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[GDC 2012]バイオハザードを携帯ゲーム機で展開する意義――カプコンの川田将央氏が語る3DS「バイオハザード リベレーションズ」の内幕
カプコンに入社して17年という川田氏は,これまで「バイオハザード5」や「バイオハザード ザ・マーセナリーズ3D」などといったタイトルでプロデューサーを務めた。今回の講演のテーマとなっているリベレーションズでも,同じくプロデューサーとして制作に参加している。
※講演では「RESIDENT EVIL」という名前が使われていたが,便宜上,本稿では「バイオハザード」で統一する
携帯ゲーム機用としては初。完全新規のバイオハザード
川田氏はリベレーションズの制作に至った経緯や意図を説明するにあたり,企画段階で掲げられたという“2つの挑戦”について語る。
1つめの挑戦は,「バイオハザード」というブランドをより幅広い層に知ってもらうキッカケとなるタイトルを作ること。この課題に対する回答として,川田氏は携帯ゲーム機に向けた完全新規の「バイオハザード」,つまりリベレーションズの制作を考えるわけだ。
氏は,新たなバイオハザードを創造するにあたってニンテンドー3DSというプラットフォームを選んだ理由を,次のように説明した。
「まず,携帯機の性能が向上したことです。我々が思っているホラーを表現するのに,十分なスペックがニンテンドー3DSにはあると判断しました」
「それから,課題にもなった新しいお客さんへのアプローチです。バイオハザードを,より広く,いろいろな方に遊んでほしいと考えました。フランチャイズを成長させるために,似たようなゲームばかりを作るのではなく,違う方法で,違うお客さんのいるゲーム機に挑戦する必要がありました」
「最後に,新しいエンターテインメントを創出するという挑戦です。ニンテンドー3DSには,裸眼立体視や2つの画面,ジャイロセンサーなど,ユニークな機能が盛り込まれています。これらを駆使すれば,バイオハザードの新しい側面を表現できるのではないかと考えました」
講演の最後に行われた質疑応答で,海外のファンから再び「なぜ携帯ゲーム機でバイオハザードを?」と質問を受けていた川田氏は,自身の考えを交えて説明を補足する。
「没入感という意味では,僕は携帯ゲーム機でバイオハザードを作る意味があると昔から思っていた。リベレーションズでは,アドベンチャー色が強く,見えないところにいる敵を探して倒していくようなゲーム性を志向したが,たとえばゾンビの大群が押し寄せるような内容の作品ならば,高性能な据え置き機がマッチするでしょう」
ハードの特性に合わせたゲーム制作が可能だとする川田氏の話しぶりでは,携帯機での続編(?)にも意欲はあるようだったので,今後に期待というところだろうか。
新しい開発体制の模索と“二毛作”スタイル
本作の企画段階で掲げられた2つめの挑戦は,昨今高騰している開発費の問題についても目を向け,カプコンの中で新しい開発スタイルを確立させるということ。ざっくりというと,“新しい開発スタイル”への挑戦である。
なんでも本作の開発では,自社製のゲームエンジン「MT Framework」を携帯機向けに特化させた,「MT Framework Mobile」を活用しているとのこと。もともとカプコンでは,MT Frameworkを共通の開発ツールとして使う取り組みを何年も前から行ってきており,川田氏いわく「このエンジンに慣れているスタッフも多かったため,とても素早く開発体制を整えることができた」という。
また,本作では内部スタッフと外部制作を両方使うという,いわゆる“ハイブリッド”型の開発スタイルに挑戦したらしく,これは同社としてはとてもユニークな試みだったとのこと。
ちなみに,このような形で開発を行うにあたって,人員配置にも,これまでの経験を活かした“工夫”が盛り込まれた。アウトプットの「クオリティに関する責任をカプコン側の人間が持つ」ようなスタッフィングが心がけられたという。川田氏は,「これは,コストとクオリティの両面に効果があったのではないか」と語る。
外注先の仕事のクオリティに関しても,カプコン側のスタッフが責任を持つ,と一言で言われてもピンと来ないが,おそらくは,これまでディレクターレベルでの判断となっていた項目を,より現場(実作業)に近い人間へと委譲させていく,そんな取り組みだったと思われる。
カプコンは,自社製のゲームエンジンである「MT Framework Mobile」の開発環境を,外部の開発会社にも共有しており,そうすることで,よりいっそうの効率化とクオリティアップを図ったとも川田氏は話していた。
「MT Framework」の一部を外部の開発会社にも共有するという話は,実は以前のGDCでも話題に登っていた。カプコンは,今後もそうした方向をより強く推し進めていくのかもしれない。
また,リベレーションズの開発チームは,以前「バイオハザード ザ・マーセナリーズ 3D」の制作を手がけていたチームでもある。リベレーションズの開発に先駆けて,先にマーセナリーズ 3Dの仕事を手がけていたことが,いろいろな意味で大きな意味をもたらしたと,川田氏は言う。
というのも,もともとリベレーションズでは,シナリオを充実させるという企画意図があったらしく,企画チームでシナリオを練っているあいだ,手の空いたスタッフをマーセナリーズ 3Dの開発に回したのだという。
川田氏は,「シナリオを作っている裏で,技術的なノウハウを蓄積することができた。また,実際に3DSのゲームを販売してみることで,お客さんが3D立体視に何を望んでいて,何を望んでいないのか。その知見も得ることができた。さらには,マーセナリーズ 3Dにリベレーションズの体験版を付属させることで,リベレーションズそのものへのフィードバックまで得られました」と説明する。
これらの取り組みは,確かに大きな効果をもたらしたに違いない。ノウハウの蓄積やフィードバックの重要性も非常に分かりやすいし,効果も理解できる。一点,スタッフの負担を除けば,だが。
川田氏は,冗談めかして「僕自身は,このやり方でとても上手くいった! と思っているのですが,開発スタッフは僕に冷たかった」と語っていたのだが,実際,期間やら人事配置の調整などでいろいろ大変だったのだろう。
川田氏は,この“発売時期をずらして同じ機種で2本のタイトルを開発するやり方”を指して,これぞ「二毛作」スタイルだ,と語っていた。日本人の知恵,日本の伝統的な文化/風土を開発手法に取り込んだ(?)のだという。
また,同じく“日本人的な得意分野”という意味で,川田氏が「幕の内弁当」の例を挙げていたのも興味深い。
「幕の内弁当は,(おかずが)バラエティに富んでいながら,それをぎゅっと一つの弁当箱の中に詰め込んだ商品になっている。さまざまなものをパッケージングして,一つの商品に仕立てる技術を日本人は持っているのではないか」
ともあれ,大手ゲーム制作会社ながらも,細かい工夫を重ねているカプコンの制作現場。川田氏は,「次回作があれば,これまでのフィードバックを踏まえたうえで取り組みたいと思っている。今年は,『バイオハザード6』も発売されますが,そうしたナンバリングタイトルはまた違ったアプローチのバイオを企画していければいいなと思います」とコメント。
そして最後に,「皆さんが遊びたいと思っているバイオハザード,あるいは皆さんが遊びたいと思うであろう違うバイオハザードを作っていければと考えています」として,今回の講演を締めくくった。
携帯ゲーム機初の“新作バイオハザード”として,大きな期待と責任を背負っていた「バイオハザード リベレーションズ」。アクション要素が強くなったナンバリングタイトルに対して,違うアプローチを模索し,アドベンチャー色を強めた本作は,確かに新しくも原点回帰を志向した作品だったと言えるのかもしれない。
続編の話を今ここでするのは早計にすぎるかもしれないが,リベレーションズという挑戦を成し遂げ,もう次へのステップを睨む川田氏の新たなタイトルに,ぜひ期待したいと思う。
「バイオハザード リベレーションズ」公式サイト
- 関連タイトル:
バイオハザード リベレーションズ
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