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ハロー,ミスター・マグナム。「放課後ライトノベル」第130回は荒野と銃声の『アリス・リローデッド』で悪党どもを華麗に撃て
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印刷2013/02/23 10:00

連載

ハロー,ミスター・マグナム。「放課後ライトノベル」第130回は荒野と銃声の『アリス・リローデッド』で悪党どもを華麗に撃て



 前回の「放課後ライトノベル」では安井健太郎の新作『アークIX』と共に,氏の代表作である『ラグナロク』を紹介した。『ラグナロク』といえば,続編がなかなか出ない語り手が剣であるというのが大きな特徴だ。そこで今回は“武器が語り手”の作品を取り上げたりすると,いろいろ計算してるっぽくみえる。とはいえ,そんなに都合よくいくはずないよね……と,期待しないで書店をチェックしていたら,ありました。け……計算どおり!(震え声)

 というわけで,今回は拳銃が語り手を務める『アリス・リローデッド』をご紹介。銃がしゃべるだけでなく,ヒロインの二つ名に“ライトニング”の文字が入っているのも『ラグナロク』っぽい。
 第19回電撃大賞の大賞受賞作だが,扱っている題材はライトノベルでは非常に珍しい西部劇。しかも大賞を受賞した作品だけあって,当然,ただの西部劇の枠には収まらない。銃がしゃべるだけでなく,さまざまなギミックが仕掛けられているぞ!

画像集#001のサムネイル/ハロー,ミスター・マグナム。「放課後ライトノベル」第130回は荒野と銃声の『アリス・リローデッド』で悪党どもを華麗に撃て
『アリス・リローデッド ハロー、ミスター・マグナム』

著者:茜屋まつり
イラストレーター:蒲焼鰻
出版社/レーベル:アスキー・メディアワークス/電撃文庫
価格:620円(税込)
ISBN:978-4-04-891332-4

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●愛しき主人との別れ,愛すべき少女との出会い


 見渡す限りにサボテンと岩と土煙が広がる,スモーキー&ロックス。大陸西部に位置するその土地で,最強と呼ばれるガンファイターがいた。彼女の名はアリス。その早撃ちの腕前は〈荒々しき稲妻〉(ライトニング・ワイルド)と呼ばれるほどだ。

 彼女の相棒となるのが,魔女によって作られた拳銃――サラマンデル。意識を持ち,しゃべることもできる特別な銃だ。彼らはアリスの友人を殺した魔女を追って,復讐の旅を続けていた。だが,やがてその旅にも終わりが訪れる……アリスの死という形で。死の直前,アリスはサラマンデルを守るために最後の力を振り絞って“彼”を地中深くに埋める。

 それから60年後,サラマンデルは一人の少女によって掘り起こされた。彼を掘り起こした少女の名もアリス。サラマンデルが知るアリスよりは幼いが,顔つきもどこか似ている。しゃべる銃を目にしてもまったく驚かない彼女は,サラマンデルを「ミスター・マグナム」と呼び,無理やりおしゃべりの相手にしていた。

 だが,ある日,そのアリスの様子が変わる。魔女が操る獣に友人が襲われたというのだ。友人の仇を討ちたいと,アリスはミスター・マグナムに依頼する。最初は断ろうとするミスターだったが,アリスの気迫に根負けして協力することに。そしてアリスと共に魔女のアジトを襲撃した彼は,信じられないものを目撃する。そこには,かつてのアリスが追っていた魔女がいたのだ。しかも,60年が経っているはずなのに,当時よりも若返った姿で。

 やがてミスターは,自分が置かれた状況に気づく。自分は時間を飛び越え,過去の時代にタイムスリップしてしまったのだと。そして,目の前にいるアホっぽい少女は,かつての相棒の若き日の姿なのだ!
 なぜ,過去に戻ってしまったのかは分からない。だが,今ここで彼がするべきことは一つ。将来,アリスに訪れる悲劇を何としてでも食い止めることだ。


●魔法と硝煙が舞うガンアクションを目撃せよ!


 というわけで,今年の電撃大賞を射止めたのは,西部劇をベースにしながら,ファンタジー要素を追加して,さらに時間ループという設定まで組み込んだ,盛りだくさんな一作。魔女やしゃべる銃が登場するということは,当然,魔法も存在する。その中でもひときわ目立った存在が〈刻紋弾〉(エンブレムド・バレット)という独自の弾丸だ。

 魔力が込められたこの特別な弾丸を使用すると,常人を遥かに超えるスピードの身体能力を得たり,姿を消したりと,さまざまな効果が発揮される。この〈刻紋弾〉による,人間離れしたアクションシーンが本作の見どころの一つだが,もちろんそれに頼ってばかりではない。
 銃撃戦では,ファニングやハンマーコックといった実在のテクニックが登場するし,物量で押し寄せる敵に対しては,土地の形状を利用した作戦を組み立てて迎え撃つ。またピンチの時には,その場にある道具で機転を利かせて逆境を打開する。こんな具合に,西部劇でおなじみの要素を小説でもしっかりと再現しているのだ。

 また,アリスとミスター・マグナムをサポートする仲間たちも,実に個性的。アリスの師匠である先住民のアゴンロジは,いかつい名前とは裏腹に,舌足らずなパンツはいてない少女。ロッキーことロクサーヌ・ラヴォワは,女だてらにショットガンを二挺同時に振り回す。牧師の格好をしたバンプは神を罵りながら,次々と悪党を撃ち殺す。
 これだけでも充分にキャラが立っているが,さらに注目したいのが,彼らの現在と未来の姿の違いだ。荒っぽい性格だったはずのロッキーは,まだ箱入り娘のお嬢様だし,常にジャーキーを手放さないデブになっていたバンプは,スリムなうえにハンサムだ。こうしたギャップが彼らの魅力をより増幅している。


●拳銃が語る,再生と再開の物語


 そんな本作で一番のギャップを生み出しているのは,やはりアリスの存在だ。未来ではスモーキー&ロックスの生きた伝説として恐れられていた,復讐に燃える完璧なガンマン。だが,この時代のアリスはロリポップが好きな,どこか間の抜けているただの少女。その天真爛漫な彼女に文字どおり振り回されるのが,拳銃にして本作の語り手であるミスター・マグナムだ。

 ハードボイルドでクールな態度を気取っているようで,どこか愚痴っぽく,拳銃のくせになかなか人間味がある。この凸凹コンビのやり取りは,一歩間違えれば凄惨な雰囲気になりかねない物語を,明るく楽しいものにしている。
 そして,アリスの無鉄砲な行動を見るたびに,自分の知っているアリスはこんな奴ではなかったと呆れ,落胆しつつも,そんなアリスに感化され,再び自分を取り戻していく過程が実にいい。拳銃でありながら,彼の口(というか銃口?)から語られる心情描写は読者の胸にぐいぐい食い込んでくる。

 魅力的な設定や登場人物だけでなく,スピーディに展開していく物語も素晴らしい。ギャングを襲って逮捕され,保安事務所に拘留されたものの脱獄,馬を盗んで逃亡した先では悪徳市長をめぐるトラブルに巻き込まれ……といった具合に,一難去ってまた一難。次から次へとアクションを展開させ,読者を退屈させずに最後まで一気に読ませる。まさに極上のエンターテイメントと呼ぶにふさわしい一作だ

 また,余談ではあるが,あとがきで語られる“もう一つのリローデッド”とでも言うべきエピソードは必読である。読者の中には,あとがきから読むというタイプの人もいるだろうが,本作に関しては,できれば本編読後に読んでほしい。作品の内容とあいまって,新鮮な感動が得られるはずだ。

■ガンファイターじゃなくても分かる,第19回電撃大賞の受賞作品

『明日、ボクは死ぬ。キミは生き返る。』(著者:藤まる,イラスト:H2SO4/電撃文庫)
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画像集#002のサムネイル/ハロー,ミスター・マグナム。「放課後ライトノベル」第130回は荒野と銃声の『アリス・リローデッド』で悪党どもを華麗に撃て
 今回紹介した『アリス・リローデッド』は,第19回電撃大賞の大賞受賞作。では,ほかにはどんな作品が受賞したのだろうか。
 まず紹介するのは,金賞を受賞した『明日、ボクは死ぬ。キミは生き返る。』(著:藤まる)。あることがきっかけで,事故で亡くなった少女・夢前光と身体を共有することになった,坂本秋月。2人の意識はきっかり一日おきに交代する。しかも光は悪戯好きのうえ,いろいろ残念な娘だったから,さあ大変。いつの間にかクラスの人気者になっていたり,仲の悪かった妹がデレたり,全身タイツの謎のヒーロー「セクシードリーム」になっていたりと,目がさめるたびに秋月の身の回りではさまざまな変化が起こっている。基本はコメディなのだが,同じ身体を使う都合上,決して同じ時間を共有できない2人の関係がちょっぴり切ない。
 そして同じく金賞を受賞したのが『エーコと【トオル】と部活の時間。』(著:柳田狐狗狸)。半年前にとある事件を起こしたために,周囲から腫れ物扱いされている【エーコ】。そんな彼女の様子を見かねて声をかけてきたのは,人体模型の【トオル】くん……と書くと,残念系のコメディっぽく見えるが,その実態は,学園で起こる人体発火事件の謎を探るミステリー。事件に隠されたドロドロの人間関係と,それらを冷たく見据えるエーコのシニカルな語り口が独特の雰囲気を醸し出している。
 最後に紹介するのが,銀賞を受賞した『塔京ソウルウィザーズ』(著:愛染猫太郎)。自らの魂を改造したソウル・ウィザードが跳梁跋扈する〈塔京〉。そこでは日夜,多くの事件が巻き起こる。魔法を題材にしつつも,プログラム,OS,デバイスなど,横文字が多用されるサイバーパンクな設定が本作の特徴。七つの使い魔を使役する主人公に,星座の名前を冠した十二の魔法学園など,異能バトル好きの心をくすぐる要素も多い。また,ヒロインが猫耳少女に犬耳少女と,ケモノ好きも要チェックの一本だ。
 第19回電撃大賞からは,ほかにもいくつかの作品が生まれているのだが,そちらに関しては次回触れてみたい。

■■柿崎憲(ライター/許されざる者)■■
『このライトノベルがすごい!』(宝島社)などで活動中のライター。今回の原稿を書くにあたって,人間と人間以外のコンビの作品をいろいろチェックしたという柿崎氏。その中でも,現在公開中の映画「テッド」がすごく良かったとのこと。「可愛らしいテディベアとダメ中年が朝からドラッグをキメる映画がヒットするとか,ハリウッド侮れない……」と身を震わせて語っていました。そういう本人の生活態度も,相当アレだと思いますが。
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