インタビュー
ゲームミュージックはどうしたらメジャーになれる?――「すばらしきこのせかい」石元氏דZUNTATA”小塩氏による,2時間にわたる音楽談義。「ミュージックガンガン!2」の裏話からゲーム音楽の将来まで
スクウェア・エニックスの作曲家・石元丈晴氏が曲を手がけ,ボーカルに貝田由里子さんを起用した「Dreamer」もまた,その一つだ。さらに同作には,石元氏が過去に手がけたスクウェア・エニックスのRPG「すばらしきこのせかい」の楽曲から,「Twister」も収録されている。そして今回,「ミューガン2」のサウンドディレクターを務めた“ZUNTATA”の小塩広和氏たっての希望により,気鋭コンポーザーである両氏の対談が実現した。
話は「ミューガン2」収録曲のレコーディング裏話から幕を開け,同作のファンには見逃せないトークが展開――したのだが,同じコンポーザー同士という両氏の話はみるみるうちに白熱し,「ボーカル論」や「プロとアマの違い」など,より“濃い”テーマへと転がっていった。
その結果,本作のファンならずとも,ゲームミュージックが好きな人なら必読! といえるほどの内容となったので,「音ゲーは遊んだことがない」「ゲームは好きだけど,サントラを買うほどではない」というような人も,ぜひ本稿をご一読いただきたい。
「ミュージックガンガン!2」公式サイト
石元丈晴氏 プロフィール
楽曲の打ち込みを行うマニピュレーターとしてスクウェア・エニックスに在籍していたが,「BEFORE CRISIS -FINAL FANTASY VII-」でコンポーザーとしてデビュー。以降,「すばらしきこのせかい」や「DISSIDIA FINAL FANTASY」などの楽曲を担当している。
小塩広和氏 プロフィール
タイトーのサウンドチーム“ZUNTATA”に所属するサウンドクリエイター。「スペースインベーダーエクストリーム」や「スペースインベーダー インフィニティジーン」,「ダライアスバースト」などに携わり,「ミュージックガンガン!」シリーズではサウンドディレクターを務める。先月はサントラCD「スペースインベーダー インフィニティジーン エヴォリューショナルセオリー」をリリースしたばかり。
「ミュージックガンガン!2」オリジナル曲制作秘話
ボーカルは,なんと石元氏の自宅で収録
小塩氏:
本日はよろしくお願いします。実はWebなどに掲載されたインタビューを読んで,「石元さんとはぜひお話ししてみたい」と思っていたんです。今回は4Gamerの協力もあり,対談させていただく機会を得ることができました。まず,初めて「ミュージックガンガン!2」の企画書をご覧になったときの第一印象はいかがでしたか?
アーケードゲームの音楽は作ったことがなかったから,面白そうでしたね。“音楽ゲームの曲”という意味でも,初めての経験になります。
小塩氏:
石元さんには今回,オリジナル曲の「Dreamer」と,「すばらしきこのせかい」から,「Twitster」の2曲を提供していただいたんですが,企画書から想像されていたゲーム内容と,実際に稼動しているものとのギャップはありましたか?
石元氏:
いや,ギャップはあまりなくて,大体思ったとおりでしたね。
小塩氏:
石元さんから「Dreamer」が上がってきたときは,ずいぶんゲーム内容にハマっているという印象を受けました。その辺りどうですかね,プロデューサー?
「ミュージックガンガン!2」プロデューサー アリカ氏:
ええ,「Dreamer」を遊ぶと,思わず歌詞を口ずさんでしまうんですよ。自分もボーカルの貝田さんになった気持ち(笑)。石元さんが貝田さんを選ばれたのは,どんな経緯だったんでしょう。
石元氏:
ミュージシャンを探すときに,「こういう人を探しているんだけど」とお願いする会社があるんですね。貝田さんは,そこにたまたま所属していた人で。それで音源を聴いて,「いいんじゃないですか」と。
小塩氏:
レコーディングの際には貝田さんとご一緒されたと思うんですけど,いかがでした?
レコーディングは僕の家でやったんです。
小塩氏:
ええっ! 家でレコーディングできるものなんですか。僕も家に作業環境はありますが,さすがにレコーディングをできるほどのものでは……。凄いですねそれは。初めて聞きました。
石元氏:
ボーカルの人には,結構うちに来てもらいますよ。スタジオでやったからって良い音になるわけじゃないですからね。スタジオだと時間がないし。じっくり作業できる所で,納得いくまでやるほうが良いと思うんで。
小塩氏:
たしかにスタジオだと時間が区切られちゃうし,家でじっくり作業できたほうが良いものが作れるかなあ,とは常々思っています。
石元氏:
まあ,貝田さんも人の家に行って仮歌とかを録るのは慣れていますし。別に,男女だからって何かあるわけでもなし……。
小塩氏:
いや別にそんなことは思ってないですよ!(笑) 今回,僕もいくつかボーカル曲をレコーディングしたんですけど,どのくらい時間かかりましたか? 今の話を聞いていると,結構じっくり時間をかけているのかなと。
石元氏:
ボーカルを録ること自体は,1時間もかかってないんじゃないですかね。
小塩氏:
あ,そうなんですか? 意外です。
石元氏:
あとはどんどん喋りました。うちに犬がいて,彼女も犬好きだから,犬とわーって戯れて(笑)。
小塩氏:
でも,そういうことって凄く大事ですよね。歌い手さんのテンションを上げるというか。スタジオだと時間が限られているので,雑談ばっかりしていると「そろそろ時間が……」というプレッシャーがかかっちゃいますけど。
石元氏:
僕ね,録る前にかなり雑談するんですよ。「こういう人間なんですよ」っていうのを最初に話していたほうが楽だなあと思います。じゃないと,レコーディング中に「それ,もう一回やってください」みたいなキツいことをいえないじゃないですか。だから,相手の心をオープンにさせたいんですよね。それで「じゃあ,レコーディングしますか」と。
小塩氏:
それで1時間くらいでパーッと録っちゃう。素晴らしいですね。僕もそれやりたいなあ。
小塩君はね,女性だとまず「可愛い」から入って。
石元氏:
ああ,それはちょっとダメだなあ……。
(一同笑)
小塩氏:
ええっ! 何でダメなんですか!?
石元氏:
心がそっちに行っちゃうとダメなんですよ。相手が男でも女でも,プロフェッショナルは,同じモードじゃないと。
小塩氏:
さっき「心をオープンに」という話があったじゃないですか。僕の場合,その人に惚れ込んで,相手の良いところを出そうと思って。……なんか僕が苦しい言い訳をしているみたいになっていますが(笑)。とにかく,歌モノを作るときは,可愛い人に可愛い声で歌ってほしいんですよ。可愛い声といってもキャピキャピした声じゃなくて,曲に合った,曲がその歌い手さんらしいものになってくれればいいな,と。
石元氏:
その可愛い声の人は,どうやって見つけているんですか?
小塩氏:
今回でいえば,セールス的な狙いもあって(笑),「人気のある声優さんで」という条件が先にありましたね。
石元氏:
声優さんでも,歌の上手い人はなかなかいませんよね?
小塩氏:
今回の今井麻美さん(オリジナル曲「Pull The Trigger 〜マゼンタのテーマ〜」のボーカルを担当)は凄く上手かったです。活躍している声優さんは,皆さん歌い慣れていますね。今井さんも,1〜2テイク録った時点で「これでもういいんじゃないか?」と思ったくらいで。
石元氏:
ボーカルって,“セクシー”っていうのが大事だと思うんですよ,男でも女でも。どんなにギターなどの楽器が巧くても,ボーカルが「アァ〜」ってセクシーな声を出したほうが,聴いた人が惚れちゃうんですよ。僕は声フェチなんです。人と話していて,声のトーンが良いと「ああ……たまんない!」ってなっちゃう(笑)。
小塩氏:
その点でいえば,石元さんの作るゲーム音楽にボーカル曲が多い,ということにも繋がってくるのかなと思うんですが。
石元氏:
ボーカル曲はやっぱり声が大事ですね,曲がどんなに良くても。
小塩氏:
伴奏がギター1本のシンプルな曲でも,声が良ければ成り立ちますからね。
石元氏:
同じ歌を歌っても,声に魅力があって凄く気持ちの入る人じゃないと,伝わらないと思うんですよね。
「ミュージックガンガン!2」プロジェクトマネージャー しらぴー氏:
今回はあまり多くの予算がご用意できなかったので,元々はボーカルを入れる予定はなかったんです。ですが,石元さんから「どうしてもボーカルを入れたい。予算はそのままでいいから」といっていただいて。
石元氏:
あれも,うちの担当スタッフが「予算ないからボーカルは無理です」と話していたので,「タイトーの皆さんに会って,俺が直接気持ちを伝える!」といったんですよね。
小塩氏:
最初のミーティングの時に,石元さんの「本当に良いものを作りたい」という気持ちが強く伝わってきたんです。その後に僕らも「石元さんがあれだけいってくれているんだから,予算をもう少し工面しようか」と決めました。
石元氏:
人間の気持ちが変わるきっかけって,ちょっとしたことなんですよね。だから,あそこで僕が直接会わなかったら,ボーカルは入らないで終わっていたかもしれない。僕は,最大限「こういう形でいきたい」というのを説明して,それでダメだったらスパっと諦めます。
でも最終的にボーカル分の予算を出してもらえたことで,自分に「何か面白い曲にしなきゃいけないな」とうまくプレッシャーがかけられたと思います。人間の好き嫌いの気持ちって――こういうと語弊があるかもしれないけど――大した問題じゃないと思うんですよ。嫌われるよりも,「どうでもいい」というのが一番寂しいんで。僕の音楽を聴いた人に「お前の音楽,最悪だぞ」といわれても,「じゃあ,次にどうやって好きになってもらおうかな」ということを凄く考えます。
小塩氏:
僕は多分,2日くらい凹みます……(笑)。
石元氏:
買った人にはどんなことをいう権利もあるから,面と向かっていってもらいたいです。僕らの仕事って,やっぱり,批判も肯定も全部受け止めて,自分でやっていかないと。
小塩氏:
逆にいうと,八方美人で「どんな人にも気に入ってもらう曲」を考え出すと,作れないですよね。
石元氏:
それは作れないと思います。それができるなら,世界平和も楽々できますね。
「Dreamer」のキーワードは“レディー・カカ”!?
小塩氏:
音ゲーにピタリとハマった「Dreamer」ですけど,そもそも石元さんは,どういうところから曲作りを始められるんでしょうか。
石元氏:
曲を作るときは,先にテンポから決めますね。今の音楽って,ほとんどリズムでできているじゃないですか。だから,リズムを先に作ります。それが心地良くないと,やっぱりダメだと思うので。
僕はリズムから作るのは半分くらいですね。でも「ミューガン2」の曲は,やっぱりみんなリズムからですね。そもそも「Dreamer」は,打ち合わせの時から“某洋楽アーティスト”風という話がありましたよね。その路線を狙った理由はあるんでしょうか。
石元氏:
打合せでは“レディー・カカ”っていったんですよね。“ガ”にはなれないから,“カ”で(笑)。まあ,件のアーティストをとくに意識した,というわけでもないんですが。
小塩氏:
でも実際に「Dreamer」を聴いた上で,本家を聴いてみると,凄く共通点があるなと。どちらも本当にリズム隊,とくにベースラインが格好いいんです。僕にはなかなかこのリズム隊を作れないと思って。これ,どういう風に作ったんですか?
石元氏:
あ,そうですか? うーん,最初はフレーズを印象付けたいなと思いながら作り始めたんです。自分は“キャッチー”っていうのを大事にしたいんですよ。作った人のエゴだけで満足するっていうのは嫌なので,何か人を満足させたいと思うから,必然的に“キャッチー”になっちゃう。
小塩氏:
それは凄く大事なことだと思います。やはりゲームは人に楽しんでもらうためのものなので,音楽に関しても「気持ちいい」とか「格好いい」みたいに思ってもらわないといけないのかなと。
パッと聴いただけではなかなか分からないですけど,よく聴いてみるとボーカルが凄く凝っていますよね。たとえばAメロだと,いわゆるダブル(多重録音)なんですけど,それぞれ歌い方が違うんですよね。強く歌い上げるような歌い方と,また別のニュアンスの歌い方が,それぞれLとRで聴こえる。「凄いなあ」と思う一方で,「録るのはすごく大変そうだなあ」と。
石元氏:
ハーモニーが好きなんで,ハモリはいっぱい歌ってもらうんですよ。伴奏を一回止めて,ボーカルだけ聴こえるような状態で録るとか。歌っている曲自体は変わらなくても,ボーカルだけにすることで,歌い手さんも変わった印象を持つんですね。だから,わざとそういった手順で録ることもあります。
普通の人がボーカル曲を聴いたら,耳はどうしてもそっちにいくので,最初の印象の7割くらいはボーカルに依存しちゃう。だからこそボーカルはこだわりたいです。
小塩氏:
なるほど。では歌詞についてはどうでしょうか。今回「Dreamer」の歌詞は書かれたのは,石元さんですか?
石元氏:
歌詞は今回,僕じゃないんです。曲名についても。
小塩氏:
完全にお任せだったんでしょうか。例えば世界観などを指定するとかはありましたか?
石元氏:
あんまり口はださなかったですね。注文を出し過ぎちゃうと,混乱しちゃう人もいるので。
小塩氏:
まあ「ミューガン2」のオリジナル曲については,僕もプロデューサー達に歌詞を書いてもらったので,やっぱりお任せでしたけどね(笑)。「Dreamer」の歌詞を見て,アリカさんは同じ作詞を手がける身としてどう思いました?
アリカ氏:
専門ではないですけど(笑)。曲を聴いて,歌詞が入って……みんなで「泣きそう」っていっていた覚えがあります。最初に聴いたときには「震える」というか,「“レディー・カカ”,来た!」みたいな。
石元氏:
僕も歌詞は専門じゃないですが――どっちかというと「メロディーに歌詞がうまく乗っているかどうか」を気にしますね。歌詞だけ良くても,メロディーにちゃんと乗ってないといけないですから。そこだけですね,気にするのは。
小塩氏:
とくに面白かったのが,Bメロが普通のラインではなく,二重のラインになっているところなんですけど,あの部分は,最初にそういう指定をしていたんですか? それとも,歌詞が来て,曲に合わせてみた時に「クロスさせたほうが面白いかな」と?
石元氏:
ああ,後者です。歌を録ってから,けっこういじりましたね。
小塩氏:
私もけっこう思いつきで「ここ,ダブルにしてみようかな?」というのがあるので,そういう感じかなと思ったんです。
石元氏:
音楽を作っていると,「これ,どうすればいいんだろう?」と厄介な問題にぶつかることがあるじゃないですか。その時に,アイデアを考るのが凄く好きなんですよ。苦しいんだけど,凄い楽しいというか。周りには,投げ出しちゃう人とか,諦めてほかの人にやってもらう人とかもいるんだけど,「なんでそんな美味しいところを人に頼んじゃうんだろう」ともったいなく感じます。音楽で悩めるのは,凄く幸せなことだと思うんですよ。ましてや,それが仕事になっているなんて。
仕事だとどうしても作業的になっちゃって,音楽を作っている喜びを忘れちゃうことがある。でもそういう風に作った曲だと,聴いた人にもそれが伝わっちゃうと思うんですよね。
小塩氏:
惰性で作った音楽って,やっぱりダメですよね。とりあえず間に合わせるために作ると,やっぱり「イマイチだね」といわれることが多いです(笑)。「あーやっぱりな」って,自分でも何となく分かっちゃう。
4Gamer:
ちなみに,小塩さんから楽曲を発注される時,「こういう部分を重視してほしい」などの具体的なリクエストはありましたか?
小塩氏:
今回,石元さんも含めて何人かのアーティストさんに発注しているんですけど,その際には「こういうキャラで,格好いい雰囲気のゲームです」ということと,「音ゲーなので,リズムだけは分かりやすくしてください」という2点しか伝えていません。なぜかというと,アーティストさんに発注した時点で,その人の個性を期待しているわけですから。
もちろん僕が細かく指定することもできるんですけど,それなら極端な話,石元さんにお願いしなくても良いわけですよ。なので,条件としては「あなたらしい曲を作ってください」という形にしました。今回お願いしたアーティストさんの曲は,どれも音ゲーとして成り立ちつつ,ちゃんと個性が出ていたので「さすが!」と思いましたね。
「Twister」に込められた“問題児”の精神
小塩氏:
ではもう一方の「Twister」についてですけど,あれは凄く変わった曲だと思っているんです。2分くらいの曲ですけど,その中で3パターンくらい変わっていきますよね? 最初はヒップホップ的な曲調から始まって,シンセの綺麗なメロが入って,最後はアコースティックギターが入っていくという。どうしてこういった構成になったんでしょう?
あれは理屈にこだわらないで作りましたね。歌モノの場合,Aメロ→Bメロ→サビ→間奏→Aメロ……っていう構成が普通じゃないですか。自分の中でそれにこだわりたくないという思いがあったんです。「Twister」って「すばらしきこのせかい」というRPGの曲なんですけど,「“どういうのが良い”というのはとくにない」という注文だったので,「じゃあ,俺のやりたいようにやりますよ」と。
小塩氏:
そもそも,石元さんは普段はどんなゲームを遊ばれているんですか?
石元氏:
普段は,あんまり遊ぶ時間がなくて……やり始めるとハマっちゃうから,やらないんですよ。仕事では主にRPGの曲を作っているんですが,格闘ゲームとかのほうが“4コマ漫画的”というか,後を引かないのでよく遊んでいますね。
4Gamer:
“4コマ漫画的”というのは,プレイ時間が短いという意味ですか?
石元氏:
ええ。たとえば長いストーリーの漫画だと,次が読みたくなって,止めどころがないじゃないですか。4コマ漫画のようにパッと読めてパッと終わるゲームのほうが,時間を使わないので,よく遊びますね。
小塩氏:
それは良く分かります。僕も最近は,RPGは年に1本か2本やるくらいで。アーケードゲームは,基本的に1プレイが短いですよね。「ミュージックガンガン!2」も,1曲が1分半〜2分くらい,1コインで2曲遊べるので,トータルで5分程度です。
石元氏:
1曲くらい,4分くらいのものがあっても面白いと思うんですけどね。
小塩氏:
次回,入れてみましょうか(笑)。
石元氏:
あえてプレイヤーをバテさせる(笑)。ゲームを遊ぶ人って,結構そういうことにチャレンジしたがると思うんですよ。
小塩氏:
それはあるかもしれませんね。「ミュージックガンガン!」の譜面(ゲーム中でショットで撃つポイント)も,前作は僕もクリアできる難易度だったんですよ。ただ今作では,自分ではクリアできないような譜面――「とても難しい曲」をいくつか入れたんですよ。それでもロケテストですぐにクリアされちゃって。おそるべし,音ゲーマー!
4Gamer:
ロケテストでクリアされちゃうと,開発者としては悔しいでしょう。ということは,譜面は小塩さんが作られているわけですか。
小塩氏:
譜面の元になるパターンは私が作っています。それで大抵の曲は,さっき石元さんがおっしゃっていたように,Aメロ→Bメロ→サビ〜という歌謡曲の構造をしているので,定型に沿って作りやすいんですが,「Twister」は凄く苦労した覚えがあります。「これ,どういう風に撃たせたら一番気持ちいいのかな?」って。とても挑戦しがいのある曲でした。
石元氏:
「Twister」という単語には,スラングで“問題児”とか“クセ者”とか,そういう意味があって。曲名をつけるとき,開発に関わっている人全員,問題児っぽい人だったので(笑)。クセのある人間が多かったので,「じゃあ『Twister』で」と。
小塩氏:
あ,そういう意味だったんですか!
プロとアマの境界線が曖昧になっている
4Gamer:
さっきのお話で,小塩さんのボーカルを選ぶ基準は“可愛い声の人”とおっしゃっていましたね。では石元さんの基準はいかがですか?
石元氏:
「すばらしきこのせかい」の時は,ネットで探しましたね。ライブハウスとか,「MySpace」とかで音源をアップしている人を見つけて,連絡して。ネットだと顔も知らないし,可愛いかどうかもまったく分からないんだけど(笑)。声を聴いてから「こういうゲームがあるんですけどやってもらえませんか?」と依頼する形でした。
4Gamer:
ではプロの方はあえて使わない?
石元氏:
プロである程度名を知られている人を使うよりは,アマチュアで「これから」っていう人を使うほうが僕は好きなんです。だから,プロでギャラだけ高い人を使うよりは,アマチュアで「このゲームがきっかけで売れた」っていうことをやるほうが好きなんですね。そういう人にも,チャンスを与えたいじゃないですか。
4Gamer:
なるほど。
石元氏:
僕もスクエニで曲を作り始めたのはここ5〜6年のことですけど――そこで僕がチャンスをもらったから,ほかの人にもチャンスを与えたい。売れている人は,予算が凄くあるときに使えばいいので。「予算がないけど最大限面白いことをやる」っていうときには,アマチュアの人にお願いしています。
小塩氏:
僕もアマチュアの人とやりたいんですけど,なかなか難しいところもあって。まず僕らの責任として,ある程度のクオリティのものを上げないといけない。プロの人が相手なら,予算はともかくとして,少なくとも一定以上のクオリティは目に見えているじゃないですか。でも逆にアマチュアの方は,最近上手い人も多いとは思うんですけど,クオリティがなかなか読めない。
あと,もっと大変なのは「この人でいきます」と決めたときに,上の人に「えっ,この人で大丈夫なの?」といわれた場合――石元さんも経験されていると思うんですけど,そこはどうしているんですか?
石元氏:
僕は上の人に「大丈夫なの?」っていわれたことがないですね。僕がちゃんと責任持ってやるから,アマチュアの人に声をかけるときにはちゃんと自分で説明をしますね。「お金をもらう以上はプロだから,最後までやり遂げてください」と話をしますし,今まで何か事故が起きたこともないかな。
最近よく思うんですよ,「プロとアマの差って何なんだろう?」って。ギャラはもらっていないかもしれないけど,アマチュアで凄く良い曲を作る人もいるから。「曲を提供して買ってもらう」ということの違いは何なんだろう? と考える時があるんですよ。
小塩氏:
私もそれはよく考えています。本当にプロとアマの境界線はどんどん曖昧になっていて,今でいうと「ニコニコ動画」などからデビューしている人もたくさんいますし。
自分は,今の環境を最大限利用したいというか――せっかくこういう場所にいるんだから,最大限活用するべきなので。だから僕は「スクウェア・エニックス」というブランドにすがっているという気持ちはさらさらないんです。どんなに小さい会社でもいいんですよ,僕を雇ってくれれば。たまたま今の会社にいるけど,「だったら今の会社の,自分の立場を利用すればいいのか」と。利用したい,っていうとアレですけど。
小塩氏:
いや,分かりますよ。僕も「タイトー」っていうと大体の人は知っているので,「あ,タイトーさんの仕事ですか。是非!」みたいなことをいわれることはありますし。まあ僕自身はタイトーに入ってからあんまり長くないんだけど(笑)。
インディーズの人からしても,スクウェア・エニックスさんから声がかかるっていうと,テンションの上がり方が違うと思うんですね。それと,さっきの「事故が起きたことがない」っていうのは,石元さんが収録前に雑談して相手の心を開かせているのが良いのかなあ,と思いますね(笑)。
石元氏:
まあ,普段はバカな話ばっかりですけどね。会った人はたいていガッカリしますよ,「石元ってこんな奴だったんだ……」みたいに(笑)。
小塩氏:
いや僕も,Webなどのインタビューを読んで「石元さんってこんなにぶっちゃける人だったんだ」って思いましたよ。
石元氏:
せっかくインタビューを受ける機会があって,世に向けて話をできる場があるのに,そこで嘘をついてもしょうがないかなと。そこで「いい人」として作った話をしてしまうと,自分がしんどくなると思います。
小塩氏:
凄く分かります。サウンドの人に限った話ではないですが,いろんな人がもっと「いやあ,ぶっちゃけこんなことで苦労したんですよー」「これ,予算がなくて……」みたいに答えればいいのに(笑)。実はみんな,そういうことも知りたいし,逆に知れば知るほど,ゲームへの愛着が増すと思うんですよ。
「ミュージックガンガン!2」公式サイト
- 関連タイトル:
ミュージックガンガン!2
- この記事のURL:
(C)TAITO CORPORATION 2009,2010 ALL RIGHTS RESERVED.