レビュー
ドラゴンになって空を飛び,人外の姫君と政略結婚するシミュレーション+RTSの異色作
Divinity: Dragon Commander
コアな人気を持つRPGシリーズ「Divinity」が
シミュレーション+RTSの外伝作として登場
「Divinity: Dragon Commander」は,ベルギーのLarian Studiosが手がけるRPGシリーズ「Divinity」の外伝作である。
Divinityシリーズは,それなりに歴史のあるシングルプレイ用RPGで,過去には「Divine Divinity」「Beyond Divinity」,そして「Divinity II」(PC/Xbox 360)といったタイトルがリリースされてきた。近年で人気のある,「The Elder Scrolls」や「The Witcher」シリーズなどと比べると,いま一つメジャーになりきれていない感はあるが,ときにダーティーだったり身も蓋もなかったりするテキストは,通好みの魅力を醸し出している。
このシリーズを今回初めて知るという読者は,4Gamerの「こちら」に掲載したBeyond Divinityのレビュー記事を見てもらえると,その魅力の一端が感じ取れるだろう。
外伝作となる本作では,プレイヤーは自由国家Rivellonを率いる皇帝として,それぞれ違った思惑を持つ,エルフ,ドワーフ,アンデッド,インプ,リザードなどの種族をまとめ上げ,敵対勢力を倒して世界征服を目指す。
ゲームシステムとしては,ターンベースのストラテジーモードと,戦場で采配を振るうRTSモードの2本柱となっているが,そのほかにもさまざまな要素が盛り込まれており,簡潔に説明するのが難しいほどだ。
ストラテジーモードは全体的にボードゲームに近い雰囲気。ユニットや建築物を作ると,盤上に“駒”で表示される |
世界観はどちらかというとスチームパンク寄り。それでいてユニット等の名称はファンタジー系が中心で,独特の雰囲気を醸し出している |
たとえばRTSモードでは,マイキャラは指揮官として自軍を指揮するだけでなく,自らドラゴンに変身し,三人称視点のアクションゲームとしても楽しめる。このドラゴン,なんと背中に“ジェットパック”を搭載しており,戦場を縦横無尽に飛び回りながらファイアブレスを吐いたりする様は,いわゆるヒーローユニット以上のインパクトだ。
また,ストラテジーモードでは,各種族との関係を取り持つべく苦心しながら,ボードゲームライクに版図を広げていく。一癖も二癖もある各種族の首脳陣とのやりとりにおける無遠慮なテキストには,辞書をめくりながらでも読み進めたくなる魅力があるのだ。
さらに種族間の同盟を強化するべくマイキャラが政略結婚を行う展開もあるのだが,その候補にはリザードやアンデッドなどが含まれており,“人外”の姫君との甘い結婚生活はほかのゲームではなかなか味わえないだろう。
こんな風に,ストラテジーとRTSを中心にさまざまな要素を加えたうえで,Divinityシリーズらしいブラックユーモアをまぶしたのが,Divinity: Dragon Commanderというわけだ。
Rivellonは複数の種族により構成されるが,それぞれ価値観が大きく違っており,決して一枚岩ではない。彼らをまとめあげるプレイヤーには,政治家としての手腕も求められる |
アンデッドと結婚できるゲームというのは,あまり聞かない。テキストもなかなか強烈 |
RTSに三人称視点のアクションゲームが融合
ドラゴンに変身し眼下の敵を一掃せよ!
本作における基本的なゲーム展開は,ストラテジーモードとRTSモードを交互に行うというもの。皇帝たるプレイヤーが率いる自勢力は,巨大戦艦のRavenを拠点に,細かく分かれた大陸各地をターン形式で敵勢力と奪い合っていく。
自分の支配下にある地域からは,ゴールドやリサーチポイントといった資源や,一時的に特殊効果を発揮する“カード”が得られ,これらを元にユニットの生産やアップグレード,施設の建築などを行いつつ,領土を広げていくのだ。
そうして自軍ユニットが敵の領土へ侵入したり,あるいは逆に侵入されたりすると戦闘が発生し,そこでRTSモードへと切り替わる。
本作のRTSモードは比較的シンプルな作りで,リソース管理などの作業は一般的なRTSほど忙しくはない。また,戦闘開始時のユニットや建築物の構成は,そこに至るまでのストラテジーモードの内容に準じている。プレイヤーの操作テクニックのみで勝敗が決するような,スポーツライクなRTSとはコンセプトが違うのだ。
制圧した地域を通じて,ターンごとに“カード”が1枚入手できる。RTSモードでスキルが使えたり,獲得リソースが上昇したりといった効果が一時的に得られる |
RTSモードにおける内政要素はシンプルな作り。ユニットを生産するための建築物は陸と海の2系統で,またリソースの獲得は自動で行われるなど,プレイヤーは前線の操作に専念しやすい |
RTSモードがシンプルに作られているのには,それなりの理由がある。プレイヤーはRTSモードの最中にRキーを押すことで瞬時にドラゴンに変身し,このときの操作は一時的に“三人称視点のアクションゲーム”となるのだ。
ドラゴンの操作はW/A/S/Dキーで移動,Spaceバーでジェットパックによる加速,マウスクリックでファイアブレス,そして数字キーでドラゴン専用のアクティブスキルを使用するといった具合だ。それまで一般的なRTSのつもりでプレイしていたのに,ドラゴンに変身した途端,UIなどがガラリと変わってしまうのは,実に不思議なプレイフィールである。
ドラゴンは多数のアクティブスキルやパッシブスキルを習得可能で,RTSモードでは習得済みのスキルの中から9つをショートカットに登録して挑むことになる。登録するスキルのセット次第で,ドラゴンのみならず自軍の戦術も変わってくるのだ。
たとえば自ら最前線で敵陣に斬り込んだのち,後続の一般ユニットを攻め込ませたり,あるいはヒールやオーラを駆使して一般ユニットのサポートに徹したりできる。そして必要とあらば,直ちに増援部隊のユニットを追加生産することも可能なのだ。個別のユニットに対する細かな指示が必要になったらドラゴンの変身を解くこともできる。
普通に考えると,ドラゴンに変身している間は,自軍ユニットなどの操作が行いにくそうなものだが,本作ではこの点にも配慮が行き届いており,感心してしまう。たとえばF3キーを押すと,周囲にいる自軍ユニットをまとめてターゲットでき,その状態でQキーを押すとマウスカーソルのある場所へアタックムーブの指示が可能。またユニットの追加生産などの内政作業も,ドラゴンの状態で一通り行えるのだ。
このような工夫により,本来はまったく別のジャンルであるRTSと三人称アクションゲームを,プレイフィールを損なわずに融合させているのだ。RTSモードにおける1回のプレイは数分程度と短く,ストラテジーモードとRTSモードを交互にテンポ良く進めていけるのは,すこぶる新鮮である。
ドラゴンの能力に応じて戦術も変化する。アタッカー系のスキルを多く習得させているのなら,斬り込み隊長の役割がうってつけだ |
ドラゴン用のスキルはかなり多くあり,事前に習得した中から最大9個をショートカットにセットしたうえでRTSモードへと挑む |
一癖も二癖もある種族をまとめるのってホント大変
続いて,本作のストラテジーモードについて,もう少し詳しく見ていこう。
自由国家Rivellonが,大陸各地に住まう,エルフ,ドワーフ,アンデッド,インプ,リザードなど,さまざまな価値観を持った種族で構成されているのは上述のとおり。Rivellonの旗艦たるRavenには,各種族の代表が参謀として乗艦しており,皇帝であるプレイヤーに対して,それぞれの種族の意見をひっきりなしに伝えてくるのだ。
具体的には,さまざまな問いかけが毎ターン,参謀からプレイヤーに行われ,それに対する回答(Yes/No形式)に応じて種族の“支持率”が変化する。
一例を挙げると,「軍隊強化のために徴兵制を導入すべきでは?」という提案を受け入れると,命を大切にするエルフが「大事な子供達が戦争へ連れ去られてしまう!」と嘆く一方,アンデッドの支持率は一気に上がる(だって死なないし……)。
教会に対する税率を上げるとドワーフの支持率が上がったり(信心深くない種族だ),そのほかにも犯罪者への罰則や,報道の自由,安楽死,ドラッグなど,さまざまなテーマに対するプレイヤーの価値観,すなわちRivellonの方針が試される。
各種族からの支持率は,大陸各地から得られるゴールドなどのリソース量に直結する。彼らにそっぽを向かれたら世界制服は夢のまた夢なので穏便に進めたいところだが,種族の価値観はそれぞれまるで違うので,ある種族の顔を立てると別の種族との関係が悪化してしまったりする。実際には八方美人というわけにはいかず,政治家も大変なんだなあと思わず考えさせられてしまう。
毎日発行される新聞には,皇帝の価値観に対する各種族の反応がつぶさに記される。支持率が大きく下落した際は,彼らからボロクソに叩かれることを覚悟しよう |
すべての種族からの支持率をまんべんなく上げるのは難しい。自分が支配下に置く地域に多く住まう種族を優先するなど,ときには割り切りが必要になるかもしれない |
そして最後には,Rivellonが各種族との調和を保つための切り札として,皇帝たるマイキャラの政略結婚が待っている。経緯が経緯だけに,結婚相手に人間が選べないのはご愁傷様としか言いようがない。
エルフの姫君Lohannahは外見はとても美しいが,この種族に対し年齢は聞かないのがマナーというものだろう。ほかにもドワーフのAidaは酒飲みで金にがめつかったり,アンデッドのOpheliaに至っては,2人の愛の巣にベッドの代わりに棺桶が置かれていたりという有様だ。彼女達との結婚生活のやりとりのテキストは,ぜひ注目してもらいたい。
元々Divinityシリーズは,いわゆる“JRPG”とは正反対の,遠慮がないというか不躾なテキストが魅力の一つでもある。各種族の参謀や結婚相手とのやりとりは,個人的にも「そういえばDivinityってこんな雰囲気だったな」と大笑いしながら,楽しくプレイできた部分だ。
エルフのプリンセスLohannahちゃん(年齢不詳) |
こちらはアンデッドのOphelia様(不死)。わりと上級者向け |
基本的には「シミュレーション+RTSその他」
一風変わったゲームが好きな人におすすめ
あらためて本作のゲームシステムをまとめると,ターンベースのシミュレーションとRTSを軸に,政治・結婚などのいろいろな要素をプラスαで盛り込んだもの,と言うことができる。スポーツライクなRTSを期待すると肩透かしを受けるだろうが,シミュレーションとRTSのどちらが好きな人にとってもおすすめできるゲーム内容だ。
一般的に,RTSは未経験者にとってややハードルが高いゲームジャンルだが,本作ではRTSが苦手な人でも遊べるようにさまざまな工夫が凝らされている。たとえばRTSモードで難度が高いと感じたら,ユニットなどの準備を万全に整えてから挑むことで,難度をある程度下げられる。本作のRTSモードはストラテジーモードの延長線上にあり,どちらかというと“戦術”よりも“戦局”を重視しているのだ。
ドラゴンの操作システムが秀逸。RTSのシステム上でこういった遊び方ができるタイトルは,これまであっただろうか? |
スポーツライクなRTSタイトルと比べるとシンプルな作りだが,それだけにプレイヤーはドラゴンの操作や前線ユニットの指揮に専念しやすい |
また,RTSモードでは内政作業がそれほど忙しくないこともあり,本作ならではのドラゴンによる戦闘を存分に楽しめる。戦場のフィールドを眼下に見下ろし,ドラゴンの強力なスキルで猛威を振るうのはとても痛快。RTSと三人称視点のアクションゲームを両立させたゲームシステムは珍しく,本作で最も評価できるポイントと言える。
リソースポイントと引き換えに得られるユニットやドラゴン用のスキルは4ランクに分かれており,種類も多い。アンロックしまくれば難度はだいぶ下げられる |
支配下にある地域には,建築物がそれぞれ1つ建てられる。前線にはユニットの追加生産用,後方には追加でカードを得られる建築物を建てたりするといいだろう |
ちなみに,RTSが心底苦手だという人は,Ravenに搭乗しているNPCの将軍にRTSモードの指揮を任せることもでき,この場合はストラテジーモードを中心に遊ぶことになる。極端に新しいシステムを採用した作品が登場しにくいシミュレーションやRTSジャンルにおいて,Divinity: Dragon Commanderは意欲的なシステムに挑戦し,しっかり遊べるゲームとして成立している。一風変わったゲームが好きな人なら,ぜひチャレンジしてみてほしい一作だ。
英語版のゲームだが,シナリオを除けばゲームプレイ自体はそれほど難しくない。ユニットをアンロックする時などは,ムービー付きの説明が受けられる |
テキスト内容を理解できたほうが断然楽しいので,日本語ローカライズされていないのが残念だ |
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