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「LOLLIPOP CHAINSAW」は,ジュリエットが可愛くてアクションが爽快で……だけではなく,何度も繰り返し遊びたくなる作品だった
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印刷2012/06/12 00:00

レビュー

ジュリエットが可愛いってだけじゃなく,何度も繰り返し遊びたくなる

LOLLIPOP CHAINSAW

Text by TeT

»  ※本作はCERO Zの「PREMIUM EDITION」と,CERO Dの「通常版」が同時に発売されます。本稿で使用しているスクリーンショットは,PREMIUM EDITIONの「ザクザクバージョン」(海外版と同じ表現)のものです


 6月14日(木)に発売される「LOLLIPOP CHAINSAW」PlayStation 3 / Xbox 360)は,須田剛一氏率いるグラスホッパー・マニファクチュアと,角川ゲームスによる共同開発作品だ。
 過去に須田氏が関わった作品は,熱狂的な支持者が生まれる半面,その強い個性からか,食わず嫌いされてしまいがちでもあった。実際,国内パブリッシャでもある角川ゲームスの安田善巳社長が,「須田さんのゲームを今のファン層以上に多くのゲームファンに楽しんでもらおう」「須田作品にはクセがあるという理由で敬遠される方にも,この作品はぜひ体験していただきたい」という思いを本作に込めていると語っていたことからも,それは明らかだろう(関連記事)。

画像集#001のサムネイル/「LOLLIPOP CHAINSAW」は,ジュリエットが可愛くてアクションが爽快で……だけではなく,何度も繰り返し遊びたくなる作品だった

 とはいえ,「女子高生チアリーダー」「チェーンソー」「ゾンビ」といった,いかにも須田作品らしいキャッチーかつ“あくの強い”キーワードや,ジェームス・ガン氏や山口雄大氏といった映画業界のクリエイターがシナリオや演出面などに参加していることなどから,「うーん,そうは言ってもあんまり変わらないんじゃ?」と思っている人もいるだろう。
 だが,従来の須田作品ファンである筆者が,発売に先駆けてLOLLIPOP CHAINSAWを最後までプレイしてみたところ,まるでインディーズ時代から応援していたバンドがメジャーデビューしたかのような印象を受けた。といったようなことを,ストーリーや攻略上のネタバレを避けつつ,つらつらと書いていこうと思いますので,お付き合いのほどよろしくお願いいたします。

「LOLLIPOP CHAINSAW」公式サイト

キュートなチアリーダーがポップにゾンビを斬りまくる。「LOLLIPOP CHAINSAW」をプレイムービーで要チェックや!



“斬”というより“斬+打”

チェーンソーの重みが独特の感触を生む


 本作の主人公は,ジュリエット・スターリング。サン・ロメロハイスクール(ゾンビといえばロメロ!)に通う,チアリーダーだ。しかし,実は大昔からゾンビ退治を請け負ってきた“ゾンビハンター”一家の次女でもある。そんなジュリエットが,携帯電話機能まで搭載された多機能チェーンソーを携えて,わらわらと押し寄せてくるゾンビ達を相手に大立ち回りを繰り広げるというのが,本作の大枠……というか,ほぼすべてと言っても支障はないだろう。
 基本的な操作はPS3の場合,左アナログスティックによる移動,右アナログスティックによるカメラ操作に加え,○ボタンでチアジャンプ,×ボタンでローアタック(下段攻撃),△ボタンでチェーンソーアタック,□ボタンでチアアタックとなっている。さらにL2ボタンを押すと,チェーンソーがチェーンソーブラスターとなり,R2ボタンで遠距離射撃ができるし,R1ボタンを押すと,チェーンソーを地面に刺して高速で移動するチェーンソーダッシュが発動する。

チェーンソーアタック
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チェーンソーブラスター
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チェーンソーダッシュ
チアアタック
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 なお,ゾンビを倒すための攻撃はチェーンソーがメインとなり,チアアタックではゾンビを気絶(?)させることこそできても,倒すのはけっこうキツイ。ただ,例えばチアアタックで複数のゾンビを近い場所で気絶させ,チェーンソーで一掃するといった応用もできる。
 本作では,3体以上のゾンビを同時に倒すと「スパークルハンティング」が発動し,通常より多くのゾンビメダルが得られるほか,プラチナメダルも獲得できるのだが,とくに序盤においてこれを狙うには,チアアタックをうまく活用したほうが良いような気がした。ゾンビメダルとプラチナメダルについては後述しますね。

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3体以上のゾンビを一度に仕留めると,キラキラエフェクトの「スパークルハンティング」が発動
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 そんな具合に,刃物を振り回して,敵をバサバサ斬り進んで行くという意味では,LOLLIPOP CHAINSAWは“無双的”アクションゲームではある。しかし,個人的には“斬”というより“打+斬”といった印象を受けた。
 もっと言うと,チェーンソーで攻撃を加える度に,ゾンビの肉体がスパンスパンと切り刻まれていくのだが,打撃感を同時に味わえるようなものになっている。
 これはひょっとしたら,モーターないしエンジンを内蔵したチェーンソーならではの重量感が,ゲーム的に表現されているということなのかもしれない。これが妙に気持ち良く,従来の“敵を切り刻む系”アクションゲームとはちょっと違った感触を味わわせてくれた。

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ゲームが進めば進むほど

爽快感も増していくバランス


 ただし,とくに序盤において,複数のゾンビを相手にするのが割としんどい。どううまく立ち回っても,効率良くゾンビを倒していくことができないのだ。
 それもそのはず,初期状態ではコンボが短く,さらに各種スキルも使えない。というのも本作では,ゾンビを倒したり,ゴミ箱やロッカーなどのオブジェクトを破壊したりしたときに得られるゾンビメダルを集めることで,ステージ中に点在するショップ(CHOP2SHOP.ZOM)から,コンボやスキル,能力アップアイテムなどを購入できるようになるという仕組みが採用されているのだ。
 つまり,前述のスパークルハンティングを発動して,より多くのゾンビメダルを集めていけば,より早い段階から各種コンボやスキルを習得できるというわけで,なおのことチアアタックの活用法がポイントとなるわけである。
 とはいえ,慣れないうちはスパークルハンティングを発動するのは難しいので,着実に一体一体のゾンビを倒したり,ゴミ箱やロッカーをちまちま叩いたりしてゾンビメダルを集めていけば,ある程度のコンボやスキルは購入可能なので,ご安心を。

ゾンビを倒したり,ゾンビに襲われて悲鳴をあげている人を助けたり,ロッカーなどを壊したりして,ゾンビメダルを集めよう
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 ちなみに本作は全6ステージで,中盤以降になってもザコのゾンビはザコのまま(強いゾンビも出てくるが)。しかし,きっちりジュリエットを成長させておけば,プレイヤースキルの向上と相まって,ゾンビの群れをザクザクと倒していけるようになる。そのため,スパークルハンティングだって,序盤より中盤以降のほうが出しやすい。
 言い換えれば,ステージが進むごとに上がる難度と,ジュリエットおよびプレイヤースキルの成長度合いのバランスが優れているということなのだろう。爽快感や達成感が,ゲームを進めていくごとに加速していき,ついついやめ時を見失ってしまうという作りになっているのだ。
 加えて,ストーリー展開も中盤から終盤にかけてのスピード感がたまらない。中盤以降はゲームを中断してトイレに行くことすら,ためらってしまったほどである。

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集めたゾンビメダルでコンボやスキル,能力アップアイテムなどを購入できる
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個性的すぎるキャラクター達

実は頭部だけのニックが一番まとも?


 また,本作においては個性的なキャラクター達の存在も,大きな魅力。

 ジュリエットのボーイフレンドのニック・カーライルなんて,残念なことに頭部だけである。しかも,ステージ中で拾ったりショップで購入したりできるニックチケットを使って,ニックルーレットを回せば,ニックを使った多彩な攻撃も可能(ニックルーレットの技もショップで購入できる)。また,頭部のないゾンビにニックをくっつけて,ギミックを突破するニックアクションなどもあり……と,非常に哀れな立ち位置だ(立てないけど)。
 ゲーム的にもここまで残念なことになっているのに,ストーリー展開上も常にぞんざいな扱いをされがちで,哀れにすらなってくる。それもそのはず,本作においてまともな人格の持ち主は,ニックしかいないのだ。
 ジュリエットは明るくて元気だが,わがままで自分勝手。だからニックにあんなことをしてしまうんだが,それを心底良かれと思っている節もあって恐ろしい。けど可愛いからなぁ……。

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ロザリンドにメイクをされたり,頭部のないゾンビにくっつけられちゃったりと,哀れなニック……
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 ジュリエットの姉であるコーディリア・スターリングも,どうかしている。公式設定では,「三姉妹の中でも一番のしっかり者で,何事にも冷静沈着」なのだが,妹のボーイフレンドが頭部だけということを知っても落ち着いていられるのは,冷静沈着にもほどがある。とはいえ,この性格だからこそスナイパーとしての腕前も信頼できるのだろう。途中,コーディリアが射撃でジュリエットを援護してくれるシーンは,文句なしに格好いい。

ジュリエットの姉 コーディリア
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 ジュリエットの妹 ロザリンド・スターリングは「破天荒で天真爛漫なトラブルメーカー」という公式設定なのだが,この説明では収まりきらないほど,言動が常軌を逸している。「キャハハハ」と笑いながらバスを暴走させる姿を初めて見たときには,恐怖すら感じてしまったほどだ。その暴走癖によって文字どおり道が切り開かれるシーンもあり,そのときには頼もしく思え……いや,やっぱり怖かったな。

ジュリエットの妹 ロザリンド
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 さらに彼女達の父,ギデオン・スターリングも何かがおかしい。バイクに乗って渋くキメる姿は,往年のロックスターを彷彿とさせる格好良さに満ちあふれているのだが,こと娘達のこととなると子煩悩ぶりが常軌を逸している。ニックに対してあからさまな敵意を向けたりもするし。でも,体を張って娘達を守ろうとする姿は,素敵だ。

ジュリエットの父 ギデオン
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 ほかにも,ジュリエットの師匠であるジュンジ・モリカワ,この作品の舞台をゾンビだらけにした犯人のスワンなど,一筋縄ではいかない登場人物ばかり。

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ジュリエットの師匠 ジュンジ・モリカワ
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スワン(CVは「RADIO 4Gamer」でおなじみの岡本信彦さん)

 そんな中,ニックだけは極めて普通だ。ちょっとお調子者だし,のんきなところもあるが,逆にそうでもなければジュリエット達のせいで精神的に追い詰められ,心を病んでしまうことだろう。ニックだからこそ,あんな目に遭いながらも拗ねる程度で済んでいるはず。そういえばニックは常時,ジュリエットのお尻のあたりにぶら下げられているのだが,これって要は尻に敷かれているってことなんだろうか。

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 ともあれ,プレイヤーはジュリエットを操作しつつも,ジュリエットとニックの会話に耳を貸しているうちに,ニックに感情移入をしてしまうはず。
 というか,ジュリエットは主人公でありながら,感情移入できるような人物としては描かれていない。むしろ,ニックの視点を通じて,描かれている世界(と,そこで暮らす人々)の狂気やこっけいさに触れ,最初のうちは戸惑い,しかしやがて心奪われていくといった演出が,ほぼ全編でなされている。この視点がひっくり返る瞬間もあるのだが,そこはぜひ,実際にプレイして確かめていただきたい。


一周は短いが,満足度は高く

周回プレイをしやすい総プレイ時間が,むしろ心地良い


 ゾンビを切り刻む以外にも,ステージの途中にはゾンビバスケットボールやゾンビベースボールなど,スポーツをモチーフとしたミニゲームや,「エレベーターアクション」「クレイジークライマー」といったレトロゲームを彷彿とさせるミニゲーム,チェーンソーダッシュを駆使したレースゲームさながらのギミックなどが本作には盛り込まれている。ボス戦もまた,少し頭を使った攻略が必要になっているなど,単調さを排除する仕掛けも盛りだくさんだ。
 ともすれば,“ボタン連打ゲー”に終始してしまいかねないこの手のジャンルのゲームにおいて,こうした変化球をふんだんに取り込むことによって,とにかくプレイヤーを飽きさせないように心がけられているのが分かる。

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制限時間内に,倒したゾンビの頭部をゴールに入れまくるゾンビバスケットボール
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ダイヤモンドを走るニックを,ゾンビから守るゾンビベースボール
なんとなく懐かしいにおいのするミニゲーム(ストーリー上,クリアは必須)
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 一周にかかる時間が短めに抑えられているのもまた,「飽きる暇が無い」と感じさせてくれる一因だろう。そして,ここで声を大にして強調しておきたいのは,クリアまでの時間が短いからといって物足りなさを一切感じなかったという点だ。ごく素直に「ああ,面白かった」と思えたし,しかも少し時間が経つと「もう一度やろうかな? 短いし」という気分にもなる。

各ステージの最後には,個性的にもほどがあるボスが待ち構えている
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 前述のとおり,本作ではコンボやスキル,能力アップアイテムなどは,ゾンビメダルを使って購入する形になっているのだが,これらを一周でコンプリートするのは至難の業だ。また,スパークルハンティング発動時などに入手できるプラチナメダルを使えば,ジュリエットのコスチュームを購入できるのだが,これを揃えるのも,やはり一周では不可能。
 とくにジュリエットは,コスチュームチェンジをするとイベントシーンにも反映されるので,あらゆるイベントシーンであらゆるコスチュームのジュリエットを見てみたくなるのだが,それを堪能するには周回プレイをするしかない。
 つまり,ゲーム内のさまざまな要素を遊び尽くすには,周回プレイが必須であり,周回プレイに挑もうというモチベーションを引き出す上でも,一周の短さがプラスに作用しているのである。
 ネットワークを利用したランキングシステムこそ用意されているものの,シングルプレイのキャンペーンモードをクリアしたあとは,マルチプレイで延々遊べる……といった類のゲームではないが,それでも周回プレイをしたくなるような軽さは,本作の大きな魅力といえるだろう。

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コスチュームを購入して着替えさせると,イベントシーンにも反映される。いろんなジュリエットを見たくなる仕掛けだ
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 筆者は本稿の冒頭で「インディーズ時代から応援していたバンドがメジャーデビューしたかのような印象」と述べたが,それは決して,セルアウトしたという意味ではない。
 須田作品らしさ――あくの強いキャラクター,常軌を逸した世界設定とストーリー展開,奇抜なセリフ回し,乾いた空気感,エンディング後のオチ――などは相変わらず健在だ。
 では,何が違うのかを考えていくと,プレイヤー側のキャラクター(つまりジュリエットとニック,そしてジュリエットの家族達)の人格に,屈折したところがないという点に行き着く。
 屈折した,陰のあるキャラクター設計も須田作品の魅力の一つではあったが,本作でそれらは,消し去られたのではなく,スワンを中心とした敵側に集約されている。このコントラストによって強調される明るさこそが,本作から滲み出ているメジャー感そのものではないかと,筆者は考えている。
 とはいえ,このあたりはプレイヤーによって受け取り方が異なるだろう。だからこそぜひ,本作に少しでも興味を持っている人は,実際にプレイしてみてほしい。まあほら,ジュリエット可愛いから,それ見るだけでも楽しいですよ。ってことで。

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