インタビュー
クールなデザインと品質には自信アリ。ゲームとコラボしたこだわりのアパレルを展開するmusterbrandのCEOに話を聞いた
日本では,「バイオハザード」とのコラボレーションで,ジャケットやカーゴパンツ,Tシャツなどを2011年12月から販売しているので,購入したことがある人もいるかもしれない。昨年末の4Gamer特大プレゼント企画でも,Deus Ex: Human Revolutionのトレンチコートとジーンズを提供していただいたので,そのデザインに惹かれて応募した人もいるだろう。
そんなmusterbrand製品の特徴は,筆者の私見ではあるが,とにかくファッション性が高く,ゲームとのコラボグッズであるにも関わらず,普段着用してもおかしくはないデザインになっていることだ。ちょっと安っぽさが漂う,とても普段着には出来そうもないグッズとはほど遠い,アパレルとしてしっかり作られた製品が展開されているのである。
現在musterbrandは,国内ではバイオハザードのグッズを販売しているだけなので,イマイチ目立っていないのだが,どうやら近々動きがあるらしく,CEOであるクヌート・バーグル氏が来日していた。今回4Gamerでは,バーグル氏にmusterbrandのアパレルがどのようなこだわりを持って作られているのか,今後の日本での展開はどうなるのかを聞く機会を得られたので,インタビューをお届けしたい。
「バイオハザード」コラボ製品販売ページ
musterbrand...公式サイト
「ゲームが好き」という気持ちを表現できる製品を作る
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
まずは,まだ日本ではmusterbrandの名を知らない人もいるかと思いますので,そもそも何をしている会社なのかというところからご紹介いただけますか。
はい。musterbrandは,デジタルコンテンツやデジタルエンターテイメントの可能性を広げることを目的に活動している会社です。今のところ行っている主な事業は,ゲームとコラボレーションしたアパレル製品をワールドワイドで展開する,ということになります。
4Gamer:
デジタルコンテンツというと,ゲーム関連専門というわけではなく,音楽や映画なども対象になるということですか?
バーグル氏:
そうです。とくにゲームに限定しているわけではありません。今後機会があれば,ほかのテジタルコンテンツとのコラボレーションも行っていこうと考えてはいますし,最近ではゲームが映画化されたり,逆に映画がゲームになったりと,デジタルコンテンツ同士の垣根もなくなってきていますから。
4Gamer:
とはいえ,現状ではその中でもあえてゲームにフォーカスを当てて活動されていますよね。それはどういった理由からでしょう。
バーグル氏:
まず,私がもともとゲーム業界にいたので,思い入れがあるというのが理由の一つになります。
そして何より,デジタルコンテンツの中で一番活気があると言いますか,音楽や映画に比べて「商品化する」「コンテンツ自体をブランド化する」ことについて,一歩先を行っているのがゲームではないかと思うのです。デジタルコンテンツの可能性を広げていくために,まずは活気あるゲームでグッズを出していこうというわけですね。
4Gamer:
では,そのために「コラボしたアパレル製品」を展開しているのはどういった理由からでしょう。グッズの商品化としてはフィギュアや模型,タンブラーといった,細かいアイテムが主流だと思います。なぜゲームの魅力を,衣類に乗せて発信しようとしているのでしょうか。
バーグル氏:
なぜアパレルからスタートしたかというと,「何かが好きだ」という気持ちを外から見えるように表現できる製品だからです。フィギュアなどもグッズとしてはアリだとは思いますが,家の中での個人的な楽しみで終わってしまうものなので,外に好きな気持ちが出て行きません。
しかし,他者から見えるアクセサリやアパレルであれば,「好き」という気持ちを自分の外に対して発信できます。
4Gamer:
なんとなく言わんとしていることは分かるのですが,ゲームのグッズでは,そういった表現を目にする機会があまりないので,少々珍しいアプローチに思えてしまいます。
バーグル氏:
これは世界共通だと思うのですが,例えばヒップホップが好きな人であれば,ヒップホップっぽい格好をしたりしますよね。コンテンツへの憧れといいますか,ハマっているものが服装や外見に影響を与えることは珍しくありません。これは音楽でもそうですし,映画でもそうです。当然,ゲームでもそうでしょう。
しかしゲームには,その思いを乗せられるような製品がない。そこを我々がサポートすべく,ゲームとコラボしたアパレルを展開しているのです。
強いこだわりを感じられるmusterbrandの製品デザイン
4Gamer:
コラボレーションタイトルは,どういった基準で選択されているのでしょう。
バーグル氏:
一番重要なものは,そのタイトルに付いているファンの規模,皆さんがゲームに捧げている気持ちの大きさや熱量になります。
4Gamer:
規模というと,「日本で人気がある」といったものではなく,ワールドワイドでということですか?
バーグル氏:
一部で非常に盛り上がっているコンテンツでも,良さそうなものがあれば製品化を考えるので必ずしもそうとは言えませんが,基本的にはワールドワイドで人気の高いものになります。
我々の方針として,「世界共通で同じ製品を展開したい」というポリシーを持っているので,そこは世界規模の熱量は必要になってきます。
4Gamer:
それも興味深いですね。ファングッズであれば,地域ごとの需要に応じて展開するものではないかと思いますが,その方針はどういった理由で決めているのでしょう。
バーグル氏:
それは簡単な話で,プレイヤーがゲームをプレイして感じている世界観や感動は,世界共通だと思うからです。ローカライズやレーティングによって地域ごとに細かな違いはあるかもしれませんが,その根元にあるものは変わりません。
であれば,その魅力を伝えるべく作られた我々の製品も,世界共通のものを供給すべきですし,そもそも世界中の皆さんに喜んでもらえるような製品を作っていくべきですから。
4Gamer:
各タイトルとのコラボの許諾は,どのような経緯で得ているんですか?
バーグル氏:
デベロッパやパブリッシャに直接お話を持っていきます。ゲーム開発者の皆さんにお話をすると,非常に興味を持っていただけるんですよ。我々の作る製品の品質を見ていただいて,「結構です」と断られたことは一度もありません。自分達の作ったコンテンツを使って格好良く,かつ質の良いグッズが作れるということであればと,好意的に受け止めてもらっています。
確かに,デザインは非常に良いと思います。なんというか,musterbrandのアパレルはそのタイトルの特徴的なシンボルがさりげなくあしらわれていたりして,普段着として使えそうなデザインという印象を受けるので。
日本の場合,コラボグッズで衣類というと,たいていキャラクターが大きく描かれていたり,タイトルロゴが入っていたりといった感じで,人によっては“痛い”と思ってしまうようなデザインのものが多い気がします。このあたりは,意識してこういったデザインにされているのでしょうか。
バーグル氏:
ええ,そこはこだわりを持ってやっています。
ゲームのアパレルというのは,基本的に企業のプロモーション目的に作られているものが多いんですよ。だから普通は,タイトル名やキャラクターなどが押し出されがちになってしまうものです。しかし,musterbrandが作っているのはあくまで「ファンのための製品」なので,そこをアピールする必要がありません。
4Gamer:
なるほど。
バーグル氏:
もちろん,ファンの年齢層が若めで,分かりやすいコラボが求められているタイトルであれば,そういったデザインを採用することもあります。ただ,考えもなく「Tシャツの上にロゴとキャラクターを入れればそれでOK」というデザインは絶対に採用しません。
musterbrandのアパレルデザインチームは,私のような元ゲーム業界関係者や,ゲームが大好きで非常に詳しい人間が集まっています。そのため,ゲーマーの皆さんがどういったものを欲しているかを常に考えて,クールで,ファッション性の高いものを提供できるのです。
4Gamer:
製品デザインについてもっと詳しく聞きたいのですが,デザインする上で気を付けている点やポリシーなどを教えてください。
我々がデザインをするときに考えるポイントは三つあります。
一つ目は何よりも品質です。一度買ったお客さんに「ほかの商品もほしい」と思ってもらえるような,高い品質を保つことが絶対的な条件になります。
二つ目が,コラボしているタイトル自体が持っている,ストーリー性や方向性を大切にすることです。ここに注力できなければ,コラボする意味がありませんから。
そして三つ目が,お客さんが何を求めているのかですね。例えば「バイオハザード」とコラボした製品で,ポップな色合いは求められていませんよね。
4Gamer:
そうですね。私自身が着るのであれば,ダークな色合いであったり,ミリタリーチックなデザインであったり,そういった部分は外せません。
バーグル氏:
でしょう? ファンが求めている,着たいと思える製品でなければならないのですから,ファンの声は非常に重要です。バイオハザードの場合は,キーとなるテイストやキーワードをあらかじめライセンスホルダーと相談して,製品に反映しています。
4Gamer:
「この服はこういった経緯でデザインを進めた」というような具体例はイメージが沸くので,ぜひもっとお聞きしてみたいです。
バーグル氏:
では,現在デザインを考えている最中の,あるタイトルとコラボしたジャケットのサンプルをお見せしましょう。(と,デザインサンプルを見せる)
4Gamer:
おお,これはかなりの有名タイトルとのコラボですね。
バーグル氏:
まだデザイン途中のものなので,記事でタイトルは公開しないでくださいね(笑)。
これをデザインするにあたってまず決めたのは,タイトルが持つ要素をアパレルに落とし込む時に,現代の一般的なファッションと照らし合わせると,どういった衣類にするのがふさわしいかという方向性です。今回は,このタイトルのイメージならジャケットが合うだろうということで,ジャケットを作ることに決めています。
4Gamer:
ファッション性の部分から入るんですか。確かに,数あるコラボグッズとはコンセプトの段階で違っていますね。
バーグル氏:
普段着用できるものとして作る以上,ファッションの流行は意識していますよ。
方向性が決まれば,次は細かなディテールです。これはゲームの世界観やモチーフなどが感じられるよう考えていきます。例えばこのタイトルの場合は,過去の時代が舞台になるので,当時の服装を調べて参考にして,それを現在風のデザインに落とし込むといった具合ですね。
その次に決めるのは素材で,生地だけでなく,金具やボタン,小物など,細部にわたって「ゲームの時代背景にあった素材は何か」を考え抜きます。このジャケットであれば,当時の服装がベースにあるので,当時実際に使われていた素材を使うわけです。
4Gamer:
そこまでですか。日本でこれだけこだわりを持ってゲームとのコラボ製品を作っているアパレルメーカーは思いつかないのですが,海外では多いんですか?
バーグル氏:
いえ,ものすごく少ないですよ。あったとしても,ただTシャツにプリントしてあるだけで,数回洗ったら使い物にならなくなってしまうような製品だったりします。
ファッションアイテムという切り口で真剣にライセンス製品を作っているのは,おそらくmusterbrandぐらいです。
日本でも販売タイトルを拡充できるように準備中
4Gamer:
現在,日本で販売されているmusterbrand製品はバイオハザードとのコラボグッズのみですが,海外でしか手に入らないアイテムや,今後の新作がどうなるのかが気になります。
バーグル氏:
近々ラインナップを増やしていく予定です。年内であれば,多くて5タイトルぐらい用意できるかもしれません。詳しくはまだお話できませんが,今後はもっと日本でも展開していけるよう,準備を進めているところですよ。
4Gamer:
それは楽しみです。ところで,先ほどもお話したとおり,日本のコラボグッズというと,キャラクター推しが基本です。その中にmusterbrandのファッション性を重視した製品を出すにあたって,日本ではどういった評価が得られるとお考えですか。
バーグル氏:
私は,日本はおしゃれで,新しいファッションのトレンドを発信する側の国だと思っています。それでいて,ゲームが一般的に浸透していて,ファッショナブルな人達も普通にゲームをプレイしている国でもあると思うのです。
4Gamer:
うーん,海外のゲーマーのファッション傾向は分からないのであまり実感がありませんが,確かに日本では最近,そういったゲーマーも増えているかもしれません。とくにプレイヤー層の若い近年のオンラインFPSなどは,オフラインイベントに行くと,おしゃれな若い子がかなり増えたという印象を受けますから。
バーグル氏:
ただ,そういった人達がいくらゲーム好きでも,キャラクターがドンとプリントされたようなシャツでは,普段着られませんよね。その点,私達の製品であれば,日本でも喜んでいただけるのではないかと思います。クオリティと質感には自信がありますから。
4Gamer:
海外での反響はいかがでしょう。
バーグル氏:
高い評価をいだたいていますよ。とくに「Deus Ex」のトレンチコートは大きな反響をいただきました。
4Gamer:
あのコートは,4Gamerの特大プレゼント企画でもご提供いただきましたが,ものすごい数の応募があって,プレゼント担当者が驚いていました。
バーグル氏:
日本でもウケが良かったんですか? 欧米では,発売前に先行予約期間を設けたのですが,数日で品切れになってしまいました。Deus Exコートは「主人公が着ているものをもう少しファッショナブルにする」という方向で製品化したものなのですが,元々のデザインが良いだけあって,ファンの皆さんに「格好良い!」と思っていただけたのでしょう。
4Gamer:
実際,惹かれるデザインだと思いますよ。だからこそ,日本ではmusterbrandの名前はまだまだ知られていないにも関わらず,多くの応募を集めたのだと思いますし。
ところでDeus Exのコートは,キャラクターが着ているものの意匠が強く反映された製品になりますが,「ゲーム中に登場する衣類を実現させる」という方向もアリなんですか?
そこもファンの求める声次第ですね。デザインチームも,ゲーム中に登場するものを実際に着られるタイプの製品は人気があるのだと実感しているので,今後も作っていくと思います。
キャラクターと同じものを着るという意味では,ゲーム中でキャラクターが服を買うと,同時に現実の服も決済ができて,後日同じものが手元に届くなんて仕組みが実現すると面白いんですけどね。
4Gamer:
それは購買意欲がそそられますね。つい買ってしまいそうです。
バーグル氏:
そういった流れで我々のアパレルを手にとってもらえると,すごく嬉しいのですが。将来的に,すべてのゲームは何かしらオンラインに対応するゲームになっていくと思うので,そういう時代が来てもおかしくはないと思います。
4Gamer:
オンラインゲームであれば,逆に現実のグッズにゲーム内アイテムのシリアルコードが付属しているケースがありますが,そういった展開は考えられていないのでしょうか。
バーグル氏:
今,あるオンラインゲームとコラボしたアパレルをデザインしている最中で,それにシリアルコードを付ける予定です。
我々の製品であれば,グッズそのものの品質に満足していただいて,それでいてゲーム内で使えるものも付いているということで,ファンにとって2度嬉しい展開ができると思っています。オンラインゲームとのコラボは積極的に進めていきたいですね。
4Gamer:
世界的にファンの付いているオンラインゲームというとかなり絞られるので,なんとなくそのタイトルは予想できますが,日本でサービスは行われていなさそうですね……。日本でサービスされているようなタイトルとのコラボも期待したいです。
バーグル氏:
デザイン中のものに,日本でサービスされているものもありますよ。でもまだ秘密です(笑)。
4Gamer:
なんと。ではそちらも楽しみに待っています。最後に,今回musterbrandのことを知った読者に向けて,メッセージをいただけますか。
バーグル氏:
そうですね。先ほどもお話しましたが,ゲームはプレイヤー自身のスタイルに影響を与えられるコンテンツだと思っています。これまでは,そのゲームが好きだという思いを外に出していけるような製品はなかったかもしれませんが,musterbrandはそれを実現できるよう,品質にこだわった製品を作っていきます。皆さんもぜひ一度手に取ってみてください。
4Gamer:
ありがとうございました。
以上,バーグル氏にmusterbrandがどのような会社で,どういった製品を展開しているのかを聞いてみたが,とにかく大真面目にゲームとコラボしたアパレルを作っているのだということは,お伝えできたのではないかと思う。
今回のインタビューで筆者は,さまざまなタイトルとコラボした,デザイン中の製品の数々を見せてもらったのだが,ディテールや素材の選定の工程は,ここまでするかというこだわりを感じられるものだった。この場でタイトルを明かせないのは本当に残念である。
ただ,記事中で話されていたある有名タイトルとコラボしたジャケットについては,「すげえ格好良い! 欲しい!」と思えるようなものであったことは付け加えておきたい。
なお,今回のインタビュー後バーグル氏から,バイオハザードとのコラボグッズである「U.S.S. フィールドシャツ」を,読者プレゼント用に1着いただいた。こちらは,アンブレラ社の特殊部隊「U.S.S.」(Umbrella Security Service)をイメージしたダークグレーのシャツで,サイズはS(日本でのMサイズ相当)となる。
筆者が持って帰りたいところだが,ここは涙をのんで次回のWeekly 4Gamerの「今週のプレゼント」にて掲載する予定なので,どしどし応募してほしい。
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バイオハザード オペレーション・ラクーンシティ
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バイオハザード オペレーション・ラクーンシティ
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