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[CEDEC 2011]伝説的なアニメーター金田伊功氏がゲーム業界に残したものとは? 最新作に受け継がれるその魂を振り返る
そんな金田氏がゲーム業界でなにを行ってきたのか,スクウェア・エニックス モバイル事業部のシニア・マネージャー/プロデューサーである時田貴司氏とモバイル&ゲームスタジオの取締役会長であり,「CEDEC 2011」運営委員を務める遠藤雅伸氏によって説明された。
古くならない「金田流」
金田氏がスクウェア・エニックス入社後に手がけたのが,MMORPG「ファイナルファンタジーXI」(PC/Xbox 360/PS2)のキャラクターデモシーンで,モーションキャプチャーのディレクションやモーションデータの調整などを行った。なかにはモーションキャプチャーではなく,一からモーションを起こしたシーンもあるというから,これらには,金田氏のアニメーターとしての経験が活かされているのだろう。
会場ではガルカのムービーが公開されたが,巨体を揺らしながら歩く姿はかなりの迫力。10年近く前の動画だが非常に生き生きとしており,古さを感じさせない。「テクスチャは古いが,動き自体は今のCGアニメもここまできていないのではないか」と時田氏は金田氏の技術を絶賛した。
時田氏は当時,3DCG制作のコストで悩んでいたそうだが,金田氏と共に仕事をするということで,フルに3DCGを使うのではなく,2Dの絵を導入しようと決意。“3D VS.2D”という,CGのコストカットそのものを題材としたコンセプトを立ち上げた。
オープニングは2Dと3Dで制作され,2Dのアニメーションはタツノコプロが,3DCGはD3Dがそれぞれ担当。当初はテイストの異なる2Dアニメーションと3DCGをいかに芸術的に馴染ませるかに苦心したものの,ある時期からは「パッキリと分かれていてもいいのではないか」(時田氏)と開眼。2Dの良さを活かした作品に仕上がった。
エッグモンスターのリアルタイム2Dアニメーションは,手や身体といったパーツを,同社内製のエディタで組み合わせる方式で作成された。CG的な発想でなめらかな動きを作ろうとするCGスタッフに,金田氏がメリハリを付けるよう方向修正の指示を出すことがよくあったそうだ。
時田氏は,金田氏のテクニックは「リミテッドアニメで培われたもの」と考察する。ちなみにリミテッドアニメとは,動きを簡略化して1秒あたりに使用するセル画の枚数を減らす手法のこと。海外から導入されたのちに,日本アニメ界で進化したと言われている。
CG的な思考だとエフェクトは理詰めで作られるが,金田氏の描くエフェクトには直線と曲線の微妙なミックス具合があり,「動かすことで分かる理屈抜きの気持ちよさがある」と時田氏は語る。「半熟英雄対3D」の現場では金田氏がきっかけとなり,アニメとゲームの融合が進んだといっていいそうだ。
新旧金田コンビ,そして金田氏の想像力
「武蔵伝II ブレイドマスター」(PS2)で金田氏は,オープニングムービーの絵コンテを担当した。アニメ「天元突破グレンラガン」の監督として知られる今石洋之氏は金田氏のフォロワーとして有名で,今石氏を作画監督に迎えたことで「新旧金田コンビ」(時田氏)が実現,よりシャープな仕上がりとなった。
「エッグモンスターHERO」(ニンテンドーDS)では,エンディングのスタッフロールを30ページのコミック風に仕上げた「エンディングコミック」の執筆を金田氏が担当。時田氏は「漫画を描くような形で」と依頼したという。
ゲームを作っていて一番面白いのは,アニメやマンガのノウハウなどをごった煮にできるところだという時田氏は,「エンディングコミックは,マンガの良さとドット絵の良さ,それらをニンテンドーDSの2画面で融合できた」と感想を述べた。
「半熟英雄4 〜7人の半熟英雄〜」(PS2)では,金田氏がイメージボード,ムービーディレクター,エッグモンスターアニメーションを担当。「地球防衛軍 VS.エッグモンスター」というイメージボードでは,背景に金田氏自身が撮影した写真が使用された。ちなみに写真撮影は金田氏の趣味だったとのこと。
「聖剣伝説4」(PS2)はシリーズ初の3D作品で,金田氏はムービーシーン用に3Dキャラクターの表情を設定する,フェイシャル・セッティングを担当した。
金田氏が描き上げた表情が,デザイナーによって3Dモデルに反映された結果,生き生きとしたキャラクターが生まれたという。「金田さんのキャラクター作りは役作り的であり,キャラクターの一人一人を,絵を通して演じているようだ」と時田氏は感想を語る。さらに,「3Dモデリングで表情がここまで凝っているのはピクサー作品ぐらいしかないのではないか」と金田氏の仕事ぶりを絶賛した。
2007年に発売された「ファイナルファンタジーIV」のニンテンドーDS版では,金田氏がオープニングムービーとリアルタイムイベントの絵コンテを手がけた。ちなみに,氏はゲーム好きだったそうで,1991年に発売されたスーパーファミコン版「ファイナルファンタジーIV」のプレイ経験があったという。
会場では,主人公セシルとその親友であるカインの旅立ちシーン(スーパーファミコン版とDS版の両バージョン)が流された。金田氏が絵コンテを手がけたDS版は,スーパーファミコン版と内容は同じものの,セシルがマスクを下ろすといった細かい動きが加えられることによって,両者の信頼関係と旅立ちの緊張感が,よりドラマチックに描かれている。
このイベントシーンはBGMが流れるタイミングが勝負だと考えた時田氏は,金田氏が絵コンテを描く前に曲を渡し,“理屈ではないアナログ感覚の調整”を繰り返してもらったという。こうした作業は「料理のようなもので,分量さえあっていれば美味しくなるわけではない」そうで,やはりこういったところに,金田氏の経験がいかんなく発揮されているのだろう。
最新作に受け継がれる金田氏の魂
ここでサプライズとして2011年12月に発売される「ファイナルファンタジーXIII-2」(PS3/Xbox 360)のイベントシーンが上映された。
同作ディレクターの鳥山求氏が寄せたメッセージによれば,当初「ファイナルファンタジー XIII」にはライトニングを抱きかかえて現れるオーディンが描かれるシーンが用意されるはずだったが,諸般の事情によって製品版には収録されなかった。しかし金田氏が描くそのシーンがとにかく気に入っていた鳥山氏は,続編である「ファイナルファンタジーXIII-2」に,オーディンがライトニングを抱きかかえて爆発の中から脱出する場面を導入。金田氏の魂が最新作へと引き継がれたと説明。
本セッションのために資料をまとめるにあたり,「いろいろなセクションの人達が協力してくれた」と時田氏は振り返る。金田氏はとても気さくで「悟りを開いたかのような人」だったという。どんな仕事もポジティブにこなしていた氏の姿は,「楽しんでやった者勝ち」を体現しているように時田氏の目には映ったそうだ。
金田氏と,氏が手がけたアニメを見て育った時田氏,そして若手の社員でゲームを作っていた状態を,「おじいちゃんと息子,孫の三世代でゲームを作るような時代」と時田氏は定義。ジャンルや世代の垣根は関係ないということを,金田氏の仕事ぶりからあらためて感じたそうだ。時田氏は,「技術よりも姿勢。リスペクト,エンジョイする心がものを作る仕事の原点であると,金田氏から教えてもらった」と語る。
アニメーターとして知られる金田氏の活動は,ゲームにまで及び,どちらの世界でも成功した。時田氏はその理由を「金田流の様式美や型がありつつも,遊び心や自由な振れ幅もあったからこそ,ジャンルやカテゴリにとらわれずに作品を作り続けられた」からと分析。こうした「金田イズム」を継承することで,日本のエンターテイメントを元気にしていきたいとと講演を締めくくった。
これまでゲーム業界における金田氏の業績は,広く知られているとは言い難い状況だった。だが今回,スクウェア・エニックスのスタッフ達がそれをまとめたことにより,金田氏がゲーム業界に何を残したのかがより明確になったといえる。
あらためて金田氏のゲーム業界における足跡を振り返ると,「CEDEC 2011」が掲げる“Cross Border”というテーマを,金田氏が何年も前に体現していたことがはっきりと分かるだろう。
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