連載
一回1000円でボディガードやります。「放課後ライトノベル」第94回は『クロス×レガリア』で現代科学の粋を凝らして異能者達に立ち向かうのだ
異能。それは読んで字のごとく,普通とは異なる能力。マンガやアニメ,ライトノベルではお馴染みの要素である。異能力者たちがそれぞれの持つ力をぶつけあう姿は,もうそれだけで見ている者の胸をワクワクさせる。そんな異能を持ったキャラクターが登場する作品はたくさんあるが,最近のお気に入りの異能バトル作品は「咲-Saki- 阿知賀編 episode of side-A」だ!
女子高生がキャッキャウフフと麻雀をしているように見せかけて,その実態は,とにかくドラを異様に引く! 一巡先が読める! など,麻雀では絶対的に有利になる能力から,相手に自分の姿を見えなくするなどのステルス能力の持ち主まで登場する異能力麻雀ストーリー。こうなってくると「麻雀って,そもそもどういうゲームだっけ?」と感じずにはいられないが,そんな「咲-Saki- 阿知賀編」の主人公・高鴨穏乃(たかかもしずの)ちゃんは何の能力も持たない一般人。へこたれない精神力だけを武器に強い相手に立ち向かう姿が胸を熱くさせる。
そんなわけで,今回の「放課後ライトノベル」は三田誠の異能バトルファンタジー,「クロス×レガリア」を紹介しよう。敵となるのは中国や日本から訪れる,さまざまな異能の持ち主。対して主人公の持つ能力はとくになし! 普通の人間の持つ可能性を見せつけるのだ!
『クロス×レガリア 嵐の王、来たる』 著者:三田誠 イラストレーター:ゆーげん 出版社/レーベル:角川書店/角川スニーカー文庫 価格:630円(税込) ISBN:978-4-04-100265-0-C0193 →この書籍をAmazon.co.jpで購入する |
●1000円ボディガードと吸血姫の出会い
一回1000円でトラブル解決を請け負う,高校生ボディガードの戌見馳郎(いぬみはせろう)。ある晩,彼は何者かに追われている少女・ナタと出会う。ナタから1000円をもらい,彼女をかくまって過ごしていた馳郎だったが,その日常も長くは続かなかった。ある日,馳郎の前に人知を超えた力を持った少女と青年が現れる。彼らは人間の氣(チィ)を喰らう,〈鬼仙〉と呼ばれる吸血鬼だった。
2人に襲われ,絶体絶命の窮地に陥った馳郎を救った者――それは,鬼仙の一人であり,ある特別な力を秘めた対鬼仙専用の兵器でもあるナタだった。かくして,追う者と追われる者の争いに巻き込まれ,それでもなお一人の少女としてナタを守ることを決意した少年の戦いが幕を開ける……。
横文字のタイトルや1巻のサブタイトルにあった“吸血姫”という単語から誤解しそうになるが,本作は実は東洋風ファンタジーだ。敵の女の子はチャイナドレスだし,舞台となるのも中華街,そして何よりヒロインのナタは,西遊記や封神演義にも登場する“あのキャラクター”がモチーフとなっている。ナタが扱う鬼仙専用の武器・鬼宝にも,その片鱗が見え隠れするので,中華好きな人は要注目だ。
●無能力者・戌見馳郎の事情
こうして人間以上の存在と戦うことになった馳郎だが,彼自身のスペックはごく普通の高校生。その彼がボディガードとして活動できる秘密が,特殊な衣装「カエアン」だ。一見するとただのジャケットのようだが,その正体は人工知能搭載のコンピュータ。戦闘時には金属製の腕を伸ばして戦ったり,敵の分析をしたりと大活躍だし,ほかにも空を飛んだり,料理を作ったりもしてくれる優れものだ。名前の元ネタが知りたい人は「カエアンの聖衣」で検索してみよう。
しかし,どれほど凄い装備を持っていても,それを扱う馳郎はあくまで普通の人間。ピンチになったら秘められた能力に覚醒……! なんてことは起こらず,戦いのたびに半死半生である。ただの人間である彼が,どのようにして異能の持ち主と渡り合っていくのかが,本作の大きな読みどころだ。
そしてもう一つ注目したいのが,ボディガードが一回1000円という格安の理由。ボディガードといえば,依頼人だけでなく自分の命にもかかわる危険な職業だ。それにも関わらず,彼はわずかな金額で人を助けようとする。その彼の真っ直ぐな姿勢に秘められた理由が明かされた時,読者は力無き彼だからこそ,この物語の主人公に相応しいことを実感するだろう。
●中国と日本,ふたつの「鬼」が正面衝突!
さて,そんな無能力者の兄をサポートするのが,馳郎の義理の妹・リコ。数学の天才であると同時に発明の才能もあり,カエアンも彼女の発明品である。そして,この2巻では彼女が話の中心となる。
前巻でナタを守護する過程で,馳郎はとてつもない物を受け継ぐことになってしまった。全世界的規模のネットワークと膨大な資産を持ち,人間社会にありながら鬼仙の一部とのコネクションをも持つ強力な地位「白翁」である。単なる高校生である馳郎がいきなりそんな地位についても,その力をうまく扱えるわけがないので,資産の基本的な管理運用はリコがやっている。つくづく出来の良い妹だ。
だが,当然そのことを面白く思わない者も存在する。それが本来,白翁に選ばれるはずだった白鳳六家(はくほうろっけ)の面々だ。彼らもただの人間ではなく,その中には「おに」と呼ばれる異能の血が流れている。その白鳳六家の一つ,空家当主の少年・空 北斗(うつほ ほくと)は,馳郎が白翁を継ぐに相応しいか,その実力を確かめようとリコの命を狙う! 風を操る空家の能力は一見するとシンプルだが,風とは無関係に思われる意外な戦闘手段が次々に飛び出し,異能バトルの醍醐味を味わわせてくれる。
一方,正式に馳郎の助手となったナタは鬼仙が相手なら最強だが,別種の異能である「おに」が相手ではフルに力を発揮できず,苦戦を強いられる。この異能者同士の戦いに,現代科学の粋を凝らした武器で馳郎も参戦。まさに和洋中入り混じった異能バトルが全編にわたり展開される。
またバトルだけでなく,馳郎とナタの関係にも要注目。他人の氣を吸う鬼仙であるナタならではの,馳郎とのコミュニケーションは必見だ。魅力的な設定を随所に散りばめながら,しっかりとボーイ・ミーツ・ガールの要素も盛り込んでおり,まさに王道と呼ぶに相応しい内容となっている。「ナタ」と「白翁」という2つの強大な力を手にした馳郎が,今後どのような道を歩むのか。そして,日本と中国の「鬼」がどのように絡み合うのか。今後の展開に大きな期待が持てる一作だ。
■鬼仙じゃなくても分かる,三田誠作品
三田誠は,1999年に富士見ファンタジア文庫から発売されたアンソロジー『砂漠の王―モンスター・コレクション短編集』でデビュー。魔術や魔法といった題材に対する深い考証に定評があり,和洋を問わず神話や伝説など,さまざまな要素を作品に取り込んでいる。そうした作風が最大限に発揮されたのが,代表作である『レンタルマギカ』。
『レンタルマギカ 〜魔法使い、貸します!』(著者:三田誠/角川スニーカー文庫)
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魔法使い派遣会社「アストラル」の社長となった伊庭いつきを主人公にした本作は,魔法使いはもちろん,巫女や陰陽師,坊主に錬金術師と,ありとあらゆる魔術的能力を持った人間が勢揃い。アニメ化もされた人気シリーズで,著者のあとがきによれば,この夏ついに本編が完結するとのこと。今から待ち遠しい話だ。また講談社ノベルスからは,『幻人ダンテ』という作品も発表されている。
ちなみに『クロス×レガリア』には,『レンタルマギカ』に登場する人物の関係者らしき苗字や,『幻人ダンテ』に登場した探偵らしき人物もちょこっと登場するので,これらも読んでいるとより楽しめるだろう。
また小説ばかりでなく,TRPGに関連する仕事も手がけており,近頃は奈須きのこや虚淵玄など人気クリエイターが多数参加する,星海社の『レッドドラゴン』にも関わっている。
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