連載
ニートでひきこもりのゲーマー兄妹が人類の救世主に? 「放課後ライトノベル」第92回は『ノーゲーム・ノーライフ』で異世界のゲームに挑みます
思えばこれまで,ゲームからはたくさんのことを学んできた。たとえばRPGは,主人公たちの冒険を通じて,生きる意味や人生とは何かといった問題を,まだ幼い筆者に考えさせてくれた。パズルゲームは論理的に考える力を養ってくれたと思うし,プロサッカー選手の名前をすらすら言えるようになったのはサッカーゲームがあったからだ。格ゲーをしていると画面の外でも戦いが始まることや,本当に怖いのはボスの強力な攻撃ではなく親が無言で押すリセットボタンであること……どれも,ゲームをやっていなければ分からなかったことだ。
「ちょっとちょっと」
「これはこれは担当編集さん。どうしました?」
「ここまでの前フリ,第82回と同じなんですけど」
「…………」
「もしもーし?」
「(無視して)そう……我々はいつも,人生に大切なことをゲームから学んできた。ゲームなくして人生なし。まさに,ノーゲーム・ノーライフ」
「単なるコピペですよね,これ」
「よく見てください。少し違うじゃないですか! それより今回の『放課後ライトノベル』で紹介予定のタイトルは……(ちらりと担当編集を見る)」
「『ノーゲーム・ノーライフ』ですね(棒)」
「Exactly!(そのとおりでございます)」
「…………」
というわけで,これ以上担当氏に白い目で見られる前に,さっそく内容紹介に行ってしまおう! アニメ化もされた人気作品『いつか天魔の黒ウサギ』のイラストレーターである榎宮祐が,挿絵だけでなく本文まで手掛けたことで話題を呼んだ一作,ゲーム好きなら見逃すな!
『ノーゲーム・ノーライフ1 ゲーマー兄妹がファンタジー世界を征服するそうです』 著者:榎宮祐 イラストレーター:榎宮祐 出版社/レーベル:メディアファクトリー/MF文庫J 価格:609円(税込) ISBN:978-4-8401-4546-6 →この書籍をAmazon.co.jpで購入する |
●伝説のゲーマー『 』,今度は異世界を攻略!?
ここに,ゲーマーの間でまことしやかにささやかれる,1つの都市伝説がある。
280以上のゲームのオンラインランキングで前人未到の記録を打ち立て,不動の1位を獲得した伝説のゲーマー。プレイヤー名が空欄であることから『 』(くうはく)と呼ばれるそのプレイヤーは,しかし,伝説などではなく確かに実在した。その正体は,空(そら)と白(しろ)――2人合わせて“空白”――という名の兄妹である。
兄である空は18歳,無職・童貞・非モテ。妹の白は11歳,不登校にして友達なし。そして共にひきこもりのゲーム廃人。人としては割とどうしようもない,だがゲームの腕だけは天才的な2人。それゆえにゲームの中にのみ居場所を見出していた彼らのもとに,ある日,異世界からの招待状が届く。そこはあらかじめルールや目的が明確に定められた,ゲームの盤上そのものといえる世界だった。
あまりに不確定要素や外部条件が多すぎる,人生という名の“クソゲー”になじめなかった兄妹にとって,その招待状は福音に等しかった。一も二もなく招待を受け入れる空と白。その瞬間から,異世界でもゲームのトップを獲らんとする,ゲーマー兄妹の覇道が幕を開けたのである――。
●心理戦の空と知能戦の白。2人が揃えば絶対無敵!
空と白が召喚されたのは,神によって一切の戦争が禁じられた世界。この世界に生きる16の種族は,十の盟約に従い,あらゆる諍いをゲームで解決することとなった。単純な力だけで勝負は決まらないといえば聞こえはいいが,一方ではルールさえ守ればなんでもありということでもある。実際,この世界では何の異能も持たない人類種(イマニティ)は最弱とされ,他種族との「国盗りギャンブル」でも敗北に敗北を重ねている。異世界からやってきた兄妹も無論,そんな人類種の一員だ。そして2人は,世界の覇権を左右するこの国盗りギャンブルに挑むことになる。
だが,たとえ人類種の存亡を賭けたものであろうと,それがゲームである限り『 』の2人が臆することはない。類まれな知能を持ち,論理がものを言う勝負では無敵の白と,他人の感情を読むことに長け,心理戦では圧倒的な力を誇る空。互いの長所を生かし,弱点を補い合えば,相手が誰であろうと後れを取ることは決してない。魔法を使った「ばれないイカサマ」を駆使する相手の裏をかき,劣勢をひっくり返していく様は実に胸がすく。同時に各ゲームの奥深さ,駆け引きの妙を存分に堪能することもできるだろう(1巻で登場するのはポーカーにジャンケン,チェスと誰もが知るゲームばかりである)。
普通の人間だった主人公たちが異世界に召喚され,魔法や異能が当たり前の世界の中でのし上がっていく,というのは本連載の第68回で紹介した『問題児たちが異世界から来るそうですよ?』とも共通するところだ。だが,同作の主人公たちが“ギフト”によって人知を超えた力を与えられた,一種の異能者であるのに対し,『ノーゲーム・ノーライフ』の主人公兄妹は正真正銘の人間。特殊なのは,すさまじいまでのゲームの腕を持つことだけ。そんな2人が,その腕1本でどのように戦っていくかが,本作第一の見どころだ。
●頼りは弱者の知恵。駆け引きの中で叫ばれる“人間賛歌”
ゲームでは無類の強さを発揮する兄妹――だが,ゲームから離れれば彼らもただの(それもどちらかというとダメな感じの)人間だ。ニートでひきこもりの社会不適合者だというのはすでに述べたとおりだし,2人揃っていないと対人恐怖症のせいでまともにコミュニケーションがとれなくなる。そもそも2人のゲームの腕が飛びぬけて高い裏には,出来が悪いがゆえに他人の真意を読む術を磨かざるを得なかった(空),知能が高すぎるために誰にも理解されなかった(白)という背景がある。社会になじめず,ゲーム世界に逃げることになった人間――それが伝説のゲーマー『 』のもう一つの顔なのだ。
けれど,2人の姿はそんな悲壮感をまるで感じさせない。弱く,虐げられてきたがゆえに彼らは知恵と腕を磨き,ゲームの中に自分たちの名を刻み続けてきた。己が弱者であることを受け入れ,それでも強くあれる手段を見出したのだ。そんな彼らの過去は,異能の力を持たないために弱者の烙印を押されてきた,異世界の人類種に通じるものがある。決してスーパーヒーローではない空が,人々に訴えかける言葉は,だからこそ力強く響く。
そしてなにより重要なのは,彼らは実に楽しそうにゲームをプレイするということ。たとえ世界の命運がかかっていても,ゲームはゲーム。楽しまなければ損だ! とばかりにプレイする彼らの姿は爽やかのひと言。そんな彼らのスタンスが,異世界に新たな秩序をもたらしてくれると信じつつ,2巻を心待ちにしたい。
■本文もイラストもOK。一人二役な作品を紹介
前フリで軽く触れたように,本作は本文とイラストを同一人物が手掛けている。元は著者がほかのマンガ家に提供する原作として温めていたものを,小説用に修正したものだという。このように,1人で本文・挿絵両方を手掛けている作品は,ライトノベルにおいて非常に珍しくはあるものの前例がないわけではない。
『末代まで! LAP1 うらめしやガールズ』(著者:猫砂一平,イラスト:猫砂一平/角川スニーカー文庫)
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たとえば第12回角川学園小説大賞を受賞した『末代まで!』は,刊行にあたって著者本人がイラストを手掛けた。著者はマンガ家としても活動しており,クラブサンデーで連載中の『二ノ前しいの使い方』の単行本第1巻が先日刊行されたばかり。
このように,著者が挿絵も兼任する作品が生まれる経緯としては,マンガ家が小説も書くようになって……という形が多いようだ。このパターンは女性向け作品で顕著で,あさぎり夕,篠原千絵,折原みとといった作家はマンガ・小説共に多数の著作があり,またキャリアも長い。
少々変わったところでは,6月にGA文庫から刊行予定の『妹は僕に手を出すなっ!』(著:木緒なち/イラスト:久坂宗次)がある。著者はデザイナーとして知られる人物だが,以前よりゲームのシナリオライターとしての肩書も持っており,これが小説デビュー作となる。こちらはイラストではなく,装丁を著者本人が手掛けている模様。
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