インタビュー
再び1000億の大台に? 昨今活況なTCG市場の動向と,その中での新しい取り組みについて,老舗バンダイに聞いてみた
今回4Gamerでは,デジタルTCGの「ネットカードダス プロ野球 オーナーズリーグ」が好調で,先日,2011年10月28日より新タイトル「ネットカードダス サイバーワン」(以下,サイバーワン)をスタートしたばかりのバンダイに,TCG業界の現状や,新たな取り組みである「サイバーワン」の見通しについてお話しをうかがった。いまいち奮わないコンシューマゲーム業界を尻目に,躍進を続けるTCG業界。その原動力になっているのはいったい何なのだろうか。
「サイバーワン」公式サイト
「ゲームのすべて」をやる事業部
本日はよろしくおねがいいたします。今回は2011年10月28日から事実上の正式サービスを開始したオンラインカードゲーム「サイバーワン」を軸に,バンダイのカードゲーム事情全般についてお話しをうかがいたいと思います。まずはバンダイのカード事業の沿革,といったあたりからお話いただきたいのですが。
上床威一郎氏:(以下,上床氏)
どの辺りまで遡りましょうか(笑)。カード事業部といっても,チームがいろいろありまして,私達の事業開発チームは,「サイバーワン」や「オーナーズリーグ」など,比較的新しい遊びを担当しています。その流れでいうと,今の「デジタルとの融合」という課題が掲げられたのが,だいたい2004年あたりです。
4Gamer:
実は今日はこういうデータを持ってきたんですが……日本のTCG市場って2000年に売り上げのピークがあって,そこから一度売り上げが落ちこんだ時期がありますね。それが最近また復活してきたという流れで。
上床氏:
2000年というと,「デジタルモンスター」や「遊戯王」がブレイクした年ですね。
4Gamer:
そこから落ち込んで,2006年には400億を切るあたりまで下がっていますが,ここ数年で盛り返してきて,2011年度は再び1000億円をオーバーするという見通しを持っている方もいます。
■トレーディングカードゲーム市場規模(日本玩具協会データ)
上床氏:
バンダイに限定した話をしますと,2005年にも大ヒットがありました。「金色のガッシュベル!! THE CARD BATTLE」がブレイクした時期なんですが,そこでの盛り返しがあったので,我々的には,現在のデータカードダスの事業を始められたという経緯があります。
ただ2006年の市況は,僕らも苦しかったですね。データカードダスが2005年から始まって,バンダイのカード事業としては規模が大きくなったんですが,その時がちょうどTCGが沈んでいる時期でした。
「金色のガッシュベル!! THE CARD BATTLE」
2003年発売の,同名のアニメをもとにしたTCG。「魔本」というファイルに,順番を決めてカードをとじ込んでいくという,運要素を大きく排除した仕様が独創的だった。
4Gamer:
一時期のTCGの落ち込みというのは,何が理由だったんでしょうか。
中村泰良氏(以下,中村氏):
デジタルのカードゲームが出てきたからじゃないですか?
上床氏:
それもひとつの要因だよね。
4Gamer:
個人的な印象では,雨後の筍のごとくTCGが出すぎたせいかな,とも思うんですが。粗製乱造というか……。
上床氏:
確かに,バンダイも様々なキャラクターをカード化させていただきました。でも恐らくですが,子供達が“何で遊ぶかが変わってきた時期”が,ちょうどこの辺りなのではないでしょうか。
4Gamer:
携帯ゲーム機の影響とかですか? ニンテンドーDSやPSPは2004年に発売されていますが,ゲームボーイなんかは昔からありますよね。
まぁただ,子供達といえど遊べる時間は限られてますから,当然そういったものとは時間の奪い合いになるんですよ。
上床氏:
実際,ビッグタイトルのゲームソフトが出る年は,TCGの売り上げも厳しくなる傾向があります。なので,その時期にはかぶせないよう調整することもあるほどですよ。
4Gamer:
先ほどの話では,データカードダスが始まったのが2005年ということでした。それがカードにデジタルの要素を付加しようとし始めた,ちょうど転換期にあたると思うのですが,その頃の風景というのはどのようなものだったんでしょうか。
上床氏:
僕らはもともとカードダス……いわゆるガシャポンのカードダス自販機から始めて,絶えず何か新しい付加価値を入れようと試みてきました。以前には,例えばPlayStationのソフトと連動させたり,ほかのおもちゃと連動させたりなどがあったんですが,より広い意味での「デジタルとの融合」を,その先の目標として考えていました。
ただちょうどいろいろ考えてる時期に,セガさんから「ムシキング」が出てきて……愕然としましたね。
4Gamer:
「やられた!」と。
上床氏:
ええ。あのときのバンダイは「バンプレストと一緒に何かできないか」と考えていたところで,結果として僕らは後発になってしまったんです。
「甲虫王者ムシキング」
2003年にスタートし,2004年に大ヒットした子ども向けのデジタルTCG。筺体でカードの払い出しとゲームプレイを行なう,いわゆる「データカードダス」ジャンルの先駆者。2005年以降,「ラブandベリー」「恐竜キング」などさまざまな後継商品が発売された。一方,同ジャンルの商品としては,バンダイから「ドラゴンボールZ」「NARUTO-ナルト-」などが出ている。
4Gamer:
現在は通常のトレーディングカードゲーム「カードダス」系列に加え,「仮面ライダーバトル ガンバライド」などの筐体を使ってプレイする「データカードダス」系列と,「サイバーワン」に代表される「ネットカードダス」系列を展開されていますね。
上床氏:
もう一つ,「ARカードダス」というのもあります。AR(Augmented Reality=拡張現実)は,近年話題になってる技術ということもありますし,カードとの親和性も非常にいい。そこから新しいビジネスモデルが生まれてくるんじゃないかと,チャレンジしているところです。
ARカードダス
スマートフォンのAR機能を使ってカードを読みこみ,コレクションやバトルをおこななう。現在バンダイでは「ワンピースARカードダス」「仮面ライダーARカードダス」を展開中。
公式サイト:http://ar.carddas.com/
4Gamer:
なるほど。確かにカードからキャラクターが飛び出てくるのって,カードゲームの夢の一つですよね。こういったリアルカードのデータを手元で読み取って遊ぶタイプのゲームって,これまでは今ひとつブレイクしていない感がありますが,今後は色々出てくるかもしれません。スマートフォンやPlayStation Vitaなどとも,相性が良さそうですし。
上床氏:
アナログのカードダスからデジタルのネットカードダス,ARカードダスときて,次が何なのか。それを見つけるのが僕らの至上命題だと考えています。それがデジタルなのかアナログなのかも含め,まだまだ検証段階ですが。
4Gamer:
個人的には,もっとネットとリアルを融合したような形が理想形で,その両方を備えたエンターテイメントが今後伸びるんじゃないかという気はしているんですけれど……。
上床氏:
詳しくはお話できませんが,弊社もいろいろ技術を研究中で,今後はそれをどう遊びに変換するかというところが課題ですね。
4Gamer:
デジタルのカードゲームというと,アーケードでは「三国志大戦」などの流行がありましたし,今は完全にデジタルのみのオンラインカードゲームもたくさんありますよね。紙のカードという“現物”のありなしについてはどうお考えなんでしょうか?
中村氏:
リアルなカードって,やっぱりカードを手にしたときの嬉しさが,デジタルのみのカードと全然違うと思うんですよ。僕は元々おもちゃではなく,ゲーム業界の出身ですが,ゲームの中でパックを開ける演出があったとしても,実際のパックをハサミで切って,中からキラカードが出たときのうれしさって段違いです。
お店に買いに行かなきゃならないという面倒な部分はもちろんありますが,それでもリアルカードでなければ勝負はできない部分というのはあると思います。
上床氏:
そもそもネットを使ったタイトルを始めたのも,「子供にネットでお金を払ってもらうのは難しいけれど,カードという形ならできる」というところからスタートしていますから。中村の言ったカードを引く楽しみもありますし,そういう「モノの所有感」が僕等の強みです。キラキラの部分も,結構豪華な素材を使ってるんですよ(笑)。
ネットカードダスについていえば,僕らはあくまでカード販売が主体で「ネットは買ったカードで遊ぶ場」という考え方です。ソーシャルゲームとかなら,「勝ったらコレがもらえる」というような形でモチベーションを作るのが主流ですが,それとカードを買うという行為は相性が悪いと思うんです。
だから「オーナーズリーグ」でも,勝ったから何かがもらえる,という仕組みは用意していません。「サイバーワン」はもうちょっとゲーム側に寄せているので,勝つとアバターパーツが手に入ることもありますが,レベルアップとかは一切ありません。
4Gamer:
ゲームはあくまでオマケ,ということですか?
中村氏:
いえ,一身一体という意味でして,ゲームはカードの価値を高めるための存在だと考えています。「ゲームでくり返し使ったらカードが強くなる」みたいなことをやってしまうと,価値がカードそのものではなく,ゲームの中に存在することになってしまう。
4Gamer:
なるほど。ただ,アーケードのカードゲームだと,そういうカード自体が強くなっていくシステムをとるものが多いですよね。
中村氏:
あれは,カードから筐体・ゲームそのものまで,全体で一つのシステムになっているし,あくまで“ゲームが主”だからアリなんですよ。遊んでいたら強いカードが出たので,じゃあそのカードを使ってもう一度遊んでみようと,その場ですぐ回りますし。すごく上手いサイクルですよね。
でもネットカードダスなんかは,遊んでいてカードが欲しくなっても即座には買えません。ゲームを遊ぶ場所とカードを買う場所が物理的に離れています。だから,それとはまったく違うゲームの作り方をしないといけないんです。
4Gamer:
“ゲームはあくまでカードの価値を高めるため”とのことですが,カードの強さをカードの価値とする以外に,例えばどういったやり方があるんでしょうか。カードに描かれたイラストやデザイン,ということですか?
上床氏:
イラストもデザインもそうですし,細かいところだと厚みだったり素材だったり。キラカードなら光り加減なんかもそうですね。いずれにしても構図から文字の配置までかなりこだわっています。
お客さんにとっての所有感や,友達に自慢できるだけの価値を提供できるか,ということが大切だと思っています。
4Gamer:
そういえば,次の弾が出たときに,前のカードがいきなり弱くなって価値が下がってしまうこともありますよね。極端な話,禁止カードなどが出てくるのは,悪いパターンだと。
上床氏:
そうですね。カードパワーは,どうしても少しずつインフレしてしまいがちです。でも自分の持ってるカードには愛着が生まれますから,それが全然使いものにならなくなるようなことはしたくない。
禁止カードについても,バンダイはそういうのを極力やりたくないんです。どんどんカードが追加されていくと,トータル5000枚のカードをどうデバッグするんだって話になるんですけど,基本的にはやらない方向で動いてます。
4Gamer:
「ガンダムウォー」ではついにサイクル(任意のカードセットだけが大会で使える制度)を導入するという話になりましたが,それは今の5000枚のデバッグがやりきれなくなったから?
上床氏:
それも一因としてはありますが,「ガンダムウォー」はさすがに12年も続いているタイトルなだけに,所持カードのプール差がすごいんですよ。ゲームも複雑化してしまっているので,ここで1回リセットをかけ,もう一度フラットな環境に戻したほうがプレイヤーにとっても楽しんでもらえるかと思いまして。
ガンダムウォー
バンダイが1999年に発売した,もっとも古い部類の国産TCG。「ガンダム」の各作品が登場し,高いゲーム性を持つ。2011年10月に「ガンダムウォー ネグザ」としてルールを含め大きくリニューアルされた。過去カードも使用可能。
中村氏:
サイバーワンの場合は,公式リーグ以外にオリジナルリーグというプレイヤー自身で開催できるリーグがあって,そこでは自分達で縛りを設けて遊べるようになっています。デッキを変える意味も出てきますし,いろんな遊び方があっていいと思うので。
4Gamer:
「レア3枚まで限定リーグ」とか。
上床氏:
そういうのがあると遊び方の幅も増えますよね。
ゲーム業界とおもちゃ業界,その違い
4Gamer:
TCG市況の話に戻りますが,そういったデジタルへの取り組みの数々が,現在の盛況に繋がっていると考えていいのでしょうか。
上床氏:
そうですね。バンダイとしては,絶好調といっていいと思います。我々が把握するカードゲーム全体の上期市況(アーケードを除く)は,前年比で135%,バンダイ単体でも160%という状況です。要因は「オーナーズリーグ」が引き続き好調であることに加え,カードダス系では特に「バトルスピリッツ」が,デジタルカードゲーム系では特に「ドラゴンボールヒーローズ」が好調であることがあげられます。
「バトルスピリッツ」
アメリカの有名ゲームデザイナーを起用し,「コア」という宝石のようなコマを使うのが特徴的な,主に小中学生をターゲットにしたオリジナルTCG。アニメも放映中。
公式サイト:http://www.battlespirits.com/
4Gamer:
中村さんはゲーム業界出身とのことで,そこからバンダイというおもちゃ業界に移ってこられたことになりますが,この二つの業界に,肌感覚として文化の違いを感じられますか。
中村氏:
これはあまり悪い意味にとらないでほしいんですが,おもちゃ業界は商売人気質が強いな,と(笑)。ゲーム業界ってやっぱりクリエイターが多いので,自分の作品を作りたいという考え方の人が多い。だけどバンダイだと,キャラクターを使ってビジネスをする,という立場になるので開発から販売まで,総合プロデュースするスキルが重要なんです。
4Gamer:
ああ,それはすごく良く分かるお話しですね。ゲーム業界は,どちらかというと,なんだかんだでクリエイター側が「面白い物を作るんだ」という流れで来た分野ですし。
中村氏:
僕自身も,これまではお客さんの手に届けるところまでは,正直考えていなかった。だからこれからは,そこが大事だと思ってます。僕らはモノありきのビジネスなので,流通の方達にどう売ってもらうかも含めて考える必要があるな,と。
4Gamer:
ゲーム業界って,ほかの業界とかと比べると,不思議なことに流通をあまり重要視してない気がしていました。
上床氏:
これは「オーナーズリーグ」の場合ですが,フェイス(パッケージの陳列面)が約4万フェイスに達しました。「オーナーズリーグ」のパッケージには,自販機とパックとウエハースがあるんですが,ウエハースはもちろん食品売り場に並びます。そしてパックがおもちゃ売り場に並んで,通路には自販機が並ぶ。そうすると例えば量販店等に一度行くと,お客さんは3回「オーナーズリーグ」を目にすることになります。その流通力が手に取ってもらえる機会につながり,ひいてはそれがプレイヤー数につながる。ヒットした要因というのは,そこにもあるんじゃないかと思ってます。
4Gamer:
あれ,そういえば知り合いが「サイバーワンのカード入りウエハースがどこにも売ってない」って泣いていたような……。
中村氏:
……そうなんですよ。まだスタートしたばかりなので,当面は仕方がない部分もあるんですが,プレイヤーの皆さんにはご迷惑をおかけして申し訳ないと思っています。ブースターパックも発売されましたので,徐々に届きやすくなっているかと思います。
4Gamer:
カード流通量って,実際はどうやって決まるんでしょうか。
上床氏:
商品の過去の実績と期待値が重要ですね。やっぱりガンダムだったら「これくらいはいけるね」となりますし,新作かつオリジナルの「サイバーワン」だったら「それってどうなの?」っていわれちゃいます。もちろん実績が伴えば,いろんなお店で取り扱っていただけるようになりますが。
■2011年度TCG市場のシリーズ別シェア
集計期間:2011年4月4日〜2011年10月30日(株式会社メディアクリエイト調べ)
中村氏:
「サイバーワン」のオープンサービスをブースターパック発売の3か月前に始めたのは,ゲームを先にお披露目しておいて,少しでも知名度を上げておきたかった,という意味もあるんです。流通様に対しても「会員数がこれだけいる」と安心感をアピールできますし,ゲーム自体がカードを売るためのプロモーションなんですね。
上床氏:
ウエハースもブースターパックの発売に先行して販売しました。これはコンビニなど生活導線上にある売り場でウエハースを買って,ゲームを遊んで次はパックを買う。つまりプロモーションという見方をすると,これがものすごく有効なんです。アンケートで「どこで知りましたか?」って聞くと,店頭というのが意外と多くて,だから社内との連動は,一つの発明だったと思っています。
4Gamer:
なるほど……こうしてお聞きしていると,カードというのはバンダイさんの色々な商品なかでも,かなり異質かもしれませんね。おもちゃを作ってる会社の中で,一人ゲームを作っているというか。
上床氏:
確かにデジタルなゲームを作るという意味では,カード事業部はバンダイの中でもちょっと変わってますね(笑)。おもちゃだと,個々の商品に価値を提供することに重きを置きますが,カード事業部の場合は一つの商品を長期にわたって開発し続けるので,遊ばれる環境を維持することに力を入れています。
4Gamer:
それは以前,ブシロードの木谷社長にインタビューした際も,同じような話をされていましたね。「カードゲームはインフラビジネスである」とか。遊ばれ続ける環境がないと,このカードが強いとか,先ほどもおっしゃっていたカードの価値が失われてしまう。
上床氏:
あの記事は私も読ませていただきましたが,おっしゃる通りだと思います。
4Gamer:
そういうTCG業界のやり方に,ゲーム業界が見習うところは多いと思うんです。ゲームを作ってる人達は「売るのは上がやってくれるから,僕等は面白いゲームさえ作ってればいい」という考えかたがほとんどなんじゃないかと。
中村氏:
そうですね。それがバンダイの場合だと,担当者は商品のほとんど全部に関わる。ゲームも作るしカードも作る,プロモーションだって考えるし,流通も含めて全部考える感じです。「サイバーワン」については世界観なども考えましたし,大変ですけどすごく面白い。
4Gamer:
個々のプロジェクトを,ですか?
中村氏:
そうです。「サイバーワン」については全部関わりましたね。やっぱり,商品を手にとってもらうところからゲームの中身まで,トータルで楽しめるエンターテイメントでないと。そういう意味では,カードゲームのビジネスってソーシャルゲームやオンラインゲームに近いのかもしれません。
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