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立体視コンテンツ花盛り。韓国LGのPRイベント「3D World Festival」で,ちょっと未来のテレビを見学してきた
観光地としても有名なのでご存じの方も少なくないだろうが,ロッテワールドは総合デパートに遊園地を合体させた,韓国最大級の屋内テーマパークだ。デパートでのショッピングから始まって,観覧車やジェットコースターなどが設けられた遊園地のエリアへと続いており,パレードなども楽しむことができるという珍しいスポットとなっている。
ロッテワールドの中央部分には巨大な吹き抜けがあり,その最深部となる地下3階には,アイスリンク(アイススケート場)が設けられている。このアイスリンクの全面にカーペットを敷き詰め,大量のパーテーションや機材を持ち込んでイベント会場に仕立て上げてしまったというのだから,イベントとしては相当な力の入れ具合といえるだろう。
立体視というと,日本ではブームが過ぎ去った感があるものの,韓国ではまだまだ注目の技術とのことで,それを大々的にアピールしたいというLG Electronicsの思惑もあるのだろう。実際に韓国では,ネットワーク接続に対応した多機能テレビであるSmart TVがかなりの普及を見せており,その多くが立体視にも対応しているという。テレビリモコンを使って立体視対応ゲームが楽しめたりと,日本とはかなり事情が異なっているようだ。
ゲームと直接的には関係がないものの,お隣の国のテレビ事情というのは,ちょっと気になるのも確かだろう。本稿では,その中からゲームにまつわる部分を中心にレポートしていこう。
「3D World Festival」公式サイト(韓国語)
立体視で観る「StarCraft II:Heart of the Sworm」エキシビションマッチ
前述のSmart TV向けゲームをはじめ,PCオンラインゲームにコンシューマゲーム,最新映画,プロモーション用動画,アニメーションなどなど,立体視にまつわるコンテンツが満載となっていたイベント会場。もちろん,各ディスプレイの出力映像は立体視版となっており,来場は入場時に手渡された偏光方式のグラスを通し,老若男女の誰もが,ちょっとした非日常を楽しめる空間となっていた。
そんな中,最も大きく扱われていたコンテンツといえば,PCゲームの「StarCraft II: Heart of the Swarm」(PC / Mac,以下SC2)だ。メインステージでは,プロゲーマーらによるエキシビションマッチなどが行われていて,道行く人の多くが足を止め,その戦いの行く末を見守っていた。マス層向けPRイベントであるにもかかわらず,同作が大きく扱われるあたり,さすがプロゲーマーの国,韓国といったところだろう。日本人にとっては,「SC2がここまで大きく扱われること」にまず不思議を感じてしまうが,それがさらに立体視表示なのだから,インパクト大である。
筆者もしばらく観戦してみたが,よく見ると各ユニットやオブジェクトなど,それぞれ3Dの深度が違っているのが面白い。例えばColossusのような背が高い巨大ユニットは,より力強さを感じるし,一方で小型ユニット――たとえば無数のZerglingによるラッシュのうじゃうじゃ感も,立体視により一際増しているように感じる。なんというか心底キモくて(いい意味で),司会者が画面を拡大させる際など,立体視での視聴中は思わず目を見開いてしまうほどだ。
エキシビションマッチの観戦後,筆者もBlizzardのブースで立体視版のSC2を体験してみた。プレイヤーとして改めて立体視版を評価してみると,確かに迫力は感じるものの,例えばリソースの数値などの細かい部分を瞬時に確認するのは,立体視環境では少々ツラい。SC2のプロゲーマーや一般来場客達にも尋ねてみたところ,少なくとも同作のような競技性の高いタイトルを,立体視環境で普段からプレイしている人は,現状そう多くはいないようで,プレイ環境に徹底的にこだわるゲーマーにとっては,立体視の明確なアドバンテージというのは,やはりあまりないということなのだろう。
ただプレイヤーとしてはともかく,“観客”の視点で俯瞰する分には,立体視が効果的に機能しているのは確か。今回のエキシビションマッチのような大規模試合では,選手とは別に実況解説者がObserver用のアカウントで試合に接続し,それを映像出力するものなので,これを立体視で表示するのは,イベントの演出の一つの方向性としてアリかもしれない。競技性の高いSC2ですら,こういった視聴方法が現実的な選択肢として考えられるほどなのだから,韓国内における立体視の普及具合は,日本とはかなり開きがあるようだ。
ちなみに今回のイベントで装着した偏光方式のグラスは,電気式駆動構造を持たないなど,シャッターグラス方式と比べて軽く,装着時の負担が少ない。眼鏡の上にクリップで装着できるほど軽いモデルもあり,会場内でさまざまな立体視コンテンツを眺めながら散策するのは,なかなか素敵な体験だった。
LG Electronicsが考える,近未来のテレビとは
その点,韓国の状況は大分違っており,両国の立体視に対する温度差はなかなか興味深い。LG ElectronicsがCINEMA 3Dで推進しているのが,シャッターグラス方式ではなく偏光グラス方式というのもあるだろうが,それ以上に大きな要因といえるのが,ハードではなくソフトウェア,すなわち立体視コンテンツを取り巻く環境の違いだ。
日本では,例えば映画やブルーレイなどにおいて立体視対応版は(通常と比べて)割高に設定されていることが多い。撮影機材など,制作費が余計にかさむので仕方はないものの,消費者としてはハードルを感じる部分ではある。
しかし韓国では立体視を推進するLG Electronicsが,コンテンツ制作会社に撮影機材の支援などを行っており,最終コンテンツの通常版と立体視版は,ほぼ同額で提供されているという。また,各社でアライアンスを結成して共通規格を作り上げ,立体視コンテンツを作りやすい環境を構築しているとのこと。そのうえで,今回で3度目を数える「3D World Festival」などを開催し,マス層への浸透に努めているのだそうだ。
日本でもテレビなどディスプレイ周りの最新技術が話題になることはあるが,例えば4K2Kに関しても,技術ばかりが先行し,肝心のコンテンツの足並みが伴っていない印象がある。同じ技術であっても,広くマス層にアピールするのに何が必要かをちゃんと考えているあたり,LG Electronicsの方向性は,より長期的な戦略に基づいている印象を受けた。
偏光方式による立体視は,その構造上,上下の視野角が狭いなどの弱点があるものの,重さや価格の面はシャッターグラス方式よりも優れている。今後4K2K対応の次世代ディスプレイが普及価格帯まで降りてくることになれば,日本でまた立体視ブームが再燃することも,ないとはいえない。
多機能なSmart TVが日本で受け入れられるかはともかく,ディスプレイ周りの技術進歩はゲーマーにとっても見逃せない話だ。ゲームを含む映像コンテンツの今後を占う意味で,今後も注目しておきたい分野なのは間違いないだろう。
「3D World Festival」公式サイト(韓国語)
- 関連タイトル:
StarCraft II: Heart of the Swarm
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