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KPIやマネタイズを考えず,ソーシャルゲームも作らない。ガンホー独自の哲学が語られた「エンタテインメントの未来を考える会 黒川塾(参)」の模様をレポート
「Gungho(突撃) NIGHT!」と題された今回は「Gungho(突撃) NIGHT!」と題され,「ラグナロクオデッセイ」や「パズル&ドラゴンズ」などでヒットを飛ばすガンホー・オンライン・エンターテイメントのビジョンに迫るものとなっていた。本稿では,その模様をレポートしたい。
トークイベントには,ガンホーの社長である森下一喜氏や,同社でパズドラの開発を手がけた山本大介氏,そしてシークレットゲストとして,スクウェア・エニックスで数多くのタイトルに携わり,現在はガンホーの顧問を務める田中弘道氏が登壇した。
聞き手は,黒川氏と共にグラスホッパー・マニファクチュアの飯田和敏氏が務めたが,飯田氏は東京ゲームショウ2012でのトークセッション(関連記事)で,山本氏とともに登壇したという縁があってのことだそうだ。
メディアコンテンツ研究家
・黒川文雄氏
ガンホー・オンライン・エンターテイメント 代表取締役社長CEO 兼 企画開発部門統括 エグゼクティブプロデューサー
・森下一喜氏
ガンホー・オンライン・エンターテイメント 執行役員
第1企画開発本部 パズドラスタジオ プロデューサー
・山本大介氏
ガンホー・オンライン・エンターテイメント 顧問
・田中弘道氏
ゲームクリエイター
・飯田和敏氏
「すごく面白い」を追求する開発と,
10年培った「神運営」のノウハウ
こうした体制に移るまでの経緯を聞かれた森下氏は,「ラグナロクオンライン」(以下,RO)の成功で会社が急成長して以来,開発やパブリッシングについては現場に任せ,自身は経営者としての仕事に専念していったと切り出した。ところが,予算や期間が優先されるあまり「駄作が目立つようになってきた」と述べた。
そのため,一念発起して現在のような開発体制をとることになり,今ではタイトルの完成度を高めるためにリリースを1〜2か月遅らせることも多いという。また,山本氏や田中氏についても,人事を一切通さず,森下氏一人で面接を行って採用を決めたそうだ。
森下氏に「一本釣り」された形でガンホーに入社した山本氏だが,ガンホーに入って良かったと感じた点として,KPI(Key Performance Indicators=重要業績評価指標)やマネタイズなどを一切考えずに開発できることを挙げた。オンラインゲーム,とくにソーシャルゲームにおいてはKPIを重視した開発や運営が行われることが多いが,山本氏は「ゲームの開発にとって,あれは邪魔にしかならない」と述べ,パズドラはそういった考え方とは一線を画した作り方をしたと強調した。
森下氏もそれに同意して「うちではKPIとかマネタイズという言葉は使わせない」と述べ,ソーシャルゲームについても「うちは作らない」と断言。理由としては,「単なるあまのじゃくなだけ」と言いつつも,「これから先,何十年もゲームをずっと作り続けていきたいので,ゲーム性を楽しんでもらえる作品作りを心がけている」と続けた。
こうしたガンホーの現況について飯田氏は,前回の黒川塾でも語られたように「PlayStationの黎明期に近い熱量を感じている」と語る。
飯田氏の「面白いものを作ってやるぞ,という気持ちはどこから来るのか,源を知りたい」という質問を受けた森下氏は,「僕はもともと,漫才師を目指していたことがある」と意外な過去を明かした。現在の仕事とはかなり異なる分野だが,人を楽しませることが好きである,という根底の部分は共通しているわけだ。
ただし,売れるか売れないかについては「運だと思っている」と森下氏は率直に述べた。パズドラの場合,ユーザー間のバイラル(口コミ)で大きく成長したタイトルであり,それ以前に,どういった層にどのように広がっていくかを考えたことはない,と山本氏は語る。パズドラは2012年2月にiOS版がリリースされているが,5月頃まではこれといったプロモーションも行っていなかったそうだ。
その一方,サポート体制(トラブルが起きた際には「魔法石」を配布するなどの,いわゆる「神運営」)については最初から意図していたと山本氏は述べた。ガンホーはROで10年の運営経験があるため,カスタマーサポートが非常に強力なのだという。
もっとも,(ROを初期から遊んでいた人ならばよくご存じだろうが)10年前には成功モデルは存在しておらず,試行錯誤しながらの運営だった,と森下氏は振り返った。森下氏は,「これが正解です」というものを持っているわけではなく,地道な活動や努力の積み重ねを10年間続けてきたのだと語る。
山本氏によれば,2012年の5月か6月頃に「ぐんまのやぼう」の作者であるRucKyGAMES氏とイベントで出会い「一緒に何かやりたい」と話したことがきっかけだったという。
9月上旬に山本氏の手が空いたので,RucKyGAMES氏と打ち合わせを行い,そこからなんと1か月足らずのうちにコラボレーションイベントを実現させるに至ったという話であり,このスピードには飯田氏や黒川氏も驚いていた。コラボレーションについては森下氏に相談することなく行われたそうだが,森下氏は「運営に関しては,ノリノリでやればいい」とし,もし何か失敗があったとしても「それを一つの糧にしてやっていけばいいのではないか」と述べた。
創業10周年記念にサンバカーニバルに参加する
「面白い会社」
ガンホーの社風について象徴的なエピソードといえば,8月に行われた「浅草サンバカーニバル」に,創業10周年を迎えたガンホーが,それを記念して社を挙げて参加したことだろう。これは森下氏の発案で,森下氏や山本氏も自らコスチュームを身に付け,踊りに踊ったそうだ。
現在のガンホーについて,田中氏はかつてのスクウェア(現・スクウェア・エニックス)を例に挙げ,「FFVやVIを作っていた頃の勢いに似た感じがあって,懐かしい」と述べた。
ちなみに,森下氏はガンホー創業15周年イベントの内容もすでに決めており,社員にも伝えているそうだ。今回のトークでその詳細は明かされなかったが,社内で発表した際には,全員が「ドン引き」したとのこと。5年後が楽しみだ。
では,今後のガンホーはどのように開発を続けていくのか。それについて森下氏は,「開発方針は今後も変えるつもりはない」と述べつつも,企画の最初から最後まで自身が監修し続けるという体制は「問題だな,と思ってはいる」とした。現在の森下氏は,こうしたら面白くなる,といったひらめきが「降りてくる」ことが多い状態にあり,「それが続く限りはやろうかな,と思っている。降りてこなくなったら,もう潮時」と述べ,それまでにクリエイティブジャッジを下せる人が出てくればいいと考えているそうだ。
株式公開をしている会社の社長でありながら,自ら陣頭に立って開発を指揮する。そこまでやっている社長はほかにいないのでは,と黒川氏が質問すると,山本氏も「ほかに知らない」と同意。田中氏も「(森下氏は)経営とかには全然向いてないような気がする」と冗談を交えながらも「結果が付いてきているからこそ,できること」とその手腕を評価した。
田中氏によると,ガンホーの顧問という役職に就いてはいるものの,あくまでフリーランスのクリエイターという立場であるそうだ。現在は,森下氏との間で1回目の企画提案を進めている最中だという。まだ企画段階だが,「せっかくガンホーという新しいところで新しいことをできるので,今までにないようなオンラインゲームを作りたい」と,構想を練っているそうだ。
ちなみに,これまで田中氏は,プロジェクトに集まったメンバーを見て「このアートディレクターだったらこんな世界観で,こんなプログラマーだったらこんなシステムで」といった発想で,仕様書をいきなり書き始めるという作り方をしていたそうだ。そのため企画書を書いた経験がほとんどなく,田中氏が書いた企画書について森下氏は「想像以上に雑でしたね」と笑いながらコメントしていた。
最後に黒川氏は,「新しいエンターテイメント」のあり方や,それを作ろうとしている人達へのメッセージをゲストに求めた。
それに対して,まず山本氏は「今のソーシャルカードゲームの,コピーだらけの市場が好きじゃない」と述べた。ソーシャルゲームに対して,ゲームを遊ばない人達がゲームに触れるきっかけを作ったことや,市場を大きくしたという功績は評価しつつも,現在は「市場が消費されてしまっている感がある」と指摘。そして,「ゲームは天職だと思っているので,5年後10年後もゲームで食べていけるために,一緒にゲーム業界を盛り上げていけるような人達と,今後もやっていけたらいいと思っている」と結んだ。
田中氏は「ゲーム業界全体のために貢献したい」と考えており,ガンホーでも若いクリエイター達の手助けに自らがなることを視野に入れているという。
田中氏について,森下氏は「開発の中で,技術的な部分をいろいろとサポートしてくれる人が必要だった」と述べており,現在は森下氏と田中氏と成田 賢氏の3人で開発フェイズを管理しているそうだ。
最後に森下氏は,自分達のリリースしたタイトルが評価されている状況について「正直言って,楽しくて仕方ない」。さらに,自身のエグゼクティブプロデューサーという立場を,AKB48における秋元 康さんにたとえて「例えばパズドラが『ヘビーローテーション』であり,山本大介が大島優子――とはまったく似てないが(笑)。作品と人の両方をヒットさせたいと思う」と今後の展望を述べて,イベントを締めくくった。
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