レビュー
前編で行えなかった検証から,「Tahiti XT」の素性を押さえる
Radeon HD 7970
(Radeon HD 7970リファレンスカード)
ただ,前編では,宿題を以下のとおり3つ残した。
- オーバークロック設定時は1GHz超の設定が可能とされるが,実際にどこまで行くのか。どの程度の性能向上を期待できるのか
- 世界初のPCI Express 3.0対応グラフィックスカードを,前編ではPCI Express 3.0設定でのみテストした。PCI Express 2.0設定時にはどういう挙動を示すのか
- アイドル時の消費電力を3Wにまで低減させるという「AMD ZeroCore Power Power Technology」に効果はあるのか
レビュー後編となる本稿では,これらを追試としてチェックしていくこととしたい。
Radeon HD 7970レビュー(前編)。アーキテクチャとプロセス技術の進化で,シングルGPU世界最速の座を奪還
AMD,新世代ハイエンドGPU「Radeon HD 7970」を発表――Southern Island世代のGPUアーキテクチャを整理する
※注意
GPUのオーバークロックは,GPUやグラフィックスカードメーカーの保証外となる行為です。最悪の場合,グラフィックスカードの“寿命”を著しく縮めたり,壊してしまったりする危険がありますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。本稿を参考にしてオーバークロックを試みた結果,何か問題が発生したとしても,メーカー各社や販売代理店,販売店はもちろん,筆者および4Gamer編集部も一切の責任を負いません。また,今回の個体で得られた動作クロックがすべての個体で有効だと保証するものでもありません。
けっこう高いオーバークロック耐性
コア1100MHz,メモリ6300MHz相当で動作を確認
GPUのアーキテクチャや基本仕様は22日に掲載した解説記事や24日掲載のレビュー記事を確認してもらうとして,さっそくテスト条件を確認しておきたい。
4Gamerのベンチマークレギュレーション11.2をベースとしつつ,11月5日掲載のテストレポートに準拠する形で「Battlefield 3」(以下,BF3)の「THUNDER RUN」シークエンスも加えたテスト内容になる点や,CPUの「Intel Turbo Boost Technology」を無効化する点も同様である。なので,設定の詳細が気になる場合は,前編をチェックしてもらえればと思う。
ただし,AMDから配布されたレビュワー向けドライバでは「Battlefield: Bad Company 2」のスコアが正常に出ないことを確認できているため,後編では同タイトルの検証を省略している。この点はあらかじめお断りしておきたい。
さっそく宿題1.のオーバークロックを試してみよう。今回は,ドライバソフトウェアである「Catalyst Control Center」(以下,CCC)に用意された“純正オーバークロックツール”である「AMD OverDrive」から,GPUクロックとメモリクロックを引き上げるという手法を選択。そのうえで,上で挙げたベンチマークテストがすべて問題なく実行できたことをもって,「安定動作」したと判断することにした。
そこで,GPUクロックを1100MHzに落としたところ,無事,安定動作を確認できた。今回テストを行ったHD 7970は,AMD OverDriveからオーバークロックを試みる限り,コアクロック1100MHz,メモリクロック6300MHz相当(実クロック1575MHz)が限界ということなのだろう。
電力コントロール設定というのは,(デスクトップPC向けGPUだと)「Radeon HD 6970」(以下,HD 6970)から採用された「AMD PowerTune Technology」(以下,PowerTune)向けの設定項目だ。TDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)の枠を超えて消費電力のリミットを変更できるというもので,設定値はマイナス20%〜プラス20%となっており,今回はプラス20%の設定を行っている。AMD OverDriveにはGPUコア電圧設定が用意されていないので,その代わりに,消費電力の余裕を持たせたというわけだ。
もっとも,「将来的に」と書いたことからも分かるように,テスト時点となる12月25日時点で入手できるRadeon BIOS Editorは,HD 7970に対応していなかったのだが。
HD 7970をPCIe 3.0で動作させるためには
PCIe 3.0対応環境が必須
続いては宿題2.のPCI Express(以下,PCIe) 3.0&2.0だが,まず,PCIe 3.0というのは,早い話が,PCIe 2.0を高速化した上位規格である。
PCIe 3.0の帯域幅は1レーンあたり片方向1GB/s――PCIeは送受信を分離した全二重(full duplex)方式なので,双方向では2GB/s――で,これはPCIe 2.0の2倍。後方互換性が保たれているため,PCIe 3.0世代のカードをPCIe 2.0環境で使ったり,逆にPCIe 2.0環境のカードをPCIe 3.0環境で使ったりすることもできる。
Rampage IV Extreme メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) news@unitycorp.co.jp 実勢価格:4万3000円〜4万8000円程度(2011年12月27日現在) |
Rampage IV ExtremeのPCIe x16スロットはPCIe 3.0対応が謳われている |
2011年末の時点で,PCIe 3.0に対応しているプラットフォームは,Core i7-3000番台+「Intel X79 Express」チップセット搭載マザーボードのみ。しかも,Core i7-3000番台の場合,正式サポートはPCIe 2.0までで,PCIe 3.0は「Capable」(利用可能)という表記に留まっている。いまこの瞬間,PCIe 3.0に正式対応したプラットフォームは存在しないので,この点は押さえておいてほしい。
なお,Intelは,2012年前半に市場投入を予定している,次世代の主力デスクトップPC向けCPU「Ivy Bridge」(アイヴィブリッジ,開発コードネーム)で,PCIe 3.0を正式サポートする見込みである。
オーバークロックでHD 6990に迫るHD 7970
PCIe 3.0と2.0の違いはあまりない
宿題3.の消費電力周りは後ほど検証することにして,まずは,
- コア1100MHz,メモリ6300MHz相当で安定動作したときのスコアを「HD 7970@1100MHz」
- Rampage IV ExtremeからPCIE_X16_1 Link Speed設定をGEN2としたときのスコアを「HD 7970(Gen.2)」
とそれぞれ表記することにしつつ,3D性能の追試を行っていきたい。
マザーボード側のPCIe設定をGEN3としたときのHD 7970と,比較対象の「Radeon HD 6990」(以下,HD 6990)と「GeForce GTX 580」(以下,GTX 580),それにHD 6970のスコアはいずれもレビュー前編のものを流用するので,その点はあらかじめご了承のほどを。
では,グラフ1の3DMark11から見ていこう。
HD 7970とHD 7970(Gen.2)で,スコアの違いはほとんどない。3DMark 11,とくにExtremeプリセットは,相応に“重い”テストなのだが,それでもPCIe 2.0 x16の帯域幅があれば十分ということなのだろう。
一方のHD 7970@1100MHzは,HD 7970よりも14〜16%高いスコアを示し,HD 6990に対して92%にまで迫った。
続いてグラフ2〜5は,STALKER CoPの「Day」と「SunShafts」,2つのシークエンスにおける結果をまとめたもの。やはり(PCIe 3.0接続の)HD 7970とHD 7970(Gen.2)の違いはほとんどなかった。
一方,HD 7970@1100MHzのスコアはHD 7970と比べて4〜16%高く,より描画負荷の高いSunShaftsのほうで,オーバークロックの効果が顕著に出ている。また,SunShaftsの「標準設定」でHD 7970@1100MHzがHD 6990に最大31%という大差を付けている点も見逃せないところだ。
レビュー前編ではドライバの最適化が望まれるとしたBF3のテスト結果がグラフ6,7で,ここでもHD 7970とHD 7970(Gen.2)のスコアに大きな違いはない。
オーバークロック設定でシングルカード時から15〜16%スコアを伸ばすのは,3DMark 11やSTALKER CoPと同じ。HD 6990に対してはあと17〜11%に迫り,逆に対GTX 580では8〜27%の差を安定的に付けている。定格動作のHD 7970だと,(ドライバ周りに問題があるかもしれないとはいえ)GTX 580といい勝負だったので,BF3においてオーバークロックには意味があるといえそうだ。
PCIe 3.0動作とPCIe 2.0動作とで,ここまでとは異なる結果になったのが,グラフ8,9にスコアを示した「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)である。
HD 7970とHD 7970(Gen.2)のスコア差は,2〜8%。今回のテスト条件中,最も描画負荷が低く,いきおい,最も平均フレームレートが高く出る,「標準設定」の1920×1080ドットで最大のギャップが生じたことに注目しておきたい。
要するに,DirectX 10&11では,グラフィックスカード上でデータのやり取りを完結させようとする傾向が強いのに対し,カードの“外”からデータを持ってきて,レンダリングパイプラインに流し込んでいくようなDirectX 9では,GPU性能に応じて素直にスコアが伸びていくような局面において,転送されるデータの量も多くなる。それがいきおい,PCIe 3.0接続のメリットとして出てくるということなのだろう。「データ転送量がグラフィックス処理よりも多くなるGPGPU用途で,PCIe 3.0のメリットが出そうな気配が感じられる結果」とも言えそうだ。
「Just Cause 2」の結果がグラフ10,11となるが,ここでHD 7970とHD 7970(Gen.2)のスコアはほとんど変わらず。HD 7970@1100MHzは,HD 6990に対して1920×1080ドットで7〜10%高く,2560×1600ドットで7〜9%低いという,いい勝負を演じている。
グラフ12,13の「Sid Meier's Civilization V」(以下,Civ 5)は3DMark 11と似た結果になった。高負荷設定でHD 7970@1100MHzがHD 6990にあと一歩のところまで迫っている。
Call of Duty 4ほど“軽い”わけではないにもかかわらず,HD 7970とHD 7970(Gen.2)とでスコア差の生じたのが,グラフ14,15の「DiRT 3」だ。
ここで両者の違いは3〜6%。DiRT 3の場合,ゲームエンジンの根幹はDirectX 9ベースで,DirectX 11のエフェクトは補助的に使われていることを考えるに,Call of Duty 4と同じような現象が生じているということなのかもしれない。
なお,HD 7970@1100MHzは,HD 7970からスコアを15〜18%伸ばし,HD 6990比で93〜94%のところまで迫った。
オーバークロックで消費電力は最大45W増加
アイドル時にはZeroCoreの効果を確認
オーバークロックはパフォーマンスを高める一方で,消費電力が増大してしまう諸刃の剣でもある。実際,消費電力はどの程度増えるのか,前編と同じ条件で消費電力を計測した結果がグラフ16だ。
アプリケーション実行時で比べると,HD 7970@1100MHzの消費電力は,HD 7970よりも22〜45W高い。ただ,それでもGTX 580と同等か若干高い程度で済んでいるため,オーバークロックの代償が極端に大きすぎるわけでもない印象は受ける。
なお,HD 7970とHD 7970(Gen.2)で,消費電力の違いは生じていない。
ZeroCoreというのは,Windowsの「ディスプレイの電源を切る」設定と連動する省電力設定で,アイドル時にディスプレイの電源がオフになり,「ロングアイドルモード」と呼ばれる状態へ移行したとき,PCI Expressインタフェース以外の給電をカットすることにより,カードの消費電力を3Wにまで低下させるというものだ。
そこで,ZeroCore無効時と有効時におけるアイドル時の消費電力を追ってみた。その結果がグラフ17で,HD 7970では,アイドル時の消費電力がZeroCoreにより12W下がったことを見て取れよう。HD 7970のアイドル時における公称消費電力は13Wで,ZeroCoreが有効になるとそこからさらに10W下がると謳われているわけなので,ほぼ公称値どおりの消費電力低減が実現されていると見てよさそうだ。
その一方で,HD 7970@1100MHzは,ZeroCoreを有効にしたロングアイドルモード時でも100Wと,消費電力の低下をほとんど確認できなかった,オーバークロック設定を行うとZeroCoreが無効化されるのかもしれない。
最後に,3DMark 11の30分間連続実行時点を「高負荷時」として,アイドル時ともども,TechPowerUp製のGPU情報表示ツール「GPU-Z」(Version 0.5.7)からGPUの温度を取得したものがグラフ18となる。
HD 7970@1100MHzのGPU温度は高負荷時でも78℃と,定格動作からさほど上がっていない。持ちこたえているともいえるが,実のところ,これはオーバークロック設定時にGPUクーラーに搭載されるファンの回転数が大きく上がるためである。
筆者の主観であることを断りつつ続けると,HD 7970@1100MHz設定におけるGPUクーラーの動作音は相当うるさい。リファレンス仕様のHD 7970をオーバークロック設定で使う場合,動作音を我慢しなければならない可能性があることは憶えておきたいところだ。
費用対効果を考えるとPCIe 2.0環境でも十分
オーバークロックはGPUクーラー次第か
以上,宿題を終えてみた。
まず,特定の条件下を除き,HD 7970ではPCIe 2.0接続でも十分に高い性能を発揮できる。Core i7-2000番台やPhenom IIなどをベースとしたPCIe 2.0環境の人が,そこにHD 7970カードを差したとしても,問題なくそのポテンシャルは発揮させられるわけだ。
もちろん,置いて行かれるケースがないわけではないが,その差は数%程度。費用対効果を考えずに万全を期すのであればPCIe 3.0環境のほうが理想的であるものの,多くのゲーマーにとって,そこまでする必要はまずないと思われる。
また,ZeroCoreも,使い方次第では意味がある印象だ。今回はHD 7970カードを1枚しか用意できなかったので,「CrossFireX構成時に,セカンダリ以降のカードをロングアイドルモードへ移行させる」というテストは行えていないが,使っていないときの消費電力が下がるのは歓迎すべきと感じた。
……というわけで,HD 7970は全体として,かなり素性のいいGPUに仕上がっている。実際にどの程度市場へ供給されるのかとか,新世代アーキテクチャに向けたドライバの十全な最適化にどれくらいかかるのかとか,不安がないわけではないが,やはりこれは買いだろう。
AMDのRadeon HD 7970製品情報ページ(英語)
- 関連タイトル:
Radeon HD 7900
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