インタビュー
「PSO」と「PSU」の世界のつながりも描かれた「ファンタシースターポータブル2 インフィニティ」。「PSO」10周年の展開を含め,開発秘話をセガの酒井智史氏と寺田貴治氏に聞いてきた
「PSPだけで成立」が前提のインターネットマルチモード
ログデータから分析したバランス調整も
「インフィニティ」では,マルチプレイ向けのビジュアルロビーが新たに導入されましたよね。新要素ではありますが,ファンにとっては懐かしいというか。
酒井氏:
実装の形はちょっと違うんですけど,なんとなく以前を思い出せるような感じにできればと思って。
寺田氏:
ビジュアルロビーは今でこそ快適に走ったりできるんですけど,開発当初はもうゲロゲロに重くてですね……。
酒井氏:
12人入るのは絶対にできないといわれていました。「通信量が多すぎる」ってすごく怒られましたから。
寺田氏:
あるとき,「ビジュアルロビーが重すぎてダメなんですけど」って相談したら,通信パケットをどれくらい送っているのか聞かれたんです。それで数字を答えたら,「その10分の1にしてください」って言われて。僕達はそんなにひどいことをやっていたのかと(笑)。
そこからいろいろとチューニングしていって,ようやく実現したんですよ。
4Gamer:
「ポータブル2」からの話になりますが,インターネットマルチモードをやろうと思ったきっかけはなんだったんでしょうか?
酒井氏:
そのあたりは,「うちが先陣を切ってやらなくてどうする」という信念みたいなものですね。
寺田氏:
その分,地雷原を突き進むような感じになりますけどね(笑)。
「インフィニティ」では土台ができ上がっていたので楽でしたけど,「ポータブル2」のときは本当に大変でした。何か問題が起きるたびにSCEさんと協力して解決する,という感じでしたから。
4Gamer:
最近では,PS3の「アドホック・パーティー for PlayStation Portable」も賑わっていて,けっこう普及してきた印象を受けます。アドホックモードのみの対応でもオンラインで遊べるようになってきていることで,インターネットマルチモードがなくてもいいと考えたことはありますか?
我々としては,PSPだけで成り立つようなものを前提に考えているんです。
もちろん,否定しているわけではないので,アドホック・パーティーで遊んでもらっても全然かまわないんですけど,アドホック・パーティーは,PS3がないとできないものじゃないですか。PSPだけ持っているユーザーさんには利用できないものなので,それをメインに考えることはないですね。
4Gamer:
チャット入力システムを自前で持っているのも,PSPだけで成り立たせることの顕れなんですね。
寺田氏:
そうです。
チャットといえば,今回携帯電話に近い入力方式の「簡易入力」が増えましたが,これはユーザーからの要望で実現したものなんですか? それとも単純に便利だからという理由でしょうか?
酒井氏:
両方ですね。前回のときにも入れようかという話はあったんですけど,僕が個人的に五十音が並んでいるほうがいいんじゃないかと思って,やめたんですよ。でも,試しに簡易入力を作って使ってみたら,こっちのほうがいいなって。ごめんなさい。
寺田氏:
僕も「ポータブル2」のときは,携帯を持っていない人も打てる,誰でも分かるキーボード入力のほうがいいと思っていたんですけど,簡易入力を実装してみたら「打ちやすいわー」って(笑)。
酒井氏:
圧倒的にカーソルを動かす量が少ないですからね。「こっちのほうがよかったな」と思い直したんですが,前回の入力方法に慣れている方もいると思うので,両方入れることにしました。
寺田氏:
入力方式は,オプションで選べます。入力方法もいろいろとこだわりがあるでしょうから,それぞれ普通に入力するものと,予測変換付きの2種類から選べるようにしました。
4Gamer:
「ポータブル2」のときは,インターネットマルチモードの利用者は多かったんですか?
酒井氏:
最初に盛り上がったあとはだんだん下がっていくという推移でしたけど,イベントや配信があると盛り返すような形で,最終的にもそこそこの人数がいました。「PSU」よりも人数が多かったくらいです。
寺田氏:
ユーザー層がかぶっている気がしますけどね(笑)。
4Gamer:
「ポータブル2」からインターネットマルチモードを導入して,そのログで得られたデータは,今回の開発の際に参考になったのでしょうか。
そうですね。ニューマンであったり,フォースであったり,「ポータブル2」ではあまり使われていなかったものに対する答えが,「インフィニティ」でのテクニック強化だったりします。そういった部分に対する答えは,ゲームの中でかなり返しているつもりです。
酒井氏:
インターネットマルチモードを利用しているユーザーさんの種族構成データが出せるんですけど,「ポータブル2」のときは,種族だとニューマン,タイプだとフォースは本当に少なかったんです。
寺田氏:
ニューマンは本当に少なかったですね。
酒井氏:
それが「インフィニティ」の体験版のときには,けっこう揃いましたね。そういう意味では,綺麗にまとまる感じにはなったんじゃないかなと。
4Gamer:
武器のバランスでも,ログデータから調整した部分というのはあるんですか?
酒井氏:
武器というか全体のバランスは,やはりいろいろな意見をもらうので,「ブレードデストラクション」などがそうですけど,強くしたり弱くしたりという調整はしています。
寺田氏:
担当者はすごく見ていて,意見を本当に全部拾うんですよ。
中には狙ってやっているので,あえて変えていないというものも当然あるんですけど,やはりユーザーさんが強く不満に思っているところは,本当にギリギリまで積極的に改善しました。マスターアップ直前に,「お前まだ変えるつもりなんかい!」っていうくらい(笑)。
4Gamer:
武器やフォトンアーツのバランス調整は,どのようなスタンスで行ったんですか?
酒井氏:
「ポータブル2」では,いろいろと突出していたものがあったので,今回は全体をならすという感じで調整しています。なので,特出して強いというのは多分なくなったんじゃないかなと思います。
寺田氏:
テクニックがちょっと使いやすくはなってますけどね。
フォバース |
サ・ゾンデ |
新しく入ったフォバースなどは,かなり使えるという印象ですが。
寺田氏:
フォバースは強いですね。チェインも稼げますし。
酒井氏:
まぁでも積極的に使うべきものとしてわざわざ入れているので。
寺田氏:
新しく実装するものは,やはり使ってほしいものなので,多少強めにしたという部分はあります。
「フォバース入れましたよ,どうですか!」って新しく作ったものを,ユーザーの皆さんから「これ弱いからいらないよ」って言われたら,「……あれ?」ってなっちゃうので。
新しいものを使ってもらうことでそのゲームに対する新鮮味も増すので,そういうループはできるんじゃないかなと思っています。
4Gamer:
インフィニティグランプリの大会予選を見ていて,「これ,バランスは大丈夫かな?」と余計な心配をしてしまうほど,フォースを使っている人が多かったので。
寺田氏:
まあ,皆さんフォースで固めてきましたもんね。
酒井氏:
あれは,あのシチュエーションでタイムアタックを前提でやると,ああいう戦法になるという話ですね。
出てくるモンスターが違ったり,場所が違ったりすれば,当然戦法も変わってきますし。実際,第2ステージでは全然違う戦法になっていましたしね。
第1ステージは,ボスのテクニック耐性がちょっと低かったので,そこを突いて皆がああいう組み合わせにしたっていうだけの話ですね。オルガ・フロウのときはみんなばらばらでしたもんね。
なのでそこは気にしてないですし,フォバースだけじゃなくてサ・ゾンデでダウンを狙えたりもできるので,「これだけを使えばいい」って話にはなってないんですよ。
酒井氏:
先にもお話ししましたが,前作では,圧倒的にニューマンもフォースも少なかったんですよ。だから,やっと使ってもらえるレベルになったんだと思います。
あと,仮にフォースが強くなったとしても,ハンターでやっている人は,それでも絶対ハンターでやるんですよ。だから個人的には,フォースがちょっと強いくらいがちょうどいいんだと思っています。
寺田氏:
そこは本当にそういう話なんですよ。これだけフォースを強くしても,結局剣が好きな人は,絶対に剣を持って戦うんですよね。
「PSU」はPCでのサービスに特化してアップデートを充実
「PSO2」自体が次の10年を作るための大きなチャレンジ
4Gamer:
ここからは,「ポータブル」以外の「ファンタシースター」シリーズの話も少し聞かせてください。
「ファンタシースターユニバース イルミナスの野望」では,4月下旬に予定されている「アップデート3rd」に近いタイミングでPlayStation 2版のサービスが終了します。今までもPS2版では入れられない要素がありましたが,その制約をなくしてPC版で大きなアップデートを実施することが目的なのでしょうか?
そうですね。あまりにもサービスの格差がありすぎるという部分もあります。また,サービスを続けていくにあたっては,PC版だけでできるサービスをもうちょっと充実させていくほうがいいだろうという判断です。
「イルミナス」のアカウントは,PCでもPS2でもプレイできるものなので,PS2版でプレイしていた方は,PCにクライアントをインストールしてもらえれば,継続してプレイできます。
2010年の段階では,PS2でプレイしている方の比率は無視できないものだったんですけど,そろそろ,PC版だけでもやっていけるという構成比になってきたというところも大きいですね。
4Gamer:
ちなみに,アップデート3rdで種族としてデューマンが増えたりするようなことは……?
酒井氏:
残念ながらありません(笑)。
実はファンタシースターチームって,家庭用ゲーム機もPCも含めて一つなんですよ。なので,やりくりを考えると,「イルミナス」には人的リソースをそれほど大きく割けないという実情もあるんです。
4Gamer:
この夏に実施予定の「PSO2」αテストは,基本的にどういった目的のテストになるんでしょうか?
酒井氏:
「こういうものが『ファンタシースターオンライン2』ですよ」というところをちょっと出したいかなと。ゲーム性の部分もそうですけど,「この方向性でいいのか」みたいなのを,ちょっと図りたいんですね。
……というところを確認するらしいですよ,今回は。
この間,僕もそれを聞いてちょっとびっくりしました。なかなかないことだと思いますけど,ゲームのあり方というか,こういう方向性でいいのかということについて,いろいろと意見を取り入れたいという話なんですね。
皆さんの意見が反映できるタイミングでのテストだから,βではなくてαテストなんです。
4Gamer:
ということは,プレイヤーからの意見によって,「PSO2」は様変わりする可能性があるということでしょうか?
酒井氏:
さすがになにもかも変わると言う事はないですが,意見を取り入れつつ,より良いものを目指していきたいと思っています。
4Gamer:
今回「PSO2」で実施予定のαテストを含めて,「PSO」の“次の10年”に向けての大きなチャレンジということなのでしょうか?
酒井氏:
「ファンタシースターオンライン2」自体が,次の10年を作るための大きなチャレンジ,一つのプロジェクトだと思っているんですよ。
寺田氏:
「インフィニティ」が10周年を締めくくるタイトルで,次の10周年の始まりのタイトルが「PSO2」といったところですね。
酒井氏:
「皆さんの期待を裏切るものになってないですか?」という確認の意味で,αテストという段階をちゃんと踏みたいんです。
4Gamer:
現在,着々と準備を進めているとは思いますが,実施は夏のいつ頃になりそうでしょうか?
酒井氏:
がんばっています。……順調に遅れながら,ですが。
4Gamer:
αテストの実施を期待して待っています。
それでは最後に,「インフィニティ」について,読者に向けてのメッセージをお願いします。
寺田氏:
「ファンタシースターポータブル2 インフィニティ」という響きから言って,「ポータブル2」の単なる拡張版に見える方もいると思うんですけど,ボリューム,内容,システム,すべて新規タイトルといってもおかしくないくらいのものが本当に入っています。
もちろん,新規のユーザーさんが楽しめる要素をいっぱい入れていますが,「ポータブル2」を楽しんでくれたユーザーさんにこそ楽しんでほしいし,より楽しめるソフトになっていると思います。「ポータブル2」を遊んだ方全員にお買い上げいただけたらいいなと思っています。
「インフィニティ」には,「3」といっても過言ではないくらいの内容を詰め込みました。新しく買う方にとっては,2本分楽しめると言っていいタイトルだと思っています。
一人でもRPGとして楽しめるし,友達が4人集まればマルチプレイアクションとして楽しめる。また,インターネットを通じて全国のプレイヤーとも楽しめて,すれ違いで見知らぬ人ともゆるく繋がっていけるソフトで,PSPでできることのすべてを網羅したと断言してもいいと思っています。
そういう意味では,PSPを持っているのにこのソフトを持っていないのはありえないというくらいのソフトになったと思いますので,PSPを持っていたらぜひ買っていただきたいなと。
寺田氏:
なるほど,このゲームこそがPSPだと。
酒井氏:
これこそがPSP,ファンタシースターポータブルなんですよ(笑)。
寺田氏:
なるほど,深いですね(笑)。
酒井氏:
興味を持ったらまずは体験版を遊んでいただければ,無限に遊んでいただけることが垣間見られると思いますので,よろしくお願いします。
4Gamer:
ありがとうございました。
というわけで,お届けしたインタビューはかなりのボリュームとなったのだが,いかがだっただろうか。
「ファンタシースターポータブル2 インフィニティ」には,ファンタシースターチームが開発に真摯に取り組み,プレイヤーの期待を上回るものを提供しようという努力が詰め込まれていることが,酒井氏,寺田氏の言葉から感じ取れたのではないだろうか。
本作は,インタビューで酒井氏が述べたように,実質2本分の内容が入っていると言っても差し支えないほど,ボリューム満点の内容だ。
また,ストーリーはシリーズ未経験者でも十分楽しめ,シリーズ経験者ならより深く味わえるものになっている。「2」というナンバリングにあまりとらわれず,ぜひプレイしてみてほしい。
本記事の冒頭でも書いたように,本作は発売から1か月以上が経過した現在でも,週間の販売本数が1万本以上を記録している。つまり,「インフィニティ」デビューをしている人が毎週1万人以上いるともいえるわけで,今から始めても決して遅くはないのである。……インタビュー記事を掲載したタイミングが遅かったのは,ごめんなさい。
なお,イベント「ファンタシースターポータブル2インフィニティ 全国ファン感謝祭2011 supported by カロリーメイト」は,東日本大震災の影響で福岡大会/札幌大会は中止となってしまったが,4月24日の決勝大会については,節電と来場者の安全面に最大限配慮をしたうえで,開催予定であることが告知されている。以下に酒井氏からのメッセージを掲載したので,目をとおしてほしい。
また,同イベントの公式グッズについては,セガストアでWeb通信販売が4月4日に開始された。ただ,一部商品はすでに在庫切れとなっており,数量限定のため再入荷するかどうかは未定だ。購入希望者は早めにアクセスしておこう。
■酒井プロデューサーのコメント
ファン感謝祭についてですが、お知らせしている通り、3月19日福岡、26日札幌については、残念ながら中止とさせていただきました。
こう言うときこそ皆さんに笑顔を、と言う思いがありましたが、関東からの物流事情の悪化、来場される方やイベント関係者の安全面の問題等を考慮すると、本当に残念ですが中止を選択せざるを得ませんでした。
このために練習してくださっていた皆さん本当に申し訳ありません。
物販を楽しみにしてくださっていた方のために、物販で発売していたアイテムについては通販を検討しております。詳細の発表まではもうしばらくお待ちいただければと思います。
4月以降のファン感謝祭ですが、皆さんの笑顔とキズナのチカラを取り戻して行くためにも、開催したいと思います。
元気である我々が、いつまでも震災を引きずるのではなく、笑顔とキズナでこの日本を元気にしていこうではありませんか。
もちろん関東でもまだ計画停電など様々な状況がありますので、節電と安全には最大限の努力を払いつつ、大きな余震等があった場合には中止の可能性もありますが、現時点では開催という判断をさせていただきました。
これまでファンタシースターユニバースのシリーズでは、「人々がチカラを合わせて、世界の大きな危機に立ち向かい、克服して行く」と言うものを描いてきました。「ファンタシースターポータブル2インフィニティ」でもキャッチコピーに「キズナが無限のチカラになる」と言う言葉を入れました。
ひとりひとりの力は小さいかもしれません。でも、人々が助け合う「キズナ」のチカラはどこまでも無限に広がっていくものだと思います。早く、一人でも多くの方が笑顔を取り戻せるように、我々全員で助け合い、この震災を乗り越えていきましょう!!
■イベント・キャンペーンに関する重要なお知らせ
http://phantasystar.sega.jp/psp2i/information/20110315/
■4月以降のファン感謝祭「開催」のお知らせ
http://phantasystar.sega.jp/psp2i/information/20110325/
■全国ファン感謝祭2011の公式グッズをセガストアにて販売!
http://phantasystar.sega.jp/psp2i/information/20110401/
- 関連タイトル:
ファンタシースターポータブル2 インフィニティ
- 関連タイトル:
ファンタシースターポータブル2
- この記事のURL:
キーワード
(C) SEGA
(C) SEGA
- ファンタシースターポータブル2インフィニティ 特典 プロダクトコード「キズナ インフィニティセット」付き
- ビデオゲーム
- 発売日:2011/02/24
- 価格:¥980円(Amazon) / 1001円(Yahoo)