連載
もしゾンビ映画マニアがゾンビハザードに巻き込まれたら? 「放課後ライトノベル」第48回は『オブザデッド・マニアックス』でゾンビサバイバル
皆様はゾンビが登場するゲームといったら何が思い浮かぶだろうか?
「ザ・ハウス・オブ・ザ・デッド」「バイオハザード」「デッドライジング」「LEFT 4 DEAD」……ガンシューティングからFPSまで,多くの傑作が揃っているのだが,これらのゲームにはある共通する問題がある。それは,舞台が日本ではないことだ! 何でいつも外国が舞台なんだ!? 日本人だってもっとゾンビに襲われたいよ!
だけど,実際問題として国内を舞台にゾンビものを作るのも難しい。だって銃社会のアメリカと違って,日本人はゾンビに襲われたときに戦う手段がないからね。
そのような問題に対して,「日本でも銃器を取り扱っている人たちがいるじゃない」と対ゾンビ武器問題を解決してくれたのが「龍が如く OF THE END」である。
「龍が如く」シリーズでゾンビものをやると初めて聞いたときは,「それはどうなのよ?」と思いもしたが,実際に桐生たちを動かしてゾンビをガンガン銃で撃ち殺していくと,これはこれでアリだよなという気になってくる。そして何より嬉しいのが,今回も舞台が神室町になっている点だ。
神室町のモデルは日本最大の歓楽街・歌舞伎町である。見知らぬ海外の土地ではなく,普段見慣れている都市が,溢れかえったゾンビによって蹂躙されていく。これだよ,これこそが僕たちの見たかった景色なんだ!
さて,そんなゾンビファンの夢を叶えてくれた本作だが,ライトノベルからもそのような方々を満足させてくれる新作が登場している。それが今回の「放課後ライトノベル」で紹介する大樹連司の『オブザデッド・マニアックス』だ。
『オブザデッド・マニアックス』 著者:大樹連司 イラストレーター:saitom 出版社/レーベル:小学館/ガガガ文庫 価格:630円(税込) ISBN:978-4-09-451277-9 →この書籍をAmazon.co.jpで購入する |
●「もしゾンビマニアの高校生が現実のゾンビハザードに巻き込まれたら」
舞台となるのは,本土から南へ遠く離れた紋波島(あやなみとう)。そこのセミナーハウスには,夏休みの合宿のために大勢の高校生が集まっていた。青い空,白い雲,広がる砂浜,季節は夏真っ盛り。そうとなったら普通の若者は水着に着替えて泳ぎに行きたくなるところだが,主人公である安東丈二(あんどうじょうじ)は外にも出ずに,愛読している映画雑誌『映画秘宝』のページをめくっていた。
別に彼は合宿などに参加したくはなかったのだ。幼馴染みであり,学校の担任でもある佐武来実(さたけくるみ)によって無理矢理連れて来られただけで,本当だったら近所の映画館で行われるゾンビ特集に通いたかったのだ。
だが,彼の鬱屈を晴らすような事件がセミナーハウス内で発生する。致命傷を負って血まみれの虚ろな瞳をした人間が,ほかの人間を襲いムシャムシャ食べているのだ。どう見てもゾンビです。本当にありがとうございました。
普通このような状況に置かれたら,わけの分からないまま殺されてしまうだけである。だが丈二には大量のゾンビ映画から得た知識がある。日ごろはクラスの身分制度で最底辺の立場だが,この状況はヒーローになる絶好のチャンスだ!
3名の仲間と共に武器になりそうなものを集め,丈二たちはセミナーハウスから脱出する。無事に空き家に辿り着き,そこでゾンビの襲来に備えるのだが,数日経っても肝心のゾンビがやって来ない。
ゾンビがいなければ,ただのボンクラ高校生に逆戻りである。そこで丈二はこの場を離れ,ゾンビ映画のお約束であるショッピングモールへ行こうと提案する。ショッピングモールならば自分の学んだ対ゾンビサバイバル術が輝くはずだ!
しかし向かった先で彼らが目撃したのは,クラス委員長・城ヶ根莉桜(しろがねりお)によって完全に支配された空間だった……。異常が異常を呼ぶ状況,果たして丈二たちは無事に島から脱出することができるのか!?
●マニアックスは伊達じゃない! 溢れかえるゾンビネタの数々
「もし今,教室に突然テロリストが襲撃をしかけてきたらどうするか?」
身の回りに武器になりそうなものはあるか? 安全な逃げ道は確保できるか? テロリストをうまく誘導して,憎いあんちくしょうに意趣返しする方法は? 退屈な授業の最中には,誰もがこのようなシミュレーションをしたことがあるだろう。そのゾンビ版が本作『オブザデッド・マニアックス』である。
ゾンビを殺すためには確実に頭を潰す。ゾンビに噛まれた人間はゾンビ化する前にとどめを刺す。ゾンビに腕を噛まれないよう,なるべくリーチの長い武器を選ぶべし。籠城した時に一番注意すべきなのは,ゾンビではなく仲間割れである。
ゾンビ映画でこうした知識を得ていた主人公たちは,映画を参考にしながら冷静に事態に対処していく。この展開は,映画マニアたちを主人公にしたホラー映画「スクリーム」を思い出させてくれる。さらに丈二は,事あるごとにゾンビに関するさまざまなトリビアを披露するし,莉桜は「なぜ最近のゾンビは走るようになったか」に対して,興味深い解説をしてくれる。
“マニアックス”なのは内容だけではない。本作の章題は「これはゾンビですか?」「アイアムアヒーロー」「高慢と偏見とゾンビ」など,すべてゾンビ関連のものになっている。また今回冒頭で挙げたゲームタイトルは,どれも本作の章題に使われている。
さらに,主人公を始め主要な登場人物が,すべてゾンビ映画の有名監督から名づけられているというのも楽しい。佐武来実=サム・ライミなんてのは分かりやすいが,中にはちょっと捻ったものもあるので,映画好きな人は名前の元ネタを考えながら読むと面白いだろう。
●日常にいるゾンビと,ゾンビのいる非日常
ここまで本稿に目を通して「ゾンビとか好きじゃないし,あんまりピンと来ないなあ」という人もいるかもしれない。だが,ゾンビとはもっと身近な存在なのだ。物語の冒頭から丈二は語る。
「教室で生き残るために必要な知恵は、すべて、ゾンビが教えてくれる」
丈二に言わせれば,ただただ流行に飛びついては喰い尽くし,自分たちと異質の人間には襲い掛かって仲間になるまで許さないというクラスの連中は,ゾンビと大差ない。そして,そのような連中と一緒の日常を生き抜くうえで必要になってくるのが,ゾンビの知識なのだ。
しかし,あいつらなんてゾンビと大差ないとクラスメイトを見下しつつも,いざゾンビが大量に発生すると,ヒーローになって見返してやろうと考えてしまうあたりに,丈二の本音が見え隠れする。その気持ちは凄く理解できる。
本作は,ただゾンビハザードという非日常を扱っただけの作品ではない。非日常的な大災害を描くことで,学校生活では避けては通れぬスクールカーストの問題を浮き彫りにしようとした作品でもある。
大嫌いなクラスメイトたちに囲まれる地獄のような日常と,大好きなゾンビが溢れかえる夢のような地獄。その二つを乗り越えて,最終的に丈二が辿り着く心境には,きっと多くの読者が共感するはずだ。
■ゾンビマニアじゃなくても分かる,ライトノベルのゾンビもの
『これはゾンビですか?』(著:木村心一/富士見ファンタジア文庫)の大ヒットの影響なのか,それとも世界的にゾンビが大ブームなのか,近頃のライトノベルにはゾンビを扱った作品が大量に登場している。
『シロクロネクロ』(著者:多宇部貞人,イラスト:木村樹崇/電撃文庫)
→Amazon.co.jpで購入する
まず紹介するのは,現在最新の電撃大賞受賞作,多宇部貞人の『シロクロネクロ』(電撃文庫)。高校生の不二由真は屍霊術師(ネクロマンサー)たちの戦いに巻き込まれて死んでしまうも,シロネクロの少女・高峰雪路に蘇生され立派なゾンビに。上半身と下半身を切り離されても大丈夫です。便利ですね。けど,性欲によって肉体と魂をつなぎとめてるので,エロいことをすると死んでしまいます。不便ですね。
次に紹介するのは田口仙年堂の『Zぼーいず/ぷりんせす』(ファミ通文庫)。こちらは少年二人が,死神の姫に魂を食べられてしまったためゾンビに。不死身の体を活かして殺人鬼相手に奮闘する。二人いるので体の交換ができたりと結構融通が利きます。一人じゃないって素敵なことね。
主人公ではなくヒロインがゾンビになってしまうのが,伊東ちはやの『妹がゾンビなんですけど!』(スマッシュ文庫)。ゾンビとして蘇ったのはいいのだが,食欲と恋愛感情がごっちゃになったため「恋する妹はゾンビなのでお兄ちゃんを想うと食べたくなっちゃうの」という状態に。人肉ぐらい食べたくなるよね,ゾンビだもの。またスマッシュ文庫からは,さらなるゾンビ作品として,『奥の細道オブザデッド(仮)』が発売予定……。あれか,末尾にオブザデッドさえついていれば,もう何でもアリなのか?
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