連載
新人賞特集の第3弾をお届けする「放課後ライトノベル」第80回は,『第18回電撃小説大賞』受賞作の5作品でレッツゴー
この原稿を書いているのは2月14日。賢明な読者諸氏にはなんの日か,もうお分かりだろう。そう,ふんどしの日である。
ふんどしこそ,古来より伝わる由緒正しき漢の装束。今でこそ締める人もめっきり少なくなったが,あまりに漢らしいそのフォルムから来るカリスマ性は健在。連日寒い日が続くが,こんなときこそいつものパンツを脱ぎ捨て,ふんどしを締めると共に気も引き締めたいものだ……えっ,バレンタインデー? 「NEWラブプラス」の発売日? そんなイベントありましたっけ?
さて,そんな記念すべき日に締め切りをオーバーしつつ書き上げた今回の「放課後ライトノベル」では,新人賞受賞作特集の第3弾として,『第18回電撃小説大賞』の各賞を受賞した5作品を紹介する。おそらく,ふんどし一丁で滝行に励むかのごとき努力を積み重ねてデビューを果たした(※想像です)新人たち。彼らが渾身の力を込めて世に放つ,初めての輝きをとくとご覧あれ。
●大賞『エスケヱプ・スピヰド』
栄えある大賞受賞作は,戦争の傷跡が色濃い近未来日本風の世界を舞台とする,ボーイミーツガール&バトルファンタジー。虫型の兵器本体と,コントローラたる人型部分からなるという鬼虫を始め,独特のセンスに支えられた設定が鮮烈な印象を残す一作だ。既存の兵器ではまったく歯が立たなかったという鬼虫の強さは伊達ではなく,叶葉たちの目を通して見るその戦いぶりはまさに別次元。息もつかせぬ戦闘描写と相まって,バトル物の醍醐味を存分に堪能させてくれる。
九曜の目的――かつて敗れた相手への復讐が物語の縦軸なら,横軸は九曜と叶葉との交流。戦後まで生き残ってしまった九曜と,大切な人に先立たれてしまった叶葉。目的を果たし,あるいは他人に必要とされなくなれば,自分にはもう,生きていく意味がなくなってしまうのではないだろうか――。人と兵器,種族は違えど共に存在意義に悩む2人が,日々の中で己の生きる意味を見出していく様が丹念に描かれる。テーマ性とエンタメ性を高度に同居させた,大賞らしい作品である。(宇佐見)
●金賞『あなたの街の都市伝鬼!』
都市伝鬼は人に語り伝えられることで存在できるので,編纂され,本になることで大幅に寿命が延びる。そのため,誰もが編纂者である出雲に興味津々,少しでもより良い形で本に載せてもらおうと次々に出雲を襲いに来る。おかげで都市伝説自体は好きだが怖いものは苦手な出雲は心が休まる暇がない。もっとも,都市伝鬼たちはいずれも可愛い見た目の持ち主なので,期せずしてハーレム状態にもなることに。恐怖と引き換えにハーレム生活を手に入れるか,それとも平凡な人生を送るか,あなたならどっちを取る?
登場する都市伝鬼も,家庭的で出雲でなくてもぜひ嫁にほしいと思うこと請け合いのサキ(ムラサキカガミ),おとなしい童女と見せかけてちゃっかり怖いコトリ(コトリバコ),きっぷのいいお姉さんなベド子(ベッドの下の斧男ならぬ斧女),やる気なさげなメリーさんなどなど,どこかとぼけた味わい。「『死ねばいいのに』はツンデレ」という解釈には目から鱗が落ちる思いだ。終盤では都市伝鬼たちが抱える切実な思いも垣間見られる,明るく楽しくちょっぴりビターな新世紀の都市伝説譚だ。(宇佐見)
●銀賞『ウィザード&ウォーリアー・ウィズ・マネー』
地下貧民街出身のジェイファは,「奪うことだけが正義」と考える超弱肉強食な思想の持ち主。しかし,地下の世界から這い上がり最初に泥棒に入った家で,冬瀬陽月(ふゆせはるつき)という少女に運悪く捕まえられてしまった。警察への通報を見逃すことを条件に,ジェイファは陽月の相棒としてダブルス・マネーへの参加を強制させられる。それまで何戦もしてきた陽月と違い,ジェイファはまったくの素人。しかもファースト・コンタクトが最悪だっただけに2人のコンビネーションもイマイチで連敗続き……この凸凹コンビがどのように成長し,変わっていくのかが本作の見どころの一つ。
だが,注目すべきは何と言っても,拳と拳が火花を散らし,さらに特殊な魔法が飛び交う,ダブルス・マネーの試合場面だ。単純な力比べではなく,それぞれの持つ魔法やスキルの戦略性で戦況は大きく変わっていく。ここで気になるのが,競技名に入っているマネーとは何かということ。その答えはいたって単純,選手が使用するスキルや魔法が金で買えるのである。
パワーイズマネー。よって強い選手は賞金を得,その金で強いアイテムを手に入れ,ますます強くなる。まさに資本主義である。ここらへんは現実のゲームでもよく聞く話である。最近もコンプガチャにすごい額突っ込んだ人とかいたよね! というわけで,この金が力を生むスパイラルに2人がどう対抗していくのかも必見だ。(柿崎)
●銀賞『勇者には勝てない』
かつて,世界を恐怖に陥れた魔王と3人の魔将たち。だが,勇者との戦いに敗れた彼らは別次元へと追放される。その結果,前世の記憶とわずかな力は残っているものの,3人の魔将はごく普通の人間に生まれ変わる。しかも元上司である魔王は行方不明。かくして3人は一般の高校生として平和な日常を満喫していた。しかし,その平和は長くは続かなかった。勇者の生まれ変わりである少女,管田香澄(かんだかすみ)が転校してきたのだ。
香澄に対し土下座して命乞いを試みる3人だったが,彼らの不安をよそに香澄は前世の記憶を失っていた。勇者の記憶の復活=自分達の死,というわけで平穏な生活を守ろうと,勇者を気遣って暮らす3人だったが,そこに魔王の生まれ変わりが意外な形で登場し……。
魔王モノの醍醐味といえば,やはりかつて世界を震撼させていた威光と,現在の生活のギャップだが,本作はそのお約束を忠実に守っている。かつては獣人族の守護神として崇められた合成獣は,マザコンのイケメンに生まれ変わり,50万の軍団を率いた悪魔族の大公爵は,今はなぜか関西弁で夜の学校に怯えたりする小男に。学校の昼休みには携帯ゲーム機で魔王を倒しに行くし,街で不良に絡まれれば尻尾を巻いて逃げ出す,どこにでもいる高校生になっている。
そんな彼らが勇者と魔王に振り回される光景は,ただただ笑える。だが,いざという時にはかつての魔将としての矜持を見せるのが素敵。能力は微妙だけど……。(柿崎)
●電撃文庫MAGAZINE賞『明日から俺らがやってきた』
“推薦”で進学したチャラ男は,真面目に勉強して安定した職に就けと言ってくるし,“受験”を選んだメガネは,4年間女性と縁のない暗い大学生活を過ごすハメになるぞと脅してくる。正直どっちもしんどそうだね! そんな正反対の2人の板挟みにあって,真人は悩み続けるのだが,同じく進路に悩んでいた「氷の女王」の異名を持つクラスメイト,高瀬涼(たかせりょう)との出会いをきっかけに,彼らとは別の,第3の道を模索し始める。
未来から来た2人は好き勝手に自分の都合を押し付けてくるように見えるが,それだけではない。“受験”は勉強のことに関しては親身になって教えてくれるし,“推薦”も人間関係で悩んでいる時には的確なアドバイスを与えてくれる。自分の選択に後悔している2人にだって,しっかりとそれまでの人生の中で培っていたものがあるのだ。本当に大切なのは振り返ることではなく,今自分が持っているものを見つめ直し,大切に育んでいくことではないだろうか。というわけで,「やっと受験が終わったぜ!」という人にはぜひ読んでもらいたい一作だ。まだ受験の真っ最中という人は,もうちょっとだけ頑張れ!(柿崎)
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