レビュー
倍速駆動&スルーモードを備えた“ゲーマー向けディスプレイ”を試す
EIZO FORIS FX2301TV
中間フレームを生成&挿入する倍速駆動により,秒間120フレーム(≒120Hz)表示が可能になっているだけでなく,最小遅延を0.5フレームに抑える「スルーモード」の搭載が,4Gamer的には最大の見どころだ。ただそのほかにも,多彩な入力端子の装備,2chスピーカーユニットや,バーチャル5.1chサラウンド出力に対応したヘッドフォン出力端子の搭載,地上デジタルチューナー内蔵など,ゲームを中心に,すべてをこれでまかなえそうなスペックを持っているため,いろいろ気になっていた人は多いのではなかろうか。
今回は,ナナオから貸し出しを受けられたので,果たして本製品がゲーマーにとっての決定的な1台となるのかどうかを,ゲーム用途のみにフォーカスして検証していきたい。本稿では,静止画を表示したときの色再現性などはいっさいテストしないので,その点はあらかじめご承知おきを。
本体の質感はさすがの一言だが
サウンド機能とテレビ機能は人を選ぶ
FX2301TVが採用する液晶パネルはTNで,最大解像度は1920×1080ドット。表示色は約1677万色とされている。中間調の応答速度は3ms,最大輝度300cd/m2,コントラスト比1000:1(※コントラスト拡張機能有効時は2000:1)というのが,基本的なスペックだ。
本体サイズは547(W)×70(D)×441(H)mmで,付属のスタンドを取り付けたときには奥行きが275mm,高さが445mmとなる。
なお,サウンド入力端子があることからも分かるように,FX2301TVはスピーカーユニットを標準で搭載。スピーカーユニットのカバー「サウンドジャケット」のカラーで「フィーバーレッド」「ワンダーブラック」の2モデルが用意されているほか,色変更用のカバーも用意されている。スピーカーの出力は2W+2Wで,“安物の単体スピーカーユニットよりはかなりマシ”といった音を出すため,カジュアルに聞く分ならアリといったところだ。
また,本体向かって左下部にはヘッドフォン出力も用意されており,こちらはバーチャル5.1chサラウンドへの対応が謳われている。ナナオの製品情報ページには「業界初のドルビーデジタル・ドルビープロロジックII対応」(※原文ママ)とあるだけで,「どうやってバーチャルサラウンド機能を提供するのか」が少々分かりにくいが,ナナオに確認したところ,これは,FX2301TV内蔵のバーチャルサラウンド機能によって実現しているとのこと。要するに,Dolby Digital形式のビットストリームをHDMIで受けたときはデコードされてからFX2301TV独自のサラウンド処理がなされ,それ以外のマルチチャネルビットストリームは2chリニアPCM化を経て,2chのリニアPCMやアナログ信号はそのまま,それぞれDolby Pro Logic IIによるステレオ・トゥ・サラウンド処理が行われてから,やはり独自のサラウンド処理がなされるというわけである。
いずれにせよ,マイク入力がなく,ヘッドセットを取り付けられないので,ゲームプレイにおける用途は限られる。基本的にはシングルプレイを想定した機能という理解でいい。
リモコンで動作モードを一括変更可能なのは手軽
ただ,設定項目の多さと煩雑さが玉に瑕
さて,ゲーム用ディスプレイとしてのFX2301TVが持つ最大のポイントについて結論めいたことを先に述べるなら,それは「倍速モード」だろう。
FX2301TVにおける倍速モードは,いわゆる倍速駆動を含む,より広い概念だ。設定項目として「標準」「強調」「5-5/4-4」「遅延軽減」の4種が用意され,さらに「標準」と「強調」にはさらに「スムーズ再生[2-3/2-2]」「スムーズ再生[2-3]」「スムーズ再生[オフ]」という選択肢がサブメニューとして用意されているため,選択肢は都合8種類ということになる。
このうち,「標準」「強調」は,フレームとフレームの間を補間する“中間フレーム”を本体内蔵の映像エンジンが推測・生成して挿入することで,最終的に表示されるフレームを元の2倍にするモードだ。60fps(60Hz)表示のゲームタイトルに適用すれば,120fps(120Hz)動作が得られる。
元映像にない中間フレームを,ある意味では“勝手に”生成することになるため,倍速駆動はノイズの原因となる可能性を否定できない。そこで,ノイズの発生を抑えられる「標準」と,多少のノイズに目をつぶる代わりに,より滑らかな映像を得られる「強調」の2つが用意されているのだ。
ちなみに,「標準」「強調」のサブメニューとして用意されている「スムーズ再生」の[2-3]とか[2-2]というのは,「プルダウン処理」と呼ばれるものの設定項目。30fps(30Hz)や24fps(24Hz)の映像が60fpsでプルダウン表示されるときに,破綻のないよう補間処理を行うものだと考えていい。「スムーズ再生」をオフにすると,映像ソースの元フレーム数は意識せず,単純に中間フレームを1コマ単位で挿入する動作になる。
メインメニューに戻ると,「5-5/4-4」は,24fpsソースが2-3プルダウン処理されたものを表示するにあたって補間フレームを生成せず,同一フレームを繰り返し表示することで,元々のソースにできる限り忠実な映像再生を行おうというもの。純然たるビデオ鑑賞用で,ゲーム用途で使うことはまずない。
「遅延軽減」も補間フレームが生成されないという点では「5-5/4-4」と同じだが,単純に,直前のフレームと同じ画を再度表示するだけである。
映像の表示遅延は,最小で0.5フレームに抑えられるという。
ゲーム機をHDMIで接続する場合は,まず「設定メニュー」→「画面調整」→「接続機器」と進んで,項目を「DVD/ビデオ」に設定したあと,「設定メニュー」→「カラー調整」→「詳細設定」→「倍速モード切換」で好みのモードを選んでやればいい。すぐ上でスルーモードの話をしているが,スルーモードの有効化を行いたい場合は,リモコンの[スルー]ボタンを押せば,映像エンジン側の処理が無効化されるのと引き替えに,表示遅延を短くできる(※スルーモードを有効にすると,倍速モードは自動的に「遅延軽減」へと切り替わる)。
PCとDVI-DやD-Sub 15ピンで接続する場合は,「設定メニュー」→「画面調整」→「倍速駆動」で「オン」または「オフ」を選ぶ。「オフ」ならそこで設定完了。「オン」を選んだ場合は,ゲーム機の接続時と同じように「倍速モード」を選択すれば完了だ。
HDMI接続時だと,最初に「設定メニュー」→「画面調整」→「接続機器」を「PC」にする必要があるものの,それ以降はDVI-D&D-Sub 15ピン接続時と同じ。
機能が豊富であることそれ自体はありがたいだけに,もうひと配慮ほしかったところだ。
60fps以下で動作し,かつ動きがおとなしい
ゲームでは,倍速駆動の効果アリ
多機能ゆえ,ゲームと直接影響ない部分をカットしてもだいぶ長くなってしまったが,ここからは,先に4Gamerで購入したLG Electronics製のリアル120Hz駆動ディスプレイ「W2363D-PF」(以下,W2363D)と比較しながら,FX2301TVの実力に迫ってみよう。テスト環境は表のとおりだ。
今回は先に結論から書くが,フレームレートが60fpsかそれ以下の映像を表示させる環境下では,映像の補間が有効なFX2301TVのほうが,より滑らかな映像を得られる。PCゲームで,平均フレームレートが60fpsを超えない条件や,Xbox 360のようなコンシューマゲーム機を接続した場合,あるいは一般的な映像ソフトを再生するときというか,多くの場合でFX2301TVに軍配が上がるというわけだ。
W2363Dが優位性を発揮するのは,あくまでもPC接続時,かつ平均フレームレートが120Hzに近づくときだけで,それ以外では一般的な液晶と変わらない挙動になる。
ただ,いま挙げた条件なら,FX2301TVを使うと,すべての映像が滑らかになる――というわけでもなかったりする。画面の動き方によっては,ほとんど効果を体感できなかったりすることもあるのだ。
今回試したなかで,補間フレームの挿入による倍速駆動の効果を最もよく体感できたのは,Xbox 360をHDMI接続して「ライオットアクト 2」のデモ版をプレイしたときだった。下に示したのは,240fpsで録画してスロー再生させたものだが,「倍速モード」で「強調」→「スムーズ再生[2-3/2-2]」に設定すると,画面内のオブジェクトや背景の動きがはっきり分かるほど滑らかになっている。
また,30fpsで動作する「ソニックワールドアドベンチャー」のデモ版で,リアビューで画面奥に向かって進んでみると,遠景や,コースに落ちているリングのような,大きくゆっくり動くオブジェクトにおいて,補間処理の効果は高い。しかし,カメラがめまぐるしく動くようなシーンではそれほど効果が感じられなかった。
Xbox 360版の「Colin McRae: DiRT 2」でも同様で,直線の多いコースだと遠景の滑らかさが感じられる一方,コーナーが多いコースだとほとんど体感できず。ライオットアクト 2で効果がとくに感じられたのは,全体的に画面の動きがおとなしかったのが理由と考えられそうだ。
ただ,あくまでも倍速駆動なので,フレームレートが60fpsを超える映像が相手になると,リアル120Hz駆動のW2363Dに敵わなくなる。とくにPCゲームの場合,コンシューマゲームと異なり,フレームレートが青天井のタイトルが多いため,そういった場合には分が悪い。
一例として,今回のテスト環境では平均125fpsで動作する「QUAKE LIVE」を用意して,FX2301TVとW2363Dそれぞれでリフレッシュレートを上限の60Hz,120Hzに設定のうえ,レポートレート1000Hzに設定したマウスでプレイしてみると,FX2301TVの視点移動はW2363Dよりガクガクした印象になる。いや,正確を期せば,W2363Dが圧倒的に滑らかすぎる。
狭い範囲で円を描くようにマウスをグリグリ動かしたときなどはFX2301TVも悪くないと感じられるのだが,いかんせん状況が限定されすぎていて,(60fps以上で動作する映像を前にすると)オールラウンドで滑らかなW2363Dには及ばない。
また,QUAKE LIVEで,プラズマガンのような,高速連射する武器を撃った時の弾道や,フリーの音楽ゲームである「Lunatic Rave」スターターパックに付属するBPM180の曲をHISPEED 400%設定にしてプレイしたときに見られるキーノート落下の様子を●で示すなら,FX2301TVが「● ● ● ● ●」だとすれば,W2363D-PFは「●●●●●●●●」という具合で,かなりの差が感じられる。
倍速駆動による補間表示は,対象となるソースが多いという魅力があるものの,ゲームにおいて期待どおりのメリットが得られるかというと,相応に限定的であるということは押さえておくべきだろう。
「スルーモード」の表示遅延もチェック
遅延はわずかにあるが,体感レベルではない
クローンモード表示だと測定誤差が生じる可能性があるため,今回は,ATI Radeon HD 2900 Proカードが持つDVI-Iインタフェースの片方から出力し,4Gamerで独自に用意したサンワサプライ製のDVIスプリッタ「VGA-DVSP2」から2台のディスプレイへ分配することにした。VGA-DVSP2は,接続インタフェースこそDual Link仕様なのだが,120Hz表示には対応していないため,今回は60Hz同士でFX2301TVとW2363Dを比べることになる。
なお,LCD Delay Checkerの使用要件に合わせ,垂直同期は強制的に有効化しつつ,FX2301TVは「倍速モード」を「強調」あるいは「倍速モード」を「無効」とした状態,W2363Dは「THRU MODE」を「オン」にしてテストすることを,あらかじめお断りしておきたい。また,ムービーは先ほどと同様,240fpsで録画し,スロー再生させている。
正直なところ,普通にゲームをプレイするレベルだと,違いを体感できるほどの違いはなかったのだが,ハイスピードカメラを用いて比較してみると,ごくわずかながらFX2301TVのほうが遅延は大きいといえる結果になった。
では,遅延を最小0.5フレームまで抑えるとされるスルーモードならどうか。前述のとおり,スルーモードは「PC」接続時だと利用できないため,今回はFX2301TVのHDMI端子にDVI−HDMI変換アダプタを接続し,FX2301TV側の接続設定を「DVD/ビデオ」に指定したうえで,スルーモードを有効化して,先ほどと同じようにスプリッタ経由のテストを行ってみた。下に示したムービー3点と写真1点がその結果だ。
スルーモードを有効にした状態であらためて比較すると,先ほどより明らかに遅延が減少しているのが分かる。倍速駆動を無効にしただけのときよりも0.5フレーム速くなる印象だ。
それでもW2363Dに半歩及ばずという事実は残るものの,スルーモードにより,FX2301TVの表示遅延を短縮できるのは間違いない。
PCオンリーではなく,さまざまに使いたい人向け
一部機能を省略した,より安価なモデルにも期待
しかし,競技性の高いPCゲームをプレイしようとすると,特化型のディスプレイと比べて見劣りする部分も見られた。そのため,FX2301TVの半値以下で手に入るW2363Dを差し置いて購入するほどの価値はない,といった感じである。
その意味でFX2301TVは,競技性の高いゲームを除く,かなり多くの部分をカバーできる製品だといえるだろう。自分が普段,ディスプレイに何を求めているかを考え,それと合致するなら,FX2301TVはアリだ。
ただ,ヘビーにゲームをプレイすることを考えると,テレビ機能とスピーカーユニット,ヘッドフォン出力は不要なようにも思う。できることならこれらを廃した,より安価なモデルも見てみたい。
ライオットアクト 2
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Lunatic Rave
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