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テンポの良さ,爽快感,そしてバカバカしさ。「NO MORE HEROES 2 DESPERATE STRUGGLE」はなぜ最高峰のアクションゲームになったのか,須田剛一総監督にズバリ聞いた
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印刷2010/10/21 10:00

インタビュー

テンポの良さ,爽快感,そしてバカバカしさ。「NO MORE HEROES 2 DESPERATE STRUGGLE」はなぜ最高峰のアクションゲームになったのか,須田剛一総監督にズバリ聞いた

なぜバックドロップなのか?

今回も垣間見られるプロレス技へのこだわり


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4Gamer:
 今回,ゲームを進める過程で新たなビーム・カタナを入手して,二刀流も可能になりますよね。
 ……実はあまり使わなかったのですが。

須田氏:
 え,そうなんですか?
 じゃあ長いビーム・カタナで進めたんですか? 確かに強いですけれども。

4Gamer:
 はい,主にそちらでポンポンと。
 二刀流は攻撃が軽い気がするんですよ。

須田氏:
 なるほど,面白い。なかなかオツなスタイルですね。
 でも,二刀流もなかなかいいですよ。

4Gamer:
 やはり開発側としては,二刀流を使ってほしいという意図があったんですか?

須田氏:
 二刀流は爽快感を演出できますから,推しています。
 ただ,戦いによって,いろいろ持ち替えてもらうのが理想です。まあ僕も二刀流ばかり使っていますが(笑)。

4Gamer:
 個人的にはプロレス技を使いたいというのがあって,ビーム・カタナは何でも良かったんです。それよりもバックドロップを使いたくて。

須田氏:
 ああ,そうでしたか(笑)。それは嬉しいなあ。

4Gamer:
 ビーム・カタナは,あくまでバックドロップへの繋ぎみたいな感じで。

須田氏:
 多分,あんまりいないですよ,そういう人。

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4Gamer:
 えっ。やはりプロレス技を使うプレイヤーは少ないんですか?

須田氏:
 ええ,そう思います。使わなくてもクリアできますしね。

4Gamer:
 そうですか……。
 ところで今回,バックドロップの種類が多彩ですよね。前作は“七色のスープレックス”でしたが,今回はまさに“七色のバックドロップ”という感じで。
 ルー・テーズ式の“へそ投げ式”だ! とか,新たなバックドロップを覚えるたびに興奮しました。

須田氏:
 へそ投げ式は,僕の中ではジャンボ鶴田選手なんですけど,ベースはルー・テーズですよね。
 確か,ジャンボ式とルー・テーズ式はちょっと違うんですよ。今回,そこまで表現できたかというと,難しいのですが。

4Gamer:
 なぜ,今回はバックドロップにこだわるんでしょう?

須田氏:
 僕自身,バックドロップが好きなんです。
 世代的に長州 力選手の“捻り式”も見てきましたし,蝶野正洋選手の低空バックドロップも美しいですし。
 やっぱりプロレスを象徴する技といえば,バックドロップだと思うんです。

4Gamer:
 バックドロップ一つとっても,使い手によってさまざまですしね。

須田氏:
 ええ。その中でもアマチュアレスリングベースのバックドロップの達人──鶴田選手も長州選手も永田さんもそうですが──には,一連の系譜がありますよね。

4Gamer:
 確かに。ただ,バックドロップホールドには解せないものがありますが(笑)。

須田氏:
 そうなんですよ。ホールドに向いてるわけじゃないですよね。

4Gamer:
 それはともかく,大型のザコにプロレス技を使おうとすると,キャプチュードばかりになるのは,何か意図があるんですか?

須田氏:
 あれは単にモーションの都合です。あまり多く用意できないんで。

4Gamer:
 あ,じゃあ理想的な前田日明 vs. アンドレ・ザ・ジャイアントを意識したわけではないんですね。

須田氏:
 ええ。ほかの技だと,トラヴィスの身体が相手にめり込んでしまったりして実現が難しかったんです。
 でもキャプチュードだと現実的に掴んで投げられるんですね。そういう意味でも本当に最強の技ですよ。

4Gamer:
 キャプチュードを出すたびに,頭の中では前田日明のテーマ曲が流れます。


アクションゲームだけに難度調整は慎重に

須田氏自身が直接指示する部分も


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4Gamer:
 そのほか実際にプレイして,今回は,チュートリアルがいきなりスケルター・ヘルター相手のボスバトルであることに衝撃を受けました。
 前作ではチュートリアルもけっこうコッテリとしていた記憶があるんですが。

須田氏:
 チュートリアルだけ切り分けてしまうと,ゲームへの没入感が薄れてしまうんですよね。
 本来,戦い方は戦いながら覚えていくのが自然ですから,自然な形にしました。

4Gamer:
 とはいえスケルター・へルターって,実は強いですよね。難度を上げるとよく分かります。

須田氏:
 難度を上げると,技にすきがないんですよね。当初はノーマルモード(MILD)でもそうだったんですよ。開発現場にいると,何百回も繰り返してプレイするので,難度の感覚が麻痺するんです。大げさでなく,寝ててもクリアできるくらいになっちゃうんですよね。だから,麻痺した感覚で調整したアクションゲームは大変な難しさになります。
 しかし初めてプレイする人は,当然そうじゃないですよね。スケルター・へルターは,NMH2を買ってくださった皆さんが最初に戦う相手です。開発終盤はそれを意識して,流れができるよう難度を調整していました。

4Gamer:
 一度クリアしてから,ハードモード(BITTER)でも挑戦したんですが,最初のスケルター・へルターで挫けそうになりました。でも,何度もやっていると勝てるようになるものなんですよね。

須田氏:
 ええ,そうなるように作っています。

4Gamer:
 ジョブミッションの8bit風ゲームも絶妙でした。ああ,昔のゲームってこうだったなぁっていうのが,見た目だけじゃないんですよね。

須田氏:
 あれは当たり判定の調整がとくに難しかったですね。今や,スーファミ,メガドラ時代のドットゲーム開発のノウハウを持っているスタッフがほとんどいなくて……僕を含めて4人くらいかな……。
 そこでベテランのスタッフに調整の方針を伝えて,当たり判定に関してもプレイヤーキャラクターと敵とで変えています。例えば,現実に当たった瞬間に自分が即死してしまうような判定だと,恐ろしく難度の高いゲームになってしまうんです。そこで,キャラ全体の3分の1くらいまでは判定しないようにするわけです。
 十字キーの斜め入力を縦横どちらに判定するかも,この角度までは縦,ここからは横と,指示を出しました。些細なことが操作の気持ち良さに直結するんですね。

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4Gamer:
 見えないところに,そんな苦労が。

須田氏:
 自分でも久しぶりの作業なので,実際に動かしながら「ああ,この感覚は,ここがおかしいせいだ」と思い出しながらやっていました。でも,楽しかったですね。

4Gamer:
 今のアナログコントロールスティックに慣れていると,十字キーのデジタル入力では思うように動いてくれないもどかしさがあるんですよね。それこそが,面白さでもあるんですが。

須田氏:
 今回,ジョブミッションのうち3種類は8bitでやろうと考えていました。実は前作の時点でもやりたかったことなんですが,そこまでの余力と期間がなかったんです。
 今回は,8bitに愛を持ったスタッフが多かったこともあって,アイデア出しも含めてどんどん作業が進みました。気が付いたら,ジョブミッションだとサソリ駆除以外は全部8bitになっていましたけど(笑)。

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4Gamer:
 肉を焼くバイトミッションも面白いですよね。微妙な色の違いを見分けるという。

須田氏:
 あれは良くできていますね。いいアイデアです。

4Gamer:
 そうそう,ジョブミッションを始めるとき,なぜかカートリッジに息を吹きかけるSEが入るというのにも笑いました。

須田氏:
 そこはメタ視点というか,脳内妄想的な演出ですね。
 ゲーム内のトラヴィスは,ゲームじゃなくて仕事を始めるわけですから(笑)。


Wiiリモコンでの遊び方からサインボードのアナグラムまで

随所に仕込まれたエッセンスを楽しもう


4Gamer:
 今回,海外での発売が先で,日本は最後になってしまいましたが。

須田氏:
 それは「RADIO 4Gamer」でも説明させていただきましたが(本日22:00〜22:30放送),「アイアンマン 2」を意識した流れです。アメリカ,ヨーロッパと来て,最後に日本という(笑)。
 実際お待たせしてしまいましたが,「限定コレクターズBOX」は日本だけのものですよ!

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4Gamer:
 予約済みです!
 そういえば,前作の移植版もXbox 360で遊んでみたんですが,NO MORE HEROESシリーズは,Wiiでプレイするのが一番しっくり来ますね。操作性という意味で。

須田氏:
 そうですね。前作の企画段階でWiiリモコンとヌンチャクを使っていかに面白く遊ばせるかを突き詰めましたから,操作の親和性が高いです。
 それはNMH2になっても変わらないですし,むしろもっと面白くしたいと考えました。作ってみたら,意外な気持ちよさもありましたね。

4Gamer:
 プロレス技を出すときに表示される矢印の方向が,いちいち理に適っているんですよね。腕を回す方向がこうだから矢印はこっち向き,みたいに。
 中でもキャプチュードの出し方は好きです。「そうか,脚と首を抱えるから矢印はこうなんだ!」って思いました。

須田氏:
 あれも全部指示を出しました。最初は全部違ったんですよ。「何でこうなの? こうなんだから,矢印はこっちじゃん」「ハァ,そうですか。お好きにどうぞ」のようなやり取りがあって(笑)。
 ただ,プロレスを知っている人間にとっては大事なことです。それは“魂”ですから。

4Gamer:
 あまりプロレスの話ばかりしていると,各方面から怒られるので話を変えますが,トラヴィスのところにシルヴィアが来たとき,モーテルが揺れてサインボードが落ちますよね。
 それで「NO MORE HEROES」の文字が,「MORE ERO S」になりますが,このアイデアはいつ頃思いついたのですか?

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須田氏:
 あれはずっと何かできないかと考えていて,白組さんと絵コンテの打ち合わせで話しているときに「看板を落とそう」というアイデアが出たんです。さらにアナグラムをやろうという流れになって,確か白組の井上さんが「MORE EROS」になるって気付いたんじゃなかったかな?
 それで皆盛り上がって,満場一致で決まりました。

4Gamer:
 ああ,その瞬間まで気づいてなかったんですね。

須田氏:
 ええ,そのカットシーンについて話し合うまでは気づきませんでしたね。

4Gamer:
 前作から同じ場所にサインボードがあるので,「いつかそういう使い方をしてやろう」と目論んでいたのかと思っていました。

須田氏:
 そうじゃないんですよ。でも,いい形で使えたんじゃないかと思います。

4Gamer:
 前作からのトラヴィスの苦労を知っているとジーンと来る場面なんですが,同時に笑わせられるという(笑)。

須田氏:
 いいシーンですよね(笑)。

4Gamer:
 ちなみにシリーズを企画するにあたって,影響された映像作品として映画「エル・トポ」を挙げていらっしゃいますよね。

須田氏:
 ええ,奇跡のコラボレーションを果たして,先日,トークショーにも出演しました。
 これは本当にたまたまで,トークショーでも話した通り,前作の企画段階で「エル・トポ」「ジャッカス」「スター・ウォーズ」をコンバインしたゲームを作ろうと考えたんです。
 僕がダイレクトに影響を受けたものを,サンプリングしていこうという世界観だったわけですが,今回は本当に奇跡のようなタイミングで「エル・トポ 製作40周年デジタルリマスター版」の上映と重なりましたね。

4Gamer:
 ほかにも日本のインディーズ映画「SR サイタマノラッパー」とコラボしていますよね。

須田氏:
 こちらも縁があってのことですが,主人公の行動理念がNO MORE HEROESと同じなんです。
 寂れた街でくすぶっている若者達が──つまりモテないヤツらが,片やラップで片やビーム・カタナで成り上がっていくという内容なわけですよ。そこが凄くシンクロしていて,面白いコラボレーションになっていると思います。

4Gamer:
 グラスホッパー・マニファクチュアとして,あるいは須田さん個人として,こういったコラボの向こう側に何か新たな展開を考えているんですか?

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須田氏:
 特にそういうわけではないんです。ただ,こういった映画とビデオゲームの関係というと,海外だと親和性も高く,ビッグなコラボを展開していますが,これまで日本ではあまりありませんでした。
 しかし最近,日本でも映画文脈からのビデオゲームに対する注目も非常に増えて,面白いことができるようになっています。今回,それをNO MORE HEROES 2で実現できたので,いろいろやってきてよかったなあと思っているところです。

4Gamer:
 NMH2の限定版には映像特典として「NO MORE HEROES 1.5」が付属しますが,須田さんには映像作品をやりたいという願望はあるんでしょうか。

須田氏:
 無論,挑戦してみたいですが,自分にとってのベースメントは,あくまでもビデオゲームですから。モノを作っていく流れの中でチャンスがあれば,考えてみたいという程度です。

4Gamer:
 例えば,すでにストーリーなどの構想はお持ちなんですか?

須田氏:
 こういうことをやりたい,こういう話を書きたいというのは常にたくさんあります。
 ただ僕の場合は,ビデオゲームを前提としたストーリーなんです。ビデオゲームの表現力が上がって映画との親和性が高まったとはいっても,大前提はビデオゲームなんです。
 でも最近,僕の作るものに対して,映像作品にすべきだといってくださる方も増えましたし,ビデオゲームも映画も根源的には同じだと思うようになりました。

4Gamer:
 ということは,将来的にゲーム以外に挑戦する可能性もゼロではない……と。

須田氏:
 ただ,やはりタイミングと時間次第ですね。

4Gamer:
 では,ゲームや映像作品以外でやりたいことはありますか?

須田氏:
 うーん,難しいですね。僕は絵も漫画も描けないので,一人でやるなら活字を書くことでしょうか。これもタイミングと時間次第で,いつか挑戦したいです。
 あとはまだまだ先の話ですが,コザキさんと一緒に短編の漫画をやる話があるんです。そうなると連載もやってみたいですね。

4Gamer:
 それはかなり読みたいです!
 では最後に,NMH2に期待している人に向けて,メッセージをお願いします。

須田氏:
 前作は,3年前に発売したゲームです。僕自身,これまで続編を作る機会はあまりなかったんですが,今回はその楽しさを体験することができました。
 また,NMH2を作っていく過程で,アメリカやヨーロッパの反響も含めて,ファンが増えて,どんどん盛り上げてくださるのを感じることもできました。
 NMH2は,Wiiのゲームの中で最高峰のアクションゲームを目指したタイトルです。その目標にかなり近づけたんじゃないかという実感がありますし,いろんなものを詰め込んだつもりです。こういった,爽快感やバカバカしさがギッシリ詰まったゲームというのは,なかなかないんじゃないかと思いますので,ぜひ早めに買ってください。

4Gamer:
 早めに,が重要ですね。

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須田氏:
 ええ。というのもNO MORE HEROESシリーズは,その瞬間だから得られるパッションででき上がっているゲームなんです。
 同じチームで作ったとしても,次回作は大きく違うものになるでしょう。現時点で予定はありませんが,もし今後3を作ることになるとしても,タイミング次第で違うものになるでしょう。
 ですから今は,NMH2を作ったときのパッションを,そしてWiiでしか得られない爽快感を,多くのプレイヤーの皆さんに感じてほしいです。

4Gamer:
 先に一通りプレイした者として,同感です。
 今日はありがとうございました。


 須田氏は多趣味で,さらにそれぞれに対する造詣が非常に深い。そのエッセンスが随所に仕込まれ,しかも入念に作り込まれているというのが,須田氏率いるグラスホッパー・マニファクチュアのタイトルが持つ大きな特徴であり,NMH2はその代表といえる内容に仕上がっている。それが,このインタビューから少しでも伝われば幸いだ。

 なお,須田氏が最後に言及したNO MORE HEROESのナンバリングタイトルの今後については未定であるという。仮に手がけることになるとすれば,NO MORE HEROESというIPが重要なものなったとき,あるいはグラスホッパー・マニファクチュアが大きな存在になったときというように,何かしら節目を迎えたタイミングになるのではないかとのことだ。
 もちろんNO MORE HEROESはトラヴィスの物語であるからして,主人公は彼しかいないだろう。トラヴィスがどんな活躍を見せるのか,ファンとしては少々気になるところだが,まずは日本で発売されたばかりのNO MORE HEROES 2を堪能しよう。

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