レビュー
TVドラマが2011年に海外で大ブレイクした「A Game of Thrones」をゲーム化
ゲーム・オブ・スローンズ:ジェネシス 日本語版
「ゲーム・オブ・スローンズ:ジェネシス 日本語版」(以下,GoT)は,2012年2月24日にズーから発売された,リアルタイムストラテジーである。
本作は,アメリカの作家ジョージ・R・R・マーティンが執筆する,同名のファンタジー小説「A Game of Thrones」を原作としたタイトル。日本では「氷と炎の歌」というシリーズ名で翻訳出版されており,ファンタジー小説ファンの中には愛読している人もいるだろう。国内では今のところややマイナーだが,海外ではテレビドラマ化が現在進行形で行われており,ゲームに関しても,本作を皮切りに複数タイトルがリリースされる予定だ。
ゲーム内容は,舞台となるウェスタロス大陸の覇権をかけて,8つの名家が争うというもの。王位をめぐってドロドロとした群像劇を繰り広げるという,原作小説の醍醐味を再現するべく,“策謀”に重点が置かれているのが本作の大きな特徴である。敵へのさまざまな妨害工作や,それに対するカウンター用ユニットの種類が非常に多く用意されており,プレイヤーはそれらを駆使して暗躍していくのだ。
一般的にRTSというと,「資源の採集」「ユニットの生産」「敵との戦闘」の三つを効率よく展開させることがポイントになるが,GoTで最も重要な“策謀”は,そのどれにも当てはまらない。戦闘用のユニットよりも,カウンター用のユニットの使いこなし方がはるかに重要で,RTSというジャンルの中でもなかなか珍しいタイトルといえそうだ。
「ゲーム・オブ・スローンズ:ジェネシス 日本語版」公式サイト
戦闘よりも“策謀”に重点が置かれたRTS
それでは主なゲームシステムを見ていこう。GoTでは,街や農地,金鉱などといった各種施設が,ゲーム開始時点であらかじめ建てられている。逆に自分で建てることはできず,マップ内の構造は地形も建物も,完全に固定されている。
ゲームの開始時点では,それぞれの建物が“中立”の状態にあり,敵味方の名家(勢力)から“使者”のユニットを送り込むことで,一時的に同盟が結べる。あとは商人などのユニットで交易を行えば,その商収入が名家に入るという仕組みだ。
そのため,敵よりも先に同盟を結びたいところだが,これは単純に早い者勝ちで済む話ではない。例えば敵の名家がすでに同盟を結んでいる街でも,こちらから使者を送り込むことで,同盟を上書きすることが可能だ。もちろん敵も同じ条件なので,ゲーム中は各施設の同盟国がめまぐるしく揺れ動くことになる。
使者が同盟を結んでいるところ。街の上に表示されたエンブレム内に緑色のゲージがあり,これが同盟の強さを表している |
多くの街と同盟を結ぶことで,金銭が次第に増えていき,新たなユニットが雇用できる。しかしちょっと目を離すと敵に同盟が奪われてしまう |
これではお話にならないので,一度同盟を結んだ施設を敵に奪われないようにするための手段がいくつか用意されている。代表例をいくつか紹介してみよう。
【1】“使者”のユニットを施設に滞在させることで,敵の使者を追い返せる
【2】“護衛兵”でガードさせて敵ユニットを拘束する。このユニットは敵からは見えない
【3】“貴婦人”のユニットで施設の有力者と婚姻を結び,同盟関係を堅固にする
これで安泰……といいたいところだが,実は上記の手段にも,それぞれ別の対抗手段がある。例えば【1】に対しては,“悪漢”というユニットで買収が行える。【2】に対しては,ステルス状態の護衛兵を見破るための“密偵”というユニットが存在する。【3】に対しては,“暗殺者”を送り込むことで貴婦人を殺害し,婚姻関係そのものを無効にできる。
そして困ったことに,こういったカウンターに対しても,さらなる対抗手段がそれぞれ用意されているのだ。
一般的なRTSタイトルだと,“歩兵←騎兵←槍兵←歩兵”といった具合に,いわゆる“3すくみ”のシンプルな強弱関係が採用されることが多い。その点,GoTでは5すくみ,6すくみといった複雑きわまりない関係が構築されている。しかも戦闘以外の局面でだ。
金銭などのリソースは限られているので,無尽蔵にユニットを作ることはできない。現在どのカウンターユニットが必要かを考えよう |
護衛兵といえども万能ではない。敵の密偵が近くにいると可視化させられ,暗殺者などに倒されてしまう |
プレイヤーは限られたリソースを元に,数多く用意されたカウンター用のユニットの中から,現在どれが必要なのかを見極めていく必要がある。しかしここで悩ましいのが,戦局を判断するための変化が,ゲーム画面に明確な形では表れにくいことだ。
“悪漢”は買収のほか,街での扇動も可能。扇動されると,街の機能が停止して収入もなくなってしまう |
ユニットの買収後も,敵からは変わらず味方のように見える。しかし金銭収入を横取りし,さらに敵名家の視野も得られるのだ |
具体例で紹介すると,GoTでは敵の名家へ“密偵”を送り込み,使者などに成りすまして継続的に活動させる,といったことも可能である。もし敵が,成りすました使者を用いて同盟を結んだ場合,それは虚偽であり,金銭の収入は相手ではなく,そっくりそのまま自分の懐に入ることになるのだ。もちろん同じことを敵にやられる可能性もあり,これは非常に厄介である。
密偵を潜入させ,暗殺者への成りすましを行ったところ。その後に敵が暗殺を行った場合,それは虚偽の暗殺ということになる |
自軍での成りすましが発覚した場合,密偵で自分の街を調べ,同盟などの状況が正しいか再チェックする必要がある |
プレイヤーの洞察力が高ければ,街と同盟を結んでいるはずなのに金銭が増えておらず,それによって同盟が虚偽であることと,使者の成りすましの可能性に気付くかもしれない。しかしリアルタイム進行というのも相まって,これがなかなか難しく,なんだかよく分からない内にリソースが減っているということもままある。表面上には表れにくい謀を見破り,そして自分も謀を巡らすというのが,GoTというゲームなのだ。
多様な展開を見せるファンタジー作品
「Game of Thrones」は今後要注目か
本作のシングルプレイは,原作をモチーフにしたキャンペーンシナリオと,特定のマップ/名家の組み合わせでバトルを繰り広げる対CPU戦の2種類が用意されている。
キャンペーンは,この大陸における1000年の歴史,その転換期を追体験する内容である。例えば最初のシナリオの時代設定は紀元前700年で,ナイメリアが率いるローイン人の軍勢が,放浪の末にウェスタロス大陸へ上陸し,現地のモース・マーテル公と婚姻を結んで基盤を固めていく様子などが描かれている。原作小説を1巻から辿るような展開ではないが,熱心なファンにとっては,この世界への理解がより深まることだろう。
GoTでは戦闘ユニットによる直接的なバトルは少なく,むしろ水面下での策謀が戦局を決定的に左右する。現実世界さながらの裏工作を実現しようとする,本作のコンセプトは興味深い。限られたリソースのなか,戦局を冷静に見極め,適切なカウンターユニットを繰り出していくという展開には,ほかのRTSではなかなか得られない面白さがある。
しかし同時に,これらのコンセプトをRTSで遊ぶことは純粋に大変である。リアルタイム進行ということもあり,ちょっと目を離している隙に同盟を奪われたり,ユニットが寝返ったりしているので,プレイ中はそれらに対して常に目を光らせる必要がある。そういった作業を「奥深い」と受け止めるか,あるいは「難解」と受け止めるかで,本作の評価は大きく違ってくるだろう。
また,RTSとしての基本的なシステムが,よく出来ているとは言いがたいのは本作のマイナスポイントだ。戦闘ユニットのアタックムーブが行えないほか,インタフェースが見づらく,スキルの発動も分かりにくい。ただでさえ「原作小説のファン」+「RTSに抵抗感がない」+「裏工作が好き」という三つの大きなハードルがあることを踏まえると,RTS部分の完成度にはもう少し頑張ってもらいたかったところだ。
最後に,原作小説「Game of Thrones」(氷と炎の歌)と,その関連作品の話を少ししておきたい。魅力的な内容で,しかも現在ただならぬ勢いを感じさせるファンタジー小説となっている。
今最も熱いのは映像作品で,原作を元にしたHBO(米国のケーブルテレビ放送局)のTVドラマが2011年に放送されて大好評を博し,2011年のエミー賞で作品賞にノミネートされたほか,助演男優賞を受賞。この4月にはいよいよシーズン2がスタートと,まさに旬な作品だ。
HBO:TVドラマ「Game of Thrones」公式サイト
日本国内では,原作小説「氷と炎の歌」が長らく休刊していたのだが,この3月に改訂新版が出版された。このタイミングでの国内出版,もしかするとTVドラマ(シーズン1)の吹き替え版も来るか……? と,思わず期待せずにはいられない。
早川書房:「氷と炎の歌」特設サイト
またゲームタイトルとしては,同名のアクションRPGが2012年前半にリリース予定だ。さらに先日,別のMMORPGタイトルのティザーサイトが公開されている。
というわけで少々話が逸れてしまったが,「Game of Thrones」(氷と炎の歌)という名前は,ファンタジーが好きな4Gamer読者なら覚えておいて損はないだろう。
「ゲーム・オブ・スローンズ:ジェネシス 日本語版」公式サイト
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