インタビュー
スマートフォン版だからといってダウングレードすることはない――「三国志を抱く。」,キム・テゴン氏への合同インタビュー
オープニングスピーチ直後の最初の基調講演を務めたのは,現在「三国志を抱く。」を鋭意開発しているNDOORS代表のキム・テゴン氏だ(関連記事)。
「三国志を抱く。」は,PCブラウザとスマートフォンのどちらでも,まったく同じコンテンツが楽しめる「ハイブリッド型」のゲームを目標としており,先の基調講演ではその必要性や試行錯誤などが語られていた。この基調講演の終了後,キム・テゴン氏への合同インタビューが行われたので,その模様を本稿で紹介しよう。
“ゲーム”を遊んでもらうためにも
スマートフォン版はダウングレードさせない
――基調講演では,スマートフォンへの流れが避けようのないところまできている,という話が印象に残りました。韓国におけるスマートフォンの勢いは,そこまでの危機感を感じさせるものなのでしょうか?
基調講演でもグラフで紹介しましたが,この1〜2年でスマートフォンの所有率は急速に増えています。とくに若い世代のゲーマーでは,爆発的といってもいい状況です。私自身,スマートフォンの波はいずれ到来すると予測していましたが,現実はその予測を大きく上回るものでした。
韓国は新しい変化を積極的に受け入れる国民性のようなものがあり,スマートフォンの普及に関しても同じことが言えます。そのため普及するペースも,他国より早いと思われます。
――少し前は「これからはブラウザゲームだ」という風潮がありましたが,当時と比べて現在の状況はいかがですか?
キム氏:
ブラウザゲームがブームになった頃,我々はクライアント型のゲームを中心に開発しており,流れに乗るのにとても苦労したのを覚えています。当時ほどではないですが,スマートフォンに対応するのも大変です。大変ですが,そういった変化を真正面から受け止めるのは,業界に身を置く立場として避けてはならないと思います。
――ブラウザゲームに対応したときのノウハウは,今回スマートフォンに対応するときに役立っていますか?
キム氏:
はい。例えばデータを,いかに最適化して容量を減らすかといったノウハウは,ブラウザゲームもスマートフォンも共通しています。ほかにも,当時の経験はかなり役立っていますよ。
――「三国志を抱く。」をマルチプラットフォームで展開するにあたり,どのような不安がありましたか?
キム氏:
もっとも大きいのは,PC版とスマートフォン版とで同じコンテンツを提供する,「ハイブリッド化」が実現できるのか,という部分でした。現在のゲーム業界の常識で考えると,PC版からの機能削減やダウングレードが当たり前だと思う人も多いのではないでしょうか。
――確かにほかのタイトルには,PC版を最優先で開発し,それ以外のプラットフォームは機能削減も辞さないというスタンスも見受けられます。この考えについては,どのように思われますか?
キム氏:
今後,スマートフォンの利用率がさらに伸びることを踏まえると,韓国においてそういった考えでは,ゲームプレイヤーの拡大は図れず,遠からず壁に直面するというのが私の考えです。
というのも,韓国ではゲームプレイヤーと言えば,やはりPCユーザーですから。私は,普段PCでゲームを遊ばない人,スマートフォンの拡大でPCでゲームを遊ばなくなった人に,PCゲームに戻ってきてもらいたい。しかし,PC向けにゲームを出していたのでは,こういったプレイヤーに気がついてもらえません。
だから拡大するスマートフォンに向けてPC版と変わらないゲームを出し,PCオンラインゲームの存在をアピールしたい。そのためにも,スマートフォン版がダウングレードされていてはダメなんです。
――例えば「Lineage Eternal」のように,スマートフォンのハイスペック化を見込んで,重量級のタイトルを持ってくる動きも見受けられますが,その点についてはどのように受け止めていますか。
キム氏:
多くのプレイヤーが集まるハードに,タイトルを提供するのは自然な流れです。メーカーによってゲームジャンルに得意や不得意がありますので,重量級のタイトルを展開することも不思議ではありません。
ですが,私のようにPC版とスマートフォン版で同じコンテンツを提供する「ハイブリッド化の視点」で考えると,アクションRPGなどの操作性が重要なタイトルをそのままスマートフォンに展開するのは難しいのでは,と考えています。
例えばアクションRPGでPvPを行った場合,PC版のマウス操作と,スマートフォン版のタッチ操作では,インタフェースの差が歴然としているでしょう。
――ということは,「三国志を抱く。」がターン制バトルなのは,ハイブリッド化したことが理由の一つになっているわけですか。
キム氏:
そのとおりです。ですが,これはあくまでも私達が得意とするゲームジャンルでの解決策の一つです。それぞれの立場やゲームジャンルによって違った解決策があって当たり前ですし,そこは誤解しないでください。皆でさまざまな可能性を模索して,情報共有していきましょう,というのがNDCを開催する大きな目的ですから。
―― 一般的に,PC版のオンラインゲームでは,2〜3時間集中して遊ぶことも珍しくないです。充電できる環境であればともかく,同じように長時間スマートフォンで遊ぼうとすると,バッテリーが持たないですよね。
ええ。バッテリーの問題もありますし,スマートフォンの小さな画面で操作するのにも限界があります。「三国志を抱く。」では,例えばモンスターを延々と倒して経験値を稼ぐようなプレイスタイルはあまり想定していません。
具体的に言うと,1回のプレイに要する時間が10〜15分程度で,それで一つのストーリーやクエストが完結して達成感が得られるようになっています。また,自分の都市を発展させたり,自分が所有する武将に戦闘の指示を与えることで,そのあとは自動的に動いてくれたりと,いわゆるマネージメント型のコンテンツが多くあります。
――集中的にプレイしてもそれほど効果がないということは,プレイヤー間の格差は付きにくくなっているのですか?
キム氏:
その点に関しては,現在慎重にバランスを調整していきます。どうしても格差が改善できなければ,数か月単位でのデータワイプも視野に入れます。
PC版からスマートフォン版への移植は約2週間
日本語版は2012年の下半期にサービスの可能性も?
――「G-Star 2010」と「G-Star 2011」では,PCのブラウザ版とiOS版を同時に公開していましたが,まさか両方でまったく同じコンテンツが楽しめるとは思っていませんでした。
我々にとって大きなチャレンジでした。iPhone版でのタッチ操作や画面の小ささなどが無事に克服できたので,今はAndroid版の開発も並行して進めているところですよ。
――プラットフォーム間の移植は,どれくらいの時間が必要なんですか?
キム氏:
開発側としては,最初にPC版を開発して,それが終わったら社内テストなどのQAに約1週間をかけます。その後,iOS版やAndroid版への移植を行い,同じくQAに1週間を要して,PC版の完成から2週間で,iOS&Android版が完成すると見込んでいます。
――サービススケジュールに関しては,韓国では2012年の上半期を予定していると「G-Star 2011」で伺いました。あれから変更はありますか?
キム氏:
いえ,今年の5〜6月に社内テストを行い,その結果がよければ2012年の上半期中にリリースできると思います。その際は,各プラットフォーム版を同時に公開できるよう,スケジュールを調整する予定です。
――開発や社内テストの作業は順調ですか?
キム氏:
ゲームシステムの根幹部分のテストはもう終えていて,現在はシナリオなど,コンテンツのボリュームを増やしている段階です。ですので,深刻なバグが出るとは考えにくいですが,まだ気は抜けません。
――日本語版の展開に関してはいかがでしょうか。
キム氏:
日本語版に関しては2012年の下半期にサービスができればいいな,と考えています。Nexon Koreaと日本のネクソンは同じグループ企業なので,パブリッシング契約などもスムーズに進められるのではと期待しています。
――日本語版へのローカライズにあたり,ゲーム内容の現地化(カルチャライズ)は行いますか?
キム氏:
これは本作に限った話ではありませんが,海外展開する際にテキストだけを変えても,受け入れられる可能性は低いと考えています。現地の文化や,ゲーマーの好みに合わせて調整しないといけません。
過去に日本展開を行った「アトランティカ」や「君主」などの経験を振り返ると,日本人のゲーマーは,キャラクター性が明確になっている作品を好む傾向があります。その点,本作は同じ三国志でも,ストーリーやキャラクター性を重視した「演義」を扱っていますし,きっと気に入ってくれると思います。今後,日本展開を本格的に検討する段階で,あらためて研究することになるでしょう。
――開発も佳境に差し掛かっていると思いますが,現在の意気込みをお聞かせ下さい。
キム氏:
ここ数年間にわたって,PCオンラインゲームのジャンルは停滞していたように思います。もちろん,PCスペックに伴いグラフィックスなどは向上していますが,コンテンツの本質はそれほど進化していないというのが,私個人の考えです。このままではいけないという思いは前からあり,そこにスマートフォンの波が到来したことが,私に「三国志を抱く。」の開発を決意させました。
韓国のみならず,日本もこれまで以上にスマートフォンが普及していくことでしょう。この流れをチャンスと受け止めれば,これまで停滞してきたPCオンラインゲームが,新しい姿に様変わりすることも不可能ではないはずです。「三国志を抱く。」ではさまざまな実験的要素を取り入れています。これがどのような結果として受け入れられるのか,注目していただけると幸いです。よろしくお願いします。
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