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崎元 仁氏率いるベイシスケイプの作曲家陣が音楽制作について語った,4starオーケストラ「ベイシスケイプトークイベント」の模様をレポート
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「ベイシスケイプ流・おとのつくりかた」:若手コンポーザーが語るサウンドディレクターの仕事
最初に,ベイシスケイプの作曲家陣の中でも若手となる,工藤吉三氏と千葉 梓氏のお二人が登壇した。ここでは「ベイシスケイプ流・おとのつくりかた」と題され,それぞれ違った個性を持つ作曲家達が,どのようにゲーム音楽の共同制作を行っているのか,という話題についてのトークとなった。
千葉氏はまず,音楽制作のプロジェクトにおいて,実際に作・編曲を行うコンポーザーの作業が大事なのは言うまでもないが,その舵取りをするサウンドディレクターも非常に重要な役割であると述べた。
というのも,作曲家によってそれぞれ好みの音楽ジャンルが異なるため,各々が自由に作業を行うと,全体としてはとりとめのないもの――料理にたとえるならば,中華と和食とイタリアンが混在したような状態になってしまう。
そこでサウンドディレクターが,「今回は“イタリアン”でまとめましょう」「あなたは“前菜”をお願いします」といった調子で,全体をまとめていくことになるというわけだ。
ここで,工藤氏がサウンドディレクターを担当したアレンジアルバム「朧村正 音楽集 変奏ノ幕」が紹介された。
2011年10月2日に発売されたばかりのこのアルバムは,ベイシスケイプがサウンドを担当したアクションゲーム「朧村正」(Wii)の楽曲をアレンジしたもの。
工藤氏によれば,元々の楽曲は,ゲーム内でループ再生されることを前提とした構成で制作されているが,アレンジの際には,「始まりがあって,盛り上がりがあって,エンディングがある」というように,気をつけてもらったそうだ。
続けて工藤氏は,「朧村正」の世界観を掘り下げるために原曲とは違ったアプローチや楽器の用い方をしていると,本作品におけるディレクションのコンセプトを説明した。
その具体例として,千葉氏が作・編曲を行った楽曲「落花流水」が会場で披露された。この曲については,工藤氏から千葉氏に,「原曲の雰囲気を壊さないでアレンジする」「アルバムのエンディングに値するような静かな感じで終わるように」という,2つの指示があったそうだ。
工藤氏によれば,サウンドディレクターによって作品の方向性は左右されるとのこと。ベイシスケイプのとくにアレンジアルバムを聴く際には,“サウンドディレクター”のクレジットに注目してみると,今までとは違った“発見”があるかもしれない。
「作曲家の制作スタイル」:言葉としての音楽と,雰囲気としての音楽の違いは?
第2部で登壇したのは,金田充弘氏と阿部公弘氏。お二人はベイシスケイプのいわば“2期生”であり,入社するためにデモテープを送った最初の世代なのだそうだ。
トークのテーマは「作曲家の制作スタイル」について。
作曲家によって,その作曲スタイルにもそれぞれ違いがある。金田氏の場合は論理的に音符を配置していくそうだが,阿部氏は「テクノ系の楽曲はかっこよさを優先する」というように,感覚的に作曲しているそうだ。
また編曲についてだが,ゲーム内BGMとアレンジアルバムとでは,やり方がまったく異なるそうである。
阿部氏は,ゲームのBGMの場合はキャラクターの心情や場面状況を描かなくてはいけないため制限が多く,アレンジアルバムの場合はゲームのBGMからどう脱却していくかがキモになると,それぞれについてコメントした。
一方の金田氏は,ゲーム音楽には“言葉としての音楽”と“雰囲気としての音楽”の2種類がある,との持論を述べ,その具体例として,「グランナイツヒストリー」のタイトルバック曲と“辺境”のBGMの2曲を流した。
前者は「ゲームのストーリー性や世界観を伝える目的として作った」“言葉としての音楽”で,後者は「あやしい場所にいるんだぞ,という雰囲気を表現することが最大の目的」である“雰囲気としての音楽”と,金田氏は解説。とくに“言葉としての音楽”の場合は,一つのメロディを別々のアレンジで聴かせることで,ゲームの世界観に説得力を持たせる効果を演出することを意図に作っているそうだ。
作曲家によってその制作スタイルやアプローチは異なっているが,流れる音楽の裏には,ゲームの演出を考えたさまざまな意図・工夫が凝らされていることがかいま見られる内容となった。
崎元氏と岩田氏が語る,ゲーム音楽制作黎明期のエピソード
第3部ではまず,都合により来場できなかった並木 学氏からのビデオレターが上映された。このビデオレターは並木氏の仕事場で撮影されたもので,Cubase(PC用の音楽制作ソフト)を使ったリズムトラックの制作も特別に公開された。
また並木氏は近況として,「ブラック★ロックシューター THE GAME」(PSP)のオリジナル・サウンドトラックが10月26日に発売されることを告知。「これまで培ってきたゲーム音楽への想いをつぎ込んだ」とのことなので,並木氏のファンは注目してほしい。
そして,崎元 仁氏と岩田匡治氏のお二人が登壇して,トークが始まった。
まず今回の「4starオーケストラ」のようなイベントが開催されるなど,ゲーム音楽が広く親しまれるようになった現況についてコメントを求められた崎元氏は,ゲーム音楽制作で20年以上のキャリアを持つが,当時はこれほどの規模になるとは思わなかったという。
また両氏とも,元々はゲームとゲーム音楽が好きというところから出発しており,かつては,アーケードゲーム筐体のスピーカーにレコーダーのマイクをくっつけて,ゲーム音楽を録音していたこともあったそうだ。
岩田氏は,「(録音したものは)ひどい音質だったけど,それでもよだれを垂らしながら聴いていた」と述べていた。
岩田氏が,このことを象徴する例として,泊まり込みで開発をしていたある日,崎元氏がごそごそと着替え始めたと思ったら,「これから卒業式に行ってきます」と開発室から高校へ出かけていった,というエピソードを披露すると,客席からは大きな笑いが起きていた。
なお,「REVOLTER」ではサウンドドライバーを崎元氏が自ら制作しており,当時としては非常にクオリティの高いサウンドだったそうだが,崎元氏自身は「僕らも若くて,音がぎゃんぎゃん鳴っていれば嬉しかったので,ラジカセで音が割れるようなボリュームで聴いていた」と,笑いながら当時を振り返った。
音楽制作をとりまく環境について,昔と今とでは大きく異なっているが,両氏ともにPC1台で作・編曲作業ができる「今のほうが良い」と口を揃えて述べる。ただ岩田氏は,「今の環境ではつまみをグリグリできないので,いまいちモチベーションが上がらない」と,作業効率とは違った部分で,物足りなさを感じているそうだ。
まず「作曲,編曲,演奏,どれが一番好きですか?」という質問に,岩田氏が「どれも好きじゃない……って答えじゃダメですか?」,崎元氏が「家でごろごろしていたい」と,冗談めかしたコメントをしつつ,一応は(?)2人とも「作曲が一番好き」と回答していた。また意外なことに,演奏については2人ともあまり自信がないとのことだ。
「作曲をどのように学びましたか?」という質問を受けて,岩田氏は「全然使いものにならない状態で業界に潜り込んで,適当に覚えてきたので……申し訳ない」となぜか謝罪。
崎元氏も,「僕らもただのゲーム小僧で,ゲーム音楽ファンだったんですね。ひたすらそれが好きで仕事のほうにシフトしていっちゃった類なんです。なので僕は,基本的にユーザーの皆さんとあまり変わらないのかなと思っているんです」と述べていた。
また,今でこそ崎元氏の楽曲といえばオーケストラというイメージが強いが,崎元氏は,「プログレやテクノをやっていた得体の知れない人間に対して,ゲーム会社の人が突然“あなた,オーケストラの曲を書きなさい”って言うんですよ!」と,自身がオーケストラの楽曲を制作するようになった経緯を明かした。最初は「何でこんなことになっちゃったんだろう」と思いながら,一生懸命調べたという。そのため,「まあ,なんとかなります」と,励まし(?)の言葉で締めくくった。
なお,ベイシスケイプの作曲家陣は今回の「4starオーケストラ」に“演奏者”としては出演していなかったが,最後の挨拶で崎元氏は「僕と岩田はできないかもしれないですけど,千葉や工藤は演奏ができますし,いずれ,彼らに頑張ってもらって……」と,今後のコンサートやライブ活動に関して,前向きにとらえられるコメントをしていた。今後,ベイシスケイプの活動がさらに広がることに期待したいところである。
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- 関連タイトル:
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