レビュー
ファンタジー叙事詩“Amalur”の初作品は骨太のアクションRPG
Kingdoms of Amalur: Reckoning
「Kingdoms of Amalur: Reckoning」(以下,KoA)は,北米の38 Studios傘下にあるBig Huge Gamesが開発した,シングルプレイ用RPGである。海外では2012年2月7日にWindows PC,PlayStation 3,Xbox 360版が発売されたタイトルで,Electronic Artsがパブリッシングを担当している。
38 Studiosは,コアゲーマーとしても知られている元大リーグ投手,カート・シリング氏が設立したデベロッパだ。KoAの開発には,「The Elder Scrolls」シリーズのメインスタッフなど豪華メンバーが携わっており,シナリオはファンタジー界の巨匠R.A.サルバトーレ氏が手がけている。「Kingdoms of Amalur: Reckoning」は原作や前作などが一切存在しない,新規IPのタイトルであり,壮大な叙事詩“Amalur”の初作品という位置づけになる。
KoAのゲームジャンルは,オープンワールド型のアクションRPGである。最近のシングルプレイ用RPGといえば,「The Elder Scrolls: Skyrim」のインパクトが大きかったが,あちらと比べるとKoAはリアリティを若干抑え目にし,そのぶんアクションの面白さを深く追求した作りとなっている。操作システムやインタフェースなど,どちらかというとコンシューマを意識したデザインだが,世界の作り込みは良質のMMORPGにも通じるものがある。
KoAのアクションについて詳しく見ていこう。マイキャラが装備できる武器の種類が多く,それぞれに違った持ち味がある。近接系の「片手剣」「ダガー」「両手剣」「ハンマー」「Fae Blade」や,中〜遠距離系の「杖」「弓」「チャクラム」「セプター」など,さまざまなタイプが用意されている。プレイヤーキャラクターはこれらの中から同時に2種類の武器を装備でき,戦士や魔法使いといったクラスに関係なく,近距離から遠距離までまんべんなく戦える。
使用武器によってモーションが大きく違っており,例えばダガーは素早く斬りかかり,敵の出鼻をくじくような戦い方と得意とする。一方,両手剣による重い一撃は,波に乗れば強烈なダメージを立て続けに繰り出せる。キャラクターを成長させていくと,武器固有のアクティブ/パッシブスキルや,“ムーブ”と呼ばれるコンボ技を次々と習得していく。
攻撃以外にも,ダッシュ(Ctrlキー)や緊急回避用の回転(Spaceバー),そして忍び足(Cキー)など,キャラクターのアクションが多く用意されているのがおもしろい。なかでもとくに重宝するのが,“盾”によるガード(Shiftキー)だ。KoAのガードは非常に堅固で,雑魚モンスターからの攻撃なら,向きに関係なくほとんどノーダメージで済む。しかも,敵からの攻撃を受ける寸前のガードに成功すると,敵を強く押し返すとともに“スローモーション処理”が始まり,これは反撃の貴重なチャンスとなる。
詳しくは後述するが,マイキャラのクラスはプレイ中に変えられる。そのため,戦局に応じて自分なりのキャラクターを育成し,戦術を組み立てていくプロセスが非常に面白いのだ。
それでいて,ゲームが決して難しくなりすぎていないところも良い。例えば攻撃時は,敵との位置に応じて向きをある程度補正してくれるため,ゲームパッドの操作でも不都合はない。難度をカジュアルに設定すれば,“無双系”とまではいかなくても,ボタンを連打するようなプレイスタイルで先に進めるだろう。
KoAは38 Studioにとって初のタイトル。新規IPということもあり,日本での注目度はそれほど高くないが,アクションRPG好きは要注目だ |
オープンワールドと呼ぶに相応しい広さと緻密さを兼ね備えた世界。まるでMMORPGの世界を独り占めするかのようなプレイ感覚だ |
武器の使い分けがとくに楽しい。育成システムやコンボアクションにも工夫がこらされている |
武器の種類が多く,それぞれにしっかりと個性がある。アクティブ/パッシブスキルや,プレイヤー操作によるコンボなどを使い分けていく |
近接戦を得意とするMight系のクラスでも,サブウェポンにチャクラムなどの遠距離武器を装備することで,幅広い局面に対応できるようになる |
攻撃時のモーション中にダメージを受けると,動作がキャンセルされる。プレイヤーキャラクターも同様なので,ザコ相手でも多数になると侮れない |
アクティブスキルは,ナンバーキーでスキルを選択してから,右クリックで使用。ツリーのポイント配分によっては,これらのスキルを中心に戦うプレイスタイルも実用的だ |
地形のデザインがよく出来てるため,新たなエリアを冒険すること自体が面白い。トレジャーハントにも精が出るというものだ |
初めて遭遇した敵と戦う際は,とりあえず盾によるガードで様子を見るべし。モーションのクセを見極め,反撃のチャンスを見計らおう |
ゲージを溜めることで繰り出せる必殺技「Reckoning Mode」。豪快なフィニッシュコンボが決められる |
クラスに縛られず自由なキャラクター育成が可能
次に,キャラクターの育成システムを見ていこう。KoAは育成の“やり直し”が行いやすく,さまざまな武器やスキルを手軽に試せる点だ。
プレイヤーキャラクターはレベルアップによってスキルポイントを獲得し,それを“Might”(力),“Finesse”(敏捷),“Sorcery”(魔術)という3種類のツリーに割り振っていく。こうして各ツリーに含まれたアクティブ/パッシブスキルを習得していくが,それとは別に,ツリーに合計で何ポイントを割り振ったかによって,「Destiny」と呼ばれるクラスのようなものを選べるようになる。
Destinyについて具体例で説明しよう。Mightにスキルポイントを極振りしていくと,「Brawler」→「Fighter」→「Soldier」といったDestinyが新たに選択できるようになり,これによって攻撃力や耐久力などのボーナスを得られる。つまり,さらに近接戦闘に特化したキャラクターへと仕上がっていくわけだ。
なお,Finesse系のDestinyは「Scout」→「Hunter」→「Ranger」,Sorcery系は「Acolyte」→「Initiate」→「Seer」といった具合だ。また,複数のツリーにポイントを割り振ることで,ハイブリッドなDestinyの選択も可能となっている。こういったDestinyの合計は40種類に上る。
普通のRPGの場合だと,最初にクラスを選択して,その方向性に沿ったスキルを習得していくというケースが多いだろう。その点KoAは,先にスキルポイントを割り振ることで,クラス(Destiny)の条件を満たしていくわけで,順番が逆転しているのがユニークだ。ちなみに,ゲームを進めながら自分のDestiny(=運命)を切り開いていくというコンセプトは,ストーリー上の重要テーマにもなっている。
拠点エリアでは,スキルポイントをリセットして,再割り振りすることも可能だ。例えば冒険中に優れた武器を手に入れた際は,これを使いこなすためにクラスやスキルを覚え直す,といったことも手軽に行える。クラスをMight系からSorcery系に変えたりすると,ゲーム全体のプレイフィールが劇的に変わる。
育成システムとしては,このほかに“非戦闘用”ともいうべきパッシブスキル群も習得していける。鍛冶,忍び足,鍵開け,宝探し,交渉術などといったスキルジャンルが計9種類あり,これらのスキルも再割り振りが可能だ。
KoAのキャラクター育成は,コアなRPGファンでも満足のいくボリュームである。むしろボリュームが大きすぎて,若干戸惑ってしまう人もいるかもしれない。最初はMight/Finesse/Sorceryのそれぞれに極振りして,自分に向いた武器を探してみるのがよいだろう。
KoAのクラスシステムはよくまとまっており,しかもやり直しが行いやすい。クラスに縛られず,自分のDestinyを切り開こう |
ツリーを大別すると「Might」「Finesse」「Sorcery」の3系統がある。これらにポイントを振ることで,アクティブ/パッシブスキルを会得していく |
KoAでは各ツリーに合計で何ポイントを割り振ったかが重要。その値に応じて「Destiny」がアンロックされていく |
ツリーに割り振った合計ポイント数は,武具の装備条件にも関わってくる。例えばMightを重点的に伸ばすと,鎧も自然と重装備になっていく |
戦闘用のアクティブ/パッシブスキルは,特定の武器に依存するものも。Might系のキャラクターは,剣やハンマーなどのさらなる力を引き出せるようになる |
キー入力によって繰り出すコンボ技“ムーブ”も,武器ごとに別々のものが用意されている。キャラクターだけでなく,プレイヤー自身の熟達も必要だ |
非戦闘系パッシブスキルの一覧。レベルが上がるたびに1ポイント獲得し,集中的に割り振っていけば,ゲームの進め方にそれなりに大きな影響を及ぼす |
モンスターの背後から忍び足で接近しているところ。頭上に探知の度合いを示すゲージが示されており,これが満タンになる前にバッサリといきたい |
宝探しのスキルを上げると,フィールドなどに隠されたアイテムを頻繁に発見できるように。気が付いたら,クエスト関係なしにどんどん足を進めてしまうことも |
ポーションなどのアイテムを生産したり,武具のソケットにジェムをはめこんだりと,戦闘以外の成長システムもふんだんにある |
オープンワールドでの冒険を存分に満喫
R.A.サルバトーレ氏によって紡がれる世界“Amalur”は,1万年もの長きにわたる壮大な叙事詩である。本作「Kingdoms of Amalur: Reckoning」は,全10期に大きく分けられた時代の第6期“Age of Arcana”にあたり,マイキャラは“Faeland”と呼ばれる一地方にて冒険を繰り広げていく。
冒頭部のストーリーをざっくりと紹介すると,プレイヤーキャラクターは半ば死んだ状態で幕を開けるものの,ノームの蘇生装置が奇跡的に作動したことで,九死に一生を得る。しかし以前の記憶をほとんど失っており,断片的な記憶をもとに,己が何者なのかを探し求めていくことになるのだ。その過程において,Faelandの勢力間における戦乱に否応なく巻き込まれてしまう。
ゲーム内におけるFaelandは,広大なフィールドの中に拠点エリアや,数多のダンジョンが存在している。グラフィクスのクオリティは,現状のシングルプレイ用RPG最高峰「Skyrim」や「Witcher 2」などと比べると少々見劣りする。だが個人的には「The Lord of the Rings Online」「Rift」あたりのMMORPGを彷彿させられ,この世界を独り占めできるのだという贅沢な気分が味わえた。
KoAでは新天地を発見するだけでも経験値が得られ,各地に点在する宝箱などから,高品質なマジックアイテムが比較的手軽に入手できる。メインクエストを気にせずに世界を適当に冒険し,トレジャーハントに勤しむだけでも結構楽しめる。
各クエストを行う際は,次の目的地がマーカーで示されるので,英語が分からなくてもゲームプレイ上に大きな支障はないはず。“オープンワールド”とはいっても,何でもできるほどの広さはなく,ゲームの目的を見失わない。メインクエストだけを駆け足で進めたところ,クリアまでに要した時間は25時間前後といったところだった。
もちろんメインクエスト以外にも,膨大な数のサブクエストや,勢力ごとのFaction Questが用意されており,コンプリートとなると一体どれだけのボリュームがあるのか想像もつかない。道中で見かけたダンジョンなどを逐次探索していると,正直キリがないと思えてしまうほどである。ゲームのボリュームに関しては満点といってもいいだろう。
日本語版は今のところ予定されていないが,NPCとの会話時は一応字幕が表示され,そのテキスト量も極端に長くはない |
Faelandの全体図。西にある森林地帯からスタートし,ストーリーを進めるにつれ東,そして南へと冒険エリアが広がっていく |
詳細マップを振り返ると,まだ攻略していないダンジョンなどが次から次へと見つかる。この世界を踏破するには相当な時間がかかりそうだ |
メインストーリーは基本的に一本道。英語版だが,仮に会話を読み飛ばしてもゲームプレイ上,行き詰ったりはしないだろう |
一度訪れた拠点エリアへは,ショートカットで瞬時に移動できる。マップは広大だが,それがストレスに結びつくことはなかった |
ダンジョンの数がとにかく多い。モンスターが適度にリポップするので,クラスや武器などを換えつつ繰り返し挑戦したい |
エリアによって景観も大きく変わる。テクスチャのクオリティは最新世代とは言いがたいが,エフェクトがとても美しく,動かすとサマになる |
ストーリーベースのRPGだが,それをあまり気にせず,自由気ままに冒険するのも悪くない |
マジックアイテムの種類が豊富で,しかも入手難度はそれほど高くない。マイキャラ用の倉庫もあり,クラスごとの装備をきっちり揃えたくなる |
キャラクター作成時は4種類の中から種族を選べる。キャラクターメイクに関してはあまり触れていないが,いわゆるコテコテの洋ゲー系だ |
アクションRPGのファンに胸を張っておすすめできる一作
開発陣にビッグネームが揃っていることで,海外では話題が先行しがちなタイトルではあったが,個人的には想像していた以上にゲームとして楽しめる作品だった。最初は突出した部分が少ないとも感じていたのだが,それはおそらく「Skyrim」を体験した直後だったからというのもあるだろう。
最も気に入ったのは,やはりアクションの出来の良さだ。開発者が元TES系ということだが,コンシューマ機で遊べるシングルプレイ用RPGとしては,かなり完成度が高い。
ただ,インタフェースが全体的にコンシューマ向けに最適化されており,PCゲーマーとしては若干の物足りなさもあった。例えば画面描画に関するオプション項目が少なかったり,新たに入手したアイテムにマウスカーソルを当てても現装備との比較値が表示されなかったりなど,細かい部分が少し気になるのだ。アクティブスキルは,キーボード操作ならナンバーキー押下で直接使用できたほうが操作しやすかっただろう。不満という程ではないが,これも少々気になった部分である。
大きな不満としては,原稿執筆時点において日本国内からのダウンロードが行えないのが残念だ。「Steam」や「Origin」(Electronic Artsのオンラインポータル)を通じての製品版ダウンロードどころか,デモ版を試すことすらできず,基本的にパッケージを購入しないと遊ぶことができないのだ。こういった販売規制は本作のみならず,最近の海外発売タイトルでは往々にしてある話で,さまざまな大人の事情があるのも想像できる。だが,日本語版の予定がないなら英語版で構わないから普通に遊ばせてほしいなぁ……。
そんなわけで,日本で遊ぶには少々ハードルが高いものの,この「Kingdoms of Amalur: Reckoning」は声を大にしておすすめできるアクションRPGである。近年の欧米産RPGは良作が次から次へと登場しているが,本作もそれらに負けてはいない。本作を皮切りとした“Amalur”という骨太ファンタジーの新シリーズが登場したというのも,歓迎したい話だ。興味を持った人はぜひチャレンジしてみてほしい。
「Kingdoms of Amalur: Reckoning」公式サイト
- 関連タイトル:
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- 関連タイトル:
キングダムズ オブ アマラー:レコニング
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