プレイレポート
リアル系FPSは地球外生命体との遭遇をどう描くのか? 「Arma 3」3年振りの拡張パック「Contact」のプレイレポート
「Contact」での主立った追加要素は,シングルプレイキャンペーン「First Contact」,その舞台である新マップ「Livonia」,2つの軍事勢力,5つの武器,2種の車両など。これまでと同様に,制限付きではあるものの,「Contact」を所有しないプレイヤー向けの無料配布コンテンツも用意されている。
そんな「Contact」で最も注目されているのが,シングルキャンペーンの「First Contact」だ。その理由は,「人類が突然,地球外生命体と遭遇したら?」という,Armaシリーズ作品としては異例のテーマである。
というのも,Armaは他タイトルの追随を許さない再現度のリアル路線が,多くのファンから支持されているシリーズだからだ。
例えば,歩兵のアクションひとつをとっても実に多彩だ。射撃時の体勢は「立つ」「屈む」「伏せる」の3つにはとどまらず,屈む高さ,半身の傾け方,そしてその姿勢を維持するか否かといったことまで操作できる。
さらに,依託射撃(地形や構造物,二脚架などを銃の固定・支えとして利用する方法)やスコープのゼロイン調整(照準と実際の弾道を合わせること),一時的に呼吸を止めて手の震えを抑えるといった方法で,射撃精度を高められる。すべて活用するのが簡単ではないほどの細かなアクション表現だ。
また,腕に怪我をすれば照準合わせが困難になるし,脚に大ダメージを負えば,走るどころか立つことすらできなくなる。たくさんの荷物を持てばスタミナが減り,走るのも遅くなるのだ。
こういったこだわりがアクションだけにとどまらず,装備やビークル,広大なマップなどにまで及んでいる。
そんな「超リアル系ミリタリーゲーム」と,宇宙からやってきた「ビジター」が,「Contact」で一体どんな世界を生み出したのか? プレイレポートをお届けしよう。
なお,以下にはネタバレ要素が多分に含まれているので,それを了承のうえ読み進めてほしい。
6か国語を操るドローンオペレーターが東欧の地を東奔西走
「Contact」の舞台となるのは,東欧にあるという設定の架空国家「リヴォニア」の「ナドボル地方」。
「Arma 3」本編のメインマップ「アルティス」はエーゲ海にあるギリシャの島がモデルで海や低木が特徴だったが,ナドボルは森林や原野で構成された夏の緑豊かな土地となっている。
この地では,実在する組織をベースにしたとされる3つの架空勢力「NATO軍」「リヴォニア国防軍(LDF)」「ロシア軍のスペツナズ部隊」がそれぞれの思想・思惑を抱いて展開していた。だが前述したように,地球外生命体の出現という想定外の事態が発生。
NATO軍のドローンオペレーター,特技兵エイデン・ラッドウェル(プレイヤー)は,幸か不幸か宇宙船と接触を試みる任務を次々と課せられて,この広いリヴォニアを駆け回ることになる……。
リヴォニアはポーランド語圏に属しているが,ラッドウェルは過去に翻訳者だったという経歴を持ち,6か国語を操る。ロシア語も堪能のようだ。
本編とゲーム性を異なるものにするドローンオペレーターの特殊装備
さて,「Contact」のゲーム性をArma 3本編とは異なるものにしているのが,「スペクトル(EMSPEC)」と「ミニUGV(Unmanned Ground Vehicle)」という2つの装備だ。
ラッドウェルはもちろん銃器も扱えるが,ミッションの性質上,この2つのツールを駆使して任務をこなすことが多くなる。
最初に渡されるスペクトルは,主人公の本体(?)と言っても過言ではないレベルで大活躍するデバイスだ。正しくは「分析機内蔵のモジュラー式電磁スペクトル装置」と呼ぶようだが,「名前が長い」というツッコミが入ってだいぶ省略された。
その機能は,交換可能な2種のアンテナで特定の周波数をキャッチし,敵の信号の検知,位置の特定(戦場マッピング),通信の傍受・妨害,録音,偽データの送信,さらには自律性無人機のジャミングやハッキングといった具合。電子防護・電子攻撃に長けたハイテクデバイスで,これさえあれば何でもできるような気分になってしまう。スペクトルがなければ「Contact」は始まらないといった感じだ。
複雑そうに思えるかもしれないスペクトルの操作は,意外にシンプル。周波数の種類によってアンテナを交換し,発信源(方角)を探して,突出した波長を見つけたらバーを合わせるだけだ。中盤以降では,なんと宇宙船へのアプローチにも使うことになる。
ラッドウェルはドローンオペレーターという専門兵だが,無人飛行機だけではなく,無人機全般を扱う。そして,無人機で積極的に敵を攻撃するよりは,敵の無人機をスペクトルで妨害・無力化し,味方部隊の道を切り開くといった役割がメインだ。
スペクトルとともにラッドウェルの両腕となる「ミニUGV(小型無人陸上車両)」は,搭載カメラの映像をリアルタイムで確認可能で,細菌汚染が懸念される特異物質への接触や撮影といった任務をこなせる。「試料採取用レーザー」「生体調査プローブ」などを使っての分析も可能で,持っているだけで地下のマッピングを手伝ってくれたりもする。
「Arma」らしさを残しながら新しい体験に挑戦した“外伝”
シリーズ初体験&適当すぎるエイム力に定評のある筆者としては,銃撃戦は賢い味方NPCに任せ,自分はスペクトルを活用して敵を翻弄するといった感じで楽しく遊べた。
未知の訪問者との接触という新しい体験には,多少ホラー的要素も含まれていてゾクゾクすることもあったし,登場人物の軽妙な会話もユニークでテンポがいい。要所を盛り上げるBGMも相まって,一気に7つのシナリオ全てをクリアしてしまった。
強く感じたのは,Arma 3本編では「破壊」「一掃」「占拠」「奪取」「排除」などといった任務が大半を占めており,そのために銃器に頼ることが多くなる一方で,「Contact」ではシナリオのほとんどで「科学的調査」「電子線(EW)」「戦闘偵察」が優先されていて,派手な戦闘がクリアに必須ではない形に落とし込まれていることだ。言い方を変えれば,ステルス,スニーキング,スパイ色がかなり強いものとなっている。
Steamクライアントから立ち上がるランチャーに「Contact」専用の起動ボタンが用意されていたり,ゲーム起動後に表示される画面に「軍事SFスピンオフ拡張パック」であることが毎回表示されたりするのを,最初は過剰と感じていた。
しかし,それは「Contact」という,冒険的で型破りな試みが取り入れられているコンテンツの公開に,制作サイドがとても慎重になっていたことの現れなのだろう。
これまでの「Arma」という作品はリアル系FPSという面を強調して紹介されることも多く,確かにそういった向きを好む層にとって,地球外生命体という存在の登場は評価が分かれるところなのかもしれない。
しかし,「Contact」の目指したものが,既知の敵との武力衝突・解決ではなく,正体不明の存在と遭遇した場合のシミュレーション体験なのだとしたら?
「敵か? 味方か?」「そもそも生命体なのか?」「対話はできるのか?」「接近しても大丈夫なのか?」「どんな技術を持っているのか?」「目的は何か?」
それは宇宙船や宇宙人でなくてもいい。何かよく分からないものに対して,さまざまな勢力が混乱に直面する中で,誰が味方と敵になり,それぞれが何を信じ,どう行動するのか。そんな体験が今回はたまたまSFの楽しさと共に提供されているのだと考えたなら,その目的はうまく果たされているように感じた。外伝としてなら,こうした作品も「Arma」のひとつの形としてアリなのではないだろうか。
ところで,開発元のBohemia Interactiveの関連会社Bohemia Interactive Simulationsでは,軍事教練用シミュレータ「Virtual Battlespace」(VBS)の制作も行なっており,「Arma」と「VBS」は相互に影響を与えあっているという。
ではなぜ今,このタイミングで「宇宙船」「地球外生命体」が登場する拡張パックがリリースされたのか? その先に,我々はどんな思惑を見るのか? 単なる娯楽? ロマン? 陰謀論? 現実?
それはプレイヤーである,あなた次第です!
「Arma 3」公式サイト
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