連載
最強ヒロイン“デレちゅきさん”降臨! 「放課後ライトノベル」第51回は学園執事ラブコメ『まよチキ!』でいってみよう
毎日毎日,太陽がジリジリと照りつけ,ちょっと外に出るだけで一気に汗が噴き出す季節となりましたが,みなさまはいかがお過ごしでしょうか? この暑さにはさすがにうんざりですが,その暑さを吹き飛ばすような,いろいろな楽しいイベントがあるのも夏の魅力です。そして,そんな夏が来るたびに思うことがあります。
モテてぇ(切実)。
もう,イヤなんだよ! 海だ花火だお祭りだといろいろあっても,結局一人じゃんか! どうせ今年の夏の思い出も,せいぜいコミケ3日目に友人と行列に並んでモンハンやりながらの,
「今期のアニメはやっぱ『ピンドラ(※)』かな」
「最近は面白いオリジナル作品が多くて嬉しいねえ」
「俺たちも,生存戦略しましょうか」
「ああ,そうだな……せいぞーん,せんりゃくー!」
みたいな会話しか残らないんだよ! あとはガリガリ君をかじりながら,ゲームやってるか,ラノベや漫画読んでるだけだよ! もう夏なんか嫌いだ! 夏を満喫中のリア充どもと一緒にいられるか!
そんなバッドエンドを回避するためには,どうにかしてモテなくてはいけない。では,モテるために何をすればいいか……そうだ,執事になろう! 執事は間違いなくモテです。メイドが嫌いな男子がいないように,執事が嫌いな女子もいません。いける! 父ちゃん,俺,日本一の執事になってみせるよ!
そんな執事になりたい僕や貴方のための参考テキストとして,今回の「放課後ライトノベル」ではスバル様が執事可愛い『まよチキ!』を紹介しよう。TVアニメも絶賛放映中だよ!
※編注:2011年7月より放映中のTVアニメ「輪るピングドラム」のこと
『まよチキ!8』 著者:あさのハジメ イラストレーター:菊池政治 出版社/レーベル:メディアファクトリー/MF文庫J 価格:609円(税込) ISBN:978-4-8401-3940-3 →この書籍をAmazon.co.jpで購入する |
●チキン少年ミーツ執事少女
私立浪嵐学園に通う近衛(このえ)スバル。学園内にいくつもファンクラブが発足されるほどの美形なルックスの持ち主で,さらに成績も良くて運動神経バツグンなうえに職業は執事。非の打ちどころのないパーフェクトな存在だ。しかし,そんなスバルにはある重大な秘密があった。
その秘密に気づいてしまったのが,本作の主人公・坂町近次郎(さかまちきんじろう),通称ジローだ。校内のトイレで,鍵の壊れていた個室ドアを開けたときに,ジローはちょうどズボンを下ろした瞬間の近衛スバルを目撃する。急いでドアを閉めるジローだったが,本来そこにあるはずがないものを見てしまう。彼が目にしたのは,ネコがプリントされた可愛らしい下着。あれ,これは……。
「スバルが隠していた秘密,そう,スバルは実は女の子だったんだよ!」
「な,なんだってー!?」
という,「ベッタベタです。しかし,OKです」と言いたくなるような展開だが,秘密を抱えているのはスバルだけではなかった。ジローも,幼いころから母親と妹にプロレス技を毎日かけられ続けたせいで,女の子に触れられただけで鼻血が吹き出してしまう,極度の女性恐怖症という秘密を抱えていたのだ。こんな体質じゃ,ろくに女の子に近づけない!
そこで,この事態を面白がっている,学園いちの美少女でスバルの主人でもある涼月奏(すずつきかなで)は,ジローにある交換条件を持ちかける。それはスバルの秘密を黙っていてもらう代わりに,ジローの女性恐怖症の治療に協力しようというものだった。かくして,まったく女っ気のなかったジローの環境は,執事少女と性悪お嬢様に振り回されるラブコメ空間に変貌する。
●スバルに惹かれる,ヒロインたちに注目!
こうしてスバルとジローは学内での行動を共にするようになり,女性恐怖症の治療という名目でデートに行ったりするのだが,スバルは学園中の女子のアイドル。当然,そのことを面白く思わない人間も多数いるし,二人の関係は実はBL(ボーイズ・ラブ)なのではという,あらぬ噂まで立てられてしまう。
おかげで,スバルのファンクラブ「S4」会員である宇佐美(うさみ)マサムネは,スバルとジローの仲を裂くために,ジローに向かって「アタシと付き合いなさい」と要求してくるし,その一方で,S4と対立関係にある「スバル様を温かい眼差しで見守る会」の会長・鳴海(なるみ)ナクルは二人の関係を応援しようとしてくるしと,おかしな女子ばかりが集まってしまう。
これら個性豊かなヒロインたちとの軽い会話が,『まよチキ!』の最大の魅力と言ってもいいだろう。奏は毒舌,マサムネはツンデレ,ナクルはBL趣味でメガネフェチと,ヒロインのバリエーションも一通り揃っている。
それともう一つ,この作品を語るうえで忘れちゃいけないのが「手芸部」の存在である。ジローの妹・紅羽(くれは)も所属しているこの部活。部員は全員女子なのだが,その実態はなぜか合宿で熊と戦ったり,無人島でサバイバルしたりするバリバリの武闘派集団。しかも部内ではランキング戦が開かれており,強さがきっちり序列化されている。
戦い方も,蹴り技を得意とする者から,プロレス技を使いこなす者,生まれ持った身体能力の高さのみで戦う者まで,多数の猛者が揃っている。だが,物語の初めのうちは上位ランカーの正体は明かされていない。読者は,シリーズを読み進めながら,今度はどんな強豪が現れるのだろうと,まるで少年ジャンプを読んでいるように期待に胸躍らせることになるのだ……あれ,ラブコメどこいった?
●破壊力抜群のデレちゅきさん降臨! そしてジローとスバルの仲も発展!?
6巻のラストで家が火事になるという災難にあったために,7巻からは涼月奏の屋敷に居候することになったジローと紅羽。美少女たちと一つ屋根の下で暮らすというウキウキの展開だが,腹黒でサディストの“デビル涼月”がタダで済ませてくれるなんてことがあるはずもない。ジローは奏にからかわれたり,イジめられたり,いびられたり,果てはお嬢様大好きのヤンデレメイドに命を狙われたりと,物騒な日々を過ごすはめに。
ところが,この最新8巻では,その奏の様子が一変。8歳の頃まで記憶が戻るという幼児退行を起こしてしまう。これまでとは180度真逆の素直な態度で迫ってくる奏を,内心密かに“デレちゅきさん”と呼ぶことにしたジローは,すっかりクラクラ。だって,これまで高慢でドSな態度を取ってきた美少女が,急に頭を撫でてほしいとか,一緒に寝ようとか言って甘えてくるんですよ。仕方ないですよ。
しかし,奏の魅力にやられそうになる一方で,ジローはスバルに対する自分の気持ちに気づき始め……と,ジローを中心にしていた恋愛模様にも,ついに進展が見られ始めた最新刊。これから,きっとこれまで登場したヒロインたちが徐々にデレ始めていくのだろう。女の子がデレるってのは本当に良いものだね。これからの展開もますます目が離せないね。筆者は相変わらず一人ぼっちだけどね。
■5分くらいで分かる,執事と男装キャラが登場するライトノベル
『まよチキ!』ヒロインのスバル様が男装執事ということもあって,今回は執事が出てくるライトノベルと,男装キャラが出てくるライトノベルをご紹介。
『れでぃ×ばと!』(著者:上月司,イラスト:むにゅう/電撃文庫)
→Amazon.co.jpで購入する
まず紹介するのは,次巻の13巻で完結を迎える上月司の『れでぃ×ばと!』(電撃文庫)。名門白麗陵学院に新設された従者育成科。そこに入学した,見た目はヤンキーの日野秋晴とお嬢様たちとの交流を描くラブコメディだ。主人公以外にも執事キャラが複数いるが,その中には男装執事も。『まよチキ!』が気にいった人はこちらも要チェックだ。
次に紹介するのが,手島史詞の「影執事マルク」シリーズ(富士見ファンタジア文庫)。タイトルの影執事というのは,主の下で影のように付き従うから……ってだけでなく,影を操る能力を持つことから。マルクを始め登場人物の大半は能力持ちの,異能バトル作品だったりする。
また,男装キャラが登場するライトノベルでは,以前このコーナーでも紹介した,『東京レイヴンズ』(著:あざの耕平/富士見ファンタジア文庫)の土御門夏目や,『ゼロの使い魔』(著:ヤマグチノボル/MF文庫J)のスピンオフシリーズでもある『烈風の騎士姫』(同左)のカリーヌなどもいるが,忘れてはいけないのは時雨沢恵一の『キノの旅 -the Beautiful World-』(電撃文庫)の主人公キノ。普段は中性的であまり性別を感じさせないキノだが,スピンオフの『学園キノ』では美少女高校生の木乃として,セーラー服だったり,水着だったり,ブルマだったりと女の子らしい服装をしているぞ。
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