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「PSO2」の“9月4日アップデート問題”について,シリーズプロデューサーの酒井智史氏にインタビューを実施。発生の経緯とこれまでの対応,開発運営体制の変更を含めた今後の再発防止策を聞いてきた
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印刷2013/12/06 00:00

インタビュー

「PSO2」の“9月4日アップデート問題”について,シリーズプロデューサーの酒井智史氏にインタビューを実施。発生の経緯とこれまでの対応,開発運営体制の変更を含めた今後の再発防止策を聞いてきた

 セガのオンラインRPG「ファンタシースターオンライン2」PC版で,2013年9月4日に実装されたアップデートを行った際に,HDD内のファイルが削除されるという不具合が発生した。これは,ゲームのランチャーに開発中の処理プログラムが不完全なまま混入したため,本来の挙動とは異なる誤動作をしてしまったことが原因とされている。なお,同アップデートではPS Vita版「PSO2」に不具合は発生していない。

 セガでは,今回不具合が発生した可能性のあるユーザーを2万514名(のちに約200名を追加)と公表。お詫び対応として,5000円相当の金券送付または1万ACの付与,および希望者には個別対応として,セガが費用を負担して専門業者によるデータ復旧サービスを実施すると発表している(公式サイト)。
 この不具合は「9月4日の11:00〜14:42の間にゲームのアップデートを開始し,同日の22:17までにダウンロード処理を完了させた」ユーザーが対象となるとのこと。公式サイトではデータ削除に関する専用投稿フォームを設置,また,フリーダイヤルの問い合わせ窓口を開設して対応を進めてきた。

 発生から約3か月が経過した11月末の時点で,不具合に遭遇した可能性があると投稿した全ユーザーの99%に対しての「お詫び対応」が完了したという。なお,9月4日以降は,同時期に発生した不具合の修正が順次行われ,以後は緊急メンテナンスを要するような大きな問題は発生していない。
 データ復旧の個別対応はまだ進行中のユーザーもいるとのことで,事態は完全に収束したわけではないが,対応は一段落ついたといえるだろう。
 今回4Gamerでは,「PSO2」シリーズプロデューサーの酒井智史氏にインタビューを実施し,今回の一連の経緯をはじめ,開発・運営体制の変更を含めた今後の対策プランなど,同様の事故を二度と発生させないためにどのようなことを行っていくのか,話を聞いてきた。

(2013年11月13日収録)

「ファンタシースターオンライン2」公式サイト


不具合が発生した経緯と以後の対策について


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。まずは,「PSO2」で2013年9月4日に起こった不具合の経緯を,あらためてお聞きしたいと思います。

「ファンタシースターオンライン2」シリーズプロデューサー 酒井智史氏
画像集#002のサムネイル/「PSO2」の“9月4日アップデート問題”について,シリーズプロデューサーの酒井智史氏にインタビューを実施。発生の経緯とこれまでの対応,開発運営体制の変更を含めた今後の再発防止策を聞いてきた
酒井智史氏(以下,酒井氏):
 順を追って説明しますと,9月4日は定期メンテナンスに入った11時から,アップデート用データのダウンロードを開始しました。私に報告がいくつか入ってきたのは,アップデートを開始して30〜40分くらい経過したところでです。
 調べてみると,アップデートとは関係ないデータを削除するという誤動作を起こすことが分かったので,非常に危険な状況だと判断し,14:42にデータのダウンロードを停止しました。
 ランチャーの本来の処理は,ダウンロードしたアップデート用の一時データを「PSO2」フォルダに適用し,最後に一時データを削除してゲームを起動するという流れになっていました。
 誤動作は,一時データを削除する段階で起きていたので,データ削除のシーケンスをランチャーから外し,問題がないことを確認したのちにアップデートを再開する,という形でひとまずの対応を行いました。

4Gamer:
 その後の告知では,アップデートの停止後もダウンロードできてしまったという,約200件の該当者が追加されていますよね。これはどのような理由だったのでしょうか。

酒井氏:
 こちらは,あとで分かったことだったのですが,別の不具合が原因でした。アップデートを開始しようとした際に通信エラーが起こると,本来は,ダウンロードできなくなっているはずのアップデート用データのダウンロードが開始されてしまったケースがあったんです。

4Gamer:
 該当時間帯に修正前のランチャーでアップデートを完了した場合に不具合が発生したということですが,無事に完了したケースはあったんですか?

酒井氏:
 誤動作はすべてのお客様に起こってしまいました。ただ,不具合がどの程度発生するかは個人個人の環境によって異なっています。PCの動作に支障が出る場合もあれば,ファイルの削除など一切なく,まったく被害を受けない場合もありました。

4Gamer:
 ブログや各種SNSでユーザーが報告した中には,ランチャーが既存のファイルやフォルダを上書きする動作を行うという推測もありましたが,そのあたりは実際のところ発生していた事象なのでしょうか。

酒井氏:
 今回のランチャーの誤動作は削除コマンドの実行なので,ランチャーが既存のファイルやフォルダを上書きする挙動は行っていません。これもユーザーさんの環境次第なので,ひとくくりで説明するのが難しいんです。

4Gamer:
 そのほか,nProtect GameGuardの挙動がおかしかったとか,事前の分割ダウンロードがうまくいかなかったという報告も見かけたのですが,こういった症状が起きていた人にも,不具合は発生していたのですか?

画像集#003のサムネイル/「PSO2」の“9月4日アップデート問題”について,シリーズプロデューサーの酒井智史氏にインタビューを実施。発生の経緯とこれまでの対応,開発運営体制の変更を含めた今後の再発防止策を聞いてきた
酒井氏:
 実は,2日前の9月2日のnProtect GamerGuardの更新で,その方法に問題があったことで,ランチャーとはまったく別件の問題が発生していたんです。このことが分かったのは,9月4日のアップデート開始直後でした。
 事前に分割ダウンロードをしていても,9月4日のアップデート時にそれが適応されず,分割ダウンロードデータを削除して,最初からダウンロードし直すような挙動を起こしていたんです。
 まずこの問題が発生したため,最初に「HDDのデータ量が減った」などの報告がなされた際に,分割ダウンロードの問題と混同してしまいました。そちらの対策が優先されてしまったことで,より重篤だったランチャー側の問題に気付くことと,ダウンロードを停止させるなどの対応が遅れてしまいました。本当に申し訳なく思っています。

4Gamer:
 ユーザーからの報告やその後の調査で,ある程度の傾向は見えたのでしょうか。

酒井氏:
 ユーザーさんからの報告もそうですが,こちらでも挙動のシミュレーションをしていたので,ある程度の切り分けはできていました。

4Gamer:
 それを公式サイトで説明しても良かったのではないですか?

酒井氏:
 説明するにしても,PCにかなり詳しい方しか自己解決できないレベルの問題だったので,説明が非常に難しかったんです。
 OS,ファイルシステム,「PSO2」インストール先フォルダなど,PCの構成はユーザーさんごとに異なりますし,そのタイミングで別のプログラムを立ち上げていたかなどによっても症状が変わってきます。また,ファイルが削除されなかったケースもあるので,何をどうしたらいいというように,明確な解決方法を提示できないケースもありました。
 対応を間違えたら完全に復旧できない状況になる可能性もありますから,「こちらからの説明が難しい」という表現にならざるを得なかったんです。こちらからどう案内したらいいのか,皆さんにきちんと伝えられる手段を見つけられないことには,ずっとジレンマを抱えていました。

4Gamer:
 うかつな提案をしてユーザーが復旧を試みた結果,症状を悪化させてしまったら……ということですか。

酒井氏:
 当時,PCの復旧ソフトを案内してほしいというご意見もいただいたのですが,ユーザーさんのPC環境,被害に遭われてからの使用状況次第で,復旧の対応もまったく変わってきます。どの復旧ソフトを使えばいいのかはユーザーさんによって異なるので,これがいいと案内できるものはなかったんです。
 仮に案内できたとしても,復旧ソフトでデータをすべて復旧できるとは限りませんし,何より,我々が起こした不具合に対して,ユーザーさんに「自己責任で解決してください」と言うわけにはいかないですから。

4Gamer:
 復旧ソフトは有償のものが多いですし,症例も人によって異なるとなれば,どれがいいとお勧めするのは難しいでしょうね。

酒井氏:
 ですので,今回のお詫び対応として発表させていただいたように,希望者の方には,専門業者による復旧サービスで対応させていただくという形を取りました。

4Gamer:
 復旧サービス希望者への対応は,現在どのくらい進んでいるのでしょうか。

酒井氏:
 現状では,復旧サービスの個別対応を希望された方すべてに,こちらから何らかの形で連絡をさせていただきました。すでに,約8割の方への対応が完了しています。それ以外は,現在復旧業者での作業中か,復旧サービスのスケジュール調整をさせていただいている方になります。

4Gamer:
 ちなみに,復旧サービスを利用して,どのくらい復旧できたのかなどのデータは入って来ているんですか?

酒井氏:
 復旧サービスを希望していただいた方には,専門業者のほうから個々の作業結果をご報告しております。個別の復旧内容は,あくまで復旧業者とお客様とのやり取りになりますので,セガとしてはデータを持っていません。

4Gamer:
 9月4日以降の運営では,緊急メンテナンスを必要とするような大きな不具合は出ていないようですが,現在のランチャーの仕様はどのようになっているのでしょうか。

画像集#006のサムネイル/「PSO2」の“9月4日アップデート問題”について,シリーズプロデューサーの酒井智史氏にインタビューを実施。発生の経緯とこれまでの対応,開発運営体制の変更を含めた今後の再発防止策を聞いてきた
酒井氏:
 今回のような問題が二度と起きないように,9月4日以降は削除シーケンスをすべて外して,データを削除する挙動をいっさい行わないようにしています。また,チェック体制を変更して,ランチャー更新時の挙動や配信前の確認など,チェック工程を増やしています。

4Gamer:
 その部分を,もう少し詳しく教えてもらえますか?

酒井氏:
 ランチャー自体の更新あり/なしに関わらず,意図した動作以外の挙動をしていないか,スタッフによる動作確認とモニターツールの両方でチェックを行っています。
 アップデート用データの配信に際しては,配信前のチェックだけでなく,実環境での確認作業も行っています。サーバーにデータをアップしたあと,最初はアクセス制限をかけておき,チェック責任者だけがダウンロードできるようにしています。責任者がアップデート処理が問題なく完了することを確認し承認処理をして初めて,ユーザーさんがダウンロードを開始できるようになるという形です。
 その分,PC版のデータ配信開始が遅くなってしまうのは申し訳ないのですが,ご理解をいただければと思います。

4Gamer:
 今回は,ランチャーに開発中の処理プログラムが不完全な状態で混入したことが,トラブルの原因とされています。これは,どのような経緯で発生したのでしょうか。

酒井氏:
 スタッフ間の連絡に不備があり,チェック作業が不十分になってしまったことが大きな原因でした。
 「PSO2」チームには約150人のスタッフがいるので,作業全体の管理はツールで行っていて,作業の予定や進捗などを記入したうえで更新を行う,というルールで運用していました。作業内容を確認する専任のスタッフが,ゲームデータに変更や更新が発生する場合は,それをチェックチームに伝えるという流れです。
 ですが今回の件では,ランチャー更新の記入が漏れてしまっていたんです。アップデートに際しては,ランチャーの挙動確認も必ず行っていたのですが,チェックの工程数は,更新の有無で異なっています。更新なし前提のチェックでは不十分だったせいで,開発途中のプログラムの混入を許してしまい,通常ではありえない挙動を引き起こしてしまいました。

4Gamer:
 ちなみに,チームに150人もいれば,チェックチーム以外の誰かが,ランチャーの更新に気付く可能性もあったのではないかと思うところがあります。チーム内部からは,そういった報告はなかったのでしょうか? 

酒井氏:
 ランチャーは,ゲーム本体の開発とは別の動き方をしていたので,担当者以外は,先述したツール上でしか更新状況を把握できなかったんです。
 もともと,ツールにタスクを記載することはルール化していたのですが,スタッフ全員に作業を徹底できなかったというのは,我々のミス以外の何物でもありません。本当に申し訳なく思っています。同様のミスが二度と起こらないよう,システムのほうを根本から改めました。

4Gamer:
 具体的には,どのようなシステムなのでしょう。

画像集#005のサムネイル/「PSO2」の“9月4日アップデート問題”について,シリーズプロデューサーの酒井智史氏にインタビューを実施。発生の経緯とこれまでの対応,開発運営体制の変更を含めた今後の再発防止策を聞いてきた
酒井氏:
 現在は,ランチャーを含めたゲームデータすべての領域で,ツール上でタスクがないと更新作業を行えないようになっています。ですので,今後,更新のあるデータに対して不十分なチェックが行われるようなことは発生しません。
 また,先ほどもお話ししたように,「PSO2」のインストールフォルダ内においても,ランチャーがファイルを削除するような動作は一切行わないようにしたので,今後,HDDのファイルが削除されるようなことは,確実に起きないと言えます。


不具合発生者に対する“お詫び対応”は99%が完了。復旧サービス希望者への対応も約8割が実施済み


4Gamer:
 今回の件では,不具合の内容についての告知が出たのが,14:42にアップデートデータの配信を停止してから7時間後の21:40でした。状況は理解しましたが,それでも対応は遅かったのではないでしょうか。

酒井氏:
 先ほどもお話ししましたが,あとから判明したことも含めて,今回の件は複数の状況が重なっていたことで原因の切り分けがしづらく,初動が後手に回ってしまいました。告知も遅れてしまったことは,たいへん申し訳なく思っています。
 それと同時に,PCのデータ自体に被害が起きてしまったので,被害に遭った方には,なるべく早くお詫びの気持ちを何かしらの形とともに示さなければいけない,と考えていました。
 ただ,お詫びとともに,これから具体的に何をしていくのかをちゃんと発表しないと,意味がないとも思っていたんです。

4Gamer:
 確かに,被害に遭った人にしてみれば,具体的にどういう補償になるのかも気になるところですね。

画像集#004のサムネイル/「PSO2」の“9月4日アップデート問題”について,シリーズプロデューサーの酒井智史氏にインタビューを実施。発生の経緯とこれまでの対応,開発運営体制の変更を含めた今後の再発防止策を聞いてきた
酒井氏:
 やはり2万人という規模だと,私の裁量だけで決められるものではありません。今回は協議の結果,5000円相当の金券か1万ACの支給,希望される方にはデータ復旧サービスの個別対応を行わせてほしい,という形で会社に申請したところ,その日のうちに決定が行われ,ユーザーの皆さんにお伝えできたのは9月5日の夜になった,という経緯です。

4Gamer:
 正式発表としては,ほぼ最速のタイミングが9月5日だったわけですね。

酒井氏:
 ただ,今回のような事件は初めてだったこともあり,個別に対応させていただくためのシステムがありませんでした。投稿フォームに加えて,専門業者の手配などの準備から始めなければならず,お問い合わせいただいた方からも,あらためて専用投稿フォームから再度投稿をしていただく手間を取らせることになってしまいました。その点も非常に申し訳なかったと思っています。

4Gamer:
 不具合発生者からは,どの程度の投稿があったのでしょうか。

酒井氏:
 投稿の件数は,情報の補足など追加の投稿をいただいた件数も含めて,2万2000件ほどとなります。そのうち,不具合が発生した時間にアップデートを完了したことが確認できた方が約9割だったので,投稿率はかなり高いと思います。
 中には,「不具合の症状が出ていないけど,その時間にアップデートしたので」という投稿もいただきましたが,もちろん,そういう方も対象になりますから,お詫び対応をさせていただいています。

4Gamer:
 ちなみに,お詫び対応のQUOカードとACで額に開きがありますが,これはどのような基準で決めたのでしょうか。

酒井氏:
 ユーザーさんにとっては,金額は付けられない大事なデータだとは思いますが,個別に対応させていただくには難しい部分でもあります。どのくらいの金額で提示させていただくかを決めるのは,非常に難しかったですね。
 私達としては,願わくばこれからも「PSO2」を続けていただきたいという気持ちから,ACのほうを少しだけ多めにさせていただきました。結果として,全件のうち約8割の方がACを希望してくださったことは,たいへんありがたく感じています。

4Gamer:
 AC希望者の割合は,想像していた以上に高いという印象ですね。メンテナンス終了後すぐにゲームを始めるような,熱心なプレイヤーが多かったからでしょうか。

酒井氏:
 今回の件で,いち早く「PSO2」をプレイしようと思ってくださっていた方々を失望させてしまい,本当に申し訳なく思っています。
 プレイヤーの皆さんからの信頼を少しでも回復するためには,しっかりとお詫びをしていくとともに,ゲーム自体の不具合も減らすことも必須です。ゲームの中で起こる不具合をゼロにするのは難しいところもありますが,限りなく少なくできるよう,ゲームデータ全体についても,より徹底したチェックを行うために運営体制を強化していきます。

4Gamer:
 そちらは,現在の体制からどのように変えていくのでしょうか。

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酒井氏:
 チェックチームの人員を今までの2倍に増やしました。
 これまでは人員の都合もあって,アップデートで大きな更新があるときはチェックチームの人員を大きくそちらに割いて,一気にチェックする形を採っていました。ただ,大きな更新のあるアップデートが続いたり,不具合の発見に時間がかかるようなことがあると,イレギュラーチェックにそのしわ寄せが行ってしまうところがあったんです。

4Gamer:
 イレギュラーチェックというのは,デバッグ作業に相当するものですよね。

酒井氏:
 そうですね。通常のプレイでは行わないような操作をして,不具合が起きないかをチェックする作業です。
 通常は,普通にプレイして不具合が発生しないかチェックしたうえで,イレギュラーチェックをするという手順を踏みます。ゲームの不具合を減らすためには,イレギュラーチェックにできるだけ多くの時間を割り振るべきなのですが,一方で,オンラインゲームには,コンテンツを追加し続けなくてはいけない宿命があります。そのジレンマに常に悩ませられながら,限られた時間内にできる限りのチェックを行ってはいるのですが……。

4Gamer:
 追加コンテンツの量やアップデート間隔を取るか,チェックの密度を取るかは難しいところですね。

酒井氏:
 時間的な制約で,チェックを徹底できなかった箇所が少しずつ累積していくことで,開発に遅れが出るような影響も出始めてしまいました。そういった負の連鎖を断ち切るためにも,チェックチームの人員とラインを増やすことにしたんです。
 ラインが増えることで,次のアップデートだけでなくその次のアップデートも早めのチェックを行い,また,不具合による追加のチェック作業にも対応する人員を確保できるようになりました。
 開発チームでも,チェック前の段階で不具合の発生を未然に防げるよう,更新に対して行った作業の中でミスがないか,開発作業を止めて全員で確認する日を設けました。とくにデータベースなど,ユーザーさんのプレイデータに密接に関わる部分については,複数のプログラマーがチェックする体制に変更しています。

4Gamer:
 ちなみに,追加部分だけ厳重にチェックすれば,不具合は起きないものではないんですか?

酒井氏:
 そうではないですね。ゲームのプログラムというのは,いろいろなところで密接に絡み合っているので,ここを変えたら一見関係のないはずのあそこが変わってしまう,ということは起きるんです。更新を行うことで,関連性の見当たらない既存のデータに不具合が起こることもあります。
 また,ツールのチェックでは問題が見当たらなくても,実際にプレイしてみると不具合が見つかるケースもあります。だからと言って,更新を行わない,不具合を直さないと言うのは一番やってはいけないことですので,更新は行わなければいけません。
 本来は,実際にゲームをプレイして総当りでチェックすべきなのですが,たとえばアバターなど,組み合わせだけでも天文学的な数字になってしまいます。とくに「PSO2」は,ほかのゲームにはないくらい頻繁にアップデートがあって,データがどんどん増えていくので,現実的には難しい部分があるんです。

4Gamer:
 なるほど。

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酒井氏:
 難しいとは言っても,不具合はできる限りゼロに近づけなければいけません。先ほどお話したように,チェックチームの人員とラインを増やすとともに,開発体制に少し余裕を持たせて,チェックを今以上に強化する形に改めて,体制を整えていきます。
 その代わり,アップデートのペースが少し遅れて,全体のマイルストーンとしては,計画よりも1〜3か月くらい後ろ倒しになってしまいます。ユーザーの皆さんにはご迷惑をおかけしてしまいますが,今は信頼回復を第一に考えているので,ご理解をいただければと思います。


一人でも多くのプレイヤーに納得してもらい,また「PSO2」をプレイしてもらうことが最大の目標


4Gamer:
 不具合が発生しないよう,今後も対策を取っていくことはお聞きしましたが,一方で,今後もコンテンツの充実を図っていく必要もあると思います。今後のアップデートでは,どのような施策が用意されるのでしょうか。

酒井氏:
 今回の問題を最優先で対応していたので,アップデートのペースは落ちているんですけど,12月には大きなアップデートを予定しています。
 12月18日に実装する「採掘基地防衛戦」は,2012年の年末に実装されたダークファルスと同じくらい大きな新コンテンツになっています。どのレベルでも楽しめるコンテンツになっているので,プレイを始めてすぐに挑戦することもできますので,ぜひプレイしていただきたいです。

4Gamer:
 そのほかはいかがでしょうか。

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酒井氏:
 ベテランの方々には難度「スーパーハード」のクエストを導入しましたが,今は中堅層の方に向けた緩和策を進めています。先日のアップデートではその層のレベル帯のアイテムドロップを増やしましたし,今後のアップデートではデイリーオーダーの数を増やして,レベルを上げやすくするような対応を行います。
 また,コミュニティとして上級者と初心者が重なる部分が薄くなってしまっているので,今後に向けて,両方のユーザーさんが一緒に遊べるようなコンテンツを充実させることも検討しています。
 これからは,エピソード2のクライマックスに向けて盛り上げていきつつ,2014年2月にはPS Vita版が一周年を迎えるので,そのタイミングでも何かやりたいと考えています。

4Gamer:
 ちなみに,以前発表された「アイテムカスタマイズ」は,どのようなコンテンツになるのでしょうか?

酒井氏:
 アイテムカスタマイズの実装は2014年に後ろ倒しとさせていただいたのですが,「PSO2」におけるアイテムの既存概念が大きく変わる内容になると思っています。
 詳しくは発表を待っていただきたいのですが,戦闘だけでない,新たな楽しみを作れるようになりますし,自分の好きなアイテムをずっと使い続けられるようにもなります。やり込み派の方には,興味深い内容になるのではないかと思います。

4Gamer:
 スマートフォン用タイトルの「ファンタシースターオンライン2 es」の進捗に関してはどうでしょう。

酒井氏:
 「PSO2 es」は頑張って作っています。やはりオンラインゲームは,新規の方が入ってこないとすたれてしまいます。「PSO2」でも新規の方に入ってもらえるような努力は常に行っていますが,「PSO2 es」は「PSO2」との連動要素もありますので,その大きな入り口になってほしいと期待している部分は大きいですね。

4Gamer:
 それでは最後に,ユーザーに向けてメッセージをお願いします。

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酒井氏:
 9月4日に発生した不具合で,あまりにも多くのユーザーの皆さんにご迷惑をおかけしてしまい,本当に申し訳ありません。
 今回の問題で,私達はユーザーさんからの信頼を失ってしまいました。「PSO2」は「HDDのデータを消すかもしれない怖いゲーム」という印象を持つ方もいらっしゃると思います。私達のミスでユーザーの皆さんに大きな迷惑をかけてしまったことが,自分自身で悔しくてなりません。
 言い方は良くないかもしれませんが,起きてしまったことを「なかったこと」にすることはできません。ですので9月以降は,一人でも多くの方に納得していただける形にすることだけを考え,再び「PSO2」をプレイしていただけることを目標にしてきました。
 今回のインタビューで我々の取り組みを少しでも理解していただければ幸いですが,「PSO2」は安心して遊べるゲームだと,ユーザーの皆さんにまた言っていただけるようになるまで,セガとして取り組み続けていかなくてはいけないことだと考えています。
 そのために,先ほど述べたような開発・チェック体制の強化を行い,二度と同じ問題が起きないようにするとともに,皆様に,もっともっと長く喜んでもらえるようなアップデートをこれからも実施していきます。
 今でも遊び続けてくれているユーザーの皆さんには,いくら感謝しても足りません。本当にありがとうございます。これからも「PSO2」をよろしくお願いします。

4Gamer:
 プレイヤーが安心して遊べるような開発・運営を期待しています。本日はありがとうございました。


 インタビューは以上となる。今回,酒井氏に詳しく話を聞いたことで,9月4日に発生した不具合について,これまで「PSO2」チームがどのような対応を行い,再発防止策を講じてきたか,お分かりいただけたと思う。
 PCゲームである以上,OSやほかのソフトといった外的要因もあるため,可能性がゼロとは言い切れないが,少なくとも「PSO2」が原因でHDD内のデータが削除されるような問題が起きる可能性は限りなく低くなった,といえるのではないだろうか。

 つまるところ,今回の事件はヒューマンエラーによるところが大きかったわけで,事件以前はその防止策が不十分であったというのは否めない。すでに,作業フローをはじめとした抜本的な体制変更を行い,その対策はなされている模様だが,ミスの発生する余地がないよう,今後もより厳密なチェック体制へと洗練していってほしい。

 余談だが,不具合とは別に,PCはいつか故障したり動作しなくなったりする可能性をはらんでいるものである。今回の「PSO2」の事件を教訓に,定期的にPCのバックアップを取るなり別の記録媒体にコピーを取るなりして,ゲームに限らず大事なデータを消失させないよう,ユーザー自身が対策を講じることも大切だろう。

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