インタビュー
画面には描かれない男同士の友情を読み取ってほしい──「龍が如く OF THE END」で長濱友昭役を演じた,杉本哲太さんへのインタビューを掲載
長濱は桐生一馬に憧れて極道の世界に入ったという設定のキャラクターで,本作の体験版をプレイした人なら分かると思うが,秋山 駿のパートナーとして,プレイヤーをサポートする重要な役割を務めることとなる。
○長濱友昭(ながはま・ともあき)[声・杉本哲太]
東城会直系真島組の末端構成員。
武闘派を謳う真島組の中にあって、さほど肝も据えてはいないが、要領よく長年、極道として生きてきた。
堂島の龍と呼ばれた桐生一馬に憧れて極道の世界に入ってきたという。神室町の裏事情に精通し、シノギに関してもわりあい器用にこなす。めざましい成果をあげるほどではないので出世はしないが、意外と上の幹部からは目をかけられている。
2011年4月、ゾンビによる非常事態の中、秋山駿と運命的な出会いを果たす。
ガチガチの極道ではなく,人間としての愛らしさを現した長濱の役作り
4Gamer:
本日は,よろしくお願いします。
杉本さんは,ゲームへの出演は初めてとのことですが,ご自身がCGになった姿を見てどう思いました?
映像を見せていただきましたが,顔の再現度が凄いですね。実際にああいった形で自分がゲームの世界に出ているというのは,何というか複雑な気持ちです。
4Gamer:
CGとご自身の演技はマッチしていましたか?
杉本さん:
収録時は脚本しかなくて,絵を見ずに声だけを入れたんです。これはゲームならではのやり方で面白くはあったのですが,どれだけ差が生じるか見えないな,という部分があったというのも正直なところでした。その予想は,ある意味,当たっていたといえます。
4Gamer:
ギャップというか違和感を感じたわけですか。
杉本さん:
事前に「龍が如く」シリーズを一通り見て,どんな世界観でどういった役を求められているかは把握していたつもりだったのですが,やはり絵を見ないことには……。
4Gamer:
杉本さんは,テレビ番組のナレーションもされていますよね。同じ声だけといっても,やはり今回の収録とは違ったのでしょうか。
杉本さん:
ええ。絵を見ないでナレーションを入れるということは,あり得ませんから。ナレーションは絵を見ないと絶対できませんよ。
今回の仕事に関しては,脚本があるだけであとは自分の想像力が頼りでしたから,非常に不安でしたね。
4Gamer:
そうした中で,長濱友昭という役を作るにあたり,どんなことを考えました?
大まかな長濱像──極道ではあるけれども,ガチガチに固めず,柔らかい感じが出せたらいいな,と思っていました。
収録前に,名越さんをはじめとしたスタッフの皆さんと「極道モノといえども,人間味のある内容にしたい」という話をしていたんです。それを踏まえて,人としての愛らしさ,人間っぽさがあればあるほど,キャラクターの振れ幅が大きくなるだろうと考えました。
4Gamer:
長濱を演じるうえで,どのような点に気をつけましたか?
杉本さん:
やはり声だけの演技ですから,メリハリや滑舌を気にしました。また滑舌が良くても耳障りがよくない,というようなケースもありますよね。あえてそうした方がいい場合もありますが,今回は,ゲームで遊んでいるときに邪魔にならないよう,できるだけ明瞭になるよう心がけました。
4Gamer:
それ以外に,名越監督から何かリクエストはありましたか?
杉本さん:
特になかったんですよ。秒数の問題などで,長いセリフを巻き気味に喋って欲しいというくらいで。あとは「今度,飲みに行きましょう」と誘われたくらいですね(笑)。
4Gamer:
ちなみに,長濱はゲームの序盤から出てきますが,最後まで生き残るんでしょうか?
杉本さん:
いえ,僕は聞いていないんです。ゾンビになるのかならないのか,もしなってしまったとしたら人間に戻れるのかどうかは気になりますね。
ゾンビになったら,撃たれて殺されることもあるんでしょう? そうなったときにゾンビのまま終わるのか,それとも人間に戻って成仏できるのか,凄く気になりますね。
4Gamer:
長濱の,いかにも極道といった衣装に感想はありますか?
杉本さん:
最近は,あまり見ないファッションかもしれませんが,まあいいんじゃないですか? 僕は青が好きですし(笑)。
4Gamer:
石橋蓮司さんや的場浩二さん,栗山千明さんなどの出演者の方のCGをご覧になって,どう思われましたか?
石橋さんの,たこ焼き屋のおやっさんなんか,ほとんどまんまですよね(笑)。
的場くんや,栗山さんもそうですけど,ちょっと不思議な感じです。本人なんだけど,本人じゃない。皆,神室町の住人になっていて,何ともいえない気持ちになります。
ゲームに出演したことで見えてきた役者としての新たな課題とは?
4Gamer:
今回の出演依頼が来たのは,いつ頃だったんですか?
杉本さん:
2010年の5月です。これまでやったことのない仕事でしたし,自分の容姿が最新の技術を使ったゲームの中に出てくるのはどんなものだろうという単純な興味もありました。それで,ぜひ参加させていただきたいと。
「龍が如く OF THE END」は,神室町という街にゾンビが大量発生するという設定で,そこに極道が組み合わさるという設定について,どう感じました?
杉本さん:
ゲームの舞台“神室町”で一番強い存在といえば,極道です。その極道が,さらに強いであろうゾンビと戦うことになるという構図は面白いと思いましたね。
4Gamer:
収録には,どのくらいかかったんですか?
杉本さん:
顔のスキャンやコメント撮りも含めて,1日がかりでした。
大変だったのは,驚いたときなどの,ちょっとした声を何パターンも演じたことですね。「あっ」「イテっ」「あっちだ」といったような声を,それぞれ5〜6パターンずつやって,「もう,これ以上引き出しがありません」という状態になりました。台本よりも,そっちの声の方が多いくらいでしたから。
実は,事前にそういった声の収録をするとは聞かされていなかったので,現場では「騙された!」と思いましたよ(笑)。
4Gamer:
長濱は,主人公のうちの一人のパートナーとして,行動を共にしてくれるキャラクターということで,そういったセリフがあったんでしょうね。演技を基本に構成されるイベントシーンとは違って,バトル中にゾンビに攻撃されたら,状況やタイミングに合わせた声が必要になってきますし。
なるほどねえ。現場では,そこまで具体的な説明がなかったんですよ。
現場では,声だけでいろいろ演じ分けるというのは本当に技術のいる,プロフェッショナルな仕事なんだなあ,とあらためて思いましたね。
僕は二十歳くらいのときに,映画「アウトサイダー」でマット・ディロンが演じたダラス役のアテレコをやったのですが,そのとき「これは難しい。こんな領域に来ちゃいけない」と思ったんです。
というのも,アテレコでは,絵を見て脚本を読んだのでは遅いので,何かほかのタイミングを見つけなきゃいけないんですよ。それが難しくて,当時一緒にやった声優さん達には,本当に申し訳ないと思っていました。
それっきり,僕はアテレコはやってないんです。今回も,少しそれに近い気持ちがあるかもしれません(笑)。
4Gamer:
また今度,「龍が如く」シリーズからオファーが来たら,出演されますか?
杉本さん:
それはもう,ぜひ。
僕としても,今回出てきた課題をクリアしたいですから。自分自身が,より満足のできる,もっと完成度の高いものを目指したいと思っています。
やはり見ていると,セリフと口元がちょっと……。実際に絵を見て声を当てることができれば,もっとマッチするんでしょうね。ゲームの技術が進化する中で,僕の技術でコンマ何秒という遅れを解消するのが一つの課題です。その大前提として,まずゲームをやらないといけませんね(笑)。
4Gamer:
杉本さんは,普段ゲームで遊ぶことはあるんですか?
杉本さん:
今は全然やらないです。でも,それは嫌いということではなくて,タイミングが合わないというか。家には何台かゲーム機がありますし,子供達も携帯ゲーム機を持っていますから。
僕自身,それこそ「スペースインベーダー」とか「ブロック崩し」の世代ですし,ファミコンやスーパーファミコンもやっていました。「スーパーマリオブラザーズ」などにハマっていましたから,タイミングさえ合えばまた遊ぶと思いますよ。
もしかしたら「龍が如く OF THE END」も,遊んだらすごくハマるかもしれない(笑)。
4Gamer:
それでは少し,杉本さん自身のことについても聞かせてください。杉本さんというと,ここ数年では官僚やエリートビジネスマンのようなインテリの役が多いと思っていたので,極道役をやるというのは少し意外に感じたのですが。
杉本さん:
そんなことはないですよ。映画では「あしたのジョー」の安藤洋司や「アウトレイジ」の小沢のようなダーティな役もやっていますし,テレビドラマでも刑事役をやったかと思えば,次に犯人役をやったりしています。あっち側とこっち側を行ったり来たりしている感じですね。
4Gamer:
そういったように,杉本さんが役者を続けてきて,これからも続けていく中で,面白いと感じているところはどこでしょう?
ドラマにしても映画にしても,そしてゲームにしても,何もないところから立ち上げていくわけですが,自分一人ではできません。
監督,俳優,スタッフ,そのほかいろいろな部署の方が集まって,一つの作品を作り上げていく。各パートの方が集まって,意見を出し合い,ぶつけ合いながら作品を作っていく現場からは刺激が生まれます。
その刺激によって,「こういう面白さもあったな」というように,人それぞれが変わっていく。それが短い期間で行われるという面白さがありますね。常に出会いがある,というか。
4Gamer:
それでは最後に,4Gamerの読者に向けて,「龍が如く OF THE END」で,ここに注目してほしいというところを教えてください。
杉本さん:
石橋さん然り,的場くん然り,まずは僕ら俳優がゲームの世界に出ていることを楽しんでください。
また僕が演じた長濱に関していうなら,直接描かれてこそいませんが,男同士の友情の部分を表現したつもりです。そういった絵に出ていないところを感じ取っていただければ,と思います。
あとは,ぜひ長濱と長い時間一緒に過ごして,いろいろなセリフのパターンを楽しんでください。
4Gamer:
ありがとうございました。
残念ながら,スケジュールなどの都合で事前にゲームに触れることができなかったという杉本さん。このインタビューは多忙の中で時間をいただいて行ったのだが,杉本さんは何度も「実際にゲームをやってから臨みたかった」と話しながら,質問の一つ一つに真摯に答えてくれた。
このインタビューからは,そうした杉本さんの誠実な人柄や,役者という仕事に対するこだわりを感じられるのではないだろうか。杉本さんが熱意を込めて演じた長濱の姿を,ぜひゲーム本編で確認していただきたい。
「龍が如く OF THE END」公式サイト
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