インタビュー
システムやビジュアルなどのクオリティが大幅に進化した「戦場のヴァルキュリア3」,プロデューサー本山真二氏へのインタビューを掲載
シリーズとしては3作目となる本作は,いうまでもなく「戦場のヴァルキュリア」,「戦場のヴァルキュリア2 ガリア王立士官学校」に続く作品。「1」ではガリア公国義勇軍と帝国の戦いが,続く「2」ではその2年後のガリア公国内における内乱が描かれていた。「3」では,時間を1作目に戻し,「1」では語られることのなかった“歴史を変えた名も無き戦士たち”の物語が描かれることになる。
「3」で物語の中心となるのは,ガリア公国軍の“422部隊”。この部隊は通称“名無しの部隊(ネームレス)”と呼ばれ,犯罪者や脱走兵などすねに傷を持つ者ばかりが集められた懲罰部隊である。「友軍のために死ぬこと」が強要される422部隊に配属された者は自らの名前を剥奪され,捨て駒のように最前線に送られる。主人公のクルト・アーヴィングや,ヒロインのリエラ・マルセリス,イムカはこの422部隊の隊員として,過酷な任務を戦い抜いていくことになる,という感じである。
また,本作においては,シミュレーションRPGと三人称シューティング(TPS)を融合させた“BLiTZ”(ブリッツ)と呼ばれる独自の戦闘システムが特徴となっている。体験版を「こちら」の記事からダウンロードできるので,まずはプレイしてみてほしい。
関連記事:
「戦場のヴァルキュリア3」,登場キャラクターの情報が公開。3作目では歴史に記録されない名も無き戦士達の戦いが描かれる「戦場のヴァルキュリア3」体験版を4Gamerにアップ。“名無しの部隊”のストーリーの一部や新要素の“特殊能力”をいち早く体験しよう
少々前置きが長くなってしまったが,今回4Gamerでは,「3」のプロデューサーであるセガの本山真二氏にインタビューして,気になる話を根掘り葉掘り聞いてきた。シリーズのファンはもちろん,気にはなっているけどまだ購入していないという人も,ぜひ最後まで読んでみてほしい。
「戦場のヴァルキュリア3」公式サイト
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
「戦場のヴァルキュリア3」の存在が明らかにされたのが2010年の東京ゲームショウでしたが,このとき発売日も同時に発表されました。発売日確定での発表に驚いたのですが,この段階で,開発はかなり進んでいたのでしょうか?
はい。開発のマイルストーンから,1月27日に発売するという目途自体は付いていました。ただ,予定通り順調だったかというと,必ずしもそういう訳でもなかったですね。東京ゲームショウでの発表後も色々と調整には苦労しましたし,問題の解消に向けてガツガツと作り込んでいました。
4Gamer:
「2」の発売日が2010年1月21日,「3」が2011年1月27日と,約1年で続編が発売されるわけですが,最初から1年というスパンで続編を出そうという計画だったんですか?
本山氏:
「2」を発売したあとに「3」の開発が決まって,より良いタイミングというのが1月末だったんです。いろいろな理由はありますが,基本的にはクオリティが保証できて,なおかつ一番早く発売できるのは……という考えから,1月27日に決まりました。
4Gamer:
個人的に「3」は,「1」と「2」の中間を取ったような感じがしているんですが,実際のコンセプトはどうだったんでしょうか?
本山氏:
「2」は「1」と比べると,征暦という世界観やBLiTZという基本は共通ですが,雰囲気やウリとなるシステム,そしてゲームサイクルについて,いろいろなものが変化した作品でした。「1」の方向性が仮に左側に位置するとしたら,「2」はその逆の右側を行っていたので,「3」はその中間に置くべきかなというのが,僕が一から企画するにあたっての第一歩でした。
最終的には中間と言っても「1」寄りにするか「2」寄りにするかは,作っていく中で決めていこうとスタッフに伝えました。
4Gamer:
開発の際,「2」から残そう,変えようといった部分には,どのようなものがありましたか?
本山氏:
開発時は,まず当然ベースにするよねという部分があって,それに加えて残そうと思った部分と変えようと思った部分の3つに分けていました。
まず“BLiTZ”で,マップを分割するという要素に関しては,残そうというか,当然ベースにせざるを得ない部分があります。
4Gamer:
そこは,ハードがPSPである以上仕方のない部分ということですよね。
本山氏:
変えようと思った部分は,キャラクターのビジュアルクオリティをもうちょっと上げようということと,あとはマップでの遊び方の部分ですね。あとは,ゲームのサイクルを大きく変えようという想いがありました。
4Gamer:
サイクルを変えるというのは,具体的にはどういうことですか?
本山氏:
「2」は,ランシール王立士官学校という学校から,ストーリーに応じて各ミッションに出かけていって,それが終了したら学校に戻るというゲームサイクルでした。
ただ,「3」の企画を立ち上げるときには,“戦記感”をもう少し出して,「ここは戦争が常時行われている世界なんだよ」ということを,ユーザーさんに伝えたかったんです。
そして,進軍マップというインタフェースを採用することが決まってから,ほかはどういう風に変えていこうかという中で,キャラクタービジュアルの強化や,マップ形状の変化など,どんどんアイデアが出てきたんですよ。
4Gamer:
なるほど。
本山氏:
あとは,「3」でもキャラクター達の内面を積極的に描いていこうと思っていたので,「2」でいうところのサブキャライベントに関しては残したものに入ります。
4Gamer:
「2」の発売後,ファンからの要望も寄せられていると思いますが,その中から「3」に反映されたものなどはありますか?
本山氏:
難易度的な部分もそうなんですけど,サブキャラクターのイベントに関しては,かなり反映していると思います。
ただ,僕らもある程度予測して,「『3』ではこういう部分を改変していくべきだ」という考えで動いていたので,ユーザーさんの意見を聞いてからというよりは,僕らの考える「3」の姿と,ユーザーさんからのご意見にそれほどズレがなかった,という感じですね。
「3」の物語や世界観,キャラクター設定について
4Gamer:
「3」の舞台設定を,「2」の征暦1937年よりあとの時代ではなく,「1」のときの1935年に戻したのはなぜですか?
本山氏:
「1」は,義勇軍の人たちが苦難に耐えつつ戦局を変えていくという痛快な物語だったと思うんですけど,戦争って当然,義勇軍の人達だけが頑張った訳じゃなくて,ほかにもたくさんの兵士達がいたわけですよね。戦争全体の群像劇として考えたとき,もっともっと描くべきポイントはあると思うんですよ。
また,ガリア戦役をまったく違った視点から描くことで,「戦場のヴァルキュリア」の世界をさらに広げていけるんじゃないかなという考えもありました。
4Gamer:
確かに「1」では,ガリア正規軍にはあまり触れられていませんでしたね。今回は,ネームレスを中心にガリア戦役の裏が描かれるアプローチとのことで,「1」で主人公だったウェルキンのような,ヒロイックな話にはならないんでしょうか?
主人公は,ある程度ユーザーさんが自己投影する存在だと思うので,ヒロイックな面はあると思います。ただ,「1」のウェルキンや「2」のアバンとはまた違ったヒーロー像になっているので,懲罰部隊のネームレスにマッチした描き方で,差別化しています。
4Gamer:
戦争で功績を挙げて英雄になる,というような分かりやすい物語ではないと。
本山氏:
そうですね。どんな功績も残ることはなくて最終的にはすべて抹消される,でも一部の人間だけが知っていればいいじゃないか,という発想がストーリー面の企画の発端ですね。
歴史の闇に消えていった人達を描く際,「戦場のヴァルキュリア」にはガリア正規軍という格好の素材があったので,今回は正規軍にスポットを当ててみました。
4Gamer:
すべての功績が史実上から抹消されるから,2年後の「2」で話題に出てくることもないし,つじつまも合うわけですね。
ゲーム内で「1」や「2」に登場したキャラクター達との絡みはどれくらいあるんですか?
時代が同じということもあるので,絡みでいえば「1」のキャラクター達のほうが多少多いかもしれないですね。
「2」では,ストーリーに絡まない“ゲストキャラクター”としてセルベリアやイーディがいました。「3」に登場する過去作のキャラクター達は,そのようなゲストキャラクターも少しいますが,多くはサブキャラクターとしてストーリーに絡む形で登場します。たとえば,ガリア義勇軍第7小隊の人間と出会って共闘したりする場面もあるなど,それぞれの中で,それぞれの立場を語りながら関わっていくという感じになります。
とはいえ,話の主軸は「3」の独立した物語にあるので,主人公が誰か分からない,というようなことはないように作ってます。
4Gamer:
「1」や「2」のファンからすると,ニヤリとするシーンがあるという感じでしょうか?
本山氏:
そうですね。ファンサービスの一環という面もあるので,前作を遊んでいる人にとって嬉しいエピソードはたくさんあると思います。
4Gamer:
次に,キャラクターについてお聞きします。「3」でシリーズ初のダブルヒロインにしたのは,どういった経緯から決まったのでしょうか?
「戦場のヴァルキュリア」の世界にはヴァルキュリア人とダルクス人がいますが,この対局に位置する民族間のドラマをもう少し深く,今までとは違った角度から描いていきたいなと思ったのが発端です。
ヴァルキュリア人って,今のところ女性しか存在が確認されていませんから,女性のイメージがすごく強いと思うんです。ヴァルキュリア人に女性のイメージが強いのであれば,ダルクス人も女性にしたほうが面白いドラマが描けるかなと。
ヴァルキュリア人とダルクス人が女性になったので,じゃあダブルヒロインにしたほうが面白いな,と思ったのが実際のところですね。まあ,「戦場のヴァルキュリア」は男性のユーザーさんが多いので,それならヒロインは多いほうがいいかな,という“柔らかさを増量したい”気持ちがあったのも事実です(笑)。
リエラ |
イムカ |
4Gamer:
リエラとイムカ,どちらが先にキャラクターの設定が決まったんですか?
本山氏:
どちらかというと,イムカの設定が先でしたね。
ダルクス人は,報復行為をしないというアイデンティティを守っている民族なのですが,イムカはそれに反して“復讐のために生きている”という設定です。それは相当ストイックな性格でないと成り立たないと思ったので,主人公に絡んでくる姿があまり想像できなかったんですね。なので,リエラのほうは主人公にもう少し絡んでくるキャラクターであるべきだろうと考えると,どうしても世話を焼くタイプのキャラクターになるなと。
4Gamer:
なんと,イムカが先というのはちょっと意外でした。
本山氏:
あと,シリーズものを作っているときって,前作と変えようと思うあまり,すごくニッチな方向に行ってしまうことがよくあるんですよ。
たとえばリエラだと,今回のような特殊部隊では,最初は潜入ミッションのようなものをやらせたいという考えもあったので,ボディスーツのような衣装を着ている,すごく地味なデザインでした。
ただ,社内でも「これ,地味だよね」って意見が出て,なんで地味なんだろうってチームで相談していたら,僕達が「変えよう」と意識しすぎてることに気がついたんですね。
世にあるヒロインには“ヒロインの法則”のようなものがありますし,最終的には「基本的にいいものはいい」ということで落ち着いたんです。
4Gamer:
ヒロインが世話焼き女房タイプというのは,「戦場のヴァルキュリア」の伝統なのかと思っていました(笑)。
本山氏:
ゲームって,僕らが作るものではあるんですけど,やはりユーザーさんに「面白いね」って言っていただきたいものでもあるので,一部の方だけではなく,いろいろな方に共感してほしいという考えがあります。
イムカには,きっと熱狂的なファンが付くかなと思っていたので,リエラは一般的なヒロイン像を意識しましたね。
4Gamer:
「戦場のヴァルキュリア」チームでは,リエラとイムカどちらが人気なんですか?
本山氏:
アンケートを取ったことはないですけど,多分半々くらいなんじゃないかなと思います。イムカ派は主張するタイプが多いので目立ちますが(笑)。
4Gamer:
ちなみに,イムカってなんでキノコが嫌いなんですか?
本山氏:
イムカは故郷の村を滅ぼされてネームレスに拾われたという設定なんですけど,拾われるまでに,彼女なりの旅路というか紆余曲折があったんです。そこらへんの話もゲーム中でちゃんと語られてますので,詳細は実際にゲームをプレイしてみて確かめていただきたいですね。
4Gamer:
イムカ役の浅野真澄さんもキノコが嫌いということですが,そこは合わせたんですか?
本山氏:
文字設定を作ったのは,キャストの方を考えるよりかなり前でした。キャストが浅野さんに決まって,アフレコの時に浅野さんから「実は私もキノコ嫌いなんです」と聞いたときには,こんな偶然あるんだなって思いました(笑)。
4Gamer:
リエラにも好き嫌いはあるんですか?
本山氏:
リエラは牛乳が好きというのがありますね。それで胸も大きくなったんだと思いますよ(笑)。
4Gamer:
(笑)
ゲーム中では,今挙がったような生活感に溢れたエピソードもけっこう描かれているんですか?
「3」はけっこう重めのストーリーなのですが,「悲惨一辺倒の話は『ヴァルキュリア』ではないかな」と思ったので,日常のほんわかしたエピソードもほしかったんです。生活感あふれる描写であったり,戦争以外の部分での物の考え方であったり,そういった部分も大事だと思うので,ゲーム内にきちんと入っています。
4Gamer:
クルト達が所属するネームレスって,実際に何人くらいいる部隊なんですか?
本山氏:
全部で何人とまでかっちりとは決めていませんが,隊員以外にもサポートメンバーがいるので,全体では数十人といった規模です。
4Gamer:
では,プレイアブルキャラクターは全部で何人くらいいるんですか?
本山氏:
20人以上ですね。ゲームのルールを考えてこのくらいは必要だろうと。
4Gamer:
「2」のときよりは少ないんですね。
本山氏:
そうですね。ただ,キャラクター一人一人の描き分けが薄くなるよりは,数を減らしてでも,それぞれをきちんと描いてあげる方が大事だと考えています。
4Gamer:
「3」では,キャラクターが戦死することはあるんですか?
本山氏:
先程もお話ししましたが,今作でもネームレスという一つの小隊の中で,各キャラクターのエピソードをきちんと描いてあげたいという考えがあるので,戦死というシステムはないですね。そういう部分では「2」と同様のシステムです。
4Gamer:
ネームレスの隊員はナンバーで呼ばれていますが,彼らの数字はどういう基準で付けられているんですか?
本山氏:
基本的には,系統だったナンバーの付け方はしていないんですよ。バラバラっとしてたほうが雑多な集団に見えて,ネームレスのずさんさを強調できるかなと。
ただ,一桁台のナンバーには特殊な意味があったり,10番台は偵察兵であったりというように,兵種別である程度は分かれてます。
ちなみに,イムカのナンバーである1は,若くともナンバー1を背負っているエースという意味ですし,リエラの13番は不吉の象徴としての数字を付けています。それとクルトは隊長ということもありますし,ヴァルキュリアとしては特別な意味を持つ数字ということで,7番を付けました。
4Gamer:
そういえば,「1」は第7小隊で,「2」のG組もAから数えると7番目のクラスでしたね。
- 関連タイトル:
戦場のヴァルキュリア3
- この記事のURL:
キーワード
(C) SEGA