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感動の最終回スペシャル! 「放課後ライトノベル」第139回は,これまで紹介できなかった12作品をまとめてピックアップします
突然だが,本連載「放課後ライトノベル」は今回で最終回となる。139回という,絶妙に中途半端な回数での連載終了。新宿エンドもびっくりの超展開だが,そういうことなのでしょうがない。これまで多くの読者に支えられ,3年近くにわたって続いてきた連載が終わる背景には,「コンボイの謎」なみに深い謎があり,それだけで賢明な読者諸氏には,決してネタが尽きたというわけではないことが十分にお分かりいただけることと思う。
第138回までに紹介した作品の数,実に147。初代ポケモンの151にわずかに及ばない程度である。すげえ! もっとも,毎年膨大な数が刊行されているライトノベルにおいて,147という数字は決して多いわけではない。連載の中で紹介したくてもできなかった作品は,ほかにいくつもある。
ということで最終回の今回は,これまでの連載で紹介しきれなかった作品の中から,筆者たちが独断と偏見で選んだ12作を紹介する。「明らかに紹介するタイミングを逃したな……」というものから,ライター陣の趣味丸出しのものまで,実に無秩序なラインナップとなっているが……最後かもしれないだろ。だから,全部紹介しておきたいんだ。(※編注:最後です)
そんなわけで,これまで以上に大目に見ていただきつつ,本文へと突撃していただきたい。チャララララララララチャララララララララ(BGM:ビッグブリッヂの死闘)。
●ソードアート・オンライン
仮想空間+MMORPGという,現代とファンタジーをうまくミックスした設定が秀逸だが,作品の見どころはなんといっても主人公・キリト。当人の努力もあるとはいえ,ほかのキャラクターを寄せ付けない強さで強敵を次々に撃破,ついでに美少女たちとのフラグも立てまくる。
シリーズは第1章の「アインクラッド編」から始まり,さまざまな仮想世界を渡り歩きながら続いているが,その強さはほかのゲームでも変わらず。お前は雷神シドか。
元はWeb上で連載され,人気を博していた作品だが,著者が『アクセル・ワールド』でデビューしたのをきっかけに書籍化。書籍版も当初よりヒットしていたが,アニメ化で大爆発し,一躍現在のライトノベルシーンを代表する作品となった。紹介しようと思ったときには,もはや今さら感が強すぎ……。(宇佐見)
●境界線上のホライゾン
第134回で紹介した『連射王』の川上稔による,好評続刊中の人気シリーズ。本当ならばアニメ化のタイミングに合わせて紹介する予定だったのだが,我々の読書スピードと原稿の掲載日時などの都合で,泣く泣く見送りとなった。だって,4桁近いページの小説を2日で読んで紹介記事を書くとか,物理的に無理に決まってるじゃないですかー。
それはさておき,最新巻にあたる5巻の下では,主人公の葵(あおい)・トーリが所属する武蔵アリアダスト教導院の面々が,戦争もいいけど学校行事もね,ということで修学旅行へと行くお話……だが,当然それだけで終わるはずもなく龍との戦闘に突入。ところで,この表紙の女の子は新キャラなのかなー,可愛いなー,気になるなー(棒)。(柿崎)
●ベン・トー
半額弁当を奪い合って少年少女たちが肉弾戦を繰り広げる,という設定からしてシュールだが,それに負けず劣らずのギャグと小ネタがちりばめられた異色のアクションものだ。
2011年に放映されたTVアニメでは,「弁当作画監督」という専用の役職を作ったり,「主人公がセガ信者」「作中にカロリーメイト等が登場」という原作の設定を忠実に反映させるため,セガと大塚製薬の公認を取り付けたりと,斜め上の方向にやたらと気合が入っていた。
ちなみに半額弁当を買うときは,半額シールが貼られていることをちゃんと確認しないと,間違ってシールなしの弁当をレジに持って行ってしまい,レジで気づくも「すいません間違えました」のひと言が言えずに定価で買ってしまうことがしばしばあるので注意だ!(実話)(宇佐見)
●憑物語
というわけで,ちょっぴり変態で心優しい高校生・阿良々木暦(あららぎこよみ)と,怪異に取りつかれた女の子たちが,トラブルに巻き込まれたり,キャッキャウフフな会話を繰り広げたりする人気シリーズ。
最新巻では受験を直前に控え,勉強に励んだり,妹とジャレたりする阿良々木暦だったが,身体が鏡に写らないというハプニングが発生。しかも,これまで彼の身に起こっていた吸血鬼化とはどうも様子が違う。その原因を探るため,以前世話になった怪異の専門家・影縫余弦(かげぬいよづる)に相談に行くが……。
物語シリーズもついにファイナルシーズンへと突入。これまでは周りの女の子たちを助けてばかりだったが,今回怪異に憑かれたのは阿良々木暦本人。はたして彼の運命やいかに!
ヒロインたちの身辺整理もあらかた片が付き,いよいよ本当に終わりが見えてきた物語シリーズ。次作が『終物語』,次々作が『続終物語』と作者も終わらせる気満々だ! ただ,今後も物語シリーズをすべてアニメ化するという話もあるし,スピンオフはいくらでも作れそうだし,これで本当に終わるのかしら……。まあ極端な話,阿良々木くんとヒロインたちが会話するだけで十分面白いので,続いてくれても一向に構いませんが。(柿崎)
●野﨑まど劇場
その内容はといえば,とにかく「カオス」のひと言に尽きる。冒頭の「Gunfight at the Deadman city」からしてタイポグラフィばりばりの実験小説的な作品(でも中身は西部劇)だし,合間合間に挟まれるイラストがなんとも言えない味わいを醸し出している「苛烈!ラーメン戦争」(2本立て)など,ビジュアルを使った仕掛けのある作品も少なくない。
作品内容自体も,いまだかつてない斬新なバスジャックが町を恐怖(?)のどん底に陥れる「バスジャック」や,某国民的アイドルをリスペクト(ただし公演はすべて密室内で行われる)した「MST48」,レ●ツ&ゴーやベ●ブレードやカブ●ボーグのような男児向けホビーアニメのテイストに,よりにもよって「鷹狩り」を合体させてしまった「爆鷹! TKGR」など,どれも奇想天外なものばかり。果てはカバー裏や裏表紙にまで余すところなくネタが詰め込まれている。変わったもの好きなら間違いなく,読んで損はない一作だ。(宇佐見)
●ヒカルが地球にいたころ……
だが,ヒカルは幽霊となって是光に憑依し,自分に代わって心残りとなっている少女たちとの約束を果たしてほしいと告げる。是光はヒカルを成仏させるため,しぶしぶながらもその依頼を承諾。だがヤンキーキングと名を馳せる是光にとって,その依頼を果たすのは並大抵のことではなく――。
第9回で紹介した「文学少女シリーズ」のコンビが手掛ける新シリーズ。「源氏物語」を題材にとっており,多くの登場人物の名前がそこに由来するほか,各巻のタイトルも“葵”“夕顔”など,「源氏物語」の各帖(と,その巻でフィーチャーされるヒロイン)の名前からとられている。ヒカルの死の謎や,愛憎渦巻く人間模様など重くシリアスな要素も多いが,見た目は怖くとも人情には厚い是光が,いざというときに見せる男気や,ヒカルとの奇妙な友情は,そうした重苦しさを吹き飛ばして余りある。
少女たちの悩みを一人ひとり丁寧に解決しつつ,物語はじわじわとヒカルの持つ秘密に迫っており,まさに佳境。筆者としてはとりあえず,前作のとあるキャラを髣髴とさせる式部帆夏(しきぶほのか)には,ぜひ幸せな結末を迎えていただきたい。(宇佐見)
●ミスマルカ興国物語
だが,表紙を見れば買い間違えることは100%ないことがお分かりいただけるだろう。シリーズ初の外伝となる今巻で描かれるのは,帝都を騒がす謎の怪盗事件。夜な夜な貴族を襲撃し,その富を貧しい人々に分け与えている怪盗――その姿は,深紅の仮面を身に着け……それ以外は何も身に着けていなかった! このまま帝都は謎の怪人に蹂躙されてしまうのか!? 前代未聞の災厄を前に,預言者の神託が下る! その内容は「その者、全ての衣を纏わず暗黒の帝都に降り立つべし――」。
そんなわけで,かつて本編に電撃的に登場し,読者に強烈なインパクトを残した伝説の「自由の騎士ゼンラーマン」をフィーチャーしたのがこの外伝。これに関してはもう,「カバーに惹かれたならば読め」としか言いようがない。あなたの期待が裏切られることはまずないであろう。ライトノベル広しといえど,カバーに男が全裸で堂々と描かれた作品は空前絶後だろうなあ……と思ってたら,最近こんなのが出てた。世界は広いわ。(宇佐見)
●機龍警察
現行機をはるかに凌駕する性能を持ち,機甲兵装に対する切り札といえる3機の龍機兵だが,特捜部はその出自ゆえに警察内で疎まれており,臨機応変な運用は極めて困難。組織内の足並みが一向に揃わない中,無慈悲な犯罪者たちは,容赦なく人々の命を奪っていく――。
非ライトノベルレーベルから刊行された作品だが,いまだ詳細がブラックボックスに包まれている,特殊コードによって形態が変化しパワーアップする,などの特徴を持つ龍機兵は,ロボットアニメのメカそのもの。当然,機甲兵装同士のアクションシーンもふんだんに盛り込まれており,ライトノベル読者も十分に楽しめるはずだ。
もっとも本作は,そうしたアニメ的なエンタメ要素を取り入れつつも,警察組織内の熾烈な駆け引きや軋轢を描く,骨太の警察小説でもある。主要人物はいずれも渋い大人たち。「中高生が主人公のライトノベルはまぶしすぎてもう読めねえぜ……」という人にお勧めしたい。
なお,著者はもともと「NOIR」などのアニメを手掛けた脚本家で,この『機龍警察』で小説家デビュー。デビュー作にしてすでに各方面で高い評価を受けており,シリーズ第2作『機龍警察 自爆条項』が日本SF大賞を,第3作『機龍警察 暗黒市場』が吉川英治文学新人賞をそれぞれ受賞した。(宇佐見)
●瓶詰魔法少女地獄
こうしたあらすじの都合上,本作では大量の魔法少女が出てくるわ,出てくるわ。いかにもそれっぽい普通の魔法少女もいるが,その大半は,リングに懸けた男たちのアメリカン・ドリームを力の源にするボクシング系魔法少女や,宮本武蔵の五輪の書を引用する武器使い系魔法少女など,魔法少女とは何かを改めて考え直したくなるような人物ばかり。そして彼女達を駆逐しようとする自称正統派魔女も,黒ビキニの上からマントを羽織っていたりして,いろいろ怪しい……。
そんな本作では,当然さまざまな魔法少女モノのパロディネタが登場するのだが,それ以外のパロディネタのチョイスが普通ではない。SFや推理小説をモチーフにしたネタや,マンガのパロディでも『エアマスター』や『覚悟のススメ』のセリフを使ったネタなんて,アラサー男子の筆者は好きだけど,ライトノベルの主な読者層である中高生には通じないのでは? 新刊の章タイトルもすべて推理作家・殊能将之のパロディだったりするし。
ちなみに1巻の『魔法少女地獄』では魔女vs.魔法少女(20人)でしたが,2巻の『瓶詰魔法少女地獄』では地上最強の魔法少女vs.史上最強の魔女っ子のバトルが展開されます。(柿崎)
●インテリぶる推理少女とハメたいせんせい
「いや,さすがにこういう作品は4Gamerではちょっと……」
というやり取りが,担当編集とのあいだであったとかなかったとか言われている本作。それはともかく発売当時に紹介できなかったので,どさくさに紛れて最終回で紹介。
その内容は,とある孤島の中学校に着任した一人の「せんせい」が実は正真正銘の×××で,学校の女子をひたすら×しまくり,これはどう考えても即刑務所行きだろうと思っていたら,そこへ「せんせい」に恋する少女,比良坂(ひらさか)れいが登場。
いろいろな屁理屈を並べて,先生は××なんかしていません,あれは合意のうえでの×××なので,××ではないのです。思惑があっての××です。つまり合法です! みたいな主張を延々と続けるというもの。こんな紹介で内容が分かるか! (#`Д´)ノノ┻┻;:'、・゙
しかし,タイトルに「推理少女」とあるようにミステリー要素も意外と含まれており,ラスト付近で繰り広げられるとんでもない推理の連続は必見。
ところで,一つ上で紹介した『瓶詰魔法少女地獄』ではメフィスト賞受賞作家の殊能将之をリスペクトした章題やセリフが散りばめられていたが,本作ではメフィスト賞を受賞した迷作『六枚のとんかつ』が紹介されています……。最近のライトノベル市場では何が起こっているんだ?(柿崎)
●クズがみるみるそれなりになる「カマタリさん式」モテ入門
高校生・中野太一(なかのたいち)のもとに,未来からやってきた少女カマタリさん。ネコ型ロボット的存在の彼女曰く,太一がクラスメイトの曾我野笑詩(そがのえみし)を含む,曾我野三姉妹を恋愛的な意味で攻略しなければ,日本が滅ぶとのこと。しかし,未来の世界ではキング・オブ・クズに認定されているぐらいダメな太一。当然うまくいかず,失敗するたびに「デデーン『アウトー』」と天の声が降り注ぎ,何度もやり直すはめに。果たして日本の運命やいかに?
注目すべき点は多々あるが,その中でも特筆すべきは主人公の太一による流れるような語り口であろう。マンガやアニメはもちろん,テレビのバラエティ番組に古典やネットスラングなど,ありとあらゆるパロディを散りばめながらも,ノンストップでそのクズっぷりを発揮。この文章を読んでいるだけでも十分楽しいのだが,本作はちゃんとラブストーリーとしても成立しているのだから恐れ入る。
最初のうちは「やだなあ。恋愛ごときに身体張るなんてゴメンだよ。俺は安全圏で恋したい」みたいな安定のクズっぷりを見せていた太一なのに,物語終盤では相手のことをきちんと見据えつつ,ラブラブな会話を繰り広げている。
鬼才による正統派のラブコメディなので,未読の人はぜひどうぞ。あと,もうそろそろ新刊が出てもいい頃合いだと思うのですが,いかがでしょうか?(柿崎)
●ストーンコールド
資産家の父によって英才教育を受け,クラスでも中心に位置していた雪路(ゆきじ)。だが,父の逮捕によりその環境は一変。いじめのターゲットになり,ガスガンの的にされ左目を潰されてしまう。しかしその時,通りかかった死にかけの男に拳銃を渡されて……。
普通に考えると,暴力を手に入れた少年がここから感情に身を任せて復讐を始める……みたいな展開になりそうだが,本作の場合そうはいかない。父親の特殊な教育を受けた雪路の考えは,「目を潰した以上は向こうは支払うべき対価があるはずで,しかるべき報酬を要求する権利が俺にはある」とあくまで論理的なのだ。そして壊れた論理に突き動かされた彼は,密かに残していた貯金と父の人脈を武器に復讐を開始する。
主人公は主人公で酷い奴だが,登場する大人たちはもっと酷い。雪路をこんなふうに育てた父親に,殺人事件の真相を知りながら目をつぶる悪徳刑事,そして薬の売人“魔術師”スカンク。そんな,ろくでなしばかりの世界で行われる復讐は,とことん陰惨で歪んでいる。だからこそ最後には,ほかの作品では得られない種類のカタルシスが生まれるのだ。
シリーズの続刊もすでに決まっており,また5月にはガガガ文庫から『鳥葬―まだ人間じゃない―』の刊行が予定されている。今後この作者がライトノベル界でどういった作品を書いていくのか,ぜひとも見守っていきたい。(柿崎)
いかがだっただろうか。通常の連載よりも1作1作の紹介文は短くなってしまったが,3年間の連載を終えるにあたって,悔いのないようにとピックアップしたラインナップである。これまでに紹介してきた作品同様,興味があれば手にとってもらえれば幸いだ。
3年。短いようだが,ヤマトならイスカンダルまで3往復できる期間だ。3年の間には,この連載で紹介したあとで完結を迎えた作品も少なくない。中には永遠に続きが読めなくなってしまった作品もある。第6回で紹介した『ゼロの使い魔』や,第14回で紹介した『えむえむっ!』は,共に著者の逝去によって未完の作品となった。悲しいことだが,長く続けている間にはそういうことも起こる。
そのように,終わっていく作品がある一方で,ライトノベル業界では今も,新たな作品が次々に生み出され続けている。作品だけでなく,ちょうどこの原稿が掲載される頃にスタートする「オーバーラップ文庫」を始め,新レーベルの創刊も続いている。光あるところに影が生まれるように,ライトノベルある限り放課後ライトノベルもまた不滅……かどうかは分からないが,ライトノベルそのものがなくならない限り,いつかこの連載が復活する日が来るかもしれない。その日まで,放課後ライトノベルのこと,時々でいいから……思い出してください。
それではいつの日か,「スーパー放課後ライトノベル2 さよなら絶望ライター」でお会いしましょう。オタッシャデー!
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