インタビュー
「PSO」と「PSU」の世界のつながりも描かれた「ファンタシースターポータブル2 インフィニティ」。「PSO」10周年の展開を含め,開発秘話をセガの酒井智史氏と寺田貴治氏に聞いてきた
発売からすでに1か月以上が経過している本作だが,発売後,4月3日時点の週間販売ランキング(メディアクリエイト調べ)までトップ10圏内にランクインし続けている,人気のタイトルである。
「インフィニティ」では,前作「ポータブル2」のゲーム内容をほぼすべて踏襲しつつ,新たな種族“デューマン”の登場,前作の半年後の物語が描かれる“エピソード2”の追加,そしてインフィニティミッションをはじめとした新要素の導入や,システムの改良などが行われている。カテゴリとしては拡張版といえるのだが,続編といっても差し支えないほどの内容が詰め込まれている。
4Gamerでは,「インフィニティ」のプロデューサーである酒井智史氏と同シニアディレクターの寺田貴治氏にインタビューをさせてもらい,本作の開発秘話をはじめとしたさまざまな話を聞かせてもらった。
すでに本作をやり込んでいる読者も多いとは思うが,「インフィニティ」の数々の新要素にはどのような想いが込められたものなのかを知れば,本作に対する理解がより深まるはずだ。
また,この夏にαテストが実施される「ファンタシースターオンライン2」など,「PSO」10周年にまつわる今後の展開についても少しではあるが教えてもらえた。発売して間が空いてからの掲載となってしまったが,「インフィニティ」をプレイした人はもちろん,「ファンタシースター」シリーズのファンは,ぜひ最後まで読み進めてほしい。
「ファンタシースターポータブル2 インフィニティ」公式サイト
UMD容量の限界まで新要素を詰め込んだ「インフィニティ」
容量を確保するための苦労も“限界を突破”
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
まずは,「インフィニティ」制作が決定した経緯から教えてください。
基本的には,「ポータブル2」でやりきったという思いはあったんですけど,発売後にユーザーの皆さんからの要望がかなりあったこと,また会社からも後押しがあったことが,開発が決まった理由です。
「PSO」10周年という区切りのタイミングでもあったので,ここで1本タイトルを出しておきたいという気持ちも大きかったですね。
寺田氏:
まずは,「ポータブル2」の完全版みたいなものを作りたいな,みたいなところから開発が始まりました。最初は「ポータブル2プラス」くらいのノリだったんですけど,結局「3」と言っていいくらいのボリュームになってしまいました(笑)。
4Gamer:
「インフィニティ」の制作には,どれくらいの期間がかかったんでしょうか。
開発の体制がまとまったのが2010年の3月頃でしたから,8〜9か月といったところだと思います。普段は段階を踏んで工程を進めるんですけど,期間が短かったので,中間工程をすっ飛ばして作っていました。
4Gamer:
なるほど。工程を短縮できたから短期間でリリースできたんですね。それは,やはり「ポータブル2」が土台にあったからできたことなんでしょうか?
酒井氏:
そうですね。慣れたスタッフでやったことで,開発期間を大幅に短縮できたと思います。ちなみに今回はほとんど内部で制作していて,アルファシステムさんにはサポートしていただいたというレベルなんです。
4Gamer:
以前,「ポータブル2」でUMD容量の限界近くまで使っているという話を聞いた記憶があるのですが,「インフィニティ」では,さらに多くの新要素が追加されています。どうやって新要素を入れるための空き容量を捻出したんですか?
酒井氏:
一つは体験版ですね。「ポータブル2」には体験版を配布できる仕組みが入っていましたが,それを削ることで,300MBほど容量を空けることができました。ほかには,一部の効果音や使っていないデータを探し出して,それを削ったりしています。
寺田氏:
イベントの作りも,全体容量を減らすためにちょっと改造しているんです。
「ポータブル2」では,イベントごとに絵素材を固めていたので,たとえば笑顔のエミリアの立ち絵だったら,使用するイベントすべてに入っていたんです。それを,一つのデータから呼び出す形に構成し直すことで,データ量をかなり減らせました。
体験版を削ることに始まって,そういった細かいことの積み重ねで,やっと入れられたという感じですね。……新要素1個1個のデータはそんなに大きくないんですけど,なんでいつも満杯になるんですかね(笑)。
4Gamer:
今回も,UMD容量の限界まで使っているんですか?
寺田氏:
本当にギリギリで,UMDに焼けなくなる寸前まで入っています。
酒井氏:
ゲームインストールのデータも,そのままだったら入れられなかったんですよ。
通常であれば,ゲームインストールするデータと,ゲームで使うデータを分けて収録しているんですが,そのままだと入らなかったんです。
今回はデータを二重に持つ分のオーバーヘッドをなくして,1個で済むようにしたんです。そこもデータを軽くできた要因の一つですね。
4Gamer:
それはすごいですね……。ちなみに,ダウンロード専用にしたら,そういった制約から開放されるんでしょうか?
酒井氏:
うーん,基本的にはだめでしょうね。
寺田氏:
だめじゃないですかね。ゲームのROMイメージを作るのにも,おそらく限界があると思うので。それが外れれば,理論上は可能かもしれないですが。
酒井氏:
それと,PSPのメインメモリにも限界があるので,これ以上いろいろな機能を入れようと思ったら,やはりどこかを削らなくてはいけないですし。
寺田氏:
そうですね。全体の容量が大きくなれば,武器の数とかを増やすようなことは多分できると思うんですけど,基本のシステムは増やせないですね。
体験版は600MB近い容量ながら出足は前作の2倍以上
新要素を味わえるようレベル100まで育成可能な仕様に
4Gamer:
「ポータブル」シリーズでは,毎回体験版に力を入れていますが,「インフィニティ」体験版の反響はどうでしたか?
人に配ることもできるUMDのスペシャル体験版も配布したので,どれだけの方が体験版を遊んでくださったのか,正確な数は分からないんですけど,PlayStation Storeでの初日のダウンロード数は,「ポータブル2」のざっと2倍でしたね。
容量が「ポータブル2」体験版の2倍近くあって手間がかかるにもかかわらず,多くの方々にダウンロードしていただきました。
寺田氏:
今回は600MB近くありますからね。
4Gamer:
「ポータブル2」の体験版ではレベルの上限が15でしたが,「インフィニティ」の体験版ではレベル100まで上げられるようになっていました。これは,どういった基準で決まったんですか?
酒井氏:
プレイしてすぐやめてしまうような体験版では意味がないんですよ。「ポータブル2」をすでにプレイしている方にとって,レベル15なんてとっくに超えている線ですから。
寺田氏:
ある程度遊べるものでないと,「『ポータブル2』でレベルを上げて引き継いだほうがいいや」ってなっちゃうので,移行してもらえないですよね,きっと。
酒井氏:
「ポータブル2」では,だいたいレベル60から80くらいでやめてしまう方が多かったというデータがあったんです。
寺田氏:
レベル60から80くらいって,ちょうどシナリオをクリアするレベル帯でもあるんですよ。そのあたりのレベル帯ではレベルが上げにくかったこともあって,そこでやめちゃう人が多かったんですよ。
酒井氏:
「インフィニティ」では,そのあたりのレベル帯でレベルを上げやすくしたり,高レベルのモンスターの挙動を若干変えたりしているんです。いわば先行発売みたいな感じで,そういった部分をしっかりと体感していただいて,「インフィニティ」に移行していただくための準備段階を楽しんでもらえればいいかなと。
「インフィニティ」で遊んだほうが楽しくてお得だよ,やることがいっぱいあるよ,という風にしないといけないというのが,体験版の課題でしたね。
もちろん,「ポータブル2」でレベル200まで育てた方もいると思うんですけど,そういった方には,「ポータブル2」にはいなかったデューマンという新種族を育てるという楽しみを用意しています。
デューマンは,タイプレベルが低い状態だとそんなに強く感じないかもしれないんですけど,タイプレベルが上がってくると,インフィニティブラストとかが,手が付けられないほど強くなります。体験版しか遊んでいない方は,ぜひ製品版でそれを実感してほしいです。
デューマンは中上級者向けの新種族に
キャラクタースロット10枠はやむを得ず断念
今回,デューマンという種族が増えて5種族になったわけですけど,種族を増やすということは,企画立ち上げの早い段階で決まったことなんでしょうか。
寺田氏:
企画書にはありました。ただ,作業量が膨大すぎるので,開発の過程でカットしようって言ったんですよ。そうしたら,それだけはカットしないでくれって話が上がって。それでまた入ることになったのがデューマンですね。なかなか,紆余曲折があった種族です。
酒井氏:
やはり新種族は大きなウリになるじゃないですか。だからどうしても入れないといけないという要素でしたし,結果的にも,入れられてよかったと思います。
寺田氏:
その分,デューマン関係の作業は火の車みたいになっていましたけどね(笑)。
4Gamer:
4つの種族が確立しているところに,新しい種族を増やすのは難しかったと思います。デューマンの基本コンセプトを教えてもらえますか?
寺田氏:
基本的には,誰でも強いキャラクターが好きじゃないですか。新しいタイトルを牽引するキャラクターとして,プレイヤーの皆さんに使ってほしいので,まずは強いキャラクターにしようということを考えました。
酒井氏:
強すぎて,製品版では若干弱くなりました(笑)。
寺田氏:
皆が使いたくなる強いキャラクターにしようとしたら,強くなりすぎちゃったんですよ(笑)。開発当初はものすごく強かったんですけど,みるみるうちに攻撃力が減っていきました。
攻撃や法撃が非常に強いキャラにしたんですけど,それだけだとほかの種族の影が薄くなってしまうので,その代わりに防御などを弱くしています。上手くガードや回避を使いこなす必要があるので,最終的には,中上級者向けのキャラクターにまとまったと思います。
4Gamer:
新種族のデューマンが増えたことで,プレイヤーキャラクターは5種族の男女で合計10種類のバリエーションになりました。ただ,キャラクタースロットは8個のままですよね。スロットを8個から10個にするのは難しかったんでしょうか?
酒井氏:
無理でした。もちろん,5種族の男女分を確保できないか,検討段階で議題に上がったんですけど,やるとなると容量が圧倒的に増えちゃうんですよ。
セーブデータの容量という話だけであればなんとかできたと思うんですけど,ゲーム内にはほかにも,プレイヤーキャラクターの人数分,いろいろと確保しておかないといけない領域があるんです。
キャラクタースロットを10個にすると,ゲーム内のメモリを圧迫してしまい,極端なたとえ話ですけど,SUVウェポンが撃てなくなるとか,何かを大きく削らないと実現できなかったので,やむを得ず諦めました。
4Gamer:
ちなみに,ほかにやりたくてもできなかったことってありますか?
寺田氏:
一番はやはりキャラスロットなんですが,個人的には,ゲームインストールに段階をつけたかったというのがありましたね。
4Gamer:
段階というのは?
寺田氏:
ゲームインストールでは,武器やキャラクターのデータをメモリースティックにインストールしているんです。ただ,エリアデータまでは入れられなかったので,エリア移動のときは,やはりロードに時間がかかってしまうんですよ。
なので,武器/キャラクター/エリアデータといったデータを,メモリースティックの空き容量に応じて段階的にインストールできるようにしたかったんですけど,容量の問題で実現できませんでした。
酒井氏:
キャラクタースロットに限らず,多分,ユーザーさんが望んでいることで検討していないことはないと思います。すべて検討したうえで,どうしてもできないことを切り分けて,それ以外はできる限りやろうと決めていたので。
4Gamer:
あと,「インフィニティ」の新システムですごくいいなと思ったのは,スクリーンショットの撮影機能だったんですけど,これはどういう経緯で実装されたんですか?
酒井氏:
最初にやろうって言ったのは,確かアルファシステムの社長さんで,以前も毎回入れようという話をしていたんです。僕もずっとやりたいと思っていたんですが,ゲームを犠牲にしてまで入れるものではないので,これまで実現はしませんでした。結局,今回こっちで実装しちゃったんですけど。
寺田氏:
そうなんですよね。スクリーンショット撮影って,画面をまるごと保存するので,結局メモリにすごく空きがないとできないんですよ。
「インフィニティ」でも,当初は「撮影専用の部屋を用意して,そこでのみ撮影するくらいじゃないと実現できない」と言われていたんですけど,結局,モード切替方式で,チャットしながらとかウィンドウ出した状態とか,すべての状態をカバーしながら撮影できるようになっています。……なんでこんな形で実装できているんでしょうね(笑)。
酒井氏:
不思議だよね。
寺田氏:
不思議ですよね。
4Gamer:
お二人が知らぬ間に実装されたんですか(笑)。
酒井氏:
担当者が本当に頑張って,メモリを空けてくれたからでしょう。
4Gamer:
気に入ったイベントシーンをスクリーンショットで撮影してPSP本体の壁紙にもできるし,×ボタンでセリフのダイアログも隠せるのがいいですよね。
寺田氏:
そういうこともできますので,ミッション中でなくストーリー中でも,気に入ったシーンがあればバシバシ撮ってもらいたいですね。今回のストーリーの絵も,うちの水野が死ぬ気で仕上げましたので,どの絵も魅力的に仕上がっていると思います。
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