連載
もしも子どもに戻れたら? 「放課後ライトノベル」第17回は『ココロコネクト カコランダム』でちょっぴりほろ苦い青春を謳歌しよう
やあ,みんな,こんにちは!
みんなはもう,「けいおん!!」の劇中歌集「放課後ティータイム II」を聴いたかな? オリコンの週間ランキングで1位を獲得しただけあって,素晴らしいアルバムだったね。目を閉じて,耳をすませば「けいおん!!」のあんなシーンやこんなシーン,それに唯ちゃんやあずにゃんを始めとする軽音部のメンバーの笑顔が自然と脳裏に浮かんでくる。聴いてるだけで,心がポカポカして幸せな気持ちになってくるよね。音楽って魔法だよね〜。
アニメや漫画は終わってしまい,映画の公開まであずにゃん達に会えなくて寂しい日が続くけど,「けいおん!!」が僕達に残してくれたものはきっとたくさんあると思うんだ。やっぱり放課後ティータイムは最高だよね! もちろん,「放課後ライトノベル」ってタイトルも最高だよね!!
……フウ。これで前回のフォローもばっちりのはず。大人になるってのも,いろいろと大変だぜ。まあ,それはそれとして「放課後ティータイム II」が素晴らしいのは事実であり,「けいおん!!」のアニメも漫画も終わってしまい,寂しいというのも事実。
映画が公開されるまでどうしよう……もし「ガンダムSEED」みたいに,映画化決定と言われながら,いつまでたっても映画が公開されなかったらどうしよう……。
そんな不安や寂しさに思い悩んでいる人のために今回紹介するのが,1巻の発売当時にイラストがアニメの「けいおん!!」にそっくりということでも話題になった「ココロコネクト」シリーズだ。
可愛らしいイラストばかりに目が行きがちだが,肝心の内容もイラストに負けていない。
高校生の男女5人を主役にしたちょっぴり複雑な人間関係と,毎回彼らに降りかかるさまざまな超常現象。それらが絶妙に交じり合い,独特のハーモニーを織り成すストーリーは必見だ。
そんなわけで今回の「放課後ライトノベル」では,「ココロコネクト」シリーズの最新巻『ココロコネクト カコランダム』をご紹介。
『ココロコネクト カコランダム』 著者:庵田定夏 イラストレーター:白身魚 出版社/レーベル:エンターブレイン/ファミ通文庫 価格:630円(税込) ISBN:978-4-04-726775-6 →この書籍をAmazon.co.jpで購入する |
●俺がアイツで,アイツが俺で,コイツが……えーと?
物語の舞台となるのは私立山星高校。この学校ではすべての生徒が部活への参加を義務付けられているのだが,中には既存の部活に馴染めなかったり,入ろうとしなかったりする生徒だって当然いる。そんな連中が寄せ集められてできたのが,文化研究部。通称,文研部だ。
当然,文研部に集まったのは変わり者ばかり。
ハードなプロレスオタクの八重樫太一(やえがしたいち),5人のリーダー格で男勝りの口調で話す稲葉姫子(いなばひめこ),学年屈指の美少女で常時テンション高めの永瀬伊織(ながせいおり),常に今を楽しむ能天気な男・青木義文(あおきよしふみ),元天才空手少女で今は可愛いもの好きの桐山唯(きりやまゆい)。
彼ら5人によって運営されていた文研部だったが,ある日突然,唯と青木の人格が入れ替わるという事態が発生する!
最初はすぐに収まった人格入れ替わりだったが,その後も部員内での人格のシャッフルが頻繁に発生。その原因は<ふうせんかずら>という正体不明の存在によるものだった。突然の人格入れ替わりにも,徐々に順応していった文研部のメンバーだったが,人格入れ替わりの過程で,それまで互いに黙っていたトラウマや秘密が明らかになっていく……。
これが「ココロコネクト」シリーズ第1作『ココロコネクト ヒトランダム』のあらすじだ。
男女の入れ替わりといえば,美少女の転校生と石段から転げ落ちてしまうことから始まる「おれがあいつであいつがおれで」などに見られるように,古くからある王道の展開であるが,それを5人という大所帯で行い,それぞれのキャラクターを立たせて綺麗にラストまで持っていった作者の手腕は実に見事。
そして,2作目の『ココロコネクト キズランダム』では,再び<ふうせんかずら>の手によって,「人格入れ替わり」に続き今度は「欲望解放」が引き起こされる。
突発的に欲望の制御が不可能になった結果,文研部では,稲葉が太一を押し倒したり,唯が街中で不良をボコボコにして補導されたり,感情が暴発して互いに罵り合ったりするなど,部内に険悪な雰囲気が漂い,互いに互いを避けようとする流れになっていくが……。
●もし過去をやり直せるとしたら?
そうした危機をどうにか乗り越えてきた文研部の面々だったが,最新3巻の『ココロコネクト カコランダム』ではこれまで以上の難事件が発生!
2学期の終業式の日の放課後,部室で行われるクリスマスパーティーに向かおうとした太一の前に突然<二番目>と名乗る存在が現れる。
<ふうせんかずら>と似ているようでどこか違う<二番目>によれば,太一以外の文研部メンバー4人に12〜17時の間に何かが起こるという。そして<二番目>は太一に,自分の存在を誰にも言わないように口止めをする。
部室に集まりクリスマスパーティーを開く文研部だったが,12時になった直後,突然桐山唯と永瀬伊織の姿が消える。次の瞬間そこに現れたのは子どもの姿になった唯と伊織だった。
こうして毎日12〜17時の間,突然子どもに戻ってしまう文研部のメンバーたち。これまでの「人格入れ替わり」や「欲望解放」は内面だけの変化だったが,今回は精神と一緒に身体まで子どもになり,場合によっては赤ん坊にまで戻ってしまうなど,誰にとっても変化が一目瞭然の事態に。
どうにかして,この「時間退行」現象を隠そうとする文研部のメンバーだったが,そんな状況で唯が空手を習っていたころのライバルだった,三橋千夏(みはしちか)が現れる。唯とある約束をしていた三橋は,唯が空手を辞めた理由を必死になって問い詰める。さらに子どもになった青木の発言から,青木の元カノが唯にそっくりだったということが判明。日頃,青木から熱心なラブコールを送られていた唯はそのことにひどく動揺し,唯のアイデンティティは揺らぎ始める。
青木はどうにかして,唯とのギクシャクした関係を修復しようとし,稲葉は<ふうせんかずら>が姿を見せないことに疑問を感じ始める。また,伊織の家庭ではかつて父親だった男がやってきて,剣呑な事態に……。そして太一が<二番目>の存在をほかの部員に伝えた瞬間,文研部の5人にさらなる変化が起こる……!
●青春の5角形のバランスは如何に?
「ココロコネクト」シリーズでは,世界の運命を揺るがす大きな出来事が描かれているわけではない。主人公たちが特別な力に目覚めるということもない。あくまで普通の高校生5人が,謎の存在である<ふうせんかずら>によって奇妙な事件に巻き込まれるだけである。
普段は友達づきあいをしていても,すべてをさらけ出すというわけではないし,むしろ友達だからこそ見せたくない顔だってあるわけだが,<ふうせんかずら>によって,そのような上辺はあっさりとっぱらわれてしまう。その結果,彼らは己のトラウマや,誰にも見せたくなかった一面を見せてしまうことになる。
それにより,時にはいがみあったりもすれば互いに傷つけあったりすることもある。だが,それでもそれぞれが互いに向かい合って,前に進もうとする姿には胸が打たれる。
等身大の文研部のメンバーがそれぞれ抱える葛藤や悩みは,年齢の近い読者の共感を生むだろうし,彼らと離れた年齢の読者にすれば,かつての瑞々しい気持ちを思い起こさせてくれるはずだ。
果たして,彼ら5人が今後どのような事態に巻き込まれるのか,そして男女交えた5人の仲はどのように進展していくのか。そういった点も踏まえて見守っていきたいシリーズだ。
■個性的な作品が揃った,第11回えんため大賞受賞作をチェック
「ココロコネクト」シリーズは第11回えんため大賞で特別賞を受賞した作品だが,第11回えんため大賞ではそれ以外にも個性的な作品が受賞している。まずは優秀賞を受賞した本田誠の『空色パンデミック』。突然妄想世界の住人となってしまい,場合によってはその妄想が他人にも伝染するという「空想病」をメインアイデアにした本作は,セカイ系ブームも去りつつある昨今に,あえてセカイ系のアイデアを詰め込んだ意欲的な作品。ヒロインの結衣が発症する妄想がいかにも中二病的なのもいい感じ。現在3巻まで発売中。
『空色パンデミック』(著者:本田誠,イラスト:庭/ファミ通文庫)
→Amazon.co.jpで購入する
同じく優秀賞を受賞したのが,綾里けいしの『B.A.D.』。空から内臓がボトボト降って来たり,しゃれこうべが笑ったりと,様々なホラーな事件が描かれるが,ゴスロリ少女の繭墨あざかを始め,ほとんどの登場人物が悪意を包み隠さずさらけ出しているのが事件以上に恐ろしい。こちらも現在3巻まで出ている。
そして,異色といえば異色なのが,東放学園特別賞を受賞した大橋英高の『U.F.O. 未確認飛行おっぱい』。主人公の持つ能力が,「おっぱいを揉むとそのおっぱいを大きくできる」で,仲間になるのはおっぱい石から現れた乳神様。そして,戦う相手はタイトルにもなっている未確認飛行おっぱい,すなわちU.F.O.……。とにかく,おっぱいがいっぱいの小説。読んでいておっぱいという単語でゲシュタルト崩壊すること間違いなし。現在2巻まで出ているぞ。
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