インタビュー
Unityエンジンの可能性を世に知らしめる一作となるか。「三国志を抱く。」の開発者キム・テゴン氏にインタビュー
本作は,プラットフォームがWebブラウザおよびiPad/iPhoneでありながら,PCクライアント型ゲームに迫るグラフィックスクオリティを持つとして,大きな注目を集めているMMORPG。Unity Technologiesの全面協力のもと,Unityエンジンのポテンシャルをフルに引き出すことが目標の一つに掲げられており,近年成長が著しいWeb/モバイルゲームの中でも,抜きん出た存在になりそうなタイトルだ。
Unityエンジンのポテンシャルを最大限まで引き上げる「三国志を抱く。」
キム氏によれば,「この1年間で数多くのゲームメーカーがブラウザ/モバイルゲームに参入し,クオリティが全体的に上昇してきている」とのこと。以前からブラウザゲームに注力しているNDOORSとしては,現在の市場でも競争力を維持するべく,本作のクオリティアップのために,リソースを惜しみなく注ぎ込んできたそうである。
具体的には,ゲームエンジンをはじめ,グラフィックス,サウンド,カットシーン,コンテンツの量,プログラムやストリーミングデータの最適化など,ゲームコンセプトを除いたあらゆるところが,この1年で作り直されているようだ。
その結果,現在は基本的なゲームシステムはほぼ固まっており,「これからは主にバトルコンテンツのバリエーションと,『蜀』以外のキャンペーンのボリュームを増やしていく予定」だという。バトルコンテンツは,すでに1対1や3対3でのリアルタイム対戦が行えるほか,2011年末にはさらに大人数でのバトルも実装される予定だ。
ちなみに,昨年のG-Star 2010で三国志を抱く。を公開した時,世界中のゲームメーカーから大きな反響があったそうである。とくに,ゲームエンジンの開発元であるUnity Technologiesとは,現在会社ぐるみでの協力体制を敷いており,Unityエンジンの開発担当がNDOORSに常駐し,今後のアップデートに関するアドバイスを受けているとのこと。キム氏は,「以前のUnityエンジンは誰でも手軽に開発環境が構築できる一方,重量級のゲーム開発に最適化されていないのが不満だった」そうだが,その辺りもこの1年でかなり改善されてきていると述べていた。
キム氏は,ゲームの開発作業は大きく2つの段階に分かれていると見ているそうだ。1つ目は,「戦闘やクエストなど,普通にゲームを遊ぶための基本システムを構築する」段階。そしてもう1つは,「その後に,ゲームの面白さを熟成するための段階」である。
クオリティよりもスケジュールが優先されたタイトルの場合,この2段階目がカットされやすい。しかしキム氏は,ここで焦ってしまっては,これまでの努力が台無しになると考えており,現在はクオリティアップに専念しているとのことだ。
長期の開発はビジネス的なリスクになるが,Nexonの経営陣もクオリティアップの重要さを理解してくれているという。また「理解するだけでなく,それを実行できるだけの体力のある会社だからこそ,安心して開発に専念できる」のだと,キム氏は満足げに語ってくれた。
本作には,ブラウザ/モバイルゲームとしての新しいチャレンジがぎっしり詰め込まれており,それを全世界のゲーム市場に向けて示すこと自体に意義がある。ブラウザ/モバイルゲームの可能性を世間に周知できれば,現在クライアント型が中心のオンラインゲームの流れを変えることすら不可能ではない。もしそうなった場合,Nexonが持っているゲーム作りのノウハウが大きく役に立つ時代が到来する,という長期的な見方を示していた。
確固たる信念を持って開発に取り組んでいるキム氏だが,本作のようなタイトルは前例がないため,不安を覚えることもあるという。たとえば欧米で行われるUnityのカンファレンスに出席しても,カジュアルゲームばかりが中心で,本作の開発の参考にはならないそうだ。それだけに,NDOORSからアドバイスを受けるUnity Technologiesにとっても,三国志を抱く。はエンジンの強化を計るための大きなチャンスとなっているようである。
なお,本作のサービススケジュールは当初の予定より若干遅れるものの,2012年の上半期に,韓国での正式サービス開始が予定されている。また,ワールドワイド展開のための翻訳作業などにはまだ取り掛かっていないが,韓国の次にサービスされるのは,日本になる可能性が非常に高いとのことだ。本作は,現在の日本のブラウザ/モバイルゲーム市場にも,大きなインパクトを与えられそうなタイトルなので,続報に期待したいところである。
ライトゲーマーに対する次の受け皿として開発中の「アトランティカS」
ただ,よくよく考えてみると,そもそもアトランティカ自体が親切に分かりやすく作られており,遊びやすいタイトルである。そこからさらにハードルを下げて,Facebook用タイトルの開発を進めているのは,どういった意図によるものなのだろうか。
その問いをキム氏は,「アトランティカでは,Facebookの大多数のユーザーにとっては,とっつきにくいからダメなんです」と断じた。キム氏は,Facebookのユーザー層は基本的に“ゲームユーザー”ではないので,いくらアトランティカが分かりやすいゲームといっても,触ってもらうのは難しいと分析しているのだという。
彼らは,ゲームを遊ぶためにFacebookを使っているわけではなく,友達と付き合うツールとしてゲームを利用しているのであって,極端な話をしてしまえば,ジャンケンのようなシンプルな遊びであっても楽しめるというわけだ。
では,その市場にあえてアトランティカというIPで挑むのはなぜか。
その理由は,「今はまだ簡単なゲームで遊んでいるライトユーザーが大多数を占めているが,そこからもっとゲームを深く遊びたいと思う人が出てくるはずであり,単純な操作でも本格的に遊べるゲームというもののニーズが今後急激に増えていく,と予測している」からだそうだ。
さらにキム氏は,今のところその中間層を狙うようなゲームは数が少ないので,実験的な意味合いも含めて開発を進めているとも述べていた。
なお,開発の進捗状況は80〜90%程度とのことで,今年の12月頃に第一次クローズドβテストを予定しているという。また,実験的なだけあって周囲に参考となるタイトルが無いため,ビジネスモデルは慎重に決めたいそうだ。
加えて,アトランティカSはどちらかというと,売上よりも多くのユーザーに「本格的に遊べるFacebook用ゲーム」というものを広めることを第一義として,そこで得られるノウハウが,今後Facebookアプリを新たに開発するための良き判断材料になる,とキム氏は考えている様子。三国志を抱く。と同様に,これから訪れるであろう次ぎのモバイルゲームの波に向けて,NexonならびにNDOORSはすでに長期的な視点で対策を講じているようである。
キーワード
(C)Valofe Global Ltd. All right Reserved (C)NDOORS Corporation. All Rights Reserved.