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今後のPlayStationプラットフォームは,どのような道を模索していくのか――SCEJプレジデント河野氏に聞く,PS Vitaの今と,PlayStationプラットフォームのありよう
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印刷2012/08/09 11:30

インタビュー

今後のPlayStationプラットフォームは,どのような道を模索していくのか――SCEJプレジデント河野氏に聞く,PS Vitaの今と,PlayStationプラットフォームのありよう

PS Vitaにおける「ネットワーク」の重要性――3G通信であることの必然性


4Gamer:
 そういえば,オンラインでの課金ビジネスモデルも,ここ最近の無視できないファクターですし,PS Vitaはネットワーク機能が大きな特徴ですが,ちょっと前にドコモから「6月期限切れのPS Vita回線のうち,10万を超える回線数が契約更新されなかった」と表明されました。あのあたりに関しては,何かてこ入れを考えていますか?
 「楽しもう3G」みたいな企画があったことは重々理解しつつ,もうちょっと大枠のお話をお聞かせいただければ,と思いまして(編注:インタビュー後に,第二弾も発表されたようだ)。

画像集#020のサムネイル/今後のPlayStationプラットフォームは,どのような道を模索していくのか――SCEJプレジデント河野氏に聞く,PS Vitaの今と,PlayStationプラットフォームのありよう
河野氏:
 PS Vitaのオンライン接続には,3Gのネットワーク接続と,いわゆるWi-Fi接続がありますよね。ドコモさんとはしっかりパートナーシップを結ばさせていただいて,いろんな先々の話をしながら進めているのですが,やはりそこで出てくるポイントは「3Gであることの必然性」なんです。
 例えば,ワイヤレスアクセスのポイントが増えれば増えるほど,接続のされ方が多様になりますから,その接続が3Gである価値を,費用対効果も含めてどうやって出していけるかですよね。そしてそれは,ゲームの作り方にも影響してきますし。

4Gamer:
 確かにそうですが,ちょっと言葉を変えると「どこでも繋がることがメリットであるゲーム」が出たときに,初めて3Gの価値が生きるわけですよね。でも現時点では,そういう作品があまり見当たりません。その意味において,このあと何かSCEとして考えているのかというのを聞いておきたかったんです。

河野氏:
 それは,もちろん考えてますよ。でもそれはウチだけで考えているというよりは……。

4Gamer:
 そうですね,むろん他社さん含め,ですね。

河野氏:
 ええ。共通の課題として,何ができるのか,どんな価値が提供できるのか。3Gだったらこんなことができる。ユーザーさんからも,「3Gじゃないといけない理由を教えて下さい」という声は多かったんです。
 絶対に3Gですという,強烈な理由や説得力は,まだまだこれからさらに積み上げていかなくてはならないと思っています。とはいえいろいろな販売努力もあって,3G版の比率は結構上がってきていますよ。

4Gamer:
 ……話してて思い出したんですけど,サムドラや,最近だとシェルノサージュシェルノサージュ〜失われた星へ捧ぐ詩〜)なんかは,3Gであることが生かせるコンテンツですよね。

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「シェルノサージュ 〜失われた星へ捧ぐ詩〜」
(C)GUST CO.,LTD. 2012

河野氏:
 確かにそうですね。ああいうタイプの「すごく興味のある人に強烈に響く」コンテンツが,実はPS Vitaには多いんですよね。

4Gamer:
 それがPS Vitaの魅力ともなってるわけですが,より広く多くの人にリーチするコンテンツも必要になりますよね。

河野氏:
 はい。そういう作品が大事な層を捕まえてくれて,お客さんを誘引してくれているのは事実ですし,とてもありがたいことだと思います。
 しかし,それがトータルの勢いになるためには,確かにまだまだタイトルを出さなくてはいけないだとか,ネットワークを使って遊べる価値を提供しなくてはいけないだとか,やらなきゃいけないことがいっぱいあるかな,というところです。

4Gamer:
 まだまだPS Vitaは発展途上である,と。まぁでも登場してからまだ8か月ですしね……。

河野氏:
 ええ。もちろんこの業界を活性化させたいという思いはあるんです。日本全体がすごく「下がって」きていて,何をやるにしても縮んでるじゃないですか。経済全体もそうだし,この先どうなるの? という不安だけがあって。

4Gamer:
 全体がまだ下がり基調ですし,ゲーム業界だけ難を逃れられるわけでもないですよね。

河野氏:
 ええ。日本そのものがどんどん下がっているわけですから。
 それで,下がっているときに何かが起きるとしたら,やはりイノベーションがあって,そこで急上昇するチャンスが出てくると思うんです。それはゲーム業界で言うなら,さきほどのようなコンテンツでしょうし,そのコンテンツのイノベーションが何に誘発されるかというと,新しい技術だったり通信機能だったりすると思うんですよね。

4Gamer:
 いまSCEが抱えている,そこに対するアプローチの先鋒がPS Vitaというわけですね。

河野氏:
 PS Vitaの持っているポテンシャルというのは,すごく大きいと思っています。まだまだ時間が足りていませんが,PS Vitaが業界を活性化する可能性を秘めていると思っています。
 例えばここで,PS VitaがただのPSPの延長線上にある後継機という位置付けだったとしたらどうでしょう。100%互換だったりすれば,それはそれでいいかもしれませんけどね。

4Gamer:
 まぁ「そこそこ」いいマシンではありますね。たぶん私は買います(笑)。
 ……でもそれでは,イノベーションをもたらすハードウェアにはなり得ませんね。

河野氏:
 ええ,そこそこなんですよね。業界を少しは盛り上げるかもしれないけど,急上昇はできないでしょう。PS Vitaにはスペック的にいろいろと出来る可能性があって,この良さを,何とかしてユーザーさんやクリエイターの方にも知ってもらって,こっち側に入ってこられるようにしなきゃいけいない。そのためにやるべきことって,本当にいっぱいあるんですよね。


既存のビジネスモデルにオプションを――ゲーム機のコモディティ化は避けねばならない


4Gamer:
 ユーザーとクリエイターにPS Vitaの良さを分かってもらうためには,二つのレイヤーがあるわけですよね。対デベロッパでPS Vitaをアピールすることと,対ユーザーにアピールすること。おそらくその二つは,全然違うことをするべきだと思うんです。それぞれが「これがメリットだ」と思う部分は本質的に違うでしょうから。
 そこに向けてSCEとして,近々ではどんなことをやろうと思ってますか?

画像集#023のサムネイル/今後のPlayStationプラットフォームは,どのような道を模索していくのか――SCEJプレジデント河野氏に聞く,PS Vitaの今と,PlayStationプラットフォームのありよう
河野氏:
 PS Vitaで出てくるタイトルを,ゲームデベロッパさんはもちろん面白く仕上げてくるわけですが,それをどれだけ面白く伝えるか,あるいはそれをどうやってイベント化するかというのは重要かもしれません。
 ……ちょっと抽象的すぎるので具体的に言うと,例えば今までの「じゃあ5800円で」とか「4980円にしよう」とか,ある種の決まりきったビジネスモデルだけではなくて,もっともっとお客様がプレイしやすくなるような形を考える,とかですね。なので, Free to Playのタイトルも思い切って導入しているわけです。

4Gamer:
 なるほど。おっしゃることはよく分かります。

河野氏:
 ご存じでしょうが,ダウンロード版が先に出て,そのあとでパッケージ版が店頭に並ぶという,今までとは全然違うやり方をしているタイトルもあるんですね。パブリッシャさんとの議論の中で「ぜひともこういうことをやってみたい」という先方の強い考え方があって,それを実際にやってみた次第です。お客様は,文字どおりタダで始められるわけです。
 今までの決まりきったパターンだけでなく,お客様がゲームを始めるハードルを低くするようなことを,もっといろいろやっていかないといけないな,ということは考えています。ハードルをとにかく低くする。これがキーになりますね。

4Gamer:
 ある意味,既存のビジネスモデルからの脱却でしょうか。

河野氏:
 うーん,脱却かと言われると……。

4Gamer:
 言葉がちょっとキツいですね。「拡張」でもいいです。

河野氏:
 そうですね。既存のビジネスモデルのいいところはいいところでちゃんと推し進めながら,オプションを広げるというか。そういうことをやっていきたいんです。
 今までは,パッケージで販売して,ある時期になったらちょっと値段変えて,またある時期になったらベスト版を出して……ということをやってきましたが,今後はメーカーさんにも,もっと多くのオプションを提供できるようにしたいと思っています。

4Gamer:
 結局のところ,いまのリッチなゲーム開発は,投資に見合うだけのインカムを得る手段が少なすぎると思うんです。

河野氏:
 そうですね。リスクが高すぎるという点は否定できません。そこを軽減するためのオプションを提供できるようにするというのは大きな課題ですね。
 その話で言うなら,PS Vitaだけで完結するのではなく,PlayStation 3とPS Vitaで使えるものとか,クロスでいろんなことができるようにとか,あるいはPS Vitaでも遊べるけれど,ほかのデバイスでも遊べるようにするとか。

4Gamer:
 PlayStation Mobileですね。

河野氏:
 そうです。そういうところのオプションを提供していくことも大事だと思います。
 だからSCEとしてやっていかなきゃいけないことは,いくつかのイノベーションなんです。ゲーム会社さんとのビジネスを継続してやっていけるように,ですね。結局そういう部分をおろそかにしていくと,業界としては完全にコモディティ化に至ることになるわけです。そうなったらもう戻れませんよね。

4Gamer:
 PCとかテレビとか,ちょっと前ならCDプレーヤーとかがそうなっちゃいましたね。

河野氏:
 それだけは避けなくてはいけません。
 ですので,カジュアルなマーケットも当然大事ですが,やっぱりゲームの醍醐味とか奥の深さとか,産業としてそういうものをちゃんと持っておかなくてはならなくて,それをどうやって作り出すかというのがすごく重要なんです。そこの部分でSCEが果たさなければいけない部分は,すごく大きいんです。


スマートフォンは,PS Vitaのライバルではない


4Gamer:
 おととしくらいから,スマホと,それに呼応するような形でソーシャルゲームが台頭してきて,今年の頭には完全に華開いた感じですが,日本の開発者の方は,どうしてもちょっとだけ及び腰だった部分もあったと思うんです。それぞれにいろんな理由があったんでしょうけど。
 でも昨年あたりから,やりこみ要素の強いRPGであったり,割とコアなアクションゲームだったりが出始めてそれらが評価を得るようになると,「こういうものを作ってもいいのか。オレもスマホに行こう」って,どんどん入っていくわけです。
 そういう開発者の移動を含め,またユーザーの遊び方を含め,さらにはAndroidを筆頭とした果てしないスペックアップを含め,PS Vitaという3G通信機能を持った携帯ゲーム機の最終的なライバルはスマホだと思ってしまうんですが,そのあたりはどうお考えでしょうか。

河野氏:
 ゲームそのもの――PS VitaとかPlayStation 3で遊ばれているゲームと,いわゆるカジュアルなゲームは,直接的なライバルではないと思っています。

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4Gamer:
 少なくともカジュアル系がまだ多い今は,確かにそうですね。

河野氏:
 いえ,ずっとそうじゃないと思っています。どんなものであれ,どんどんインプルーブ(改善)されていくという部分を無視してはいけません。もちろん,こっち側のインプルーブがなければ,差は縮まって追いつかれてしまうんですけど,ゲーム専用機にはゲーム専用機のイノベーションがあると思うので,そこはライバルにはならない,と私は思っています。

4Gamer:
 うーん……しかし,そういう話であれば,圧倒的に向こう側に強みがあると思えるんです。ハードウェアスペックであれなんであれ,スマホのほうが進歩は速く,数年を戦わなくてはならないゲーム専用機とは,そこが大きく違いますし,Googleのロードマップを見ても,現にスペックアップの速度は相当に速いです。

河野氏:
 仮にユーザーさんが使っている時間とか,開発者のリソースとかの部分が,今までゲーム専用機に特化して「100」が割り振られていたのに,そのうち30なり40がスマホにシフトしたら,それはこちらのリソースが減るわけですよね。
 なので,そこの部分はある意味,取り合いになると思います。当然無視できない問題ですし,どうにか考えなくてはいけませんが,例えばPlayStation Mobileなんかの方向性が,その解決の一つではありますね。PS Vitaでも遊べるし,同じものをAndroidの端末でも遊べるとか。

4Gamer:
 PlayStation Mobileは,私はプロアマチュアというかセミプロというか,そういう人達の参入を意識したものだと思っていたんですが,ゲームデベロッパもメインの対象になるんでしょうか。

河野氏:
 プロアマチュアも含めて,ですね。その人達がいずれメジャーなゲームを作ることがあるかもしれませんし。ゲーム専用機のゲームを,ゲーム会社が作るだけのものから,プロアマも作れるように,というハードルを少し下げる効果もあります。このハードルを下げるというアクションは,いろんな意味で必要になってくると思うんですよ。
 まぁでも現実問題として一番意識するのは,開発者のリソースですね。

4Gamer:
 はい。それがどんどん割かれていくと,スマホの作品は増え続け,PS Vita――に限らずコンシューマ機全般ですが――の作品は一向に増えないという,業界としては誰も嬉しくない結果になってしまいます。

河野氏:
 そうですね。そしてゆくゆくは業界としてコモディティ化に進みかねないんですね。

4Gamer:
 ……とはいえPS Vitaの動きは,YouTubeでありSkypeでありFacebookであり,ネットワークサービスの充実を図っていますが,それこそがコモディティデバイス化じゃないですか?

河野氏:
 ネットワーク機能も必要だと思っていますけど,PS Vitaはやっぱりゲームタイトルですよ。

4Gamer:
 そこがずれていないのであれば安心です。

河野氏:
 先ほどもちょっと話題に出ましたが,軸はそこですよ。ゲーム機ですから。でなければ,いまおっしゃったように,PS Vitaを選ぶ理由が減ってしまいます。

4Gamer:
 ええ,まさにそれを危惧してるんです。

河野氏:
 スマホでいいや,と思われるようなことをやってはいけなくて「やっぱりPS Vitaじゃないと!」というものが必要で,そのためには,良いタイトルを,PS Vitaの直感的な操作とグラフィックスで楽しめるということも重要です。そしてそれをもっと楽しむために,ネットワークとの連携やPlayStation Networkとの連携を密にして,それによって完成度を上げる,そこが一番重要だと思うんですね。

4Gamer:
 ではそれを促進するためには,一体何を?

河野氏:
 私がソニーマーケティングとの兼務の中で決めたのは,デベロッパさんやパブリッシャさんに使っている時間,この部分は絶対に減らさない,ということです。また流通さんとの営業系の仕事,あるいは生産計画みたいなオペレーション系の仕事は,周りには申し訳ないけどそこはデリゲーション(任せる,の意)して。

4Gamer:
 誰か他の人でもやれる仕事はまかせる,と。

河野氏:
 そうですね。ただ,デベロッパさんやパブリッシャさんへの時間だけは,私も直接入ってやります。だからシェルノサージュの発表会も行きました(笑)。

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4Gamer:
 はい,いらしてましたね。ちょっと予想外でした。

河野氏:
 でも,重要なんです。だってそこが軸ですし,優先順位はそこにあるんです。
 あの話(編注:ソニーマーケティングとの兼務の話)があったときも,各ゲーム会社のトップの人達に連絡をしています。実はこういう発表があるのですが,今まで私がゲーム業界に対して使っていた時間は一切変えません。今までどおりなので,そこは心配しないでください,と。
 ほかのSCEでの仕事を少し圧縮するけど,そこでやることがなんらかのメリットを持ってくるので,それを期待してください,と。この軸だけは絶対にぶれることがないようにしないとダメだと思います。

4Gamer:
 なるほど。気合いはよく分かりました。


PS Vitaの盛り上がりに必要なもの――まずコアユーザーの満足度を上げること


4Gamer:
 しかしPS Vitaは,ホットモック(試遊機)がある場所や,それに触る機会を,もっと増やしたほうがいいんじゃないでしょうか。PS Vitaというプラットフォームの良さは「触れば分かる」という類(たぐい)のものなので。そういう意味では,ニンテンドー3DSに似ているかもしれません。
 私は割と田舎のほうに住んでるんですが,PS Vitaのホットモックって,近くであまり見かけないんですよ。周辺の中高生に聞いても「今のPSPでも別に困ってない」とか,とても素直な反応をするんですが,もったいないなぁ,と。

河野氏:
 確かに……確かにそうですね。ほかには何かアドバイスないですか?

4Gamer:
 え。いや,そんなつもりで言ったんじゃないんですが……。
 でもやっぱりさっきも話題に出したように「すごく盛り上がってる」感に欠けるのが気になってます。ソフトも充実してきて,中でも例えばペルソナなんて,いま把握できる店頭版だけで大体20万本くらいですから,PS Vitaが70万台くらいだとして,大体……まぁ大体30%くらいでしょうか。
 実装率30%って,いわゆるA級のキラータイトル相当ですよね。そういうものが出ているにも関わらず,「今PS Vita買わなきゃ!」っていう気になってこないとか,そういう感じがちょっともったいなく思っています。
 そういう部分を筆頭に,今PS Vitaを持っているコアゲーマーに対してのアプローチが優先なのか,やはり台数を増やしてプラットフォームとしての完成度を高めていくことを重要視しているのか,もしくは5分5分なのか,そのあたりはいかがでしょう。

河野氏:
 そうしたアプローチを含めて幅広く対応していかなくてはいけませんし,買っていただいている人達に,使ってもらって満足してもらうとか,その人達に情報提供するとか,そういうことも大事だと私は思っているんですよ。

4Gamer:
 それは現時点での話ですか?

河野氏:
 現時点でというか……。

4Gamer:
 通じて?

河野氏:
 ええ,そうですね。PlayStationというのは,やっぱりPlayStationファンが楽しんでくれてこそのプラットフォームだと思うので,買ってもらったからOK,はい次,次,次,というよりは,買ってくれた人達のケアやフィードバックが一番大事だと思うんです。
 そういうことをしていけば,そこに対しての色々なサービスが充実してきます。そのことによって,使っている人達の満足度が上がり,ちゃんと広がっていく。それが理想です。(手で輪を作って)今いる人がここだとすると,次に我々が目指すべき人達は,この輪の周辺にいる人だと思っていて,決して(輪から遠いところを指して)ここじゃないんです。

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4Gamer:
 波紋の様に広がっていかないとダメだということですね。

河野氏:
 そうです。さらにそれが,アクティブなまま広がっていかなきゃいけないわけですね。ですので,名前の挙がったようなタイトルの実装率が20%なのか30%なのか分かりませんが,かなりの高い確率で買ってくれていることは事実でしょう。その人は,すごく重要な人達なわけですよね。先ほどで言うなら最初の輪,そのものです。それを保ちながら,プラットフォームとしてきちんと育てていかないといけないわけです。

4Gamer:
 だいぶクリアに理解できました。

河野氏:
 話を戻すと,ウエイトが何%なのかハッキリとした数値はないのですが,そこに対して力を入れたいとずっと思っています。例えば今年の3月にも,PS Vitaを買ってくれたお客様に対して,PlayStation Networkの簡単なアンケートに答えてくれれば1000円分のチケットを差し上げますというイベントをやりました。単に効率だけで言うならば,すでに買ってくれている人達にお金を使ってプロモーションする必要はないですよね。

4Gamer:
 確かにおっしゃるとおりですね。あくまでも経済効率的視点での話ではありますが。

河野氏:
 ええ。なんでわざわざやるの? という意見もありましたが,私はそれが重要だと思っているんです。その人達に「なるほど,こうやってダウンロードするのか」ということを体感してもらうのと,早い時期にPS Vitaを買ってくれている人達に対する御礼ですね。
 実はこれ,すごい重要なことだと思ってます。

4Gamer:
 というかゲームそのものって,決して生活必需品ではないんですよね。

河野氏:
 ええ。なので,それを支えてくれているというのは,ある意味「サポーター」です。だから,そういう人達を常に意識したり大事にしたりというのは,ある意味すごく当たり前だと思うんです。
 じゃあ,それだけでいいかというと,そういうわけでもなくて,その人達が外へと広げてくれることが重要です。そこの後押しを考えたり,私達自身が積極的に取りに行くというアクションも重要ですよね。そこをもうちょっと頑張らないといけないかもしれませんね。


PlayStationプラットフォーム全体の価値を上げていくことが,最も重要な責務


4Gamer:
 となると,それを取りまとめた全体の……ええと,なんて言えばいいだろう。

河野氏:
 ストーリー?

4Gamer:
 近いんですが,もうちょっとイメージ的なものです。先ほどの「全体像が見えづらい」話にも絡んでます。
 分かりやすいので例え話をPS Vitaに限定してしまいますと,「PS Vitaだからこんなことができるんだ」というのが若干見えづらいと思うんです。先ほどの中高生の話ではないですが,「だってちょっとキレイなPSPでしょ」という認識が端的にそれを表してますよね。単にPSPよりキレイなゲームが遊べるだけじゃないという魅力が,まだ広く届けられていないんじゃないかという気がしているんですね。
 ……正直なところそれは,僕らメディアの責任でもあるんですが,どうやってアピールするのがいいのかな,というのは常々考えています。

河野氏:
 それはとても重要ですよね。いわゆる製品の「定義」というか,その製品をどうやって端的に言い表すかというのは,とてもキーになると思うんです。
 私達は,PS Vitaを「究極の携帯型エンタテイメントシステム」という言い方で発表しましたし,実際にそれは正しいんですが,それが納得できるための部分をうまくやっていかなくちゃいけないという気がしますね。

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4Gamer:
 その表現は確かに正しいんですが,ちょっと曖昧かなぁ,と。言ってしまえば,キャッチコピーレベルであれば,巷でよく見る表現ですし。

河野氏:
 シンプルな分かりやすさが必要かもしれませんね。

4Gamer:
 ……そろそろお時間のようですので,最後の質問をさせてください。
 河野さんは,PlayStationプラットフォーム全体をこのあとどういう方向に進めていこうと思ってますか? ここ最近だと,PlayStation 2アーカイブスが始まったり,Gaikaiの買収が発表されたり,先ほどからの話ではないですが「あれもこれも」という感じで四方八方に手が伸びている印象を受けているんですが,それをどのようにまとめて,どういう部分からアピールしていこうと思っているのかを教えてください。

河野氏:
 日本の話としてですが,とても簡単な話で,プラットフォームの価値を高めていくことだと思うんです。PS VitaはPS Vita,PlayStation 3はPlayStation 3という割った構造にならないように,それぞれが持つアセット(資産)を,PlayStationプラットフォームとして共有していく。そうすることによって,プラットフォーム全体の価値を高めていく,というのがまず一つ重要な部分です。
 そしてもう一つは,そのプラットフォームの広がり方を,PlayStationをベースとして,そもそもPlayStationがなかったところに,どうやってブリッジをかけていくかということも重要です。

4Gamer:
 後者は「ゲームをするためのプレステプラットフォーム」にはとどまっていない話ですね。

河野氏:
 はい。いまさらですが,「PlayStation」というのはすごく良い名前だと思うんですよ。その名前が示すコンセプトを大事にしながら,そこからプラットフォームが広がっていくようなことをしたいですね。
 デバイスがつながってプラットフォームが広がるために,そこに据える「核」は何がいいんだろう,と考えると,それはやっぱりPlayStationだと思うんですよ。むろん,ゲームコンテンツがすべてをつなぐという意味ではなく,PlayStationの持っている思想というか,発想,これが一番大事です。

4Gamer:
 当然それらを,ゲームを主軸に据えることで推進していく,と。

河野氏:
 もちろんキラーコンテンツとして一番重要なゲームというものがありますし,それはゲーム機としてのPlayStationにおいてはファーストプライオリティのコンテンツなわけです。でももしかしたら,そういう全体の話になったときには,ファーストプライオリティじゃないのかもしれません。
 それでも,プラットフォームの広がりにゲームが乗っていけるという意味では重要だと思っています。そんなわけで,プラットフォームをつなげて広げていく役割を,PlayStationが担うんじゃないかと思ってますし,そういうつもりで全力を尽くして,2つの会社を見ているわけです。

4Gamer:
 よく分かりました。ありがとうございます。
 ではホントに最後になりますが,何か読者にコメントをお願いします。

河野氏:
 PlayStationは,4Gamerの読者のみなさんに代表されるような方達に支えられていると思っています。愛されて,ときには鍛えられて。
 SCEJは,その存在意義みたいなものをちゃんと追求していきたいと思っているので,「こういうことやんなきゃダメだろ」とか「こういうこと期待しているんだよ!」というものがあったら,ぜひ私達に投げかけて欲しいと思っています。プレコミュの意見には全部目を通していますので。

4Gamer:
 ということは,あそこに書けば河野さんに届くということですね。

河野氏:
 もちろんです。

4Gamer:
 ではその旨,キチンと書いておきます。本日はありがとうございました。

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――2012年7月10日収録
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