インタビュー
「ケイオスリングス」は,スクウェア・エニックスの新ブランドになるか。待望の続編「オメガ」「II」,そしてその先は……? 安藤武博プロデューサーに聞く
ここまではあまり大きな広告展開なども行わず,ほぼ口コミのみで世界15か国の有料アプリランキングで1位を獲得し,Appleが選ぶ殿堂入りアプリにも選ばれている本作だが,この5月からシリーズ作品としての新局面を迎える。
本日(5月20日)リリースされた新作「ケイオスリングス オメガ」,そしてタイトルだけが発表された「ケイオスリングスII」と,怒濤の展開を見せるシリーズの今後と,それぞれの内容について,スクウェア・エニックスの安藤武博プロデューサーに聞いた。
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前作へと続く物語を描く「ケイオスリングス オメガ」
新たな物語の「ケイオスリングスII」
4Gamer:
ついに「ケイオスリングス」の続編が,正式に発表されました。
実は安藤さんには昨年(2010年)の時点で,「ケイオスリングス」の続編を開発中であるというお話を聞いていたんですよね(関連記事)。
はい。まず「ケイオスリングス オメガ」(以下,オメガ)を5月20日にリリースし,さらにその後,「ケイオスリングスII」(以下,ケイオスリングスII)という作品も控えています。実は,二つの続編を同時に作っているというカラクリでした。
4Gamer:
あの時点でもう決まっていたんですか!
安藤氏:
ええ,実はその頃から動いていました(笑)。
4Gamer:
そのカラクリにはさすがに気付きませんでした。では,オメガとケイオスリングスIIはどんな作品になるんですか?
安藤氏:
オメガはケイオスリングスの1万年前の世界が舞台なので,ケイオスリングスとは直接の相関関係があります。ケイオスリングスIIは,緩やかな世界観設定が共通しているほか,同じキャラクターは出てはきますが,世界自体は別のところを描いているんです。
ただ,どちらもキャラクターデザインはうちの直良(有祐氏)がやってますし,サウンドは上松範康さん,開発はメディア・ビジョンさんですので,ベースの要素や座組に変わりはありません。
4Gamer:
オメガが,ケイオスリングスの1万年前の設定ということは,物語的には無駄だったというか,非常に残念な結末に繋がる戦いを描いているということですよね?
安藤氏:
そういうことになりますね。ケイオスリングス自体,凄くご好評をいただきましたが,もっとストーリーを深堀りしてほしいという要望もたくさんありましたので,オメガでは,まずそれに応える形です。そういうこともあって,絶望の1万年を過ごすきっかけになったお話を描いているんですよ。
なので,立ち位置的には“ケイオスリングス ゼロ”とか“ケイオスリングス ビギンズ”みたいなものだと思っていてください。
4Gamer:
では,これまでケイオスリングスで遊んだことがない人が,オメガから始めた場合,物語の意味がさっぱり分からない……というようなことはありませんか?
安藤氏:
それはありません! オメガから遊べば,続きのケイオスリングスが気になる内容になっていますし,逆にケイオスリングスを遊んだことのある方は,1万年前を生き残った人達がどのような形でケイオスリングスに至ったのかが分かります。
どちらから遊んでいただいても楽しめるよう,気を配りました。
安心しました。
ところで,オメガのトレイラーを見ると,かなり豪華な声優陣を起用しているようですね。
安藤氏:
実はオメガでは,クエストの追加配信を含む無料アップデートを毎月のように行う予定なんですが,その中の最大の目玉が,ボイスの追加なんですよ。ある日突然,それまで遊んでいたゲームがボイス付きになるという,iPhoneというプラットフォームならではの仕掛けをしているんです。
それに併せて,ケイオスリングスもボイス付きになるアップデートを行います。もちろん,どちらもアップデートは無料です。
4Gamer:
ということは,もう1年以上前にケイオスリングスで遊んだ人も,また新鮮な気持ちでもう一度プレイできそうですね。
安藤氏:
ええ,ボイス付きになったケイオスリングス,そしてオメガの追加クエストなどを一通り楽しんでいただいたあとに,ケイオスリングスIIをリリースするような流れを作りたかったんですよ。
ケイオスリングスがヒットしたおかげで,続編を作れることになったときに,“ケイオスリングスブランド”を新たに立ち上げることを大々的にアピールするには,2作品だけじゃちょっと弱い印象があったんですね。シリーズがこれからも続いていくんだという,強い意志を見せるためにも,3作品を揃えたかったんです。オメガには,そのくさびのような役割も担っています。
4Gamer:
なぜ,I,II,IIIというような流れにしなかったんですか?
前作を皆さんに応援していただいたので,その勢いのある状態で次の作品を出したかったんです。それこそ,前作からちょうど1年後ぐらいのタイミングで。ただ,企画のスタートから発売までの期間に約1年は必要だとして,準備期間などをさっ引いていくと実質的な開発期間は半年程度になるんですよ。RPGって本来は,凄く開発期間が必要なジャンルですから。
4Gamer:
ヒット作の次回作となると,それなりの準備期間も必要になるでしょうし。
安藤氏:
ケイオスリングスIIを出すならば,ケイオスリングスをリリースしたときと同様かそれ以上のインパクトを残せるように,すべてを新しくしたいと考えていたんですが,1年で出すのは時間的に難しい……そういった二律背反する条件を,メディア・ビジョンさんや上松さん,そして直良がオメガで見事にクリアしてくれたんです。
つまり,ケイオスリングスのスピンオフや外伝という形であれば,ケイオスリングスでつちかった財産を使いつつ,完成度の高い作品を作れるだろう,と。
4Gamer:
なるほど。となるとケイオスリングスIIでは,より手の込んだことをしているわけですね。
安藤氏:
それこそ,エンジンをイチから作り直しているほどで,前作を大きく超える完全新作という立ち位置です。
4Gamer:
おお,凄くスクウェア・エニックスらしい方法論ですね。
「ケイオスリングス オメガ」の脚本は徳永真也氏が担当
前作の北島行徳さんとは,別プロジェクトが進行中
4Gamer:
オメガのタイトルには,どういう意味が込められているんでしょうか。
安藤氏:
オメガには“究極”という意味があったり,宇宙的なイメージがありますよね。天文学では単位としても使われているぐらいですからね。
ケイオスリングスシリーズは,ファンタジーのようでありながらSF的な要素も持っていますので,“宇宙を連想させて,なおかつゼロ的な立ち位置の究極形”という意味で,このタイトルに決めました。
4Gamer:
では,オメガとケイオスリングスの共通点を教えてください。
まず,“アルカ・アレーナ”というトーナメントの仕組みです。同じ場所をぐるぐる回らされる地獄とか,1万年の輪廻がテーマになっているという部分は,ケイオスリングスでも描きました。そしてそれは,1万年前にも行われたという設定でしたから,きちんと共通しいています。
ただ,前作との大きな違いとして,オメガは非常にストーリードリブンになっています。RPGとして,あまり大々的に押し出すのもどうかと思うんですけど,ストーリーがめっちゃいいです。僕自身,不覚にもクリアまでに2回泣いてしまったほどですから(笑)。
……こんなにお話のいいRPGを自らの手で作れるなんて,思っていませんでしたからねぇ。人生,何があるか分からないものです。
4Gamer:
意外と言っては失礼ですが,意外ですね(笑)。
とはいえ,前作のストーリーも良かったですよね。ゲームのボリュームに合わせた壮大さを持ちつつ,小さなエピソードの一つ一つが心に残るようなもので。
安藤氏:
そう感じていただけると嬉しいですね。
前作の場合,iPhoneというプラットフォームにおいて,我々のRPGがどの程度楽しんでもらえるのか? という疑問符がある状態で作っていたので,ストーリーを語る部分はあまり深堀りしていなかったんですよ。例えば電車の中で遊んでいる途中で目的の駅に着いたのに,キャラクターが状況説明をやめない……なんてことになると,うっとうしいんじゃないかと思って,ちょっと控えめにしていたんです。
ところが,レビューを見ていると,もっと物語を深堀りしてほしい,コンシューマゲームのように物語を楽しみたいという意見がたくさん寄せられたんです。
4Gamer:
iPhoneというプラットフォームに生まれながら,実際はコンシューマゲームと比較されるような作品だったと。
ですので,それにお応えする形で,オメガに関しては演出面も強化しています。前作から再利用している部分も一部ありますが,それを気にせず,より楽しめるようになってると思います。
4Gamer:
オメガをクリアするまでのプレイ時間は,どれぐらいになりそうですか?
安藤氏:
プレイ時間的には前作よりも若干短めで,10時間程度だと思います。実は,そのあとにちょっと面白い仕掛けを用意しています。僕らが昔,ゲームクリア後に楽しんだ要素の21世紀版とでもいいますか。まだ詳しくはお話できませんが,あのピュッピュが関係している仕掛けで,それを込みで遊ぶと20時間以上は遊べると思います。
4Gamer:
その仕掛けも楽しみですね。
安藤氏:
クリア後の導入部分はぜひ見てください。メディア・ビジョンさんの「ワイルドアームズ」の頃からの持ち味がすごく出ていると思いますので(笑)。
4Gamer:
ピュッピュが関係しているとなると,前作もしっかり遊んでおいたほうがいいということでしょうか。
安藤氏:
その前提の仕掛けです。オメガ自体は入門編的な扱いなので,価格も前作よりは安くする予定で,そこに合わせて前作も期間限定で価格を安くするなどのキャンペーンは行いたいと考えています。
4Gamer:
高いなと思っていた人も,そのタイミングでぜひ,と(笑)。
ところで,脚本は今回も北島行徳さんが手掛けているんでしょうか?
物語のベースとなるアルカ・アレーナのルールを作ったのは北島さんですが,オメガにはあまり深くは関わっていません。
開発期間が前作以上にタイトだったこともあって,北島さんと,今回シナリオを担当しているメディア・ビジョンの徳永真也さんというディレクターがガチンコで作り始めると,想定された期日に出すのが難しくなるだろうと考えたんです。プロデューサーとしては,非常に頭の痛いところではありましたが,徳永さんもシナリオを書くうえでかなりの才能を持っている方ですし,アルカ・アレーナの根本となるコンセプトを考えた人でもあるので,今回は徳永ワールドとさせていただきました。
幸い,前作でストーリーや設定を北島さんにしっかり打ちだしていただいたおかげで,それをより深堀りした感動できる内容になっていますよ。
4Gamer:
北島さんがゲームの脚本を手がけられるようになる前からのファンなので,ちょっと残念ではあります……。
安藤氏:
別に北島さんとはもう仕事をしない! というわけじゃないですよ(笑)。
北島さんは,僕らにとってこのシリーズで出会えたことが福音だっと思えるほどのクリエイターですので,ちょっと別の形のプロジェクトを進めてもらっています。近いうちに発表できると思いますので,楽しみにしていてください。
4Gamer:
何だか思わせぶりですね(笑)。楽しみにしています。
岡本信彦さんをはじめとする実力派声優のボイスで
キャラクターに“魂”が吹き込まれる
4Gamer:
ちょっとお話を戻しますと,ケイオスリングスの北島さんの脚本,オメガの徳永さんの脚本が,後日,ボイス付きで楽しめるようになるわけですよね。
ええ,そうそうたる声優陣を起用しました。
ちなみに,ケイオスリングス,オメガ共に登場するアユタの声は,岡本信彦さんに担当していただいています。これは僕が「RADIO 4Gamer」に呼んでいただいたとき,岡本さんから「ぜひ僕を」と頼まれたのがきっかけです。これまた運良く,アユタは岡本さんに演じていただくのにぴったりなキャラクターでしたし。
4Gamer:
アユタって前作では凄い謎を持ったキャラクターで,要所要所で思わせぶりなセリフを言うけど,解釈が難しいんですよね。
安藤氏:
一部ではアユタが主役だって言われているぐらいですからね。
オメガもアユタのセリフからスタートしていますし,そういう意味でも岡本さんの役目は凄く重要なんです。
4Gamer:
実際,岡本さんも「アユタのいろいろな側面を演じるのは難しかった」とおっしゃっていました(笑)。
ところで,先に文字だけで読んでいたものが,急にボイス付きになった場合,自分の頭の中で聞こえてきた声とのギャップで気分が冷めてしまうことってありますよね。漫画原作のアニメでもよくありますけど。
安藤氏:
そうなんですよね。皆さんが頭の中でイメージしていたボイスと,いかに違和感のないキャスティングにするかは,一番気を使ったところです。それこそ,声が入っていない状態を“仏作って魂入れず”だったとすると,プレイヤーの皆さんの中で脳内再生されていた声に忠実に,さらに感情移入ができる人をキャスティングしないことには,魂が入らないんですよ。
4Gamer:
プレイヤーが,「キャラクターに魂が宿った!」と思えるキャスティングを心がけた,と。
まあそういう意味では,スクウェア・エニックスにはアニメのプロデューサーがいますから,声優さんの人気や実力を彼と相談しながら,キャスティングしていきました。
その中でもやはり岡本さんは人気も実力も兼ね備えていて,こういう形でアユタを演じていただけたのは凄くラッキーでしたね。アユタ役として違和感はまったくないと思います。
4Gamer:
それは期待できそうです。
安藤氏:
遊んでいただいた方は分かると思うんですが,ケイオスリングスってゲームの作り自体が,コンシューマのRPGとあまり変わらないんですよね。でも,欠けている部分が何かあるな……とは思っていたんですが,ボイスを入れてみたら「あ,ボイスが欠けてたんだ」と気付きました(笑)。
要素としてはシンプルですし,コンシューマでは当たり前にやられてきていることなんですけど,やっぱり声って偉大なんですよね。だからきっと,ボイスのアップデートが入る前にクリアした人も,もう一度遊びたくなると思いますよ。
4Gamer:
ボイスが追加されるアップデートは,いつ頃の予定ですか?
安藤氏:
だいたい,オメガの配信開始から2か月後ぐらいを目安に考えています。
最初はボイスなしで遊んでいたゲームが,ある日突然ボイス付きになるという驚きを味わってほしいんですよ! ……現実問題,収録タイミングなどの関係もあって,最初からボイスを入れようとすると,配信自体が遅れてしまう可能性というのも理由としてはありますけどね(笑)。
4Gamer:
試みとしては確かに面白いですよね。パッケージ販売が前提のプラットフォームでは,別パッケージを作らないことには実現できないことですし。
安藤氏:
ええ,出して終わりっていうところじゃないのが,このマーケットのいいところですから。
それに,リリース後はまずボイスなしで遊んでいただいて,2か月後にもう一度ボイスありで遊んでいただくことで,物語の謎などもさらに見えてくると思うんです。セリフに声優さんによるニュアンスが入ることで,そのセリフにどんな意図が込められているのか,分かりやすくなりますからね。
4Gamer:
ボイスを含めると,アプリ自体の容量は大きくなりそうですが,そのあたりはいかがでしょう?
容量は確かに増えますね。前作だと250MB+αぐらいでしたけど,ボイスデータって凄くサイズが大きいので,本編と同じぐらいの容量が必要になるかもしれません。
iPhoneのアプリって,3G回線でダウンロードできるのは現状20MBまでなんですが,そこに収まりそうな容量であれば少しずつ削って収めるべきですけど,それを大幅に上回るのであれば,無理に削るよりクオリティを重視したほうが,コンテンツパワーを増大させることになると思うんですよ。
4Gamer:
そういう割り切り方をしたわけですね。
安藤氏:
コンテンツの中身を最重視すると,容量などに関する問題はどうしても後回しになってしまうんですよね。無理に容量を削って音楽がショボくなってしまうぐらいなら,容量を増やしてでも上松さんのリッチなサウンドが聴けるほうがいいだろう,と。
4Gamer:
まあ,そうなるとWiFi環境下のiPhoneでダウンロードするより,iTunesでダウンロードしたほうが安心ですね。
安藤氏:
そうですね。現在のモバイルインフラを考えると,この容量のコンテンツは時期尚早かもしれませんが,それでもこれまで受け入れていただいていますので,そのことには嬉しく思っています。
今,「FINAL FANTASY TACTICS 獅子戦争」のiPhone版も作っていますが,PSPからの移植なので800MB程度の容量になると予想しているんです。どのタイトルもDLのお時間を少しいただきますが,そのあとは,ほかのiPhoneアプリにはないリッチな体験をしていただけるので,ご理解ください。
海外からも高く評価された
メイド・イン・ジャパンのRPG
4Gamer:
ケイオスリングスは海外でも好評ですが,英語版にもボイスは入れるんですか?
今のところ,その予定はありません。宣伝やローカライズ担当スタッフなどと相談をした結果,日本語ボイスに英語字幕が出るような仕様にしました。我々が洋画の字幕を見るような感覚ですね。そういう雰囲気って向こうの人にも違和感はないそうなんですよ。ケイオスリングスって,どこの誰が見ても“ザッツ・メイド・イン・ジャパン”という内容なので,そのゲームが英語字幕の向こうで日本語でしゃべっていることに対してネガティブな反響は出ないと確信しています。
もちろん,海外のプレイヤーさんから「English voice please!」という声が聞こえてきたら,何かしら対応することになるかもしれません。
4Gamer:
予定はないが,可能性はゼロじゃない,と。
安藤氏:
ええ。今回,日本語のボイスが入ったことで,日本人の思う魂が入りましたから,キャラクターの演じ方もそこで定まると思うんです。演じ方が定まらないうちに日本語版と英語版を同時発注してしまうと,それぞれの解釈が入り交じってクオリティに影響が出てしまいますからね。
4Gamer:
なるほど,そういう判断基準もあったんですね。
安藤氏:
例えば日本のアニメなんかでも,海外では音声は日本語のままで現地の言葉の字幕を付けて放送されているケースがありますよね。それを喜んでいる人も多いみたいですし,ケイオスリングスは海外の人が嫌悪感を持たないよう,内容にも気をつけています。
ケイオスリングスはとにかく,日本人のプレイヤーが思い描く正統派のRPGの面白さを,海外でも楽しんでもらえるよう,自信を持って作っているんですよ。
4Gamer:
日本のRPGを,というのがポイントであると。
安藤氏:
ええ。海外で入念なマーケティングリサーチを出したら「もっとガチムチを出せ」みたいな話になると思うんですよね(笑)。
キャラクターがみんなオーガみたいな造形に(笑)。
安藤氏:
そうなんですよ! 海外ではガチムチのバディものは映画でも何でも人気ありますしね。実はオメガでは,主人公のヴィーグとオーガのガチムチキャラのバディな展開を入れているんですが,これは“JRPG”としてはユニークなセンテンスだと思います。
とはいえ,そっちにばっかり引っ張られるんではなく,日本人が格好いいと思う内容で作っている点では“日本発”のRPGであることに変わりはありません。
4Gamer:
ところで今のお話にあったJRPGというのは,海外……とくにアメリカのプレイヤーは,ジャンルとして認識しているものなんでしょうか。
安藤氏:
アメリカではケイオスリングスのプレイヤーは年齢層が高めで,いろいろな意味でリテラシーが高い印象です。つまり,皆さんが日本発のRPGであることを意識して遊んでくれたな,と。ケイオスリングスに関しては,JRPGというジャンルをきちんと認識したうえで,その決定版のような受け止められ方をしている印象です。たぶん,日本でいう“洋ゲー”みたいな感じで,JRPGというジャンルは認められているんでしょうね。良くも悪くも,ですが。
ただ,それもこれもiPhoneというプラットフォームだったからこそであるとも思うんです。PCやPlayStation 3,Xbox 360の場合,オープンワールドで何でもかんでもバンバンやれるRPGが向こうにはたくさんありますから,同じところでケイオスリングスが出ても注目されたかどうかは疑問ですよね。
4Gamer:
iPhoneというプラットフォームと,JRPGというジャンルの相性が良かったというわけですね。
安藤氏:
市場的な特性だけでなく,ハードウェアキーのないiPhoneでは,激しいアクションが要求される内容より,ターンベースのもののほうが遊びやすい場合がありますよね。
もちろん,激しいアクションを必要とするRPGを作ることへのチャレンジも必要だと思っていますが,まずは僕らが得意とするターンベースのRPGを作ってみたところ,iPhoneに違和感なくしっくり収まったという側面もあると思っています。
4Gamer:
実際に遊んでみて,「ああ,これはスクウェア・エニックスのRPGだな」と思うと同時に,iPhoneにもよくマッチしていると感じました。
ただ,遊べば遊ぶほど,例えば戦闘時の演出をキャンセルできるといいなぁとか,細かい部分で不満も出てくるんですよね。先ほども少しお話に出たように,従来のコンシューマゲームと無意識に比較してしまうからだと思うんですが。
なるほど。確かにそういったご要望はプレイヤーさんからもいただいていますので,いずれ対応したいところではあります。実際,コンシューマのRPGの場合,そういった細かい部分の“おもてなし”も必ずやっているので,その部分で比較されるのは理解しています。
ケイオスリングスシリーズの作り方は,コンシューマのタイトルにどんどん近くなってきていますので,iPhone用に出すことの良さを保ちながら,どこまでおもてなしをしていくかは次の課題ですね。できる限りのおもてなしをしたい思いはあるんですが,そのために開発期間が長くなったり,それが価格に跳ね返ってしまったりすると,それはそれで本末転倒ですし。
4Gamer:
おもてなしを完璧にやろうとすると,短期間で開発してリリースするような作り方と,相反する部分が出てきてしまうわけですね。
安藤氏:
そうなんですよね。そこは凄くバランスの取り方が難しい部分です。僕らは今,たまたまスマートフォンの部隊として動いていますが,将来的には,一つのゲームを遊ぶときでも,外ではスマートフォン,家に帰ったらコンシューマゲーム機を繋いだテレビで遊ぶような時代がやってくると思うんです。
そういった意味でも,来るべき日のためにスマートフォン側からのアプローチは,いろいろとチャレンジしていくつもりで作ってはいます。
スマートフォン発のブランドとして
ケイオスリングスシリーズを育てたい
4Gamer:
それでは,スマートフォンという市場において,iPhone以外にケイオスリングスシリーズを展開する予定はありますか?
Androidに関しては積極的に考えたいと思っています。ここ数か月での広がり方を見ると,無視できない市場になってきているのは明確ですからね。
ほんの少し前までは,誰もが「スマートフォンって何じゃらほい?」という状況でしたが,今じゃ携帯電話を売っているショップに行くと,買い換えの選択肢のほとんどがスマートフォンになっています。そしてiPhoneは,スマートフォンの選択肢の一つという時代になっていて,それ以外の選択肢がAndroidであるならば,ケイオスリングスシリーズがスマートフォンに最適化したタイトルである以上,必ず展開するべきだと思うんです。
4Gamer:
Androidの場合,さまざまなバリエーションの端末が市場に溢れていますから,それぞれに最適化するとなると,相当な手間がかかりそうです。
安藤氏:
手間はかかりますね。iPhoneというかiOSであれば,基本的に共通フォーマットの上で動いていましたけど,Androidの場合は一部の機種に3D描画性能がiPhoneより劣るものもあります。なので,残念ながらそういった機種に関しては対象外にしなくてはなりません。でも,ダウングレードしてしまってはケイオスリングスの魅力が半減してしまいますから,そこは涙を飲まなければなりません。
逆に,ケイオスリングスのようなアプリが出てくることで,スマートフォンのメーカーさんが,ゲームを含むエンターテイメントへの対応に本腰を入れてくれるようになると嬉しいですよね。iPhoneなんかはゲームアプリがハードを引っ張っているイメージがありますが,多くのスマートフォンは,どうしてもビジネスユースという方向性も強いですから。
4Gamer:
一方,iPhoneよりも高いスペックを持った機種もいくつかありますよね。
安藤氏:
そういった機種では,その機種に沿ったもてなしができそうな予感はしています。たとえば裸眼立体視であるとか,タブレットの高性能CPUであるとか,ゲームの本質とは別のところに価値があるものに対しては,それぞれサービスができるのではないかと漠然と考えていますね。まだ具体的な話ではありませんけど。
4Gamer:
では,スマートフォンとは別に,ほかの携帯ゲーム機などに展開する可能性はありますか?
安藤氏:
可能性はないとは言えませんが,あくまで中心はスマートフォンで考えていきたいんです。スマートフォンで大振りなことをしているのが面白いところだと思うので,シリーズ化をきっかけにニンテンドー3DSやNGPに移行するということはありません。スマートフォンを主軸として考えたときに,3DSやNGPで別の展開をしたら,スマートフォンがより盛り上がるかも!? というマルチチャネルの一つとして,初めて実現できるものと考えています。
あくまでも,ケイオスリングスはスマートフォンが主軸ということは,今後も強くアピールしていきます。
4Gamer:
分かりました。
そろそろまとめに入らせてください。今後,ケイオスリングスというブランドを,どのように展開していきたいとお考えですか?
安藤氏:
まだ漠然とした予定ですが,どこかのタイミングで,オメガをアップデートするとケイオスリングスIIのティザーが見られるようにしようと思っています。前作のタイトル画面にサウンドトラックのバナーを貼ったところ,そこを経由して買っていただいた方が凄く多かったんですよ。iPhoneというプラットフォームにおいては,すべてがダウンロードで完結しますから,欲しいと思ったときにすぐに買える“つながり感”みたいなものは,コンシューマにはない魅力なんですよね。
オメガでは,アップデートでボイスや追加クエストを楽しんでいただきつつ,ケイオスリングスIIの予告で期待値を上げて,満を持してこれまで以上のケイオスリングスIIをお届けする……という流れが生まれるといいなと思っています。
4Gamer:
そこまでの流れはきっちり描いている,と。
安藤氏:
ケイオスリングスは今,これから数年先までのスパンでブランドを育てるフェイズに突入しています。単発で終わってしまわないよう,未来を見据えてきちんとした流れを作る計画を立てていますよ。
4Gamer:
数年先までと聞くと,何だかワクワクしてきますね。
いっそオメガを飛び越えて,とっととケイオスリングスIIで遊んでみたいような気もします(笑)。
安藤氏:
ケイオスリングスIIは,2011年末に配信できるように頑張っていますので,ケイオスリングスとオメガを遊びながらお待ちください(笑)。
4Gamer:
ほんの少しだけで構いませんので,ケイオスリングスIIの内容についても聞かせていただけませんか?
ですから,まずはオメガで遊んでください。以上! ……というのも何なので,少しだけ(笑)。
ケイオスリングスIIは新しいお話ですが,過去作のファンの方達に納得してもらえるような設定をどうするかというところまで踏み込んで,きっちり作っています。「ファイナルファンタジー」シリーズでいえば,お決まりの魔法が出てきたり,お金の単位が同じだったり,名前だけ共通のキャラが出てきたりしますよね。
そういったものをケイオスリングスIIには積極的に取り入れて,別の世界なんだけれども,何かが繋がっているような,そういう形にしていきます。楽しみにしていてください。
4Gamer:
分かりました。ファイナルファンタジーシリーズ級のブランドになるまで,ケイオスリングスを育てていけるといいですね。楽しみにしています。
本日はありがとうございました。
現在スクウェア・エニックスは,同社の新旧作品の移植以外にも,このケイオスリングスシリーズのような,現行のコンシューマゲームに引けをとらない高いクオリティを誇るオリジナルタイトルを,スマートフォン市場へと投入している。
安藤氏はその陣頭指揮をとる立場の一人であり,本シリーズに対する情熱をこのインタビューで示してくれた。iPhoneユーザーは,間もなくリリースされるオメガで,氏の手腕のほどをぜひチェックしていただきたい。
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