インタビュー
KONAMIの新作「BLADES of TIME」インタビュー。ロシア発の尖ったアクションを日本展開するために,藤井隆之プロデューサーが振った手腕とは
2009年にユービーアイソフトから発売された「Xブレード」の流れを汲む本作だが,前作に見られた“日本のアニメに寄った表現”は和らげられ,欧米を意識したリアルなグラフィックスの作品へと変貌を遂げた。主人公のアユミも頭身が上がり,もはや別人のような姿になっているが,彼女の日本語版ボイスを再び声優の釘宮理恵さんが演じるなど,前作を想起させる点も少なからず見いだせる。
そんな作品を,今回日本に向けてパブリッシュするのはKONAMIである。そこで4Gamerは,同社で主にライセンスインの業務を手がけ,BLADES of TIMEではワールドワイドパブリッシングプロデュース業務に加え,ローカライズを統括したプロデューサーの藤井隆之氏に,作品の魅力と,“ローカライズ”という業務について聞いてきた。
BLADES of TIMEはアピールポイントを説明するのが難しい?
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
まずは,BLADES of TIMEという作品の概要を教えてください。
ゲームシステムそのものは,「Xブレード」とほぼ同じで,“ハック&スラッシュ”と言われるものですね。
主人公も前作に続いてアユミという女性ですが,世界観やほかのキャラクターに繋がりはありませんので,続編というよりは新作タイトルとしてこの作品に接していただけると嬉しいです。
4Gamer:
テンポの早い戦闘の中で,剣や銃を切り替えながら戦っていくシーンを見ると,かなりの練習が必要なゲームなのかなと思うのですが……。
藤井氏:
難度は正直,高めですね。
4Gamer:
やはりそうですよね。私はTGS 2011で体験させていただいたのですが,とくに「タイムリワインド」の使い方を理解するのに苦労しました。
藤井氏:
あれは難しいと思います(笑)。
実は僕らも,このゲームのポイントとしてタイムリワインドを推していきたいんですが,言葉で説明するのがとにかく難しいシステムなんですよ。
4Gamer:
イメージとしては巻き戻しと再生なのですが,それだけでは十分に意味を伝えられないんですよね。
藤井氏:
ええ。文面では「やり直しができるアクションゲーム」というふうに伝わりがちですが,実際はそうではありません。やっている本人は,何をしているか分かっているんですけど,周りで見ている人には理解しづらいという,売り方の難しいゲームですね……。
4Gamer:
確かに(笑)。
ただ,タイムリワインドをうまく使えたときに得られる気持ちよさは,本作ならではと感じました。
藤井氏:
そういってもらえると嬉しいですね。
……実はGaijinさんと話していたとき,このシステムのことは開発の中盤まで話題にすら上がらなかったんですよ。僕がモスクワに行ってプレビューさせていただいたときには,「華がない」「どう売っていくか」と悩んでしまったんです。そこでいろいろと考えていたときに,「そういえば,仕様書に面白いシステムがあったな……」とチームがラフにしか詰めていなかった新たな仕様を思い出し,急きょタイムリワインドについて詰め始めたんです。
4Gamer:
ということは,元々このゲームでタイムリワインドはさほど重視されていなかったんですか?
藤井氏:
いちおう仕様書に二行くらい書かれてはいました。Gaijinさんのアイデアには最初からあったらしいのですが,ずっと置き去りにされていたんですよ。なので,「じゃあそれをやってみよう」ということになりました。最初はなかなかうまくいきませんでしたが,何度もトライ&エラーを繰り返して,ようやく今の形になったんです。
4Gamer:
コツを掴めば,非常に味わい深いシステムだなと思えるようになってきますよね。
藤井氏:
ありがとうございます。初めてプレイアブルで公開したE3はクローズドイベントで来場者が限られていましたから,マンツーマンで操作方法を手ほどきしながらプレイしていただいて,その感覚を直に味わっていただけたと思います。ただ,残念ながらTGS 2011では一般来場者の方にいきなり触っていただく形でしたから,よく分からずに困惑した方もいらっしゃったようです。その点は申しわけなかったと思っています。
せっかくなので今回は,タイムリワインドを使いながら戦っているシーンをお見せしますよ。
タイムリワインドを発動すると,“今のアユミ”以外のすべての時間が巻き戻る。巻き戻せる時間の長さに限界はあるものの,該当ボタンを押す長さによって調節が可能だ。そして,ボタンを離すと時間の“再生”が始まり,同時に実体を持った“過去のアユミ”も生み出される。たとえば戦闘中ならば,モンスターは過去のアユミと戦っているため,“今のアユミ”には見向きもしない。これを利用して相手の背後に回ったり,距離を詰めたりできる。
ちなみに,タイムリワインドを使っている“過去のアユミ”を,タイムリワインドで再生することもできる。要するにタイムリワインドを重ねることで,“過去のアユミ”を複数体同時に存在させることも可能になるわけだ。
4Gamer:
パッと見るとアユミの分身を出しているようですが,実際は時間を巻き戻していて,今のアユミだけがその影響を受けずに動けているということなんですね。……ところで,タイトル画面に「マルチプレイ」という項目が見えたんですが。
藤井氏:
あ,見えましたか?(笑)
もう言ってしまってもいいですかね。実は,Co-opと対戦の二つでマルチプレイを楽しめるようになっています。ただ,どちらもシングルプレイとは別の専用モードという位置づけです。
4Gamer:
マルチプレイでもタイムリワインドは使えるんですか?
藤井氏:
使えません(笑)。技術的に入れることは可能なんですけど,Co-opも対戦もみんなでタイムリワインドを使い始めたらキリがなくなっちゃいますし,プレイヤー側もわけが分からなくなってしまうと思うんです。なので,マルチプレイはアユミやほかのキャラクターを使って戦う感じの,比較的オーソドックスなモードになっていますね。ただ,シングルプレイを一通り遊んだあとでも楽しめるように,やり込み要素は満載になっていますので,ご期待ください。
4Gamer:
とすると,ひょっとしたらシングルプレイでも,ほかのキャラクターを使う機会があるんですか?
藤井氏:
いえ,ストーリーはアユミ以外使えません。……どんな姿でもアユミはアユミかな?
4Gamer:
何か秘密が隠されているんですか?
藤井氏:
そこはまだ内緒です(笑)。
共通点は多いのにあえて“続編”と言い切らない理由
4Gamer:
アユミは,釘宮理恵さんがキャラクターボイスを担当していますが,収録時の様子はいかがでしたか?
藤井氏:
楽しんでやっていただけたと思いますよ。グラフィックスが向上したおかげで,キャラクターの表情も増えて感情表現も豊かになりましたし,カットシーンの量も増えていますからね。演技しやすかったんじゃないかなと。
4Gamer:
釘宮さんの演技の見どころは……?
藤井氏:
途中でガイド役の“燃えた”お姉ちゃんが出てくるんですが,それも釘宮さんが演じてくれています。つまり2つのキャラクターを演じる釘宮さんが一度に味わえるわけです。
4Gamer:
会話はカットシーン限定なんでしょうか。
藤井氏:
いえ,そういうわけではありません。たとえば最近のオープンワールドタイプの欧米タイトルは,いちいちテキストボックスが表示されないですよね。キャラクターがてけてけ歩きながら,つらつらとしゃべり続けています。BLADES of TIMEもそういうタイプですね。
4Gamer:
ということは,プレイ中は釘宮さんのボイスをずっと聞いていられるんですか。
藤井氏:
ええ。本当にずっと釘宮さんがしゃべってくれますから,ファンにはたまらないでしょう。ちなみに僕は海外のゲームをずっと担当しているので,チュートリアルのテキストなんかがとにかく煩わしく感じるんです。「いいからもっとボタン押させてくれ」って。BLADES of TIMEはそういうストレスがほとんどないのもいいですね。
4Gamer:
でも,さきほどカットシーンは増えているとおっしゃっていましたよね。そうなると,むしろテンポはゆっくりになるような気がしますが。
藤井氏:
カットシーンの会話は,読めばより物語を深く理解できるというだけで,すべて読まなければさっぱり分からない,というような強制的なものはありません。アユミが歩きながらしゃべってくれますから,スキップしてさっさと前に進んでもいいんですよ。
4Gamer:
アクションを楽しみながらでも,自然とストーリーが頭に入ってくるイメージですね。
それにしても,アユミという共通の主人公を引き続き釘宮さんが演じているなど,共通点があるにも関わらず,この作品はXブレードの続編という打ち出し方をあまりしていませんよね。その理由を教えてください。
藤井氏:
それは,開発元であるGaijin Entertainmentが「続編というアピールは受け入れられるのか?」と疑問に思っているところが大きいんです。確かにタイトルに“BLADES”が付き,アユミという共通の主人公はいます。ですが,これらはこの作品をフランチャイズとして成長させていきたいという彼らの意思の表れなんです。
4Gamer:
それは,ワールドワイドに通用するコンテンツとして,ですか?
藤井氏:
ええ。たとえば日本だけをターゲットにしているのであれば,アユミはもう少し“萌えて”いたと思います(笑)。ただ,Xブレードは,日本のアニメへのリスペクトから生まれた作品ですが,あれが日本人のストライクゾーンに入っているのかと言われると,ちょっと違ったんじゃないかと思うんです。同じように、BLADES of TIMEもプロトタイプは萌えだったんですが,やはり「これを日本人が見て萌えるか……?」と,僕は疑問でした。
4Gamer:
外国人から見た“萌え”と日本人の思う“萌え”は,違う部分がありますからね。
藤井氏:
KONAMIは日本の企業ですから,こちらで用意したイラストレーターやモデラーを使えば,BLADES of TIMEに日本の萌えのエッセンスを入れることは可能です。ただ,Gaijinさんはデベロッパで,あくまでもKONAMIはパブリッシュする立場ですから,たとえば次回作があったときに,また一緒にお仕事できるかどうかは分かりません。仮に離れてしまったら,ロシア人の彼らが,同じようにイラストレーターやモデラーを手配するのは難しいでしょう。
4Gamer:
そうすると,フランチャイズとして絵柄を維持していくのは難しくなりますね。
藤井氏:
はい。ですから,Gaijinさんとは,「あなた達は最終的に自分の足で立たなければいけないけれど,そのときにどこを狙っていくのか」という話をしました。
彼らとしては,やっぱり欧米を中心に狙っていきたいそうなんです。それなら,Gaijinさんが欧米で受け入れられると思うモデルをGaijinさん自身の手で作らないと,フランチャイズは成功しません。これからもシリーズを続けていくなら,自分達で成長させて独自のIPを持ったほうがいいんですよね。そして,こうしたやりとりを経て,BLADES of TIMESは今の形として生まれてきたんですよ。
4Gamer:
つまり,Gaijin Entertainmentが広く世界に打って出るためには,彼ら自身の力を伸ばさなければいけないと。
藤井氏:
ええ。だからこそ,ジャパンドメスティックな匂いを出すより,ちゃんとアクションゲームとして評価されるところから始めたほうがいいだろうという話もしました。
ビジネスライクなつきあいだけじゃないKONAMIとGaijin Entertainmentの関係
4Gamer:
ちなみに,KONAMIさんがこのタイトルについてGaijinさんと話し始めたのは,いつ頃からですか?
藤井氏:
2年前,2009年のE3のときからですね。僕のやっているライセンスインという業務は,基本的に海外で出ているものを日本に持ってくるのが仕事です。たとえばTHQさんの「DARKSIDERS 〜審判の時〜」などが代表的なものになりますね。こういうビジネスをもっとちゃんとやっていこう,という話がやはり2年ほど前から社内で出ていまして,デベロッパをE3やTGS,GDCで探していた折に,彼らと出会ったんです。
4Gamer:
BLADES of TIMEを選んだ理由というのは?
作品性はもちろんですが,資金的要因や投入時期,そして信用などを吟味して,BLADES of TIMEを選びました。ほかにも候補になるデベロッパやタイトルはたくさんあったんですけど。
4Gamer:
一部のビッグタイトルを除いて,海外のゲームはまだまだ日本で展開するのは厳しい状態ですよね。にも関わらずBLADES of TIMEを選んだということは,そこに何かしらの勝算を見たのだろうと思いますが。
藤井氏:
当然,ビジネスですのでKONAMIとして黒字になる目算があるからこそですよ。あとは,デベロッパが何を望んでいるか,そしてデベロッパがKONAMIと組むことでどんな相乗効果が生まれるのか,というのを判断材料にしています。
実は今,彼らが一体何を必要としているかといえば,それは知名度なんです。スタジオとしての知名度を上げたいというのが,彼らの一番の思いなわけですからね。KONAMIは,それに対して協力しましょうというスタンスになります。
4Gamer:
つまり商業的な部分をベースにしつつ,それ以外のところでも両者の利害が一致したからこそ,契約に至ったというわけですね。
日本と海外,文化の違いから生じる“重さ”への考え方のズレ
4Gamer:
藤井さんから見てそんなBLADES of TIMEの“アクションゲームとしての出来”は,いかがですか?
藤井氏:
Gaijinさんは,グラフィックスや物理演算といった,ミドルウェア的な部分はすごく上手で,西洋の世界観にマッチした背景の作り方や,マップのレベルデザインは本当に優れていると思います。ただ,これはロシアのGaijinさんだけでなく,ゲーム開発の歴史が浅い東欧の作品全般に当てはまることですが,ゲームの面白さやキモの部分に“複製”っぽさが見えたりもするんです。
4Gamer:
複製っぽさ,ですか。
藤井氏:
最近は,スウェーデンやチェコなどにもデベロッパが増えてきていますが,本当に面白いモノを作っているところは,欧米の巨大なパブリッシャで実績を積んだ人材がキーパーソンとして入り,現地のチームを動かすという体制をとっているケースも少なくないと聞いています。そうやって,徐々に技術を伝えている最中なんですね。
ですから,僕達もアクションゲームのキモみたいな部分については,Gaijinさんのお手伝いをしています。
4Gamer:
具体的には,どんなことを手伝っているんですか?
藤井氏:
たとえば「格好いいモーションってなんだ?」というところからですね。たとえば敵を斬るときの動き。一度前屈みになって重心を軸足にかけ,それから前に向かって剣を振らないと嘘くさい……とかです。とくにアクションゲームでは,重心はすごくキモになるところですから。
4Gamer:
となると,開発の初期段階から一緒に取り組んでいるんですね。
藤井氏:
ええ。最初にプロトタイプを見せてもらったときは,キャラクターもまったく固まっていない状態でしたからね(笑)。ただ,一緒に取り組むというよりは,ヒントを落としていくという感じでしょうか。
4Gamer:
そのヒントの一つが,剣を振るときなどの重心といったものになるんですね。ではなぜ,そこが大事なのでしょうか?
藤井氏:
日本で格好いいと思われる動きと,海外で格好いいと思われる動きの違いを考えたときに,最も差が現れているのが重心,というよりも“重さ”なんですよ。海外では,筋肉があるから重い剣を持てる,重い剣で攻撃するから相手が吹っ飛ぶ。だから強い。……そのすべての感性が合致した表現だから,そこに気持ち良さが生まれます。
たとえば,今,目の前に水の入ったペットボトルがありますけど,これをテーブルの上に軽く落として,転がしてみるとします。この転がし方一つをとっても,ゲーム内で表現されたときに,実際に見ている光景との差異が生まれることが多いんです。そしてその差異の積み重ねが,違和感に繋がっていきます。
4Gamer:
日本にはアニメ文化があるので,小さい女の子が軽々と大きな武器を振り回したり,空を飛んだりすることに疑問を覚えない,というのはよく言われますよね。そういう背景とも関係がありそうです。
藤井氏:
ええ。やはりゲームも映画も結局はフェイクですから,どれだけそのフェイクをリアルに見せるかというのは,一つのテクニックだと思うんですよ。そのときに一番大事なのは,この水の入ったペットボトルの重さは「250gだ」というのが,伝わるかどうか。そして,忘れてはいけないのは,海外のプレイヤーが思い浮かべている重量感というのは,我々が想像するよりも遙かに重いということです。
そういえば,E3のブースでフィギュアを見たときも思いましたが,海外のキャラクターって首の筋肉が出っ張っていて,肩との境目がないんですよね。「なんだよこれ。こんな人間いるわけ……」と思って,後ろ振り返ってみると,同じ体型をしたセキュリティの方が立っていたりして(笑)。
4Gamer:
いますね。パッツンパッツンの服を着た巨漢が,たくさん。
藤井氏:
そういう人のパンチを食らったら,まず無事でいられないと思いますよね。要するに怖そうなんですよ。でも日本のコンサートのセキュリティって,たいていは普通の体型をしたアルバイトのお兄さんとかでしょう? つまり,あちらでいう強さというのは,筋肉や重さなんです。そして,そういうリアリティは,僕らの周りにはないものです。
ロボットなんかにもよく表れていますね。あちらのロボットは,動物を元にデザインされていて,元の形を連想させるものが多いです。でも,日本のロボットは違う観点を持っていて,簡単に言えばメカニカルデザインの美しさを追求しています。動く関節の考え方だって異なりますしね。
4Gamer:
確かに,海外のロボットは重心の低いものが多いかもしれません。より機能性を追求したデザインというか。
藤井氏:
基本的に,大きい銃を体の上部で持つなら,高い重心ではこけてしまうし,細い足では身体を支えて走れません。それではリアリティがないから,そういうデザインは不自然に見えるんでしょう。だから,向こうでは足が太くなり腰も低くなります。その上でやっと,銃も大きくなるんです。
4Gamer:
つまり,重心や重さの表現は,日本と欧米の感性の違いが色濃く出ている部分なんですね。
「BLADES of TIME」公式サイト
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