連載
パンツなんて,なくなればいいのに。「放課後ライトノベル」第72回は『パンツブレイカー』であらゆるパンツを消しまくり
寒い! おんもに出たくない!
そういうわけで休日は家にこもってゲームしたり,ライトノベルを読んだりと,プチ引きこもり生活を送っているわけですが,僕もいい大人なので,いつまでもそんな甘えた生活をしてはいられない。そこで,たまには寒くても外に出て見聞を広めようじゃないかと,先日は子供たちに混じって「仮面ライダー×仮面ライダー フォーゼ&オーズ MOVIE大戦 MEGA MAX」を見てきました。
やっぱヒーロー同士の共演は燃えるよね。テレビ絶賛放映中のフォーゼもいいけど,前作のオーズも輝いている。平成ライダーの大半は,普段何をやって生計を立てているのかよく分からないことでおなじみですが,その中でもオーズの中の人,火野映司といえば,「少しの小銭と明日のパンツさえあればいい」と豪語する,平成ライダーで最もフリーダムな男。映画でも後輩のライダーに向かって,明日履くパンツの重要性について熱く語っておりました。
しかし,そんな明日の象徴であるパンツを消してしまう能力が存在したらどうする!? ……そんなワケの分からない能力あるはずないだろと思った皆さん,それがここにあるのだ。というわけで今回の「放課後ライトノベル」は,一迅社文庫から出ている『パンツブレイカー』をご紹介。タイトルから内容の九割が想像できそうなんだが大丈夫か,これ!?
『パンツブレイカー』 著者:神尾丈治 イラストレーター:丸ちゃん。 出版社/レーベル:一迅社/一迅社文庫 価格:620円(税込) ISBN:978-4-7580-4271-0 →この書籍をAmazon.co.jpで購入する |
●閃光と共に最強の異能が暴威を振るう!
「ギフト」。それは,かつては魔術や超能力として扱われていた,従来の概念を超越した能力のことだ。ギフトの存在が科学的に証明されてから,まだ日が浅く,ギフトを持った子供たちは物珍しい存在として,周囲から好奇や嫌悪の視線を向けられてきた。そのような子供たちを救うために造られたのが,日本近海の孤島に建てられ,部外者は完全にシャットアウトされた国立醍醐学園だ。
その学園に新たに転校してきたのが,本作の主人公・汐正幸(うしおまさゆき)。学園に向かうヘリの中で,「俺に不用意に近づくな!!」とか「とんでもないことが起こる……わかっているはずだ」などという意味ありげなセリフを,かっこつけたポーズで言い放つ正幸。何やら危険な匂いのする男である。
正幸が妹の美幸(みゆき)と共に醍醐学園のある島に上陸した直後,彼らはギフトを暴走させた少女,サンダー・エリカ・マルヤマと,彼女を止めようとする姿影那(すがたえな)と松葉瞳(まつばひとみ)の小競り合いに巻き込まれてしまう。暴れるサンダーから兄妹を守るために,二人に近づこうとした影那と瞳だったが,その瞬間,彼女たちの身体,主に下半身方面が閃光に包まれる。正幸の能力が発動したのだ! 一体,彼女たちの身に何が起こったのか!?
「人を傷つけることはない。安心しろ」
正幸は胸を張って,かっこいいポーズを取りながら言う。
「スカートの中を確認すればわかる。……ああ、そうだ。それが俺の『ギフト』」
「『パンツブレイカー』だ」
こ れ は ひ ど い。
●パンツブレイカーの孤独と履いてないヒロインたち
「パンツブレイカー」。それは正幸の半径2メートル以内に入ったパンツを問答無用で,閃光と共に消去する能力だ。つまり,某上条さんの能力がパンツ専門になったと考えてもらえれば話は早い。自身では一切制御できないので,ギフトの持ち主である正幸はいつもノーパンである。誰も得しない情報だ。
設定を聞いているだけだったら笑えるが,パンツを消されて喜ぶ人間はいないし,謝ったところで消えたパンツは戻ってこない。この力が原因で正幸は周囲から疎まれ,心理的にも物理的にも周囲と距離を取って生きていこうとする。
しかし,醍醐学園はさまざまなギフトの持ち主が集まる特別な学園である。そう簡単に彼をひとりにはさせてくれない。正幸のクラスメイトであると同時に,ギフトの研究員でもある影那は,どんなギフトにも存在する以上意味があるはずだと,正幸の力を調査しようとし,その一方でもっと学園生活を楽しむべきだと説得してくる。
クラス委員長である瞳は,授業をサボろうとする正幸を見逃そうとせず,「エクステンドハンド」と呼ばれる念動力(射程距離1メートル)を駆使して,パンツがギリギリ消えない距離から正幸を捕まえようとするものの,毎回失敗してはパンツを消されてしまう。野性児のサンダーにいたっては,パンツが消える現象を面白がり,自分のパンツを正幸に投げるだけでは飽きたらず,他人のパンツまで奪ってどんどん正幸に投げる始末。
とまあ,それなりに楽しそうな学園生活を送っているのだが……。
●一発ネタで終わらない作者の手腕に注目せよ!
しかし,ちょっぴりエロい能力と,楽しいラブコメな日常だけで終わらないのが,本作の優れたところだ。周りの女子を強制的に“履いてない状態”にできるのは,合法的セクハラとしては理想的な能力に思えるかもしれないが,世の中はそう甘くない。
学校のトイレで用を足していても,ほかの人が入って来るだけ大騒ぎになるし,食堂で食事をする際にも周囲に人が近寄らないように隔離され,見世物みたいなことになっている。買い物をしようとしても,並んでる人やレジの店員のパンツまで消えてしまうので,自動販売機以外では買い物もできない。当然,バスや電車にだって乗るわけにはいかない。ごく当たり前の日常を過ごすことすら難しいのだ。そこには異能の力を持ってしまった者ならではの,苦悩や悲哀がしっかりと描写されている。
普段の生活は,妹の美幸の助けなしでは成り立たない。そして,日ごろから正幸をサポートする美幸が,甲斐甲斐しくて良い子なのである。兄に用事があるときは,パンツを消されないように衆人環視の中でもパンツを脱いでから近づくし,万が一消されても大丈夫なように普段から安物のパンツを愛用している。
兄が能力のことで周囲から責められれば,激怒して言い返すし,両親ですら見捨ててしまった正幸を必死で守り,サポートする。そして,そこまでしてくれる妹に恥じないよう,正幸は常に堂々とした態度を崩さない。嗚呼,麗しき兄妹愛。たとえ,人とは異なっていても,誰かに支えられることで誇りを持って生きていける。一見すると,出落ちのしょうもない話に思えるかもしれないが,実は物凄く良い話だったりするのである。
ライトノベルの人気作には,一冊の中にさまざまなアイデアやギミックをたっぷり詰め込んだ,宝石箱のような作品が多く見られる。もちろん筆者も,そういう作品が嫌いなわけではない。だが,「パンツを消す異能」という馬鹿馬鹿しい一発ネタをとことん突き詰めることで一つのお話を作りあげるというのも,また小説のあり方と言えるのではないだろうか。
そういうわけで,タイトルを見て引いてしまった人や,ただのラブコメだと思って見過ごしてしまった人には,ぜひ読んでもらいたい。そこにはライトノベルというジャンルの可能性が開かれている。
■履いてなくも分かる,微妙な能力が主役のライトノベル
「パンツブレイカー」というあまりに微妙な能力にちなんで,今回は微妙な能力を持っている主人公が活躍する作品を紹介しよう。
『トカゲの王 1 ―SDC、覚醒―』(著者:入間人間,イラスト:ブリキ/電撃文庫)
→Amazon.co.jpで購入する
まずは,以前に本連載で紹介した『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』や『電波女と青春男』でおなじみの入間人間初の異能バトル作品,『トカゲの王』(電撃文庫)。主人公の五十川石竜子(いかがわとかげ)が持つ能力は「リペイント」。その効果とは,なんと自分の瞳の色を変えられるのだ! ……それだけ。普段はギアスごっことかできて楽しいんだけど,ふとしたきっかけで,本当に強力な異能を持った殺し屋との死闘に巻き込まれてしまったからもう大変。目の色を変える微妙な能力で石竜子は生き残ることができるのか!
次に紹介するのは,『Re:バカは世界を救えるか?』(著:柳実冬貴/富士見ファンタジア文庫)。〈非日常〉や〈特別な存在〉に憧れる中二病の少年,佐藤光一が絶体絶命のピンチの際に手に入れた力は「付け焼刃(イカロスブレイブ)」。その能力は他人の持つ力をコピーするというもの。ただし,コピーした能力は,オリジナルの超劣化版である。炎使いの能力をコピーしても,百円ライター程度の炎しか出ないんだもの。マジ使えねえ。いやまあ,ほかに秘密の効果もあるんだけど。
最後に紹介するのは上記の二つとは少し異なる,ラブコメ作品の『シースルー!?』(著:天羽伊吹清/電撃文庫)。神社に神頼みに行ったことで,速水柾は好きな女の子の服が一枚だけ透けて見える透視能力を手に入れてしまう。自分では制御できないので,常に好きな子の下着姿が見えるという,羨ましくももどかしいシチュエーションに。そんな状況でプールに行ったら,そりゃあ大変だってなもんですよ。
結論としては,中途半端におかしな力を持つよりは普通が一番ってことですね。
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