レビュー
バランスの取れた性能と消費電力,バランスを欠く電源仕様と価格
Radeon HD 6790
(Radeon HD 6790リファレンスカード)
シリーズ第1弾となるRadeon HD 6800の投入時点で,「ATI Radeon HD 5700シリーズは価格改定のうえ継続販売する」とAMDが早々に明言していたことと,OEM向けも含めた場合,Northern Islands世代のGPUコアはすべてモデル名が明らかになっていたこと,そしてOEM向けの「Radeon HD 6770」が「ATI Radeon HD 5770」(以下,HD 5770)のリネーム品だったことから,自作PC市場向けに6700系のGPUは出てこないと思っていた人も多いのではなかろうか。
では,これはいったい何であり,市場においてどう位置づけられるべきなのか。4Gamerでは,正式発表に合わせてリファレンスカードを入手したので,いくつかのテストから,その立ち位置を探ってみることとしたい。
Bartsコアの派生品「Barts LE」コアを搭載(?)
SIMD Engineは2基少なく,ROP数はHD 5770と同じに
実際,スペックを細かく見てみると,「Radeon HD 6870」(以下,HD 6870)で14基,「Radeon HD 6850」(以下,HD 6850)で12基あったSIMD Engine数が10基になっているという違いがある。SIMD Engine数が2基減ったため,テクスチャユニット数も,HD 6850の48基から,2×4で8基減って40基となった。
ちなみにここまでの「10 SIMD Engine(=800SP),40テクスチャユニット,16 ROP」というスペックは,HD 5770と同じ。HD 5770は128bitメモリインタフェースなので,数字上の話だけをするなら,「HD 6790のスペックは“256bitメモリインタフェース版HD 5770”に近い」ということになる。
このほか,AMDがHD 6790の競合と位置づける「GeForce GTX 550 Ti」(以下,GTX 550 Ti),GTX 550 Tiの上位モデルとなるグラフィックスメモリ768MB版「GeForce GTX 460」(以下,GTX 460 768MB)ともども,主なスペックをまとめたものが表1となるので,参考にしてほしい。
HD 6870の基板を流用か?
電源周りの仕様には謎が残る
カード長は実測247mm(※突起部含まず)で,基板だけだと同241mm。カード全体を覆うGPUクーラーが6mmほどはみ出ているが,いずれにせよ長い。上位モデルたるHD 6850のリファレンスカードの同228mmよりも長いわけで,これは見た目に大きなインパクトがある。
HD 6790の公称最大消費電力は150Wなので,万全を期したとすれば納得できなくもない仕様,ではあるのだが,HD 6850だと同127Wで,6ピンの補助電源コネクタは1系統で足りていたことを考えると,HD 6790でなぜこのような仕様になっているのかは疑問が残る。
というのも,GPUクーラーを取り外してみると分かるのだが,HD 6790の基板は,HD 6870リファレンスカードのそれと瓜二つなのだ。基板の名称と思われるシルク印刷が「109-C22237-00」なのも共通だったので,HD 6790では,HD 6870の基板をそのまま流用している可能性が相当に高い。
かつてAMDは,「ATI Radeon HD 5830」で上位モデルの基板を流用していたことがあるだけに,今回のHD 6790もそれと同じ流れにあるのだろう。だとすれば,電源周りの仕様も合点がいく。
Catalyst 11.4ベースのレビュワー向けドライバを用い
対抗となるGTX 550 Tiとの比較を中心にテスト
今回,テストのために用意したGPUは,上の表1で紹介したものだ。テスト環境は表2のとおりとなる。
Radeonのテストに使ったグラフィックスドライバ「8.84.2-110322a-115844E」は,HD 6790のリリースにあたって,AMDから全世界のレビュワーに配布されたもの。北米時間3月29日付けで更新された「Catalyst 11.4」のプレビュー版ドライバだと,バージョンは「8.84.2-110322a-115845E」なので,これとほとんど同じものと見ていいのではなかろうか。
「Catalyst Control Center」からもCatalyst 11.4ベースであると確認できているので,2011年4月版の大型アップデートを先取りしたバージョンであることはまず間違いない。
なお,GeForce用には,登場から間もないRelease 270世代の公式最新β版「GeForce Driver 270.51 Beta」を用いている。
テストに用いているCPU「Core i7-975 Extreme Edition/3.33GHz」は,パフォーマンスに影響し,かつBIOSから有効/無効を切り替えられる機能のうち,「Intel Hyper-Threading Technology」「Enhanced Intel SpeedStep」は有効にしたままとしつつ,テスト時の状況によって影響が異なるのを避けるため,「Intel Turbo Boost Technology」を無効化している。
HD 6850よりHD 5770に近いパフォーマンス
というか,GTX 550 Tiとほぼ同じ
「3DMark06」(Build 1.2.0)の「Feature Test」を除き,グラフ画像をクリックすると,別ウインドウで1920×1200ドット時のスコアを基準に並べ替えたグラフが表示されるようにしてあるので,興味のある人はそちらもチェックしてほしいと述べつつ,まずは3DMark06の総合スコアをグラフ1,2でチェックしてみよう。
HD 6790のスコアは,「高負荷設定」の1680×1050ドットを除き,GTX 550 Tiより若干高め。ただ,上位モデルたるHD 6850との差はかなり大きく,どちらかといえばHD 5770に近いスコアとなっている。HD 5770とスペックが近い以上,妥当なスコアとも言えるだろうか。
続いてグラフ3〜8は,3DMark06のデフォルト設定となる,解像度1280×1024ドット&「標準設定」におけるFeature Testのテスト結果をまとめたものだ。
まずグラフ3はFill Rate(フィルレート)の結果となるが,HD 6790のスコアはHD 5770より若干高いレベル。SP数やROP数は同じで,さらにメモリクロックだけならHD 5770のほうが高い(※HD 6790は4200MHz相当,HD 5770は4800MHz相当)ので,HD 6790の256bitメモリインタフェースが奏功していると見るべきだろう。
グラフ4,5は順に,Pixel Shader(ピクセルシェーダ),Vertex Shader(頂点シェーダ)のスコアだ。テクスチャユニットやROPユニットの性能がスコアを左右しやすいPixel Shaderで,HD 6790とHD 5770のスコアはほぼ同じ。一方,Vertex Shaderだと,256bitメモリインタフェースの効果により,ComplexテストでHD 6790はHD 5770に65%もの差を付けている。
DirectX 9世代における汎用演算性能を見るShader Particle(シェーダパーティクル),長いシェーダプログラムの実行性能を見るPerin Noise(パーリンノイズ)の結果が順にグラフ6,7だが,グラフィックスメモリ性能がスコアを左右する前者では,Vertex ShaderのComplexとにた結果になった。一方の後者だと,HD 6790とHD 5770はほぼ同じレベル。HD 6790における大きな上積みのようなものは認められない。
実際のゲームタイトルから,グラフ8,9は,「S.T.A.L.K.E.R.: Call of Pripyat」(以下,STALKER CoP)における「Day」シークエンスの平均フレームレートをまとめたものである。
ここではHD 6790のスコアはGTX 550 Tiより若干高めといったところ。HD 5770に対して大きな差が付いているわけではないものの,DirectX 11タイトルでGTX 550 Tiより高いスコアを示せているのは1つのポイントと指摘できそうだ。
ただ,同じSTALKER CoPでも,最も負荷の高い「SunShafts」シークエンスだと,DirectX 11に強いFermiアーキテクチャに分があるようで,HD 6790とGTX 550 Tiの力関係は逆転する(グラフ10,11)。
グラフ12,13は,DirectX 10をベースに,DirectX 11が補助的に使われる「Battlefield: Bad Company 2」(以下,BFBC2)のテスト結果となるが,ここだとHD 6790はGTX 550 Tiより8〜21%高いスコアを示し,GTX 460 768MBに対してもいいところまで迫っている。BFBC2では,高い動作クロックとメモリインタフェース周りが大きなメリットとなるようだ。
DirectX 9世代の「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)でも,HD 6790はGTX 550 Tiに対して優位性を発揮していることが,グラフ14,15からは見て取れる。HD 5770に対してもスコアが高めなのは,メモリインタフェースの違いによるものだろう。
グラフ16,17に示したのは,DirectX 10世代のタイトルである「Just Cause 2」の結果だが,ここでは標準設定と高負荷設定で,まったく異なる結果になった。標準設定ではHD 6790がGTX 550 Tiに10〜17%の差を付けるのだが,高負荷設定では6〜8%置いて行かれるのだ。断言まではできないが,GTX 550 Tiだと24基あるROPユニットが,HD 6790では16基しかないことで,ここが足かせになってしまったのではなかろうか。
同じくDirectX 10世代となる「バイオハザード5」の結果がグラフ18,19だが,傾向はBFBC2似。HD 6790のスコアは安定的にGTX 550 Tiを上回っている。
3D性能検証の最後は「Colin McRae: DiRT 2」(以下,DiRT 2)だが,DirectX 11世代ということもあり,HD 6790はGTX 550 Tiに対してやや離された(グラフ20,21)。その差は1〜8%程度だ。
実はHD 6850より低い消費電力
製品のバラつきを加味したスペック設定か?
前述したとおり,HD 6790は,補助電源コネクタが6ピン×2という仕様で,公称最大消費電力もHD 6850より高い。そこで,ゲーム中の消費電力はどういう結果になるかを見るべく,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,システム全体の消費電力を計測し,比較することにした。
テストにあたっては,OSの起動後,30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時としている。
その結果はグラフ22のとおり。そのまま表示すると縦に長くなりすぎるため,記事内では縮小版を掲載しているが,HD 6790のスコアが,HD 6850と同等かそれより低いというのは,縮小版でも十分掴めると思う。
なお,消費電力のスコアを鑑みるに,6ピン×1でも動作しそうだが,2つの補助電源コネクタに正しく電力が供給されていない限り,HD 6790は動作しなかった。
グラフ23は,室温20℃の環境に,テストシステムをバラック状態で置き,3DMark06を30分間連続実行した時点を「高負荷時」として,アイドル時ともども,CPUID製のモニタリングツール「HWMonitor PRO」(Version 1.11)から測定した結果になる。
記憶力のいい読者だと,「あれ,いつもの『GPU-Z』は?」と思うかもしれないが,「GPU-Z」(Version 0.5.2)でHD 6790の温度を取得できなかったための措置である。
というわけで結果を見てみると,HD 6790のGPU温度はHD 6850やHD 5770より低く,概ね及第点といえる。筆者の主観であることを断ったうえで述べると,搭載するクーラーの動作音は「低負荷時はまったく気にならないものの,高負荷時は多少耳に付く」感じで,ほとんどHD 6870と同じ――まったく同じ可能性もある――と言ったほうが分かりやすいかもしれない。さほど高い静音性を備えるわけではないが,冷却性能はそこそこあり,総合すると問題のないレベルといったところだうか。
悪くはないが,価格設定が高すぎる
オリジナル基板で1万円台前半になるのを待ちたい
性能比較の段では,AMDが競合と位置づけるGTX 550 Tiとの力関係を中心に述べたが,HD 6790とHD 6850の差は歴然として存在する。さらに,HD 6850のほうがリファレンスデザインの基板が短く,補助電源コネクタが1つで済むというメリットもあるため,扱いやすさでもHD 6850のほうにかなりの分がある。そして,それらを踏まえると,HD 6790カードの価格は,もっと低くあるべきだ。少なくとも,HD 6850を上回るほどの価格設定では厳しすぎる。中心価格帯が1万3000〜4000円程度になって,1万〜1万5000円程度で販売されているHD 5770カードを“喰う”ようになる必要があるのではなかろうか。
また,HD 6870をそのまま流用したリファレンスデザインも,おざなりな印象が拭えない。性能面では悪くないだけに,より短い基板サイズで(可能なら補助電源コネクタを1ピン化した)モデルが,より安価な設定で出てくれば,コストパフォーマンスを重視するゲーマーに「買い」と勧められるようになるだろう。
- 関連タイトル:
Radeon HD 6700
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