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[CEDEC 2012]短期間,少人数で新規IPの背景美術を完成させたマネジメント。「GRAVITY DAZE」,“LivingBackGround”を考慮したワークフロー
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印刷2012/08/22 16:51

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[CEDEC 2012]短期間,少人数で新規IPの背景美術を完成させたマネジメント。「GRAVITY DAZE」,“LivingBackGround”を考慮したワークフロー

 CEDEC 2012の2日目(2012年8月21日),「PlayStation Vita『GRAVITY DAZE』でのLivingBackGroundを考慮した背景ワークフロー」と題した講演が行われた。

画像集#029のサムネイル/[CEDEC 2012]短期間,少人数で新規IPの背景美術を完成させたマネジメント。「GRAVITY DAZE」,“LivingBackGround”を考慮したワークフロー

 すでに,今回のCEDECでは「GRAVITY DAZE/重力的眩暈:上層への帰還において、彼女の内宇宙に生じた摂動」(以下,GRAVITY DAZE)関連の講演がいくつか行われているが,ここでは同作のアートディレクター,テクニカルアーティスト,背景チーフを兼任した山口由晃氏が登壇。実際にゲーム内の背景が制作されていったワークフローを基に,背景制作の専門的な話から,ほかの職種にも応用可能な人員運用のノウハウに至るまで,実用的な話がたっぷりと語られた。

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限られた条件のもと,スタッフに3人月分の力を発揮させる方法


山口由晃氏
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 まず,GRAVITY DAZEの背景の制作にあたって山口氏は,ディレクターの外山圭一郎氏から受け取った「重力の仕掛け」「バンド・デシネ」(フランス圏を中心とした漫画)などのテーマを元に目標を定めていった。「一瞬見たときに,GRAVITY DAZEの絵を忘れられない。そういったものが出来上がれば最高なんじゃないか」といった意気込みで制作に臨んだと話す山口氏は,圧倒感,物量感,高級感といった画面のインパクトに結びつく要素をとくに重要視したという。

 こうして目標は定まったものの,実制作にあたって人員運用の課題が生じた。GRAVITY DAZEは新プラットフォームの牽引役を担う新規タイトルとして,インパクトのある作品にしなければならないが,その背景は短期間に少人数で作ることを求められたからだ。開発を振り返って山口氏は「本当に大変だった」と述べつつも,背景の完成に至るまでに試みたさまざまな工夫の一例を説明する。

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 山口氏は,実を言うとセクションごとに細かくリーダーを決める……という一般的によく見る開発体制について,「本当に効率的なのか?」と以前から疑問を感じていたという。そして,「賛否両論があるだろう」と前置きしつつ,「リーダーを作るということは,その人に責任を預けるということで,その人が役割に適していないと失敗する。(それを選ぶところから始めるというのは,)実はすごく時間のかかる作業じゃないか?」と持論を述べた。GRAVITY DAZEは短期間での制作を求められるプロジェクトだったので,失敗した際のリスクの大きさを危惧していたそうだ。

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 そういったリスクに対する直接の解決方法ではないものの,GRAVITY DAZEの制作で,山口氏は「2人がペアになる仕組みを入れる」「全員にリーダー思考の考え方をもたせる」,といった仕組みを取り入れた。

 例えば同じ内容の仕事を別々の人に頼んだとする。AさんとBさんの2人に頼んだ場合,その仕事により適している方がクオリティの高い成果物を上げてくる。だが山口氏によると,2人ペアのAチームとBチームに同じ仕事を頼んだ場合は,いずれのチームからもクオリティの高いものが上がってきたそうだ。こういった結果は,チーム同士の対抗意識が芽生えたこと,チーム内の2人がお互いの能力を補い合ったこと,そしてパートナーがいることでサボらなくなるといった相乗効果が得られたからだろう……と山口氏は分析する。

 また「全員にリーダー思考の考え方をもたせる」という意図から,ほとんどの背景スタッフが,背景のモデリングからコリジョン(当たり判定)に至るまで,すべての作業をできるようにしたそうだ。これによるメリットは山口氏が予想していた以上に大きかったらしく,自分が担当していない仕事に対する視野が広がったことで,開発現場でも意見が多く交わされるようになったという。

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 また,「1人月」(1人が1か月間に行う仕事量)の捉え方についても,「1人に3人月分の能力を引き出す」ための工夫を行ったという。それは「本人が何を求めて仕事しているかをリサーチして,やる気を引き出す」という方法だ。人が求めているものには,お金や地位,名誉など,いろいろなものが考えられる。たとえばプロジェクトの最初に山口氏がプログラマーと会話したときには,「世界一を目指しましょう。世界一を取ったら,ドーンと大きいところで発表をしましょうよ!」といった話題をとおして,実際に相手の目の色が変わっていくのを実感したという。

 本人がやる気を出して取り組んでいるならば,電車の中や自宅でも仕事のことを考えるようになるし,上司が見ていないところでサボることもなくなる。そして,何よりも仕事自体を楽しんでくれる。山口氏は「時間外労働を推進しているわけではない」と注釈を加えつつ,こうしたメリットの大きさを強調した。


専用ツールの導入で実現した,高速なファイル運用


 続いての話題は,ファイル運用とツールの実例について。ファイル管理は「簡単だけど重要な話」と,今回のセッションの中でも山口氏がとくに重要性を説いていた部分だ。

 山口氏は,過去に何度かオープンワールドのタイトルの開発を経験している。その経験上,背景スタッフは開発終盤になると処理負荷対策のためにポリゴンを切り詰めるといった「泥臭い作業」を延々とやることが増えるのだという。そこでGRAVITY DAZEの制作においては,パラメータを入力するだけで簡単に処理負荷が変わるようなシステムを導入した。このシステムは,優秀かつ理解してくれるプログラマーの協力なしでは成り立たなかった,と山口氏は述べる。

 また,セッションの冒頭で「物量感」という目標が挙げられていたことからも分かるように,本作では画面内に大量のオブジェクトを配置することを目指していたそうだ。これを実現できたのは,画面奥のオブジェクトをうまく消して,手前に100個や200個のオブジェクトを配置する,という手法をとったからである。

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 具体的なシーンの構成としては,それぞれの街を80メートル立方のエリア単位(1つの街を構成するのは12〜32エリア)に分割。そしてその中にビルや看板などのオブジェクトを,入れ子構造のように配置(1000〜2000個)している。

 ここで使われるようなモデルデータは,メッシュやマテリアル,LODなど,さまざまなデータを含めて構成されており,こういったファイルアセットが5000を超える個数で存在した。

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 そのため,本作の開発では,膨大な数のファイルアセットを共有して管理する必要があったのだ。開発人数や期間の制限も存在するため,こういった管理は可能な限り高速化してしまいたい。

 そこで,実際の開発において山口氏は,「ファイル管理の高速化」をコンセプトにおいたツール「FileOpener」の開発をプログラマーに依頼した。こういったツールはさまざまな現場で開発されているだろうが,FileOpenerにおいて山口氏が目指したのは「コミュニケーション能力を高める」すなわち「第三者が見ても何のファイルかが分かるようにする」ことだった。

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 FileOpenerは,ファイルを各セクションのタブに分類し,さらにセクション内でもフォルダ名をわかりやすく表記して管理できる仕組みをとっている。そのため,プランナーが背景等のデータを参照するとき,担当者に「このファイルってどれを開けばいいの?」といちいち質問するようなことも起こらなかったそうだ。

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 このほかにも,現場で必要とされる機能がいろいろと搭載されている。例えばMayaはデフォルトでサムネイル表示をサポートしていないため,開いているシーンのサムネイルをキャプチャしてアセットに自動アップロードする,といった機能をFileOpener側に搭載したという。

どんなツールも使い勝手が悪ければ作業効率は落ちてしまうので,起動スピードも非常に重視したそうだ。実際起動スピードを上げただけでツールが利用される頻度も増えたとのこと
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 なお,GRAVITY DAZEの開発では,シーンを構築するためにMayaデフォルトと本作独自規格の2つのリファレンスが用いられている。こういったリファレンスデータの読み込みも,FileOpenerの導入によって手軽さが増したそうだ。

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 一方,インスタンスを配置するためにも専用のツールを開発したそうだが,これは山口氏の中でも反省点があったという。当初作られたツールは多機能に作られていた分,起動に時間がかかりすぎたため,「簡単にファイルにアクセスできる」という目標とは合致せず,結果的に利用する人が少なかった。結局,大急ぎで起動スピードの速さを追求したツールを再度作ることになってしまったそうだ。

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 ファイルのコンバート後の流れについても,山口氏なりの手法がここで紹介された。開発現場では,Mayaからコンバートしたファイルを,そのままプログラマーやプランナーなどが参照できる場所に置くことが多い。しかし,山口氏の手法では,各スタッフのもとで出力したファイルは「未承認」のものとして,各セクションのチーフのもとへ一旦転送する,というステップが加わっている。そして,チーフ(もしくはチーフが許可した人物)が各ファイルを承認した時点で,初めてほかのパートにもファイルが配られるのだ。

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 この手法には,誰が上げたかわからない不正なデータによって実機が止まってしまった……というようなトラブルを未然に防げるメリットがあるのだが,山口氏によると,この手法は「面倒くさい」と賛否が分かれるという。

今回のプロジェクトでは承認のプロセスを円滑に進めるため,ファイル転送用のツールも開発されている
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コリジョンやフォグの表現にもみられる工夫

オープンワールドにおけるLivingBackgroundの今後


 次に,実例とともに説明が行われたのは,Havokを用いたコリジョンについて。山口氏は「背景アーティストは,その場所に主人公を立たせて,世界を感じさせるところまでが仕事」という考えのもと,あえてコリジョンのみの担当を作らず,背景スタッフに兼務をさせた。背景スタッフがコリジョンを覚えたことで,山口氏が思わず「そこまでやらなくてもいいよ」と言ってしまうような部分に至るまで,各スタッフが非常に楽しみながら作ってくれたそうだ。

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 そして,山口氏が「GRAVITY DAZEの表現のコア」と語る,独特な背景の表現の話に移る。山口氏は,この作品で漫画的な線や,バンド・デシネでよく見られる美しいグラデーションなどを表現したいと思っていたそうだ。とくに,遠景に関しては「輪郭線のみを表示する」という一風変わったデフォルメの方法がとられているが,こういった描き方は「デフォルメするということは,リアルなんじゃないか」という山口氏の持論から生まれたアイデアだ。

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 例えば,実際にはありえないような目の大きさをしたキャラクターなども,知覚的には「リアル」に感じているからこそ,違和感を覚えることがない。また,リアルなものに対してはどこを見ればいいか分からなくなることもあるが,記号的なデフォルメの場合は,見るべき場所をプレイヤーに明確に伝えられるメリットがある。そのため山口氏は「人が意識できることを補佐する表現方法」としてのデフォルメに面白さを感じているそうだ。

実際のゲーム内では,遠景にフォグを加えて線描やブルームといった処理がなされている
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ポストエフェクトの値はXMLで管理。プリセットの値を用意することで,個々のパラメータの入力を簡略化している
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これまで紹介された以外にも,必要に応じてさまざまなツールが用意されたそうだ
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 最後に,山口氏が「自分がBG(背景)でやりたいこと」と述べる“LivingBackground”についての考えが語られた。

 LivingBackgroundは,ゲームでしか表現できないインタラクション性をもった背景のこと。山口氏自身にも説明が難しい概念だそうだが,「見えるところには行ける」「至るところには立てる」「存在するものには干渉できる」という表現をとおして,「その場所に実在する」感覚を注ぎ込むことだという。そしてこの概念を考慮して,GRAVITY DAZEの背景は作られているのだ。

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 山口氏は,ここ最近のオープンワールドのゲームで,マップが広大化している傾向に疑問を抱いているそうだ。マップが大きくないからこそ,道を覚えることができる。道を覚えているからこそ,敵が出てきたときに「ここから行けば良い」と,マップ全体を戦略として捉えてプレイできる。マップの広さは,「人間が覚えられるくらいの規模であることも重要ではないか」と述べて,山口氏は講演を締めくくった。

「GRAVITY DAZE/重力的眩暈:上層への帰還において、彼女の内宇宙に生じた摂動」公式サイト

  • 関連タイトル:

    GRAVITY DAZE/重力的眩暈:上層への帰還において、彼女の内宇宙に生じた摂動

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