インタビュー
ゲーマー向けブランドPredatorの“ドレッド隊長”こと谷 康司氏インタビュー。eスポーツを熱く語る谷氏の思いとは
今回はPredatorのマーコム・マーケティングを担当している日本エイサーの谷 康司氏にインタビューを行った。ドレッドヘアにサングラス姿が特徴の“ドレッド隊長”としても活動しており,イベントなどではおなじみの人物だ。谷氏のeスポーツに対する思い,4月6日〜11日にかけて開催されたPredator Leagueについて聞いてきたのでぜひ一読してもらいたい。
「Predator League」公式サイト
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずは簡単な自己紹介からお願いします。
谷 康司氏(以下,谷氏):
会社の役職としてはマーコム・マーケティングという,広告から広報の活動までいわゆるマーケティングの一切合切すべてをやっている部署の統括をしています。
個人で担当するのが,ゲーミングブランドPredatorのマーケティングです。それで,前職がゲームの会社でeスポーツに10年近く携わっていたことで,Predator Leagueが始まるとき,こちらも手掛けることになりました。
4Gamer:
Predatorが協賛しているeスポーツイベントに“ドレッド隊長”として出演したりしてますよね。
ドレッドのかつらをかぶってサングラスをかけたキャラクターですね。視聴者の年代が若いこともあり,近い存在に感じてもらえるように,ネクタイにスーツという堅苦しいイメージは個人的にも好きではないので,ああいうちょっとくだけた恰好で出ています。
“ドレッド隊長”にはもう一つ狙いがあって,自分がアイコニックなものになることで,Predatorと聞いたときに「あのドレッドヘアの人のところね」と,少しでも思い浮かべてもらえるようになりたいと思ってやってます。
4Gamer:
Predatorのぬいぐるみ「プレベア」もそうですよね。ドレッド隊長と合わせて,日本におけるPredatorのアイコンになっている気がします。
谷氏:
ありがとうございます。PCとかモニターとか,我々はスペックで語りがちなんですが,大多数の方に届かないんじゃないかと思っています。そんな時に,ドレッド隊長と同じで,あのクマのぬいぐるみ! って思っていただけたらと。プレベアの方が人気が出ているところがちょっとどうなんですかね(笑)
4Gamer:
イベントの会場でお会いすることも多いですよね。
谷氏:
そうですね。役職上,部長という立場ですが,イベントの現場に出たり,制作プロデューサーとして代理店さんと一緒に大会を作ったりしています。まとめると,Acerの中でマーケティングの統括をしながら,Predatorというゲーミングブランドを自分で考えて実際に動くことで,いろんな人に知ってもらう,ということをやっています。
4Gamer:
Predatorでの活動の手応えはいかがでしょうか。
谷氏:
Predatorというブランドは,ゲーマー向けのPCブランドでしたが,今ではゲーム用のディスプレイを出していたりします。他にも,グローバルではマウス,ヘッドセット,キーボードといった周辺機器も展開していて,これらの知名度が高まっています。
ゲーマー向けPCの市場が大きく伸びてきているということで,日本でも2016年から展開を再開しました。ただ,日本はゲーミングPC市場としてはあまり大きいものでなく,いわゆるゲーミングPCよりも,ゲーミングディスプレイ需要の方が圧倒的に高いんです。その中でブランドの知名度を上げていくために,2018年からはPredator Leagueを開催しています。手応えとしてはきっとどこまでも満足ということはないのですが,ここ1年ほどはとてもたくさんの人に支えていただけるようになってきたと感じています。
4Gamer:
体感レベルの話でしかないのですが,家庭用ゲーム機で遊ぶときもゲーム用のディスプレイを選ぶ人が増えた気がしますね。
谷氏:
伸び幅もここ3年くらいは前年比130%〜150%ほどで,週によっては前年の2倍近くになることもあり,,市場の拡大が非常に早いです。そうしたこともあって,PUBGの公式大会だった「PUBG JAPAN SERIES」(以下,PJS)に,2019年の「PUBG Winter Invitational 2019」から最後の大会「PUBG Winter Invitational 2020」までの1年間「ゲーミングモニターのスポンサー」という形で協力させてもらいました。
4Gamer:
PJSにはLEVEL∞さんがすでに協賛していましたよね。競合する製品を扱うスポンサーが,同じ大会に協賛するというのはなかなか異例の事態だったのでは?
谷氏:
さすがにPCでの協賛はできませんでした(笑)。ただ,国産メーカーさんが強いゲーム用PCのブランドでも,eスポーツを通じて「Predatorじゃなきゃ嫌だ」というコアなファンを作っていきたいと思っています。
4Gamer:
Predatorはeスポーツ大会の協賛からSunSisterといったプロチームへのスポンサーを含めて力を入れていますよね。大前提としてマーケティングや広告という目的はあるかと思うんですが,谷さんの活動からは,それだけではない熱量を感じています。eスポーツにここまで熱心に取り組んでいる理由はなんでしょうか。
先ほどお話した通り,前職はゲーム会社だったのですが,EVOを現地で見る機会があったんです。数えきれない数のプレイヤーが集まってその腕を競い,ステージに上がってスポットライトを浴びながら最強を決める。そしてそれを見て熱狂する人たちがいる。あの熱量を感じて,感動したんです。日本にもそういった文化を根付かせたいという気持ちが根幹にあって取り組んでいます。
4Gamer:
EVOは確かに価値観を変えてしまうほどの熱量がありますね。
大会やチームにスポンサーをするうえで気をつけていることはなんでしょう。
谷氏:
eスポーツのスポンサーをすることはいわゆる普通の広告とはまったく違うんです。単に製品の露出を増やしたいなら,eスポーツ以外にお金を使った方が良い。スポンサーをするのであれば真剣に大会やチームを一緒に作り上げていく,という気持ちが大切だと思っています。大会やチームの発信だけでなく,自分たちでも発信していかないとダメなんです。真剣に向き合ってる姿を見てもらって初めて,ファンは共感してくれると思っています。
4Gamer:
ファンに寄り添って共感することが大切だと。
谷氏:
良い例がPJSですね。ケンタッキーさんやサッポロビールさん,ほかにもたくさんの協賛社が真剣に大会に向き合ってくださって,それがファンの共感を得たんだと思います。「今日はPJSがあるからケンタッキーのフライドチキンを買ってこよう」だとか,「サッポロ黒ラベルを飲みながら応援しよう」とか,ファンの人たちがSNSにあげていて,“還元ムーブ”という言葉が生まれました。
弊社の製品は大会があるからと気軽に買えるものではないので,なかなか還元ムーブに乗れなかったのですが,それでも「次買い替えるときはAcerのモニターにします」と言ってくれる人がたくさんいました。本当にありがたいです。
Predatorとしてはeスポーツを真剣にやっているというのをまず知ってほしいです。その結果として,次に買い替えるときの候補にPredatorの製品が挙がるというのが理想だと思います。
4Gamer:
私自身も大会の時は,“還元ムーブ”のツイートをよく見てました。タイトルによって文化が違うのですが,PUBGのそれはファンというよりサポーターのようだと感じましたね。
谷氏:
そうなんです。PJSは主催,選手,スポンサー,視聴者が一体となって作り上げた素晴らしい大会だったと思います。
4Gamer:
日本のeスポーツに必要なものは何だと思いますか。
谷氏:
まず組織ですか。eスポーツを統括してマネージメントする組織が必要だと思っています。eスポーツという言葉が独り歩きした結果,ただゲームで対戦するということが“eスポーツ”になっている節もあります。だけどそれは違うと思うんです。そんなに単純なものじゃない。
そういった部分からもちゃんとした統括組織がほしいですね。eスポーツの定義をそろそろ作っていかなければならないと思います。難しい部分ですが,何がeスポーツで何がそうじゃないのか,切り分けていく必要があると思います。
もうひとつは法人化しているプロのeスポーツチームの意識改革が必要と思っています。
4Gamer:
意識改革ですか。
谷氏:
そうです。大会という場所は僕たちが作ることができますが,そこでどういった姿を見せるかは選手やチームにかかっています。出場するチームの活躍の場所を作るのが大会制作です。誰かの憧れになれるような存在になってほしいですね。そのためにはゲーム好きが集まった集団から,タレント性もある競技者としてのプロチームに変わっていかなければいけないと思うんです。
一昔前は「ゲームが好きな人」がそのゲームの大会を見ていましたが,最近では「ゲームをプレイしていないけれど観戦はする」という,いわゆる“観戦勢”という人が増えてきています。そういう人たちが例えばですが,夕方に「今起きた。おはよう」と選手がツイートしたとして,それを見てどう思うか。それを考えないといけない。
4Gamer:
なるほど。
谷氏:
僕の意見ですがゲームは,アーケードから家庭用へと発展してきた歴史がありますが,いつも「ゲームはやりすぎたらいけない」ものだったと思います。だけど,僕が目指しているのは,そのゲームで競う選手の熱量を感じる視聴者が応援する世界です。
チームや選手にもっと年齢,性別を超えたファンがついてほしいんです。特殊な世界ではなく,一般的に認められる世界の方が断然望ましい。選手には「見られている」意識を持ってほしいと思います。好きになってもらうために「どういう振る舞いをしたらいいのか?」「どういう言葉で発信すればいいのか?」を一緒に考えていきたいと思っています。
4Gamer:
PJSだと選手憲章※(関連リンク)を発表したりしていましたね。
※PUBG JAPAN SERIES公式サイトの閉鎖に伴い,リンク先を変更しました。
谷氏:
大会には意識を改革する役割もあると思っています。しっかりとしたリーグを運営するためには,選手に向けた教育などもやっていかないといけません。
意識の差は法人チームでもかなりあると思っています。ちゃんとやっていこうとしていて,すでにお手本になるチームもあれば,まだそこまで手が回っていないチームもある。その差を埋めていけたらいいですね。
Predator Leagueの目指す場所
4Gamer:
それではPredator Leagueについて教えてください。Predator League自体は3回目の開催ですが,そもそもその目的はなんでしょうか。
谷氏:
Predator LeagueはAPAC地域に向けて開催している国際大会です。Acerがゲーム向け市場の拡大を目指しながら,APAC地域にeスポーツを振興していき,そのうえでPredatorというブランドを浸透させていきたいというのが目的です。
4Gamer:
本来は2020年の2月に開催予定だったものが,新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期になりました。これを今,オンラインで開催したことについての経緯を教えてください。
谷氏:
当初は2020年2月にフィリピンのマニラで開催する予定でしたが1月末あたりから感染の拡大が世界各地で起こり始め,延期を決定しました。当初は6月〜7月に開催する予定だったのですが,感染拡大は収まらず,再度延期を発表しました。
最後までオフラインで開催したいと願っていましたが,次の延期ではなくオンラインでの開催を決断することになりました。
4Gamer:
Predator League 2020/21は,2019年12月に行われた国内予選でDetonatioN Gaming WhiteとRascal Jesterの出場が決まっていました。オンラインでの開催になった結果,出場チーム数が4チームに増え,ENTER FORCE.36とSunSisterが出場することになりましたが,その経緯を教えてください。
谷氏:
オンライン開催でのPingの関係上,AsiaとAPACの2地域に分けて開催することになりました。16チームを2つの地域に分けたため,さらに16チーム,アジアとAPACで8チームずつ増やす必要がありました。
本来であれば予選を行って選出するべきなのですが,2月頭にオンラインでの開催が決まり,国内大会の関係もあって予選を行うことができなかったんです。弊社が協賛しているPUBG JAPAN CHALLENGE(以下,PJC)が開催されていたため,PUBG Japanと相談して,そこからチームを選出することになりました。本来であれば決勝の結果を待つべきなのですが,大会を主催のフィリピン支社が大会準備に間に合わないということで,予選の結果でSunSisterに決め,出場していただきました。
ENTER FORCE.36は国際大会である「PUBG Global Invitational.S」(PGI.S)に出場し,実績があったことから選出させていただきました。
4Gamer:
Predator Leagueがエキシビション的なものではなく,競技性を追求する大会であるのなら,今回の大会は各国の温度差があったように思えました。
谷氏:
そうですね。追加チームの選出は各国ともに時間がなかったという事情がありますが,韓国はPGI.Sにも出場していたプロチームが出場していました。一方で,競技シーンに出てくるのはどうなのか,というチームも出場していたと思います。チーム選出は各国に委ねられていたので,文句は言えませんが,僕の個人的な意見でいえば「それはどうなの?」と思うところでもあります。もっと適したチームがあったんじゃないかなと。Acer/Predatorとしてやりきることができなかった部分です。
4Gamer:
YUDA esportsが初日に出場していなかったりと,いろいろとトラブルがありましたが,なぜそのようなことが起きたのでしょうか。
谷氏:
大会として準備不足だったことは否定できません。接続テストも日程の調整がつかず,1度しかできませんでした。YUDA esportsに関してはハードウェア系のトラブルがあったと聞いています。
日本や韓国は大会に慣れているチームだったのですが,慣れていないチームもいたようです。そのあたりも含めて,大会全体の設計と準備を我々がもっとしっかりとやるべきでした。
4Gamer:
見通しが甘かったと。では谷さんにとって,今回の大会の評価は?
谷氏:
日本の担当としては30点だと思っています。フィリピン支社がメインとなって作っていたのですが,配信などで出せたPredatorの世界観はそんなに悪くないと思っています。ただ,準備やその進め方,いろいろとあったトラブルを含めてその点数です。
4Gamer:
今回の大会を踏まえ,今後Predator Leagueはどのように展開していくのでしょうか。
谷氏:
2022年に開催予定の次回大会は日本がホストになります。そこで日本のすごさというものを世界に伝えていきたいですね。しっかりとみんなが満足できるようなものを作り上げていきます。
実は2年前に日本で開催すること自体は決まっていて,本来であれば今年開催予定だったのですが,延期の影響で2022年にスライドしました。主催国として立候補した国はインド,マレーシア,ベトナム,日本だったんですが,日本のeスポーツの現状や目指していること,目標,夢のような少し曖昧なものも含め,死ぬ気で本社へプレゼンして選ばれました。
Predator Leagueの決勝をいわゆる先進国で開催するのは初めてなんです。今はAPAC地域の大会ですが,日本での開催をきっかけに,Predator Leagueをよりグローバルなものにしていきたいという構想があります。そのテストケースになると思うので責任は重大です。
4Gamer:
おお,それはオフラインでの開催でしょうか。
谷氏:
現状ではオフラインで考えています。ただそれまでに今の状況がどうなっているのかは分からないので,何とも言えないところです。会場も前もって押さえないといけないですし。ただ,開催すること自体は決定事項なので,どういった形で実施するかはいくつかパターンを作って対応したいと思っています。眠れない夜が続きそうです(笑)。
4Gamer:
日本での開催の成功を期待しています。
最後に読者へのメッセージをお願いします。
谷氏:
今回のPredator Leagueは僕としては不満足なものでした。しかし,そこから学んだこともあります。今回の反省点をしっかりと話し合い,それを糧にして,日本の皆さんはもちろん,世界中の人に向けて日本のすごさというものを,皆さんの記憶に残るように,大会を通じて伝えていきたいと思います。
4Gamer:
ありがとうございました。
収録日:2021年4月10日
「Predator League」公式サイト
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