レビュー
特務支援課の活躍と葛藤を描くシリーズ最新作の序盤と新システムをレポート
英雄伝説 碧の軌跡
エステルとヨシュアが活躍する「英雄伝説 空の軌跡」3部作は,秘密結社ウロボロスが引き起こした大事件を解決することによって完結した。しかし結社を壊滅させるまでには至らず,エステル達に心を開きかけていた結社の執行者レンも行方をくらましたままだった。
その続編となる「英雄伝説 零の軌跡」では,舞台となる場所も主人公もガラリとチェンジ。クロスベル市に新しく設立された警察組織「特務支援課」に所属するロイド・バニングスを中心としたメンバーが,政治的なしがらみに苦悩しながらもD∴G教団の悪しき計画を阻止するまでが描かれている。
物語的には空の軌跡からの続きということで,エステルやヨシュア,レンのその後についても触れられているが,やはりウロボロスのその後やD∴G教団の全容は不明。さらに闇オークション会場で保護されたキーアという少女の素性も分からぬままと,謎は深まっていくばかり。
ファンにしてみれば,「続編まだ!?」「続編早く!」という状況だったわけだが,いよいよシリーズ最新作となる「英雄伝説 碧の軌跡」が2011年9月29日に発売と相成った。物語についてはネタバレを避けるため最小限の紹介にとどめつつ,本作がどのような進化を遂げているか,早速レポートしていこう。
「英雄伝説 碧の軌跡」公式サイト
ランディとティオすけは一時離脱中
特務支援課にノエルとワジが加わり,新体制でスタート
特務支援課の活躍によって,D∴G教団の残党であるヨアヒム・ギュンターが引き起こした暴動は阻止された。しかしその同胞であった元市長秘書のアーネストとハルトマン元議長が,どさくさに紛れてエレボニア帝国へと亡命を謀る。その後,帝国からの追放処分を受けてしまった2人はカルバード共和国に逃れ,最西端のアルタイル・ロッジと呼ばれる教団の拠点跡に逃げ込む。
この2人の国外逮捕は政治的しがらみのない特務支援課に任され,ロイドの協力者としてダドリー捜査官,警備隊のノエル曹長,遊撃士アリオス・マクレインが参加するという異例の体制が整えられた。そして,いざアルタイル・ロッジに踏み込むというところから本作の物語が始まる。
開始早々いきなりの大捕物となるが,ここは軌跡シリーズのプレイ感を取り戻すステージだと思ってもらえばよいだろう。パーティにアリオスとダドリーがいるので,多少強い魔獣が出てきたとしても問題なく対処できるはずだ。
特務支援課としての再スタートは,この任務をやり遂げて,ロイド達がクロスベル市に戻ってからとなる。
だがランディは,グノーシスを投与されたベルガード門の警備隊員を鍛え直すためのリハビリ訓練に参加中。ティオはヨナと共にレマン自治州のエプスタイン財団本部に戻っており,前作からのメンバーはロイドとエリィの2人のみ。
この穴を埋める形でノエル・シーカーが警備隊より出向しているほか,不良グループ「テスタメンツ」のリーダーであったワジ・ヘミスフィアが準メンバーとして加入。序盤はこの新顔を含めた4名で,特務支援課の仕事に当たっていかなくてはならない。
クロスベルが置かれている状況と
周辺国や組織をしっかり理解しておこう
本作はクロスベル自治州という,自治権はあるが国家としては独立していない特異な地域を舞台としている点が,物語上重要なポイントとなっている。
貿易と金融で発展を遂げてきたが,東西に位置するエレボニア帝国とカルバード共和国の干渉を常に受け続け,犯罪を取り締まる法律も穴だらけ。その結果,政治汚職が広まり,犯罪組織やマフィアが台頭するようになってしまったのが,“魔都クロスベル”なのである。
前作でマフィア組織「ルバーチェ商会」が壊滅し,そうした闇の部分が一つ消えたように思えたが,皮肉なことにルバーチェの存在がほかの犯罪組織の流入を抑止していたこともまた事実だった。これが消えたことにより,クロスベル市はさらなる治安の悪化が懸念される事態となる。さらには帝国と共和国の意向を受けとめる各派閥の議員や役人も,教団事件が幕を閉じると同時にその多くが失墜。緩衝材のなくなったクロスベルに対し,両大国の圧力はいっそう厳しさを増していく。
この状況を打開すべく,IBC総裁にして新市長のディーター・クロイスは,周辺4か国の首脳を招いて「西ゼムリア通商会議」の開催を決定。エレボニア帝国からはギリアス・オズボーンとオリヴァルト皇子,カルバード共和国からはサミュエル・ロックスミス大統領,レミフェリア公国からはアルバート大公,リベール王国からは女王代理のクローディア王太女がクロスベルに集うこととなった。
この通商会議を数日後に控え,怪しい動きを見せる「黒月貿易公司」や,突如現れた猟兵団「赤い星座」の面々。そして「秘密結社ウロボロス」の執行者も姿を現し,クロスベルは極度の緊張状態に包まれる……。
本作では,こうした政治的な動向が物語の軸の一つとして描かれているので,プレイ前に今一度,しっかりと理解を深めておくようにしたい。
移動や戦闘システムに新要素あり!
エニグマIIと導力車輌を使いこなせ
基本的なゲームシステムは「零の軌跡」のものを受け継いだ形だが,もちろん新要素の追加などがあり,進化している部分も多い。その中で最も大きなものとして,「エニグマ」の仕様変更が挙げられるだろう。
エニグマとはエプスタイン財団が開発した新型戦術オーブメントの呼称であり,さまざまな属性を持ったクオーツをセットすることで,アーツと呼ばれる魔法が使えるようになる装置だ。特務支援課のメンバーも前作で装備していたが,これが本作では「エニグマII」にバージョンアップを遂げた。
中央のスロットにセットできるマスタークオーツは,その属性ごとにさまざまな特徴を持っている。誰にどのマスタークオーツを使わせるかはプレイヤーの自由だ |
前作同様,エニグマII用のカバーも交換できるようになっている。ミラに余裕があれば,気分転換に購入してみるのもよいだろう |
中央のスロットに「マスタークオーツ」と呼ばれる特殊なクオーツをはめ込むと,STRやDEFがアップするなどの特殊な効果を得たり,強力なアーツが使えるようになったりするという特徴が備わっている。また,マスタークオーツは戦闘を重ねるごとに錬磨され,本来持つ力が徐々に解放されていくという。
参考までにだが,評価用サンプルROMでプレイした限り,マスタークオーツがレベル2になるまでに要した戦闘回数は350回。どうやら成長にはかなり時間がかかるようなので,マスタークオーツは取っかえ引っかえせずに,これと決めたらひたすら使い続けていくほうがよさそうだ。マスタークオーツのMAXレベルは5なのだが,真の力が発揮されるのは,おそらく物語も終盤に差しかかってからになるのだろう。
マスタークオーツはレベルが上がるごとに特殊効果が強化される。それと同時に属性値も上昇していくため,強力なアーツを覚えやすくなる |
マスタークオーツをレベル5まで成長させると,パーティ全体に特殊効果がかかるマスターアーツが使用可能となる |
なお,この仕様変更に伴って,旧型のクオーツはすべて使用不可となる。またイチからクオーツを集め直さなければならないのは少々痛手だが,誰にどんな特性を持たせようかとクオーツをはめたり外したり,試行錯誤する楽しい時間がまた味わえると考えれば,苦にはなるまい。
戦闘では「バースト」と呼ばれる新システムが追加された。これは各章のストーリーが佳境に差しかかったときのみ使用可能となるもので,発動させればAT(アクションタイム)バーを無視して連続攻撃を行えるほか,アーツの駆動時間なし,攻撃力20%上昇,CP自動回復,全状態異常回復,敵の技・アーツの駆動解除といった効果を得られる。
バーストは画面右上に表示されるバーストゲージを満タンにすることで発動できる。このゲージは敵を攻撃することで増えていくが,逆に攻撃されると減少し,満タン状態のまま使わずにいても一定のところまで減少してしまう。
なかなか使いどころが難しそうではあるが,強敵相手にはガンガン利用していったほうがよいだろう。攻撃力が十分なのであれば,CP回復目的や,敵の大技を阻止するタイミングで用いても構わないわけで,状況に応じた使い方ができるように特性を頭に叩き込んでおきたいところだ。
新メンバーが加入したことにより,コンビクラフトのバリエーションも増加。コンビクラフトは,手配魔獣を倒したときに入手できる「戦術書」で習得する |
敵からバックアタックを受けると先制をとられるうえに,サポートメンバーが戦闘に強制参加してしまう。装備は常に全員分整えておく必要がありそうだ |
戦闘以外の新要素としては,特務支援課に「導力車」が支給されたことが大きい。前作でもバスに乗れたので移動時間としてはさほど変わらないが,導力車を休憩場所として活用できるため,フィールド戦闘時の安心感が段違いだ。
もちろん最初から休憩できるようになっているわけではなく,カスタムパーツを装着しなければならないが,段階的にHP,EP,CPが全回復できるようになるのは非常にありがたい。レベル上げはもとより,セピスや食材目的の狩りでも回復アイテムの消費を抑えられるし,いちいち街に戻ったりする手間も省ける。また手配魔獣を見つけたときも,導力車に駆け込めばすぐに全快で挑むことができるのだ。
カスタムパーツは中央広場のオーバルストアにて販売されるので,回復機能のカスタムパーツは早めに入手しておくのがオススメ。前作では捜査一課が乗り回している様をうらやましく見つめているだけだったが,専用車が与えられるまでになったなんて,特務支援課も随分立派に成長したもんだなぁ……としみじみしてしまう。
導力車のカラーリングも変更可能。なかには痛車的なデザインもあるようだが,警察車輌がそれでいいのか |
オーバルストアで入手できるカラーリングは数種類のみ。その他のカラーリングは,いろいろなところに置いてある車雑誌から手に入れなくてはならない |
「釣公師団」にライバル現る!?
やり込み要素や休暇イベントも楽しみの一つ
軌跡シリーズにおいて,釣り手帳をコンプリートすることに喜びを見出していた方々に,由々しき事態が発生した。なんと「釣公師団」のクロスベル支部が,「釣皇倶楽部」と名乗る集団に乗っ取られてしまったのだ。さらにクロスベル周辺の釣り場4か所が不当に占拠され,釣公師団は窮地に立たされてしまう。
釣皇倶楽部は,釣り具メーカーレイクロード社の跡取りであるレイクロードIII世が率いており,支部と釣り場を解放してほしければ「爆釣勝負」に勝利せよと対決を挑んでくる。占拠された4か所の釣り場には釣傑四天王と呼ばれる釣り師達が立ちはだかっており,彼らを倒したのち,レイクロードIII世との戦いを制しなくては,釣り場の平和は戻ってこない。
これまでどおりのんびりと釣りを楽しむため,そして釣公師団の名誉回復のためにも,この勝負,負けるわけにはいかない!
東通りのビルから追い出されてしまった釣公師団の面々は,東クロスベル街道のボート小屋に拠点を移して活動を再開する |
釣傑四天王と爆釣勝負をするには,まず一定の条件を満たしておかなくてはならない。例えば竜宮カグヤと戦いたいなら,130リジュ以上の魚を釣ってくる必要がある |
本作では特務支援課の休暇時に,テーマパーク「ミシュラムワンダーランド」(以下,MWL)へ向かうことになる。前作では捜査のために訪れるのみだったが,まさか客としてMWLを訪れる日が来ようとは……!
MWLのマスコットである「みっしぃ」を愛してやまないティオ。興奮を隠しきれない様がなんともかわいらしい |
観覧車内で2人きりになれば,普段はなかなか口にできないようなことだって話せるかも? |
入場できるアトラクションは全部で4つ。お城の最上階にある鐘を2人で鳴らし,鏡の前に立つと願い事が叶うという「鏡の城」。モンスターの住まう館を一丁の銃で駆け抜けるホラーコースター「ルナティックゾーン」。神秘的な占い師に2人の相性などを占ってもらえる「占いの館」。ゆっくりと回るゴンドラの中でミシュラムの景色を堪能できる観覧車「サンシャインモール」となっている。
それぞれ同行者の中から誰か1人を選び,一緒に入場する形となっているので,やはり仲を深めたい人と回ってみるのがよいのではないだろうか。ちなみに男性メンバーも誘えるので,ロイドとワジの2人で観覧車に乗ったりすることも可能。枠にとららわれずオールマイティに楽しんでいただければと思う。
またMWLにはビーチも併設されているのだが,こちらのイベントもいろいろな意味で要チェックだ!
さすがのクオリティと安定感
物語的にはやはり前作のプレイが大前提か
プレイしていてストレスを感じる部分がほとんどなく,本作も非常に完成度の高い仕上がりとなっている。日本ファルコム作品なのだから面白くて当たり前! と思われていながらも,そのプレッシャーに負けることなく,しっかりと期待に応えるだけのものを送り出してくるのは,さすがとしか言いようがない。
ネタバレ厳禁ということで,本稿でストーリーについて語れないのが残念ではあるが,軌跡シリーズのファンにとって,この「碧の軌跡」も存分に楽しめる作品であることは間違いなしだ。
「碧の軌跡」で初めてシリーズに興味を持ったという人に対しては,もちろん本作から始めても問題なし。……と,書くべきところなのかもしれないが,ファルコムファンの一人としては,可能なら前作「零の軌跡」を先にプレイすることをオススメしたい次第。
ゲームシステムに関しては慣れてしまえば済む話でも,物語的な部分においては,本作からではやや分かりにくい部分がどうしても出てきてしまう。前作のあらすじや重要なキーワードについてはゲームの中できちんと確認できるようになっているものの,登場人物の相関関係を始め,舞台となっているクロスベルの置かれている立場などを理解するうえでも,「零の軌跡」をプレイすることは,本作をスムーズに進めていく上できわめて有用なのだ。
さらにできることならば,「空の軌跡」3部作も先にプレイしておくと,「零の軌跡」や「碧の軌跡」をプレイしたときに,よりいろいろ盛り上がれるので,ぜひぜひ前向きにご検討いただきたい。
ちなみに「零の軌跡」のクリアデータがあれば,キャラクターレベルや特務支援課メンバーとの絆値などを引き継ぐことが可能となっている。残念ながら評価用サンプルでは引き継ぎができず,この点については確認できなかったのだが,イベントや会話の内容が細かく変わってくるとのことなので,セーブデータの用意もお忘れなく。
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