インタビュー
ダンガンロンパは「ピンと来る」を集めて作った作品――「スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園」ロングインタビューを掲載
ダンガンロンパのテンポの良さ
4Gamer:
スーパーダンガンロンパ2を少し遊ばせてもらって改めて思ったのですが,ダンガンロンパは,とにかく「テンポの良さ」が特徴的なゲームですよね。ボタンを押していく時のテキストの進み方/演出も,いちいち小気味良くて。
小高氏:
ありがとうございます。
4Gamer:
それにやっぱり良いアドベンチャーゲームって,文字の出し方,それこそ改行位置一つとってみても,非常に丁寧に作られていると思うんです。ダンガンロンパも,そのあたりの作りの確かさが「テンポの良さ」を生む要因になっているのかな……とは感じるんですが。
そこに気が付いてもらえたのは,とても嬉しいですね。とくにダンガンロンパでは,僕がシナリオを書きながらスクリプトも細かく調整しているんですよ。だから例えば,「この表情でこのリアクションのとき,この台詞は長過ぎるな」と感じたら,すぐその場で変えてしまったり。
4Gamer:
シナリオとスクリプトを分業にしてしまうと,そういう繊細な調整はしづらそうですね。
小高氏:
ええ。
4Gamer:
ちなみにスクリプトは小高さんがすべてを担当しているのですか?
小高氏:
いえ,僕はキャラクターの表情を選んだり,演出部分を決定したりするのがメインですね。ただ,スクリプト周りって,見直せば見直すほど直したいところが出てくるんですよね。スーパーダンガンロンパ2も,時間さえ許せば,あと1年ぐらいは直し続けてたかもしれない(笑)。
4Gamer:
ノベルゲームの面白さや没入感って,実は演出面の比重がかなり大きいですよね。
小高氏:
シナリオを書いているときに「これは面白い」と思っていても,そこに音楽やグラフィックスが入ってくると,いまいち「ピンとこなかったりする」ことがよくあるんです。そこをフレキシブルに直せるかどうかというのは,ダンガンロンパのようなタイプのゲームでは重要なポイントでしょう。
寺澤氏:
テンポのお話が出ましたが,「フルボイスではない」のも重要な部分なんです。フルボイスにしてしまうと全体的なテンポが悪くなってしまうんですね。もちろんフルボイスの良さはあるんですが,ダンガンロンパはテンポ重視の判断で,あえて音声を絞って使っています。
小高氏:
そもそも,フルボイスにしたとして,みんなちゃんと全部聞いてくれるんですかね?
4Gamer:
うーん,重要じゃない部分は飛ばす人が多い気がしますよね。ただ「学級裁判」などの重要なシーンではじっくり聞く,という人なら多いとは思います。
寺澤氏:
ダンガンロンパの学級裁判システムは,ボイスがあるからこその表現でもありますからね。
小高氏:
あとは,シナリオ担当の僕の視点から言わせてもらうと,「さすがにこれは,声優さんに喋ってもらえないんじゃないか」という台詞も多いから,フルボイスは難しいんです(笑)。
一同:
(爆笑)
4Gamer:
まぁでもそういった取捨選択の判断,バランス感覚がしっかりしているからこそ,満足度の高い作品になっているんでしょうねぇ。
ダンガンロンパをアドベンチャーゲームだとは思ってない
4Gamer:
しかし,ここまで尖った作品だと,続編を作るのは相当難しかったんじゃないですか? 1作目の反響が凄かっただけに,いろいろなユーザーさんの意見や要望も多かったでしょうし,凄く作りづらかっただろうと想像するのですが……。
小高氏:
「1にはない,2だけの面白さを作ろう」というつもりで制作をしていましたね。1をプレイしたユーザーさんが求める面白さを,単純に2で実現しようとしても,完成する頃にはきっと時代遅れになっている。最初の話に戻りますが,「どこが良いのかよくわからないけど面白い」作品を目指すには,同じことをやっていてはダメなんですよね。
それに最近のユーザーさんって,情報を得るのが速いじゃないですか。だから,ユーザーさんの好みである「売れ線」に的を絞って作品を作っても,完成した頃にはもう手遅れであることの方が多いんですよ。
小高氏:
なので,制作で意識していたことをあえて挙げるとすれば,それは「予想を裏切る」という点でしょうか。ある意味,1のユーザーさんのことはあまり考えていなかったというか……。
寺澤氏:
開発のみんなは「とにかく新しいものを」「自分たちが納得できるものを」という純粋な気持ちで頑張っていたよね。
4Gamer:
でもユーザーって意外と保守的で,口では色々言うんですけれど,実際に求めているのは一歩先の作品ではなくて,半歩先の作品ですよね。
寺澤氏:
素晴らしい分析ですね。おっしゃるとおりだと思います。
小高氏:
まぁただ,ユーザーさんの細かい要望は,ほぼそのまま聞き入れる形で作っていました。例えば,学級裁判のリザルト表示を一番最後にまとめてしまうことでゲームのテンポを良くしたり,移動も2Dマップをうまく使って迷いにくくしたり。
寺澤氏:
良いところは残しつつも,細かいブラッシュアップはどんどんしていこうという方針ですね。
小高氏:
ただ,2を実際触ってもらえれば,1とはかなり違う作品だということがわかってもらえると思います。「ダイハード」の1と2くらいの違いじゃなくて,「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の1と2くらいは違う。
寺澤氏:
ちょ,その例え分かりづらいよ(笑)。
小高氏:
雰囲気としては,1の方は閉じた世界での閉塞感を味わえるんだけど,2は広げて広げて,発散していく世界観を味わえる。ベースの面白さは共通しているんですが,プレイ後の感想はかなり変わってくるんじゃないかな。
4Gamer:
2からプレイする新規層と,1からのプレイヤーに対して,それぞれに向けて意識した点はありますか?
小高氏:
もちろん1ありきで作っている部分もあるのですが,仮に2から入ってくれたユーザーさんでも,なんとか想像力で補って楽しめる範囲で留めたつもりです。だから,詳しくは分からないんだけど,「こいつはきっと,こういうキャラクターなのかな?」とか,想像して楽しんで頂けたらなと思っています。もちろん,1をプレイしてくれている人なら,2はより楽しめると思いますが。
4Gamer:
序盤なんか,むしろ,1をプレイしている人の方がいろいろと疑問(謎)を感じる展開になってますよね。
小高氏:
そうですね。1をやった人が「おやっ?」と思うようなシーンもたくさん入れてありますよ。
寺澤氏:
先ほど話に出た「驚きの回数」を増やすという作り方ですね。プロモーションにも同様に,様々なフックを用意しました。
小高氏:
何も知らない人は「あの国民的なキャラクターを演じている声優さんが出てるの?」というところから入ってきたり,1からのユーザーさん的には「あのキャラクターがなんでこんなことに?」というところで印象に残ったり。
4Gamer:
プロモーションの話と言えば,ダンガンロンパシリーズって,割とアニメファンを意識したプロモーションを行っているように思えるのですが,実際はどうなのでしょうか。
寺澤氏:
最初は,普通のゲームと同じやり方のプロモーションでした。というより,当時のスパイク(現スパイク・チュンソフト)は今まで,これだけ声優陣が豪華なゲームを作ったことがなかったんです。
4Gamer:
本当に豪華ですもんね。それこそ,途中退場するキャラクターがいるせいで「声優の無駄遣い」と言われてしまうぐらいに(笑)。
寺澤氏:
もちろん,そういったファン層が興味を持ってくれることもある程度は予想していたのですが,それでも初めの頃は普通のプロモーションでしたし,反応が全然良くなくてかなり苦労したんですよ。
4Gamer:
実際にプレイしてみないとダンガンロンパの面白さは分からないですからね……。
寺澤氏:
まあとにかく映像を見てもらわないと駄目だろうなと考えていて,どうやって映像を出していこうかと思案してたんですが,そんななか,ダンガンロンパの声優一覧をウェブサイトで発表したときに,当時のスパイクの歴史上,考えられないぐらいのアクセス数があったんです。そこでようやく,「やっぱりそうなのか,ここが注目を浴びるポイントなのか」と実感しまして(笑)。そこからアニメファン,というか声優さんファンを意識した手法に寄せていったという経緯があります。
4Gamer:
ゲーム自体にここまで人気が出てくると,アニメ化の話とかも持ち上がったりしているのではないですか?
寺澤氏:
アニメ化したいという気持ちはありますが,そんなに簡単な話ではなくて。それにダンガンロンパでは,アニメ化しても「あくまでゲームの方が面白い作品」を目指していましたからね。
小高氏:
アニメ化されたら嬉しいですが,「ゲームの方が面白い」という部分は死守したい気持ちもあります(笑)。
4Gamer:
ん,ここでいう「ゲームの方が面白い」とは,どういう部分を意識しての話なんですか?
小高氏:
そもそも,僕らはダンガンロンパをアドベンチャーゲームだとは思ってないんです。
4Gamer:
ええっ?
そうですね。「ダンガンロンパという世界を堪能してもらう」ことが作品としての目的なので,そのためには何だってやります(笑)。
4Gamer:
確かにスーパーダンガンロンパ2にも,推理アドベンチャーであるにも関わらず,なぜかレベルの概念があったり,電子ペットを育てたり,アドベンチャーゲームの概念を越えた仕様がたくさんありますよね……。
小高氏:
おまけとしてシミュレーションゲームやアクションゲーム,さらにはビジュアルノベルを入れてみたり……。
寺澤氏:
すべては「ダンガンロンパという世界観/作品」を楽しんでもらうためのものです。
小高氏:
この「ゲームという媒体じゃないと表現できない感じ」は,2になってより強まっていると思います。ゲームっていろいろな要素が集まっている総合的なエンターテイメントで,かつ没入感があるものですよね。さっきの親密度の話だってそう。ああいうのは,ゲームというメディア“ならでは”の表現だと思うんです。
4Gamer:
なるほど。ダンガンロンパって,やっぱり不思議な作品ですね……。
「新しいものを作りたい!」という一心で手がけているシリーズ
4Gamer:
しかし,お話を聞けば聞くほど,昨今のゲーム業界の流れのなかで,ダンガンロンパはかなり特殊なケースと言えますよね。
寺澤氏:
ゲーム制作をビジネスとして考えたとき,ダンガンロンパのような作品が生まれにくくなっているのは確かですよね。国内市場が厳しいぶん,「売れやすいゲームを作るべきだ」という風潮はとても強い。もちろん,弊社(スパイク・チュンソフト)だって営利企業なので,当然売れるゲーム作りは目指すわけですが,そこだけだと,「本当に作りたいもの」が作れなくなってしまう。
4Gamer:
市場の状況が厳しくなっていくなかで,チャレンジする(作りたいものを作れる)環境や風土をどう守るのか,というのは本当に難しい問題ですよね。
本当にこの先,ゲーム業界はどうなってしまうんだろうという不安はありますよね。
寺澤氏:
でも,ダンガンロンパのような作品を作れなくなってしまったら,それこそ「お終いだ」とも思うんです。だから僕としては,チャレンジ精神を捨てずにもがいていきたい。幸いなことに,弊社の代表はそういう問題意識にも理解があったので,ダンガンロンパのような企画を通すことができたんですが。
4Gamer:
ただ一方で,“売れるもの”と“作りたいもの”って,なかなか並び立たないことが多いじゃないですか。
寺澤氏:
だから,プロデューサーというのは,商業作品という枠を“悪い意味で飛び出さない”ようにコントロールしなくてはいけないんです。“売れるもの”と“作りたいもの”のギリギリの線引きを見極めるのが,僕の役目なんですね。
4Gamer:
その線引きは,具体的にはどのように行っているのでしょうか。
寺澤氏:
まぁ凄く分かりやすい例でいうと,開発側は「時間をくれ」と常に要求してきます(笑)。しかし,開発期間が延びれば,その分コストも増えてしまうので,そこは戦わざるを得ません。1作目のときは,どんなに時間をくれと言われても,僕は一日もスケジュールを延ばしませんでしたし。
小高氏:
開発としても,ただ作りたいものを作るだけでなく,ちゃんと売れるゲームにしなければならないという意識はもちろんあります。ゲームが売れなければ次の作品は作れず,自分の仕事もなくなってしまうわけですから。
寺澤氏:
でも実際には,それをわかっていないクリエーターも結構いると思うんです。うちのスタッフは,それを理解しているうえで動いてくれていたので,非常にやりやすかったですね。
4Gamer:
そういえば,ダンガンロンパシリーズの開発チームって,どういう陣容だったんですか。
小高氏:
制作の中心になっていたのは,僕と,イラストを担当している小松崎,あとディレクターの菅原などの4,5人ですね。これは,ダンガンロンパ立ち上げの際に「何か新しいことをやろう」と集まったメンバーなんです。最終的に制作に関わった人数は……。
4Gamer:
外注などを除けば,全部で15〜20人くらいですか?
寺澤氏:
そうですね。あと2を開発するときは,1をプレイして「この作品に関わりたい」と手を挙げてくれた人たちが社内で何人かいて。そうそう,スタッフの構成って意味で言うなら,なにげに年齢層が高いですね。
4Gamer:
え,そうなんですか? ゲームの雰囲気がポップで,内容も勢いがある感じなので,なんとなく若い人たちが集まって作っていそうなイメージがありました。
寺澤氏:
実は,開発者には結構40代が多いんですよ。
4Gamer:
それは意外ですね。……でも,だからこそゲームの作り自体は,とても丁寧でしっかりしているのかな。
寺澤氏:
そのあたりは開発チームのモチベーションの高さも大きいと思いますよ。ダンガンロンパの制作中は,なんというか,開発スタッフのみんなが「やりたくてやっている」感じが凄くありましたから。
小高氏:
そこは本当にそうですね。
寺澤氏:
いくらゲーム会社だって,普通は,誰かしら嫌々仕事をしている人がいるものなんですが,ダンガンロンパの開発チームは,誰を引っ張ってきても「やりたくてやっていた」と思うんです。
4Gamer:
最初の「ダンガンロンパの魅力」というテーマに立ち返ると,やっぱりその“熱量”みたいなものが,プレイヤーにキチンと伝わったってところはありえそうですよね。
小高氏:
そうですねぇ……。
寺澤氏:
だからダンガンロンパって,本当に「新しいものを作りたい!」という一心で手がけているシリーズなんです。僕らも自信をもって送り出している作品なので,ぜひもっと多くの人に遊んでもらいたいんですよね。
4Gamer:
なるほど。いちプレイヤーとしても,こういう作品がもっと遊びたい!,増えてほしいと強く思います。
そろそろお時間ですので,最後に,ダンガンロンパのファンに向けてメッセージをお願いできますか。
小高氏:
はい。まぁやっぱり,「とにかくやってみてほしい」ですね。
スーパーダンガンロンパ2は,とくに後半が面白いと思います。個人的にもすごく気に入っているし,スタッフの熱量がすべて込められているといっても過言ではない。買った人には,ぜひともクリアするまでプレイして頂きたいですね。あと,モノミとモノクマの掛け合いはだんだん癖になりますよ!(笑)
4Gamer:
寺澤さんは何かコメントはありますか。
寺澤氏:
んー……,実を言うと,小高が「ダンガンロンパ3は作らない」とか言っているんですよね。
小高氏:
んん(苦笑)。
寺澤氏:
だけど僕としては,「なんとかして作らせたいな」と思案しているところで(笑)。ぜひ,ファンの皆さんの後押しをいただきたいんです。よろしくお願いします!
4Gamer:
わ,分かりました(笑)。本日はありがとうございました。
荒々しさを感じさせる内容でありながらも,プレイヤーの印象に残り,かつ最後まで遊ばせるパワーと魅力を備えていた初代ダンガンロンパ。それをブラッシュアップさせてより完成度を高め,それでいて「予想を裏切る」出来映えを実現したスーパーダンガンロンパ2。
今回のインタビューでは,それら近年稀に見る快作の面白さの秘密を,ネタバレが無い形で解き明かしていきたいと考えていたのだが,「面白さの切り貼り」でゲームを作り上げたという小高氏の話や,やるせない思いをさせるために導入したという親密度システム実装の経緯など,その考え方の一端がうかがえたのは収穫であったように思う。
ただ改めていうまでもないが,ダンガンロンパは,奇抜なだけのゲームではない。本作は,一見イレギュラーに見える一方で,確かな仕事の丁寧さ/素晴らしさを内包する作品でもあり,その背景には,寺澤氏や小高氏の熱意,そして彼らを支えた開発チーム全員の情熱があったように思える。
気概を持って仕事に取り込む小高氏と,それを一歩引いた目で見守りながらも,堅実な視点でバックアップする寺澤氏。スーパーダンガンロンパ2が見事ファンの期待に応え,またセールス的にも十分な結果を残した今,彼らが次に作る作品も気になるところであろう。
ネタバレを避けたという理由もあるが,スーパーダンガンロンパ2の内容に関する具体的な質問をあまり取り上げられなかったことは少し心残りであるが,この記事を読んで,少しでもダンガンロンパに興味を持つ人が増えたら幸いである。あとは,「とにかくやってみてほしい」という小高氏の言葉を借りて,本稿の結びとしたい。
(7月19日収録)
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