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これは神に選ばれし勇者達の物語。「放課後ライトノベル」第59回は『六花の勇者』で集え,6人の勇者よ! って,アレ……7人いる!?
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印刷2011/09/17 10:00

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これは神に選ばれし勇者達の物語。「放課後ライトノベル」第59回は『六花の勇者』で集え,6人の勇者よ! って,アレ……7人いる!?



 いきなりだが,最近ちょっと思うことがある。何かと言えば,
 「なんか近ごろの勇者って,扱い悪くね?」
ってことだ。

 いや,確かに昔から悪かったと言えば悪かった。たった一人で魔王を倒しに行けと言われたり,旅立つにあたって国王から渡されたものが,よりにもよって「ひのきのぼう」だったり。さすがにこれでは勇者だって,人様の家に勝手に上がりこんでタンスの一つでも漁りたくなろうというものだ。

 だが最近の扱いの悪さは,そういうのとはちょっと違う。なんというか……「ただの勇者ってもうオワコンだから,なんかちょっと変わったことさせようぜ」みたいな,まるで旬の過ぎた一発屋芸人のように扱われてる気がするのだ。たったの30秒で世界を救ったり,「勇者のくせになまいきだ」なんて言われたりするのも面白いが,勇者とはもっと他人から讃えられ,敬われる存在ではないのか。このままでは,いつぐれた勇者が盗んだチョ●ボで行く先も分からずに走り出してもおかしくない。

 今こそ勇者の復権を! 恵まれない勇者に愛の手を!

 そんな全国2億7千万人の勇者ファン(推定)の期待に応え,名作ライトノベルファンタジー「戦う司書」シリーズを手がけた著者が,ガチの勇者ものを送り出した。今回の「放課後ライトノベル」ではその作品,『六花の勇者』を紹介する。「今どき勇者なんて古いぜ」などと思っている人は,心して読んでいただきたい。
 そう,これは,魔神を倒すために選ばれた,6人の勇者の物語――って,え? 7人いる!?

画像集#001のサムネイル/これは神に選ばれし勇者達の物語。「放課後ライトノベル」第59回は『六花の勇者』で集え,6人の勇者よ! って,アレ……7人いる!?
『六花の勇者』

著者:山形石雄
イラストレーター:宮城
出版社/レーベル:集英社/スーパーダッシュ文庫
価格:670円(税込)
ISBN:978-4-08-630633-1

→この書籍をAmazon.co.jpで購入する


●7人の勇者,1人は偽者。果たして真実は何処に


 目覚めれば世界を地獄に変えると言われている,伝説の魔神。その復活の日が刻一刻と迫る中,人々には希望が残されていた。それが,かつて魔神を封じた聖者の力を受け継いだ勇者たち。彼らは必ず一度に6人選ばれ,また選ばれた者には6枚の花弁を模した紋章が浮かび上がることから,「六花の勇者」と呼ばれていた。

 勇者の一人に選ばれた,“地上最強”を自称する少年,アドレット・マイアは,豊原の国ピエナの姫にして,同じく勇者である少女ナッシェタニアと共に,魔神が蘇るという西の地を目指していた。2人は途中,やはり勇者であるフラミーゴルドフとの出会いを経て,ほかの勇者たちとの合流地点へとたどり着く。そこでは,残る勇者たちが一行の到着を待っていた。彼らの名は,モーラチャモ,そしてハンス――そう,6人しか選ばれないはずの六花の勇者が,7人いたのである

 驚く勇者たちを,脱出不可能な霧の結界が包み込む。結界を脱し,魔神討伐に向かうためには,7人の中に紛れ込んだ敵――勇者の偽者を見つけなければならない。議論の中,真っ先に嫌疑がかかったのは,ほかでもないアドレットだった。
 なんとか勇者たちの包囲網を脱した彼は,己の疑いを晴らすため,真犯人を見つけ出そうと決意する。しかしそんな彼の身に,本来は仲間であるはずの勇者たちの凶刃が迫る――。


●勇者たちを包む疑惑の霧を,“地上最強の男”が晴らす!


 オーソドックスな英雄譚から一転して,疑惑と不審が横行するサスペンスへと変貌する本作。疑いが疑いを呼ぶ展開の中であらわになるのは,勇者たちの意外なまでのもろさだ。

 偽者を含む7人の勇者たちは,勇者と呼ばれるだけあってとんでもない実力者ばかり。例えば〈剣〉の聖者と呼ばれるナッシェタニアは,虚空から刃を生み出すという力を持っている。ほかの連中も似たようなもので,そんじょそこらの凶魔(いわゆる魔物)相手なら,決して後れを取ることはない。

 しかし,6人のはずの勇者が7人になったことで,そんな彼らが疑心暗鬼に陥り,魔神討伐という本来の目的を忘れてしまったかのように迷走する。勇者たちの中には,実力はともかく人格的に問題のある者も多く,一枚岩というわけでは決してない。一騎当千の勇者たちが,偽者の手のひらの上で踊らされるまま,互いにいがみ合い,右往左往する様はもはや滑稽ですらある。

 そうした中で輝くのが,アドレットの愚直なまでのまっすぐさだ。“地上最強”を自称し,事あるごとにそれを強調するアドレットだが,実のところ彼は,さまざまな小道具を使いこなすのに長けているだけで,実力的には勇者たちの中でも最弱。それでも自分が地上最強であることを決して疑わず,ほかの勇者たちから命を狙われるという絶体絶命の状況にあっても,最後まで諦めることなく状況を打破しようと奮戦する。その揺るがぬ意志と信念は,彼がまた,紛れもない勇者の一員であることの証であり,そして同時に,この物語における希望でもある。


●さらなる暗雲立ち込める,勇者一行の道行きは?


 個性豊かな勇者たちに,魅力的な世界設定と見どころはいろいろとあるものの,一番の注目点はやはり「誰が偽者なのか?」という謎解きの部分にあることは間違いない。
 実のところ,作中にはあちこちに伏線が散りばめられており,その気になれば読者自身の手によって真相を看破することも可能だ。だが,しっかりと書き分けられた7人それぞれの思惑が,犯人当てを容易には許さない。

 追われるアドレット。彼を信じるナッシェタニア。彼女に付き従うゴルドフ。アドレットがなにかと気にかけるフレミー。アドレット討伐の急先鋒であるモーラ。誰かが偽者ならみんな殺せばいいという過激派のチャモ。そして,飄々としているように見えて頭が切れるハンス。めまぐるしく移り変わる視点が読者を翻弄し,まるで霧の結界のように真相を覆い隠してしまう。

 混迷の中でやがて明かされるのは,舞台がファンタジー世界であることを逆手に取った,驚くべき真相。そして,ようやくすべてが解決したと思われた矢先に判明する,衝撃の事実。それが,勇者たちの苦難がまだまだ始まったばかりのものであることを読者に突きつける。アドレットの逃亡劇の中で紡がれる,淡いロマンスも見逃せない。

 嘘と真実の間で紡がれる新機軸の英雄譚『六花の勇者』。一寸先も読めないこの物語の行く先は果たしてどこなのか,期待と興奮は高まるばかりだ。

■勇者じゃなくても分かる,山形石雄作品

『戦う司書と恋する爆弾 BOOK1』(著者:山形石雄,イラスト:前嶋重機/スーパーダッシュ文庫)
→Amazon.co.jpで購入する
画像集#002のサムネイル/これは神に選ばれし勇者達の物語。「放課後ライトノベル」第59回は『六花の勇者』で集え,6人の勇者よ! って,アレ……7人いる!?
 著者の山形石雄は1982年生まれ。『戦う司書と恋する爆弾』で第4回スーパーダッシュ小説新人賞の大賞を受賞し,2005年にデビュー。同作は全10巻の長期シリーズとなり,2009年には「戦う司書 The Book of Bantorra」のタイトルでTVアニメ化もされた。
 「戦う司書」シリーズ,『六花の勇者』両作に共通するのは,重厚かつ独創的な世界観,個性あふれる多数のキャラクターたちと,必要とあれば彼らを躊躇なく退場させていく思い切りのよさ,そして何より,しっかりとした土台の上に成り立つファンタジーであるということ。近年では貴重な本格ファンタジーの書き手の一人として,ファンからの視線は熱い。
 ちなみに,本稿の前フリで挙げたような,よりパロディ・メタ要素の強い勇者ものが,ライトノベルでも近年増加中。一例を挙げると,異世界に召喚されて魔王を倒した勇者が,元いた世界に戻ったあとで繰り広げる「強くてニューゲーム」な日々を描いた『はぐれ勇者の鬼畜美学(エステティカ)』(著:上栖綴人/HJ文庫),人間界に逃亡した魔王を追ってきた女勇者が,生活のためにテレアポで働く『はたらく魔王さま!』(著:和ヶ原総司/電撃文庫)など(後者は魔王のほうが主人公だが)。これでもごく一部なので,機会があれば本稿でも改めて紹介したい。

■■宇佐見尚也(ライター/知力25)■■
『このライトノベルがすごい!』(宝島社)などで活動中のライターにして,「放課後ライトノベル」のコロコロよりボンボン派だったほう。勇者が出てくるゲームで思い出深いのは,なんといっても「ライブ・ア・ライブ」だという宇佐見氏。「今振り返っても名言の宝庫ですね」などと軽いジャブでこちらを牽制しつつ,「原稿が上がらなくてもな…土下座すればいいんだよ! なあ…そうだろ 松ッ!!」と,ものの見事に締め切りをオーバーしてくれました。いや,松じゃないし,土下座はいらないので早く原稿をください。
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