インタビュー
大人が楽しめるエンターテイメントを届けたい――「NINJA GAIDEN 3」の早矢仕プロデューサーが考えるアクションゲームの形とは
プレイヤーを支援するプレイスタイル「HERO」や,主人公リュウ・ハヤブサの人間としての部分をフィーチャーしたストーリーなど,本作はこれまでのシリーズとは異なったアプローチを見せる作品だ。
こうした要素が,なぜ取り入れられたのか。今回,本作の発売を前に,Team NINJAで本作のプロデューサーを務める早矢仕洋介氏にインタビューしてみた。氏がTeam NINJAとともに「新たに目指したもの」とは?
「NINJA GAIDEN 3」公式サイト
レーティングとは別のところで勝負する“大人”が楽しめるゲーム
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。これまでE3やTGSなどでも,いろいろとお話を聞いてきた「NINJA GAIDEN 3」ですが,発売が近づいてきましたね。
ええ,いよいよです。今回のインタビューでは,せっかくゲーム発売直前という機会ですので,NINJA GAIDEN 3でTeam NINJAが新たに目指したものを,お伝えできればと思っています。
4Gamer:
分かりました。では,さっそくですが本作について,お話を聞かせてください。まず,新たに目指したものというのは?
早矢仕氏:
今回のNINJA GAIDEN 3は,これまでのシリーズに沿ったアクションゲームで,ナンバリングタイトルではありますが,これまでとは異なった意図で制作されています。キッカケは,私自身もそうだったのですが,ゲームショップで棚を眺めてみたときに,我々のような大人に向けたゲームがないという印象を持ったことでした。
4Gamer:
大人というのは,おそらく20代ではなく,30代,40代以降を指しているんですね。
早矢仕氏:
そうです。ゲームが大好きではあるけど,今あるゲームにはいまひとつ満足できない,そういった大人にしっかりと届けられるアクションゲームを目指して,NINJA GAIDEN 3の制作を進めることにしたのです。
4Gamer:
CERO Zにおける四肢破損だったりという,表現的なことではないですよね。
早矢仕氏:
ええ。いわゆるCEROレーティング基準の表現における大人向けではなく,メッセージ的な部分で,大人に向けたエンターテイメントであるということをお伝えしたかったんです。
別に大人の価値が,セクシャルやバイオレンス表現だけで判断できるものではありませんから(笑)。
4Gamer:
それが大人のすべてと言われると,ちょっと嫌ですね(笑)。単純に考えれば,映画や小説,漫画でも,いわゆる成人向け(18禁)ではなくて,大人向けの物語と評される作品はいくらでもあります。
早矢仕氏:
まさにそれです。ゲームでも同じようにできるはずなんですよ。だからこそ,今の時代の大人にも向けたエンターテイメントを,NINJA GAIDEN 3で伝えてみたいと考えたんです。
4Gamer:
最近で言えば「HEAVY RAIN」あたりがそうでしょうか,海外作品では見かけると思うんですが,日本ではたしかに「大人向け」の作品はそう多くはないかもしれません。では,NINJA GAIDEN 3における「大人向け」とは,どのようなものなのでしょう?
早矢仕氏:
「NINJA GAIDEN」シリーズは,刀で敵を斬って進んでいくアクションゲームです。斬る敵には人もいますから,極端な話,人殺しを重ねることで目的を果たしています。
当然,現実世界では決して許されないことですし,ゲーム中の主人公であるリュウ・ハヤブサも,人を殺すことで何らかの苦悩を背負っています。しかし,そういった描写については,これまで見過ごされてきました。
4Gamer:
忍者だからこそ感情を抑えていたというのもあると思うんですが,冷酷で機械的に敵を斬っていくイメージを持ってました。つまり,敵を殺すということの苦悩を描いていくことで,ハヤブサの人間的な部分を表現すると。
早矢仕氏:
そういうことになります。実はある場所で,ハヤブサがマスクを脱ぐ瞬間があります。これまでのシリーズで,忍者として感情を押し殺していましたが,彼がマスクを脱ぐことで,プレイヤーが人間であるハヤブサを目撃するという意味を込めたものになっているんです。
4Gamer:
超忍リュウ・ハヤブサではなくて,人間リュウ・ハヤブサがある意味初めて登場するわけですね。一方で,忍者としての格好良さみたいなものが損なわれないかなという心配もありますが。
早矢仕氏:
そこは大丈夫です。例えば,「007」シリーズのジェームズ・ボンドはかつて,髪の毛をカッチリと固めて,女にモテモテで,表情も崩さないパーフェクトなスタイルで一世を風靡しました。でも,それが最近ではちょっとダサく映ってみえるんですよね(笑)。現在,ダニエル・クレイグが演じているボンドは,髪の毛も固めていないし,女には振られるし,泥だらけになって死にかけたりして,でも,その人間くさいところは,ちゃんと格好良いんですよ。
4Gamer:
あー,そういうのはありますね。
早矢仕氏:
このNINJA GAIDENも,シリーズの歴史を重ねてきたからこそ,今の時代とズレてきていると感じました。ですから,本作でハヤブサを人間くさく見せることで,大人が楽しめる現代のヒーローとして描けるのではないかと考えています。
4Gamer:
人間らしさを見せることで,主人公の心情や心理の深い部分が伝わる,なんというか日本映画的なエンターテイメントを表現しているようにも感じます。ゲーム中で,どんなハヤブサが見られるのか,とても楽しみです。
忙しい社会人からコアゲーマーまで楽しめるゲームデザイン
4Gamer:
本作が大人にも向けられたエンターテイメントであるということは,分かりました。その一方で,NINJA GAIDENシリーズは難度が高いというイメージが浸透していますよね。実際にどのシリーズ作品も難しくて,クリアするのが大変です。自然とクリアできるまでのプレイ時間も長くなるので,社会人プレイヤーには少々ハードルが高く感じられて,敬遠されてしまう可能性があります。
もちろんシリーズの最新作ですので,これまでどおりのハードコアなアクションも体験していただけるようになっていますが,社会人プレイヤーでも楽しめるように,本作では難度とは別にプレイスタイルという設定を用意しています。それがこれまでもご紹介してきたプレイスタイル「HERO」です。
4Gamer:
「HERO」は,PS Vita版「NINJA GAIDEN Σ PLUS」で追加されたものですよね。
早矢仕氏:
それとほぼ同じものです。改めて説明すると,プレイスタイルの「NINJA」を選択すると従来どおりのハードコアな体験ができ,「HERO」を選択するとプレイヤーキャラクターの体力が一定値以下まで減ったときに,自動的に敵の攻撃をかわしてくれるというものです。
4Gamer:
E3のインタビューで「EASYは屈辱的」「EASYではなく別のアプローチを」と話していましたが,これが答えなんですね(関連記事)。
早矢仕氏:
そうですね。ちなみにHERO設定のときでも,敵の行動ルーチン自体はNINJA設定と変わらないのですが,なぜこのようにしたのかというと,例えアクションが苦手だとしても,単純に敵が手を抜いて攻撃してこなくなるだけというのは,プレイする側もなんとなく腹立たしいじゃないですか(笑)。
4Gamer:
「敵が手を抜いているんだよ」と言われると,確かになんか腹立たしい(笑)。なるほど,その意味で「屈辱的」なんですね。
早矢仕氏:
だからアクションゲームの最低限の面白さはちゃんと残して,腕を磨く時間のない方でもしっかりアクションが体感できて,ストーリーを最後まで楽しめるという仕様にしたわけです。
設定はプレイしている方ご自身でいつでも変更できますので,例えばどうしても倒せないボスがいるときなどは,設定をHEROに変えて,倒したあとに戻すといったプレイも可能です。
4Gamer:
途中でプレイスタイルを切り替えた場合,例えばトロフィーや実績などはどうなるんでしょうか。
早矢仕氏:
ステージごとに,どのプレイスタイルで挑戦したかが記録されます。
4Gamer:
ということは,一時的にHEROに設定して,クリアするまでにNINJAに戻しても,得られるのはHEROでクリアしたという結果なんですね。
早矢仕氏:
そうなります。ちなみに難度という意味では,より難しいチャレンジしがいのある設定も用意していますので,本気で挑んでみたいというプレイヤーのみなさんもご安心ください。
4Gamer:
社会人からコアゲーマーまで,幅広くフォローされてるわけですね。
ところでNINJA GAIDENシリーズのナンバリングとしては前作のXbox 360版「NINJA GAIDEN 2」から,ほぼ4年ぶりの新作となるわけですが,今回のようなテーマを目指すことを決めたのは,いつごろからだったんですか?
早矢仕氏:
前作の発売後,次を考える段階に入ったときに,誰もが思いつくような続編の要素が追加された新作を,はたして我々も遊びたいのか? と考えたんです。我々が遊びたい新作はそれじゃないだろうという意識から,今回の企画がスタートしています。なので,このテーマ自体もかなり初期の段階から存在していましたね。
4Gamer:
それは先ほどのお話にあった,大人に向けたゲームもですか?
早矢仕氏:
大人に向けたゲームというのは,このころはまだ漠然としていました。例えば刀を使ったアクションなのだから,これまで以上の“斬りごたえ”のようなものを加えたい……でもそういう手ごたえを感じるために,そこに斬った相手に対する苦しみや業のようなものがあってもいいよね,というのを膨らませていったわけです。
4Gamer:
そうして生まれたアイデアが,敵の骨を感じる「断骨」であったり,敵を斬っていくことで苦しんでいく呪い「殺戮の凶手」だったりするわけですね。ほかに,今回ゲームデザインを考えるうえで,工夫した点はありますか?
早矢仕氏:
アクションゲームって,ストーリー部分とアクション部分が分かれていますよね。NINJA GAIDENシリーズも同じで,特定のボスを倒すとリザルト画面が出てデモシーンがあって次のステージへ,というのが基本でした。でも,いざゲームに没入しようと思うと,それが煩わしく感じることもあるので,自然な一体感を感じてもらうために,不必要なものは一切取り払おうということになりました。
4Gamer:
それは戦闘からデモシーンへ,そしてまた戦闘へと移動するシームレスな展開という感じになるわけですか。
早矢仕氏:
ええ。リザルト画面って,最初のプレイのときには必要のない情報だと思うんです。ですからゲームを最初にデフォルトの難度でプレイする場合は,それが出ません。
4Gamer:
たしかに,初回プレイはスコアを気にせずに,ストーリーに集中したいかもしれません。むしろ,リザルトが必要になるのは,その後のやり込みでしょうね。
早矢仕氏:
そうです。リザルトは,難度を上げることで表示されるようになっていますので,ぜひ挑戦してもらえればと思います。これは,今までのアクションゲームにあったさまざまな要素を否定するのではなく,整理することで複数の遊び方を用意した,というのが正しいかもしれません。
前作を知らなくてもストーリーは大丈夫
龍剣以外の武器はDLCで無料配信
4Gamer:
本作はタイトルのとおり,ナンバリング3作目となりますよね。今回初めて遊ぶプレイヤーも当然いると思うのですが,お話を聞いているとハヤブサのストーリーを重視しているようですし,前作を知らない人でも楽しめるのかという,シリーズ作品だからこその心配もあります。
本作を体験していただくうえで,過去作品は知らなくともプレイできるようなストーリー設定をしています。アクションも基本はチュートリアルを用意していますので,マニュアルを読まなくても,しっかりと最後まで楽しんでいただけると思います。
もちろんシリーズを遊んできた方にも,ゲーム中に細かなネタをたくさん仕込んでいるので,ぜひそこは見つけて楽しんでいただきたいです。
4Gamer:
これまでのシリーズでは,龍剣以外にもさまざまな武器が登場しましたが,ほかの武器は今回登場するんですか? 今作ではテーマの1つに「斬りごたえ」があったりと,刀での攻撃がメインになっているようですし。
早矢仕氏:
おっしゃるとおり今回のストーリーは,刀が密に絡んだものになっています。ですので,敵のバリエーションも,刀でのアクションを基準とした調整にしています。
一方で,NINJA GAIDENシリーズには,いろいろな武器で遊ぶというフィーチャーがありますので,今回はハヤブサの刀以外の武器については,発売後に無料でDLCを配信する予定です。
4Gamer:
最初は,刀でストーリーを堪能して,それをクリアした頃に,新しい武器が配信されるといった感じになるんですね。
早矢仕氏:
そうなると思います。いったんクリアしたあと,違う武器で遊んでみたいという人は,そちらをお楽しみいただければと思います。
オンライン対戦プレイには,忍者らしいアクションを素直に導入
4Gamer:
本作のもう一つの目玉として,オンライン対戦プレイがありますよね。事前にオンラインに絞ったメディア体験会を行うなど,こちらも非常に力を入れているという印象がありました。
早矢仕氏:
多人数でのオンライン対戦プレイって,シューターの専売特許みたいなところがありますよね。
4Gamer:
コンシューマゲームに限って言えば,確かにシューターの独壇場ですね。
早矢仕氏:
そういう常識が現在のプレイヤーさんの間にも浸透していて,本作の対戦プレイを発表したときに,「必要ない」という反応も聞こえてきたんです。でもそれは,今までそういうタイトルがあまりなかったからイメージしにくいだけだと思っています。
実際に作って遊んでみたら面白いんですよ(笑)。それにNINJA GAIDEN 3の対戦プレイは,決してシビアなゲームシステムではなく,みんなで空き地に集まってワイワイ遊んで楽しめるものになっていると思います。
4Gamer:
体験会で遊ばせてもらいました。「大人向け」とは少し離れる気がしますが,オンライン対戦プレイって,箱庭の中で刀を持って,みんなで「忍者ごっこ」をしているような感覚がありました。
早矢仕氏:
そう,ごっこなんですよね。だから気軽に遊べるんですよ。シビアな対戦ゲームは,「DEAD OR ALIVE 5」という格闘ゲームがありますし,NINJA GAIDEN 3ではもっと気楽に楽しんでいただければ幸いですね。
4Gamer:
とは言っても,ルールやアクションの落としどころは非常に考えられていて,いかにも忍者らしい駆け引きが楽しめますよね。
単純に忍者と聞いてみなさんがイメージするものを素直に導入した結果でしょうね。
クナイで壁に登ったり,ムササビのように飛んだり,姿を消して敵を倒したりと,子供の頃の忍者ごっこで誰もが思いついたものを入れてみたら,シューターとはまるで違う対戦プレイが完成したということです(笑)。いい意味で想像できなかった感覚だと思いますので,発売後にはぜひ遊んでみてほしいです。
4Gamer:
シリーズで初めてとなる,オンライン対戦プレイということで,楽しみ方のアドバイスなどはありますか?
早矢仕氏:
画面の右下に,“密書”というプレイヤーごとに違うミニミッションが表示され,それをクリアすると“カルマ”という経験値がもらえるようになっています。密書にはチュートリアル的な意味合いもあるので,クリアすることでマルチプレイの遊び方が分かるようになっているので,密書に書かれていることを続けていれば,悪いことはないと思います。ただ,密書をこなすばかりだと,チームの勝利に貢献できるか分かりませんけれど(笑)。
4Gamer:
体験会では「味方を裏切れ」という指令が出されたり,バトルロイヤルが始まったりするのには驚かされました。
早矢仕氏:
あの裏切りやバトルロイヤルは,忍者漫画の「あずみ」からイメージしたものなんです。
4Gamer:
あー,なるほど!
早矢仕氏:
物語の序盤で,幼なじみの男の子と殺し合わなければならないシーンがありましたよね。それをゲームにしたら,どうなるだろうということで入れてみたんです。
4Gamer:
仲良くチームを組んでいた相手と突然殺し合いをしなくてはならないという,忍者の業のようなものをすごく感じることができました(笑)。でも,ああいったランダム性のあるイベントのおかげで,シューターのマルチプレイにはない面白さが生まれているように思いました。
早矢仕氏:
シューターの場合,シビアに実力が反映されてしまうシステムやルールが多いですからね。せっかくなので我々はそういったものが突然ひっくり返るような要素を入れてみたんです。
かなりいろいろと仕掛けています。続けて遊んでいればさらに面白いことが発生するかと思いますので,じっくり遊んでみてください。
4Gamer:
どんな仕掛けがあるのか楽しみです。では,最後に発売日に向けて,メッセージをお願いします。
早矢仕氏:
まずは食わず嫌いせずにプレイしてください。
今回のお話で,我々の思いばかりをお伝えしましたが,ゲームは最終的にはプレイしていただいた方がどう感じていただいたかがすべてです。NINJA GAIDEN 3については,みなさんが遊び終わったときに,とにかく何かしらの記憶として残るものを意識して,Team NINJAが一丸となって制作してきました。
PlayStation 3やXbox 360で,大人も楽しめるエンターテイメントとして完成していますので,ぜひそれをゲームから感じ取ってほしいと思います。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
「NINJA GAIDEN 3」は,早矢仕氏をはじめ,Team NINJA開発陣がこれまでのシリーズとは方向性の異なるこだわりを注ぎこんだ作品となっている。
「忍者龍剣伝」からのファンだというアラフォーゲーマー,忙しくて最近あまりゲームを遊べていない,ほどほどにゲーム好きな社会人にもグッとくる1本となるだろう。もちろん,「NINJA GAIDEN」シリーズらしい高難度のアクションゲームを楽しみたい,そんなプレイヤーの期待にも応えられる作品となっているはずだ。また,新しい感覚が楽しめるというオンライン対戦プレイにも注目したい。
本作で初めて描かれるリュウ・ハヤブサの内なる素顔とは。人を殺すという苦悩の果てにあるものとは。物語がどんな結末を迎えるのか,その目で確かめてほしい。
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