらうまくいきそうだということで,去年の頭ぐらいから開発に着手し始めました。
4Gamer:
まずは技術ありき,ということなんですね。
では,それをRPGにしたのはなぜでしょう?
山名氏:
近年のRPGの方向性として,シナリオやキャラクターを主体にしている作品が多く,昔のRPGのようにゲームシステムで世界観を綴るようなシンプルなものがあまりなかったので,自分で作ってみようと思ったんです。
要するに,自分で遊びたいRPGを作ったんですよ。当初3DSに,RPGがあまり出ていなかったこともありますけど。
4Gamer:
動機自体はシンプルだったんですね。
個人的にも体験版から遊んでいたんですが,素直にプレイできるRPGだという印象を持ちました。
山名氏:
ありがとうございます。そういえば体験版って,最初は出す予定がなかったんです。でも,セーブデータを体験版から製品版へ引き継ぎできることが,完成寸前に判明して,そこから体験版の話が持ち上がって慌てて作ったんですよ。
4Gamer:
製品版への引き継ぎができるかどうかは,プレイヤーのモチベーションに大きく影響しますよね。とくにこの作品の場合,主人公のデザインがランダムですし,体験版を遊んだあとに製品版で最初から遊ぼうとして,気に入らない顔の奴が出てきた日には(笑)。
山名氏:
ですね。主人公の顔は,当初3DS本体のMACアドレスから生成する仕様だったので,ゲームを何度やり直しても変わらないはずだったんですよ。ところがその仕様だと,あまり可愛くない主人公になったときに変えようがないので,最終的に30種類の固定の顔を作ったんです。
実は,主人公が可愛くないと長い時間遊びたくならないという,うちの女子社員のたっての希望があって,彼女達に全部デザインさせました(笑)。
4Gamer:
仕様変更の背景にそんなエピソードが。
山名氏:
僕にはどうすれば可愛くなるのか,分かりませんから(笑)。
4Gamer:
一方,捕まえられる電波人間の見た目や能力は,電波の情報によって生成されるんですよね。
山名氏:
ええ,こちらは各地にある無線局から定期的に発信されているアドレスと,IDの文字列を読んでいます。電波の情報自体は,パスワードなどがなくても拾えるものなので,その情報からキャラを生成しているというわけですね。もちろんセキュリティ上の問題もありません。
4Gamer:
自分がいる場所によって,出てくるキャラクターが変わるというのが面白いですよね。
では,出てくる電波人間が遠かったり近かったりするのは,何か理由があるんでしょうか。
山名氏:
その電波が強いほど,近くに出現します。なので,遠くにいるやつは電波の発信源のほうへ移動していくと捕まえやすくなるんですよ。
4Gamer:
どこでどんな電波人間を捕まえられるのかを,インターネット上で情報交換しているプレイヤーもいるようです。
山名氏:
いらっしゃいますね。僕も一度どこかで見たんですが,区とかの単位で書かれていたのがあって,さすがにそれは広すぎだと思いました(笑)。10m程度の範囲でも,出てくる種類はかなり変わりますから。
4Gamer:
この仕様の場合,地域によってはなかなか電波人間が出て来なかったりするのではないかと思うんですが,そのあたりはいかがですか?
山名氏:
電波が少ないところに住んでいる方々にも,きちんと遊んでいただけるのかを検証するために,実際にいろんな地方に行って試してみたんです。その結果,例えば駅前などの多少賑わっているところまで行けば,それなりに電波が飛んでいることが分かりました。ご自宅近辺で電波人間を余り捕まえられない場合は,駅前などに出てみていただけると……。
4Gamer:
さまざまな特殊能力のあるアンテナを持った電波人間もいますが,これを捕まえるには,やはり都市部のほうが有利な気がするんです。となると,あんまり電波が飛んでいないエリアのプレイヤーは,ゲームを進めにくいのではないかと思うんですが。
山名氏:
確かにアンテナ付きの電波人間を多く揃えておくと,いろいろな戦い方ができるんですが,おっしゃる通り電波人間をなかなか捕まえられない方もいらっしゃるでしょうから,バランスとしてはアンテナのない電波人間のほうが強くなるように調整しています。
彼らに属性のあるアイテムを持たせて殴るのが,実は一番効くんですよ。電波であっても最終的に強いのは腕力だということですね(笑)。
4Gamer:
なるほど(笑)。
山名氏:
それに一般的なRPGのように,アンテナ付きの電波人間といえど,一人のキャラクターがたくさんの魔法を使えるのではなく,各自一つしか特殊能力を持っていません。この組み合わせを作る部分も楽しんでほしいんですよね。
4Gamer:
それもあって,パーティの枠が8人と多いんですね。カードゲームのデッキを構築するような感覚というか。
山名氏:
まさにそれですね。
また,実際に遊んでいる人を見てみると,戦闘でダメージを受けたら,回復させるよりも一度戦闘不能にして生き返らせるという戦い方をしていたりもするんです。ちょっと残酷かもしれませんが,確かにキャラクターに愛着を持たないほうが効率がいいんです。
4Gamer:
レベルも全員で共有されますし,使い捨て的な使い方でも問題ないというわけですね。
山名氏:
ええ。個々のキャラクターにいちいち構わないというのが,このゲームの神髄なんです。
ダウンロード販売を理由に
手は抜かないことを目指した
4Gamer:
お聞きしにくいことなんですが,製品版リリース後にバグが出たことがちょっとした騒ぎになりましたよね。
山名氏:
あれは本当に申し訳ありませんでした。
プレイヤーさんから電話があったり,ネットでつぶやかれたりしていたのを見て,すぐにプログラマーを待機させて調べた結果,けっこうな確率で発生してしまうバグだということが分かったんです。
ダウンロード販売だからといって手を抜きたくなかったんで,デバッグにはかなりのコストをかけていたんですが,取りきれませんでしたね。新規のゲームなうえに,開発期間が短かったので期間を圧縮して集中的にデバッグを行ったため,デバッガーが成熟する前に手離れしてしまったというのも原因だったと思います。
4Gamer:
とはいえ,修正版がすぐにリリースされたのは,プレイヤーとしては嬉しかったです。
山名氏:
パッケージ販売だったら,えらいことになっていたでしょうね。
ただ,うちの規模ではパッケージで発売するのはコスト的に厳しいので,最初からダウンロード販売だけでいこうというのは決めていたことなんです。ダウンロード販売という流通形態に可能性も感じていますし。
4Gamer:
その可能性とは?
山名氏:
ダウンロード専用のタイトルは,一般的にパッケージのタイトルより価格的にも低めなので,利益に差があるようなイメージをお持ちの方もいるかもしれません。でも実際は,ダウンロード専用だと中古市場に流れることもないですし,投げ売りされることもなく,長期にわたって販売できるんですよね。主に,そのあたりに可能性を感じています。
ただやっぱり,安かろう悪かろうでは,お客さんはついてきませんから,そこは手を抜かないように作ってきたつもりです。
4Gamer:
実際,ゲームそのものが面白いだけでなく,ベイシスケイプが担当したサウンドも相まって,お買い得感のある作品という印象を受けました。
山名氏:
そう感じていただけると,とてもありがたいですね。
4Gamer:
ダウンロードのマーケットが存在して,電波を扱えるプラットフォームといえば,近年ではスマートフォンという選択肢もありますが,そちらを選ばなかったのはなぜですか?
山名氏:
実は社内でもそういう案は出たんです。ただ,ゲーム機とスマートフォンでは,遊ばれ方が違うんですよね。
数時間おきに起動して,ちょっと遊んで終わり……というゲームであれば,スマートフォンにも適していると思うんですが,今回の作品のようにある程度複雑な内容の作品は,スマートフォンユーザーに求められていないと判断しました。
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