「NINETY-NINE NIGHTS ONLINE」はなぜ横スクロールアクションRPGになったのか。プロデューサーインタビューを掲載

君塚靖征氏

　2011年12月8日，キューエンタテインメントは，オンラインアクションRPG「NINETY-NINE NIGHTS ONLINE」（以下，N3O）の正式サービスを開始する。同タイトルは，Xbox 360用ソフト「NINETY-NINE NIGHTS」（以下，N3）シリーズの世界観を継承した，横スクロールタイプのアクションRPGだ。4Gamerでは，N3Oのプロデューサーを務める君塚靖征氏に，N3シリーズをオンラインゲーム化することにした経緯や，今後の展開などを聞いた。

「NINETY-NINE NIGHTS ONLINE」公式サイト

初心者にも楽しめるオンラインゲームとして
あえて選択した横スクロール形式

4Gamer：
　本日は，よろしくお願いします。最初に，N3シリーズをどうしてオンラインゲーム化しようと考えたのか，教えてください。

君塚靖征氏（以下，君塚氏）：
　まずキューエンタテインメントには，自社IPをクロスプラットフォーム展開していこうという方針があります。例えば「ルミネス」は，据置き/携帯ゲーム機だけでなくモバイル端末やPCオンラインにも展開していますね。
　次に出す作品を考えたときに，弊社のIPでクロスプラットフォーム化していないものとして，N3シリーズが挙がりました。これが2008年頃の話で，将来のことを考えるならPCオンラインゲームとして展開するのがいいだろうと，プロジェクトをスタートさせたんです。

4Gamer：
　これまでのN3シリーズが3Dグラフィックスの一騎当千アクションなのに対して，N3Oは横スクロールタイプの2DアクションRPGと，原型を留めないほどのアレンジが施されたのはなぜなんでしょうか？

君塚氏：
　順を追って説明しますが，もちろん当初はN3をそのままオンライン化して，対戦などもできるようにしようという案がありました。
　しかし弊社でサービスしているオンラインゲームというと，「AngelLoveOnline」や「エンジェル戦記」といった，初心者にも楽しめるようターゲット層を広く取っているものが中心です。また，2008年にAngelLoveOnlineのPlayStation 3版のサービスを開始したことでも分かったのですが，オンラインゲームに興味はあるけれども，実際にはプレイしたことのない人というのは，まだまだ多いんです。
　そこでN3Oでも，これまで弊社でサービスしているタイトルと，基本的に同じ路線にしようと考えました。

4Gamer：
　つまり，初心者にも遊びやすいものにしよう，と。

君塚氏：
　ええ。N3の3Dグラフィックスをそのままオンライン上で動かそうとすると，どうしても高いPCスペックを要求することになってしまいます。またグラフィックスのテイストもハードコア寄りですから，難しいゲームという印象を与えかねません。どちらかというと，コアゲーマー寄りになってしまうんですよ。
　そこで一度，グラフィックス以外のN3の長所を洗い出しました。最初に挙がったのが“爽快なアクション”，次が「正義とは何か，悪とは何か」を問うような“世界観とコンセプト”です。その2つをきちんと継承したうえで，コアゲーマー用PCがなくとも動作するよう，グラフィックスを2Dのものに差し替えることに落ち着いたんです。

「NINETY-NINE NIGHTS ONLINE」（PC）
「NINETY-NINE NIGHTS 2」（Xbox 360）

4Gamer：
　その決断は，すんなりできました？

君塚氏：
　さすがに，簡単ではありませんでしたね（笑）。最初からN3の開発に携わっていた人達は，当然ながらオリジナルのN3のスタイルに思い入れがありますし，またどんなゲームにも「こういうグラフィックスだからこそ，こういう世界観が映える」という部分がありますから。
　ただN3Oに関しては，最初からオンラインゲームにするという企画でしたから，オンラインゲームとして“いいもの”にできなければ元も子もありません。オンラインゲームは，プレイヤーがたくさんいてこそ楽しめるものですから，ターゲット層は可能な限り広げたほうがいいだろう，そのためには要求スペックも低いほうがいいだろうと，あえてグラフィックス関連を削ぎ落としたんです。


4Gamer：
　N3シリーズのファンからの反応はどうでした？

君塚氏：
　皆さん，かなり驚かれたようです。まあ正直なところ，我々も最初に動いているのを見たときは，予想以上の変わりようにビックリしましたからね（笑）。「こんなのN3じゃない」という意見がもっと多いかとも予想していたのですが，実際にはそれほどでもなかったので，良くも悪くも安心しています。
　とはいえ，アクションゲームのキモとなるのは操作性や操作感がしっくり来るかどうかですから，今は実際にプレイした皆さんがどんな感想を抱くのかが気になります。私の個人的な感想ですが，N3OはN3よりも操作を単純化している分しっくり来ますし，それでいてハードな戦闘も楽しめるという仕上がりになっていると思います。

N3シリーズの世界観を継承しつつ
オンラインゲームとしての要素を強化

4Gamer：
　それではN3Oについて，いろいろ教えてください。まず，N3シリーズとしてはどういった位置付けになるのでしょうか？

君塚氏：
　「夜の王」「オーブ」，あるいは世界の崩壊といったキーワードは，これまでのN3シリーズと共通しています。神の力を分け与えられたドラゴンや，アルフといった種族も登場します。
　しかしストーリーや時系列はまったく異なっており，同じ世界観を持つパラレルワールドという感じになります。したがって，従来のN3シリーズを知らないと楽しめないということはありません。むしろN3Oの序盤では，オーブがどうこうという話はあまり出てこなくて，オーソドックスなファンタジーRPGっぽい展開になっています。オーブや夜の王など，ストーリーの真相に迫る話はあとから出てくるんです。

4Gamer：
　従来のN3シリーズのキャラクターがN3Oに登場することはないんですか？

君塚氏：
　キャンペーンなどで，シリーズのキャラクターが使用する武器や衣装を提供しようと考えています。
　また実現できるかどうかまだ分からないのですが，イベントNPCとしてそういったキャラクターを登場させるようなことも，ぜひやりたいです。ただ，ファンが抱いているイメージを壊さないよう気をつけなければいけませんので，考えなければならないことも多いんです。例えば，名前や顔は同じだけれども，あくまでも別人という位置付けにするかもしれません。


4Gamer：
　それではN3Oで，新しく取り入れた要素を教えてください。

君塚氏：
　やはりオンラインゲームですから，ギルドなどのコミュニティの部分に注力しています。
　また，やり込み要素もトロフィーシステムや称号，装備やカードのコレクションと，ふんだんに盛り込みました。

4Gamer：
　開発は台湾UserJoy Technologyが手がけていますよね。システムまわりはAngelLoveOnlineなどに，非常に似ていると感じました。

君塚氏：
　ええ。世界観やストーリーのコンセプトと設定，そしてアクションゲームの部分は弊社側が担当していますが，オンラインゲームとしての部分はUserJoyさんにお願いしています。なので，オンラインゲーム初心者でも比較的すんなりとゲームに入っていけるようになっています。


4Gamer：
　N3Oの企画当初から，開発はUserJoyに依頼する予定だったんですか？

君塚氏：
　そうです。弊社との付き合いも長く，お互いに信頼できる関係を構築してきたというところが最大の理由です。
　とはいえ，N3Oの開発がスタートした当初には，やはり意見の相違がありました。例えばアクションゲームの面白さには，適度な難しさや複雑さをクリアしていくという部分がありますよね。そこで私達としては，格闘ゲームとまではいかなくとも，コマンドを入力して技を発動したり，あるいは適宜キャンセルを入れたりといったような，少し複雑な要素を取り入れようと考えていたんです。
　しかしUserJoyさんからは，幅広い層をターゲットにしたタイトルでそれをやってしまうと，複雑な操作を楽しむコア層と，カジュアルに楽しみたいライトプレイヤー層の二極化が起きてしまうという意見が出たんです。そうなってしまうと，コミュニティの形成が阻害されてしまいかねません。

4Gamer：
　ほかのタイトルでも，操作の手順やルールを複雑にすると「覚えていないヤツは参加するな」というような風潮が生まれて，初心者が定着しないケースが見受けられますね。

君塚氏：
　そこでさまざまなやり取りをした結果，操作は基本的に移動，大小攻撃，ジャンプに絞り，あとはスキルのショートカットを使えるようにするだけに留めることにしました。
　それでもまだやり込んでいる人と，初心者やアクションが苦手な人では差が生じてしまいますから，それを埋められないかとコンボのマクロ登録機能を追加したんです。マクロは，基本コンボのあとにジャンプしてスキルを発動するところまでカスタマイズできるようにしました。
　その一方では，やり込み型の人向けに，コンボを臨機応変に切り替えられるようにもしています。


4Gamer：
　なるほど。アクション部分でも幅広い層に対応する配慮がなされているのですね。

君塚氏：
　また職業に関しても意見の相違がありました。実は私達は近接攻撃を主軸としたゲームを想定していたのですが，これは無制限に遠距離攻撃ができるとなると，ただ遠くから矢を放っているだけで敵を倒せてしまいゲームとして面白くならないという理由からでした。
　しかし，UserJoyさんからは弓や銃を使う職業を使いたいプレイヤーもたくさんいるだろう，という意見が出ました。例えば「二丁拳銃を使うキャラが格好いいから使いたい」というプレイヤーのニーズは無視できないのではないか，と。

4Gamer：
　つまりUserJoyが言っているのは，企画・開発側の都合でゲームの内容を決めるのではなく，プレイヤーが求めるものを作ろうということだったわけですか。


君塚氏：
　ええ。とはいえ，ただ矢を放っているだけでは面白くないことに変わりはありません。そこで弓を使うハンターは遠距離攻撃ができる代わりに，接近戦がものすごく苦手という形でバランスを取りました。放った矢が当たっても敵はノックバックせず，すぐに間合いを詰めて来るので，きちんと立ち回りを考えなければいけないんです。こういったバランス取りは，5つの職業すべてで行っています。
　開発の最初の期間は，このような意見の相違をどのようにゲームに落とし込んでいくかに非常に時間を掛けましたね。ただ，そのあとは，おおむねスムースに進行しました。

4Gamer：
　台湾ではすでに2011年5月からサービス提供されていますが，日本で展開するにあたり，何か違いはありますか？

君塚氏：
　ゲーム的には，職業ごとの特徴をより際立たせるようなバランス調整を施しています。あとは台湾の状況を参考に，スキルを習得する順序を変えたり，属性効果を強めにしたりしています。あとはアイテムトレードの設定とか細かく変えています。
　また顔のパーツの一部とボイスは弊社で用意したものを使っていますし，ゲーム内のイラストも碧 風羽さんに描いていただいたものを使っています。これは台湾と日本で，好まれるテイストが若干異なることが理由です。とはいえイラストに関しては，オリジナルの台湾版も残していて，オプション設定で切り替えることが可能です。

マップ/クエストは順次追加予定
ストーリー第2章の実装は2012年初夏を目標に

4Gamer：
　それでは正式サービス開始後の展開について教えてください。

君塚氏：
　まずは台湾版のコンテンツを，ストーリーの展開に沿って順次実装していきます。現段階ですでに準備を進めていますので，ゲーム内のコンテンツ消費速度に合わせてレベルキャップの開放と，マップやクエストを追加していきます。

4Gamer：
　今，台湾版のボリュームはどのくらいあるのですか？

君塚氏：
　私が実際にプレイした感じでは，かなり多いですね。全部やり尽くそうとすると，泣けるくらい時間が掛かります（笑）。
　またPvPコンテンツも実装します。まだ詳細は確定していないのですが，最初はギルド戦を，その1か月後くらいに個人戦を投入する予定です。
　そのあと，これは2012年初夏頃になってしまうかと思うのですが，大型アップデートを実施したいと考えています。このタイミングで，メインストーリーの第2章が始まります。そのほか企画・開発中のシステムがいくつもありますので，実装時期が近づいたら何が導入されるのかアナウンスできると思います。

4Gamer：
　分かりました。最後に，N3Oに期待している人に向けて，メッセージをお願いします。

君塚氏：
　これまでのN3シリーズをご存知だった方は，N3Oでグラフィックスが大きく変わってしまって驚かれたかもしれません。しかしアクションゲームとしては，コアなゲーマーでも十分に楽しめる内容になっています。ネット環境とPCさえあればプレイできますので，ぜひ一度お試しください。
　今回初めてN3シリーズを知った方や，オンラインゲームが初めてという方も，非常に遊びやすい内容になっていますので，ぜひプレイしてみてください。

4Gamer：
　ありがとうございました。


　君塚氏をはじめとするキューエンタテインメントのスタッフは，従来のN3シリーズのファンが，大きくアレンジされたN3Oを見てどう思うかを非常に気にかけていた。一騎当千タイプの3Dアクションゲームを，いかに多くの人が楽しめるオンラインゲームに落とし込むかという部分において，同社のスタッフが少なからずの葛藤を抱いていたことがインタビューから読み取れるのではないだろうか。
　ともあれ君塚氏の言葉にあるとおり，N3Oプロジェクトとは，N3シリーズの魅力を新しい形で提示し，さらにプレイヤー/ファン層を拡大していこうという試みである。このインタビューや先行レポートを読んでN3Oに興味を持った人は，ぜひ一度プレイしてほしい。

「NINETY-NINE NIGHTS ONLINE」公式サイト