レビュー
PC版がリリースされた本作を,「シナリオエディタ」の可能性を含めてレビュー
信玄上洛デジタルアプリ版 for Win
「信玄上洛デジタルアプリ版 for Win」(以下,信玄上洛)のベースとなったのは,「空母決戦」「戦ノ国〜もののふ絵巻〜」「源平争乱〜将軍への道〜」といったPC向けのストラテジーゲームを開発/発売しているサイフォンが初めて発表したアナログのボードゲーム,「信玄上洛」だった。一般的なボードゲームと異なり,ソリティア(一人プレイ)に特化したゲームだが,その後,ゲームシステムはそのままにスマートフォンアプリ(iOS/Android)として発表され,そして今回,ついにPC版の発売となった。
「信玄上洛デジタルアプリ版 for Win」公式サイト
こうしたマルチプラットフォーム展開は最近,珍しいことではない。マルチプラットフォームに対応したゲームエンジンが一般化したため,同じタイトルをさまざまな機種で展開することは,以前に比べてずっと簡単になった。だが,サイフォンは今回,ただPC版を発売するのではなく,「信玄上洛」のシナリオを自作できるシナリオエディタを同梱した。
というわけで今回は,このエディタの使い勝手や可能性を含めて,「信玄上洛」をレビューしてみようと思う。
シンプルな国盗りゲーム
戦国時代の日本を舞台にした「信玄上洛」は,戦国大名となったプレイヤーが天下統一を目指して戦うというゲームだが,一般的な戦国ストラテジーと異なるのは,
(1)「天下統一」がゲームの目的とは限らない
(2)シナリオごとにプレイできる大名が決まっている
(3)扱うのは関東〜京都付近(初代「信長の野望」を想像してほしい)
おおむねこの3点だろうか。
(1)についてだが,「信玄上洛」はシナリオのクリアを目指すゲームであるため,天下の統一つまり「マップをすべて自分の国の色で塗りつぶす」ことが目的にならないことが多い。ゲームの勝利条件はシナリオごとに異なっており,一定のターン内にその条件を満たせれば勝利,満たせなければ敗北(ないし引き分け)となる。
(2)は,読んで字のごとし。タイトルどおり武田家としてプレイするシナリオが多いが,織田家や上杉家などをプレイできるものもある。
(3)については,もしかしたら不満が大きい部分かもしれない。伊達家や毛利家などの地盤となる領地は,マップ上には存在しない。
ゲームは軍勢の回復(ないし帰属)を行う軍備,武将と軍勢の移動,合戦という3つのフェイズで1ターンとなる。内政的な要素はほぼ存在せず,支配している領地が多いと,それだけ多くの軍勢を動かせるという,分かりやすい仕組みになっている。
軍勢の回復(ないし帰属)フェイズでは,ダメージを受けた軍勢の回復や,新たな軍勢の帰属ができる。「信玄上洛」では,軍勢はすべて2ヒットポイントを有しており,トータルで2ダメージを受けると軍勢は消滅してしまう。だが,1ダメージを受けた状態の軍勢であれば,このフェイズに回復を試みることが可能になっている。
ダメージを受けた軍勢は,その軍勢の出身地(軍勢ごとに出身地が書かれている)でなければ回復ができない。またダメージを回復させるには,軍勢を担当する武将がその領地にいなくてはならない。
帰属は回復とは異なり,「新たに軍勢を雇う」行動である。これもまた,帰属をしたい領地に自分の武将がいなくてはならないが,帰属に成功すると,その領地に新たに軍勢が発生する。1つの領地で帰属させられる軍勢の最大値は2で,マップ上,新たな帰属が可能な領地には緑色の丸印が表示されるため,そういった土地には武将を送り込んでおきたい。
武将と軍勢は,かなり大胆な移動が可能で,基本的に自領内であれば,好きな場所に好きな武将や軍勢を配置できる(操作は武将や軍勢をクリックして,移動させたい領地にドラッグ&ドロップ)。ただし,これにはいくつかルールがあり,武将は1つの領地に3人まで,また領地には最低でも軍勢が1ついなくてはならない。
敵国に攻め込む場合は,その敵国の隣にある自国領からの移動でなくてはならず,自国領の奥深くから,一気に敵国へと攻めこむことはできない。これは軍勢にも,武将にも適用されるルールである。
なお,帰属/回復を行った武将は,そのターンは移動できなくなるので,注意が必要だ。
領地に煙のようなアイコンが出ている場合,「その領地に誰かが攻めこむ可能性がある」ということになる。誰かが攻撃してくるかどうかについては運が絡むので,結局敵は来なかったということも起きるが,原則として対応しておいたほうがいいだろう。
合戦が始まると,まずは防御側の山岳兵(弓兵)と鉄砲兵が攻撃を行う。続いて攻撃側の軍勢が攻撃を行い,その後,防御側の軍勢が反撃を行う(都合,防御側の鉄砲は2回攻撃することになる)。片方の軍勢がいなくなっても,まだもう片方の軍勢が残っている場合,残った軍勢は敵軍の武将(いればだが)に対して攻撃を行う。
すべての軍勢が攻撃を行うと,合戦は終了する。攻撃側が防御側を完全に撃破できなかった場合,攻撃側の被害次第では強制的に撤退しなくてはならなくなる。また,敵を撃破したなら,騎馬の軍勢は「二次移動」として隣接する敵の領地に進撃が可能となる。
全体的にルールはこのようにシンプルにまとまっており,人材や財政のマネジメントをするゲームというよりは,どのように敵国に攻め込んでいくかを考える,合戦重視のゲームになっている。シナリオのターン制限はかなり厳しいため,勝利条件を満たすためにはどうしても運が絡む。幸い,ゲームの途中でセーブが可能なので,理想的な展開をしているときはセーブを欠かさないようにしよう。
シナリオは9本。すべてクリアできるか?
以下に,付属のシナリオ9本の解説画面を並べた。
ゲームを始めたばかりなら,「西上作戦」をプレイするといいだろう。このシナリオは,ほぼチュートリアルと言える内容で,範囲も一番狭い。
西上作戦をプレイしたら,その次はシナリオ2の「長篠決戦」か,メインディッシュであるシナリオ3「信玄上洛」に挑もう。
「自分はあまり武田家に思い入れがないので」という場合は,シナリオ6「謙信上洛」(プレイヤーは上杉謙信)か,シナリオ7「叡山焼討」(プレイヤーは織田信長)をオススメしたい。
西上作戦 | 長篠決戦 | 信玄上洛 |
御旗楯無 | 上洛でおじゃる | 謙信上洛 |
叡山焼討 | 戦国婆娑羅 | 関東管領 |
信玄上洛シナリオエディタで遊んでみた
前者は非常に分かりやすい。既存の武将の能力値を変更できるほか,新たな武将を登録することも可能で,「なぜこの武将がいないのか!」という問題はもちろん,「この武将の能力がコレなのは納得いかない!」という問題も万事解決できる。
それに比べると,後者はかなり複雑だ。シナリオの勝利条件や武将の配置,各勢力の占領地の設定などは操作しているうちに理解できると思うが,CPUの振る舞いを決めるスクリプトは文字どおり簡単なスクリプト言語になっており,ちょっとした覚悟が必要になる。
とりあえずスクリプトについては「裏マニュアル」という形でサイフォンからマニュアルが発表されているが,まったくコンピュータ言語に触れた経験がないとなると,いささかハードルが高く感じられるだろう。
だが,このスクリプトを扱えるようになれば,シナリオの設定を細部まで詰めることが可能なわけで,このあたりは「ハーツ オブ アイアンII」でシナリオMODを自作したことがある人なら興味をそそられるかもしれない。
さて,スクリプトはともかく,武将のデータと初期配置をいじる程度であれば,操作は簡単だ。以下,実際に「どこかで見たような感じの武将(?)達が,当主がいなくなった武田家を乗っ取った」的な状況を作ってみた。
「信玄上洛」公式サイト,シナリオエディタ紹介ページ
シナリオエディタの可能性
「信玄上洛」は,プレイしていて「あまりにも運の要素が強すぎるのではないか」と思う局面も少なくない。とくに規模の小さいシナリオほどその傾向が強く,チュートリアルを兼ねた「西上作戦」の勝敗は相当,運に支配されていると言っていいだろう。
だが,大規模なシナリオでは局地的な運よりも,全体的な戦略のほうが,より重要になってくる。勝利条件の達成に向けて猪突猛進すると,相当運が良くても勝てないことが多いが,外交関係や「どこから攻め落としておくか」を考えたプレイを心がければ,ダイスに左右される部分はだいぶ減る(それでもやはり,運が絡むのだが)。
現状のPC版は,Windowsのバージョンなどによってグラフィックス関係で不具合が発生することもあるらしく,筆者のPCでも,合戦でユニットが表示されないといった表示上の問題が発生した(内部処理は問題なく機能している)。これらの技術的な問題は,今後のパッチやサポートに期待したいところだが,少なくとも,シナリオの途中でゲームが不正終了することは,筆者がプレイする範囲においてはなかった(モバイル版も相当プレイしたが,不正終了に遭遇したことはない)。
そんなことは当たり前だと言われそうだが,まあその,世の中には「セーブしていなかったほうが悪い」と言われる世界もあるので……。
ゲームの全般について言えば,UIや演出などには改善の余地があると言わざるを得ず,「なぜこのユニットが移動できないのか」といった点についても,いま一つ直感的とは言いがたい。
ゲームバランスに関しては,前述のとおり,なにかと運の要素が強い。現在のところ,実力がほぼ対等な勢力が正面きっての戦争を始めると,確率論上,勝負はまず決しない。1回の合戦で敵軍に与えられる最大ダメージは,鉄砲という例外を除けば,攻め込んだユニットの数に等しい。一方,ユニットは基本的に2ヒットポイントを有するので,同じ数のユニットが守る領地に攻め込めば,1回の合戦における最高の結果は「相手の戦力が半減」に留まる――実際には敵戦力の25%を減らせれば御の字というところか。
このように領地(=動員可能な軍隊の数を決める)と武将(=全滅したユニットの再雇用ができる)が十分にある勢力同士が戦うと,よほどダイスの目が偏らない限り,消耗よりも回復のほうが,双方ともに早くなる。結果としてそういう合戦は,自発的に撤退するか,撤退判定で強制的な撤退が発生するまで,ほぼ半永久的に続く。
本作は「特定のターンの間に目的を達成するゲーム」なので,そもそも千日手に陥るような戦略を取ってはならないということは間違いないが,しかし,これはこれでちょっと違う気がしないでもない。
だが,そういった不満のいくつかは,エディタで武将のパラメータを変更することにより解消可能だ。簡単に言って,武将の戦力値を全体的に+1すると,もはや別のゲームと言えるくらいに,合戦はすさまじい消耗戦に変わる(無論,一概にこれが良いわけではない,というか全部+1するのは明らかにやりすぎ)。
消耗が早過ぎるのであれば,武将の数を水増しして,回復速度も全体的に高めることができる。このあたり,「俺のほうが面白いゲームを作れる」という欲求を存分に果たすことができるので,いじりがいがある。
エディタに関する最大の要望は,やはり「日本全体の地図がほしい」ということだろうか。これは当然,日本全土を使った大騒乱をシナリオにしたい向きもいるだろうということだが,例えば四国や九州だけを使用することにして,その地域の統一をシナリオ化したい人は多いのではないかとも思うからだ。武将データやシナリオの設定は現状でも操作可能だが,マップばかりはデベロッパに頼るしかない状態なので,将来的な展望として期待したい。
今は優れたゲームエンジンが無料で使用でき,また扱いやすい高級言語も無数に存在する(こちらも,しばしば無料)が,どちらも「ちょっとゲームを作ってみたい」と思っても,すぐに作れるほど簡単ではない。そんな中,「信玄上洛」のシナリオエディタは,手軽に「ゲーム作り」を体験できる,良い題材と言えそうだ。
ゲームにエディタを付属させるのは,とくに日本においてはなかなか難しい状況にあると聞く。過去,こういったエディタを販売したところ,「ネットからダウンロードしたシナリオを読み込んだが動かない,どうなっているのか」といった苦情がデベロッパのもとに殺到する事例があっりしたからだ(現代でも,「スマートフォンのアプリが動かない」という苦情が,携帯電話のキャリアに対して殺到することがあるという)。
それを考えると,今回のサイフォンの決断は,勇気あるものだと言えるだろう。ゲームの完成度にはもの申したい部分もあるが,まずは自分で(あるいはネットの集合知を駆使して)その不満に立ち向かえる環境があるのは,ゲームを遊ぶ側にとって大変にありがたいことだ。「信玄上洛」のシナリオエディタが,日本において「開かれたゲーム」が作られていく一歩になることを期待したい。
「信玄上洛デジタルアプリ版 for Win」公式サイト
- 関連タイトル:
信玄上洛デジタルアプリ版 for Win
- この記事のURL:
(C)Si-phon